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無難に生きるのが俺のモットーです。  作者: よにー
第一章 氷人族の少女
37/52

another 3 一人だけ省かれた勇者

another3話目です。

次は紅桔サイドに戻ります

よろしくお願いします。



 広い部屋で大きいテーブルを挟み、顔を合わせあいながら私はギムレットに鬼束くんの話をした。ただギムレットが鬼束くんのことに興味が湧いたって聞いて私も少し熱く語ってしまう。


 普段の容姿に性格、仕草や口癖なんかも聞かれてもいないのに洗いざらい喋ってしまい臼見と剛力は少し煙たそうに目を細めていた。


 そんな中アテナはスンと一つも表情を変えず、ギムレットは興味深そうに顎をさすっていた。


「なるほど、オニツカコーキか……」


 鬼束くんの話を聞いたギムレットはふむ……といった様子で独りごちる。


「はい」

「なかなか面白い男だな。彼は剣術を嗜んでるのか」

「ですね」

「なんという剣術だ?」

「確か二刀一心流だったと思います」

「それはどういうものなんだ?」

「えっと……一刀流と二刀流が合わさり一つの剣術になるというものだったかと」

「ほう……ではその剣術を会得していると」

「いえ、彼が言うには一刀流は使えるそうで二刀流は……」

「ダメなのか?」

「使えないんじゃなく使うなと言われているみたいです」

「使うな……? どういうことだ?」

「詳しくは……ただ彼のお爺様が使わないよう言っておられるみたいで」

「ふーん……なるほど」


 ギムレットは何か考え事をしながら私の話に相槌を打つ。


「君たちはそういうのやってないのか?」

「私は特に……」

「武術ってわけじゃねぇが俺はバスケだな」

「俺はサッカーを少々」

「バスケ? サッカー?」


 聞きなれない単語なのかギムレットは疑問調で聞き返す。


「えっと、ボールを使った競技です」

「ほーん、競技か。じゃあ体を動かすことに抵抗はないわけだ」

「ああ」


 剛力が頷くとギムレットは不意にニヤッと口元を釣り上げたようにみえた。その不自然な笑みに私は違和感を抱く。


「ところでその、なんで私たちは召喚?されたのでしょうか?」

「そういえばまだ話してなかったな。」


 こほんと咳払いをするとギムレットは真剣な面持ちで口を開いた。


「実はね、この国は危機に瀕している」


 手を組んで肘を着くギムレットのとても重く苦しい雰囲気が場を包み、言葉を失わせる。私たちがごくりと喉を鳴らすと彼はそのまま続けた。


「この世界ではエルフやドワーフ、獣人族や竜氏族など様々な種族がいるんだが、俺たち人族は昔から色んな種族から攻撃を受けていて、ずっとこの国を護ってきた。だけど疲弊していく国力はもうすぐ底をつき、いずれは他種族から腹を切られ臓物を貪るようにして食い物にされてしまうだろう。そして今まさに俺たちは明日どうなるか分からない状況に置かれているんだ」


 語気を強め、ギムレットは悔しそうに項垂れる。よく見れば彼の手は小刻みに震えていた。


「ど、どうしてそんなことに」


 私の疑問にまるで待っていたかのようにギムレットは立ち上がって両手を大きく広げた。


「俺たちが弱い存在だからだよ」


 するとそのままギムレットはテーブルの傍を歩いて剛力の方へ歩み寄っていく。


「種族間では当然ながら魔力や筋力、体格や魔法属性に差が存在する。そしてその全体的な能力値に置いて人族というのは一番劣っているんだ」

「じゃあどうやって今まで守ってきたんだよ」

「それはね」


 剛力の座る席の後ろに立つと、ギムレットは彼の肩に手を置いた。


「君たち、勇者の力だ」


 囁くようにしてギムレットは力強く言葉を紡いでいく。


「召喚された勇者の力というのはね、この世界に存在するどの種族よりも優秀な潜在能力を誇っている。その力を借りて俺たちは今日まで生きてきたんだ」

「じゃあ、俺たちが召喚された理由は……」


 ここにいる人間は大体察してきただろう。その予想を確信へ変えるため臼見はおずおずと口を開いた。


「そう、かの暴虐なる他種族から我々の国を守るためなんだ!」


 声たかだかに謳い、ギムレットは私たちへ視線を飛ばしていく。


 要するに全く関係の無い私たちを無理やり連れてきて種族間の争いに巻き込もうとしてるってこと? なんとも突拍子のない話。連れてこられた私たちからすればいい迷惑に過ぎない。


 そういえば前に鬼束くんがお昼休みに読んでたライトノベルで似たような展開の話があったっけ……。たしかこの後は……。


「なんだよ、それってつまり俺たちはこの国を守りゃいいってわけか」

「なかなか面白そうじゃないか」

「おお! さすが勇者! 頼りになるなぁ!」


 そうそう、みんな何のためらいもなく受け入れるんだっけ。そしてこの流れはとても危険だということもよく知っている。あのライトノベルだったら参加した子はみんな元の世界に帰ることが出来なかったはず。でも二人の顔を見る限り引き受ける気満々って感じがする……聞いてくれないとは思うけど言わないよりはマシだよね。


「待ってください、二人とも。本当にわかってますか? 危険なんですよ?」

「大丈夫だ! 勇者の力ってのは始めっから滅茶苦茶つええんだろ? なら心配することねぇって!」

「そうだよ、紫苑。それに本当に危なくなったら俺が守ってあげるから安心して」

「あっ、テメ! そういうクセェこと平気で言うな! 寒気がするだろ!」

「ふん、ジメジメと思いを燻らせて腐らせるよりはよっぽどマシだね。こういうのはちゃんと口に出さないと伝わらねぇんだよ。図体だけでかくてハートはみみっちい男だな」

「臼見ぃ!! 言いやがったなぁ!!」

「ちょっと、二人とも!! やめてください!」


 私の静止も耳に届いていないのか、臼見と剛力はギャーギャーと騒ぎ立ててお互いを罵倒し合い続ける。どうしてこう二人は仲が悪いんだろう。プライドが高いから? それとも自信が満ち溢れてるから? はぁ……なんだか私のことを気にかけてくる男の人ってみんな自己主張が強いのか他の人といつもぶつかってばかりな気がする。鬼束くんと話してる時だったら何故かみんな静かで居心地良いしこんなことならないのになぁ……。


 この場に居ない鬼束くんのことを思い馳せながら仲裁を半ば諦めていると不意にパンッ!!!っと大きな破裂音が部屋の中をこだました。


 一瞬で静寂が場を包み、私を含め全員が音の鳴った方へ目を向けた。そこにはアテナが手を合わせて険しい表情で二人を睨んでいた。


「静粛に。ギムレット様の御前ですよ?」

「「す、すみません……」」


 決して大きくはなく、しかし少し怒気を孕んだ透き通る声でアテナは諌めるとその圧に二人はしゅんと叱られた子犬のように縮こまって猫背になり、眉を八の字にさせた。そんな二人はさておき、私は一人、アテナに目を輝かせていた。


 か、かっこいい……。できる女性って素敵だなぁ……。


 するとギムレットはハハハと笑いながらアテナへ手で静止をかける。


「まぁまぁアテナ、元気があっていい事この上ないじゃないか。そう睨んでやるな」

「はっ。失礼いたしました……」


 手を前に添え、アテナは深々と頭を下げる。


「ともかく、男の子二人は快諾ってことでいいかな?」

「おう」

「はい」


 なんの躊躇いもなく臼見と剛力は決め顔で返事をした。駄目、二人とも何も分かってない。王様は国民を守るためって大義をかざしているけど、本質は私たちを戦争に駆り出すって言ってるのよ。戦争ってことは殺し合うって事じゃないの……?


「さて、君はどうする?」


 私の考えてることなんて見透かしているのかギムレットはどこかしたり顔で私を一瞥する。流れ的に私も参加せざるを得ない状況、しかも困ったことに二人が渋々ではなく快諾してしまっているのが私をさらに追い込んでる。もし狙って振っているとしたら……この人、危険すぎる。


 その時不意に考えてしまった。もしここに鬼束くんが居たらどうしただろう。こういう面倒な事があると彼は基本的に避けたがる。いつも私が話しかけた時みたいにテキトーな理由をつけて逃げるだろう。


 そして大体周囲から冷ややかな視線を浴びている。まぁほとんど私が原因なんだけど。


 でも鬼束くんは周囲を気にして苦笑いしつつもなんだかんだで付き合ってくれる。だからこういう時、居てくれた方が良いんだけどな……。


 そんな鬼束くんは今この場にいない。この二人が調子に乗らないよう私が見ておかないと……。


「……わかりました」

「おお、よかったよかった。断られたらどうしようかとおもっちゃった」


 ギムレットは軽快にケラケラと笑いながら自席へと足を向ける。おちゃらけてるけど実際この人が何をしてくるか分からない。下手なことは言わない方が良いかも……。


「でもしまったな~、そのオニツカくんにも来てもらったほうが良かったな~。剣術が使えるんだったら頼もしいことこの上ないのに……」


 そうギムレットは額に手をあて、悔しそうにする。しかしその言い方に何か引っかかりを覚えた。……鬼束くんにも?


「あの「そうか? 聞いてる限りじゃこの厳しい現状を剣術やってるとはいえ、あいつひょろっちいから生きていけねぇと思いますぜ?」


 問いただそうとしたが運悪く剛力と被ってしまった。……何の考えも無しに引き受けてる人が言うことだろうか。それに鬼束くんのこと何も知らないクセになんでそんな下に見るの……?


「ん~そう?」

「それは俺も同感だ」


 剛力の言葉に臼見もウンウンと頷きながら同意する。臼見くんまで……。


「なんだオニツカは弱いのか?」

「実際にやり合ったことはないですが、フィジカルで言えば俺の方が圧倒的だと思いますよ!」

「ほう」


 剛力は鬼束くんを引き合いに自分の腕をパンパンと叩いて腕っ節をギムレットにアピールした。……いちいち鬼束くんと比べないでよ。


 内心イライラが募りながらも頑張って怒りを抑える。


「シオンはああ言ってかなり鬼束のことを評価してるけど、実際はただの陰キャですよ」

「いん……きゃ?」


 臼見の放った聞きなれない言葉にギムレットは頭にハテナを浮かばせ首を傾げる。臼見くん……王様相手にちょっと失礼すぎないかな? それに陰キャって言ってるけど鬼束くんは別に暗い人じゃない。冗談も言うし結構話上手なんだよ? それなのに自分の物差しだけで勝手に判断して、臼見くんたちは彼のこと何も分かってない。


 ムッと私が臼見の言葉に口を曲げていると、臼見はギムレットが言葉の意味を理解していないのを気遣い、改めて言い直した。


「ああ、すみません。陰キャってのは隅のほうで蹲ってるような気持ち悪いヤツって意味です」


 臼見がヘラっと嘲るように言った瞬間、私の中でその言葉と夢で見た彼の姿が重なる。するとプツンと何かが弾け切れ、煮えたぎるような感情の波が爆発的に膨れ上がった。


「鬼束くんはそんな人じゃない!!!!!」


 バンッ!!!とテーブルを思いっきり叩いて立ち上がり、柄にもなく大声で叫んでしまう。するとこの場にいる全員が一斉に私の方へギョッと顔を向けた。


 先程のアテナの時と違い、緊張が走り、ギムレットまでもがゴクッと生唾を呑んだ。静まり返った空気にハッと気が付き、力が抜けたように座り込む。自分でもあんな激昂するとは思ってなかった。


 私以外の三人もあっけにとられていると、こほんとアテナが咳ばらいをする。


「……オニツカ様のことは存じ上げませんがここにいない方の陰口を叩くものほど浅ましいものはありません。人としての格を下げる事に繋がるので止された方が好ましいかと」


 アテナに諭され、臼見と剛力は顔を見合わせる。一瞬だけ申し訳なさそうな顔をしたがすぐ私へ困ったように苦笑いを向けた。


「……なぁ紫苑。ずっと思ってたんだけどよ、なんであんなやつのこと気になってんだよ」

「そうだな鬼束から話しかけてくることなんてないのにな……どこにそんな要素があるんだい?」

「え……」


 なんでって……。それ今ここで聞くの……?


 二人は不満そうに眉をひそめ、じーっと私の顔を見つめてくる。


「え……と……うぅ……」


 自分の気持ちをさらけ出したくないという思いと恥ずかしさで何も言葉が出ず、顔が赤くなっていくのを感じる。そんな私の姿を見てアテナが一言添えてくれた。


「お二方、女性の心を探るような真似は関心致しかねますね」

「そーそー。こういうのは黙って『そっか。じゃあオニツカに負けないくらいかっこよくなるよ』って返すのが良い男ってものさ」

「ギムレット様も囃し立てるようなことはお控えください」

「ぶー……」


 アテナに叱られてギムレットは子供のように頬を膨らませる。……この人王様なんだよね……?


「……まぁいいさ。また今度しっかり聞かせてもらうとしようかな」


 ギムレットの助言が効いたのか、はたまたアテナの注意が刺さったのか臼見もここは引き下がってくれた。でも油断はできない。剛力くんはともかく、臼見くんは知恵の回る人だから隙を見せたら付け込まれてしまうだろう。今回引き下がったのも私の油断を誘うためかもしれない、用心はするべきだ。


「ま、楽しい談笑会もいいけどみんなここへきてどんなところか全く知らないだろうしアテナ、案内してあげてよ」

「かしこまりました。では皆さまどうぞこちらへ」


 アテナが手を叩くとぞろぞろとメイドたちが現れた。そして何人ものメイドに連れられて部屋を出ていく。その一瞬、チラリとギムレットをみるとにこやかな笑顔を向けて手を振っていた。なんと胡散臭い笑顔だろう。


 そう思いつつアテナに先導され、私は部屋を後にした。





――――――――――――――――――――――――――――――――――――





 紫苑たちとメイドが全員退出し、一人取り残されたギムレットはテーブルに両肘をついて険しい顔をする。


「オニツカ……コーキ……。属性が風しかないやつが剣術を……」


 ギムレットは静かに独り言ちる。召喚するとき、確かにあの三人のほかにもう一人いた。しかしあいつらと比べて魔力量も少なく、属性も一つしか持っていないから召喚しても戦力にならないと判断し、適当な場所に放り投げたのだ。


 しかし、あの猛獣のような二人が夢中になるほどの女であるシオンが気になる相手か……。


「おい」

「ハッ」


 ギムレットの呼びかけにどこからともなく全身を黒いローブを着た人物が姿を現し片膝をつく。


「あの三人以外にもう一人、この世界に召喚した奴がいるだろ」

「……確か属性が風しかなく魔力の少ないあの?」

「そうだ。あいつは今どこにいるか分かるか?」

「申し訳ございません。飛ばした先までは把握しておらず……」

「なら探せ」

「……しかし戦力にならないから捨てたのでは?」

「考えが甘い」


 ギムレットは席を立ち、平伏するローブ男の前に立った。


「女ってのはな、惚れた男に弱いんだ」

「……なるほど」

「しかもあの女、俺のことをかなり警戒している。となると利用しないわけにはいかないだろ?」

「フッ、王もなかなか人が悪いですね」

「そうだろ? 自分のこういうとこ、かなり気に入ってるんだ」

「私もです」


 二人はクククと静かに笑い合う。


「検討はつくか?」

「候補ならいくつか」

「よし、探せ。抵抗するようだったら最悪殺してしまってもいいぞ」

「なんと? よろしいのですか?」

「フフ、死体を見せるってのも乙なものだろう? そしてそれをアステリシアのせいにしてしまえば好都合だ」

「……ククク流石は我が王……では数人用意して候補地へばらけさせましょう」

「ああ」


 するとローブの人物は風が吹いたように一瞬で消え去った。


「さて……俺は俺の仕事をするか」


 そういうとギムレットはまた一人誰もいない部屋で笑うのであった。

次回投稿は7月2日予定になります。

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