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無難に生きるのが俺のモットーです。  作者: よにー
第一章 氷人族の少女
36/52

another 2 彼だけがいない

another回第2話になります。

よろしくお願いいたします



 懐かしい夢を見ていた気がする。


 近いはずなのに、遠い記憶。


 でもいつかは夢が終わり、私の目は醒めることを選んだ。


 ゆっくりと目を開ける。するとそこに飛び込んできたのは、まるでテンプレートのような景色だった。


 宝石や意匠があしらわれた高級そうな四角い天蓋があり、その四方の辺から薄い膜のような布が垂れ下がっている。


 まさに知らない天井よろしく、知らない天蓋だった。


「……ここは?」


 起き上がって周りを見渡すと大理石のような壁に印象的な絵画が飾られている。


 さらに自分が寝ていたベッド傍には小さい円卓があり、その上にはアフタヌーンティースタンドが添えられいくつかお菓子が置かれていた。


 他にもロイヤルな化粧台や姿見など様々な高級そうな家具が置いてある。


 まるでどこかの貴族のご令嬢が暮らしていそうな部屋に私はいた。


 見たことのない景色の情報に私の脳は少しパンクして、頭の上にいくつものハテナが乱立する。


 すると部屋の扉からコンコンと叩く音が聞こえてきた。


「は、はい」


 背筋がビクッとなり、つい反射的に応えてしまった。焦った私は掛けられていた毛布を自分の前に広げてひょっこりと頭だけ出して様子を窺う。


 失礼致します、と扉の向こうから落ち着いた女性の声がしてガチャリとドアノブが捻られた。


 そろ〜っと目元まで毛布を上げて入ってくる人物を覗いていると出てきたのはなんと、見目麗しいメイドさんだった。


 彼女の後頭部で綺麗にまとめられた髪は毛先が逆立つように折り返され、光に照らされて淡く輝く深紅の髪の上に飾られた純白のヘッドドレスが、彼女の気品を溢れさせていた。


 コスプレのようなものじゃなく本格的なクラシックメイドの服装が清純さを表している。


 一つ一つの動作が丁寧かつ全ての所作がとても美しいあまり、私はメイドさんに見蕩れてしまっていた。


 閉めた扉の前で深く一礼をすると、彼女は切れ長のまつ毛を瞬かせて潤んだ唇を開いた。


「お目覚めになられたようで何よりです。勇者様」


 スーっと空気の中を透過していくような落ち着いた声音でメイドさんは目元を柔らかくする。


 所作だけでなく言葉遣い、表情、声質、全てにおいて優雅なメイドさんに私は完全に心を奪われていた。


 もう一度メイドさんの声が聞きたいなぁと頭の中で先程のセリフを反芻する。何度も同じ言葉が脳内で再生されていくうちに何か違和感を覚え、ハッと我に返った。


 勇者?


「えっ、勇者?」


 上擦った声が部屋の中をこだまし、心の中で自然とエコーがかけられていく。


 勇者といえば、あの物語やゲームに登場するあの勇者?


 布団を手放して私は自分を指さし、首を傾げてメイドさんに問いかけた。


「左様でございます」


 静かに首肯するとメイドさんは右手を横に軽く掲げると中指に着けた指輪が淡く光り、謎のブラックホールみたいなものが突如現れる。


「!?!?!?」


 私が驚いて毛布をガバッと抱いて身を隠しているのをよそに、メイドさんは躊躇することなくそのブラックホールに手を入れた。私の視点からだと本来そのブラックホールを介して彼女の手が反対側から出てくるはずなのに、そのブラックホールの先からは何も出てこなかった。


 何が起こっているのか訳が分からない。目を覚ませば知らない場所ですごく高そうなベッドの上にいて、さらにとても美人なメイドさんがブラックホールに手を突っ込んでいる。この状況を誰か説明してください……。


 淡々とメイドさんはブラックホールから手を戻してくると綺麗に折りたたまれた私の制服が出てきた。


「えっ、あっ! 私……」


 自分の制服を目の前にして今更私は自分の着ている服を見下ろすと、肌触りの良い薄い水色のネグリジェを着ていた。……結構可愛い。


 ピシッと整えられた制服を両手に持つと彼女の隣にあったブラックホールが収縮するように消えた。……きっと目の錯覚、突っ込まないようにしよう。


「失礼ながら、シワがつくとよくありませんので貴方様が気を失われている間に寝衣へ着替えさせて頂きました。こちらの服は既に洗濯、乾燥、クリーニング済となっております。まだどこか汚れているようでしたら仰ってください」

「え! す、すみません……そこまでして頂いて……」

「いえ、お気になさらず。私の仕事でございますから」


 ゆっくりとお辞儀をしてメイドさんは頭を下げたまま微動だにしない。なんと礼儀正しい淑女なのだろう。ここまで完璧な人は見たことない。一挙手一投足が無駄なく洗練されていてこの人の丁寧さが如実に現れている。


 思わず彼女の所作に見惚れているとメイドさんがベッドの脇にある小さなチェストの上に制服を置いた。いけない、メイドさんに夢中になってる場合じゃない。この状況を聞かないと。


「あ、あの」

「はい、いかがいたしましたか?」

「ここはどこで、あなたは……?」

「これは申し遅れました。ここはウランドラス帝国の主城、ギルガメッシュ。そして私はギムレット・オルバ・ウランドラス帝王に仕えるメイド長、アテナ・アイスヴァインと申します」


 流れるような美しい所作でスカートの裾を持ち、脚を交差させてアテナはお辞儀をした。わぁ……生でこの挨拶を見れるなんて……。


「か、烏丸紫苑です! よろしくお願いします!」


 無駄に緊張してしまい声が上擦ってしまった。って悠長に挨拶を交わしてる場合じゃない! これってもしかして誘拐ってこと?!


「あの! なんで私ここにいるんですか? 他のみんなはどうしたんですか?」

「他のお二方は別室にて元気に食事を取られていらっしゃいますよ」


 え、食事? 目が覚めたら変なところにいるってのに悠長にご飯食べてるの? それに二人……? 三人じゃなくて?


「ま、待ってください……食事? え? 誘拐されてるのに食事とってるの……?」

「シオン様、厳密には誘拐ではございませんよ。召喚です」

「し、召喚??」


 目の前のメイドさんが淡々と事を告げるから余計に頭の整理が追いつかない。


「なにを言ってるんですか……??」

「ふむ、どうやらシオン様はまだ意識が戻られたばかりでまだ頭が冴えていらっしゃらないようですね」

「??」


 アテナは私を見据えると、抑揚のない声で淡々と告げた。


「ここはシオン様にとって、異世界と呼ぶべき場所にございます」

「はい?」

「異世界です」


 そう同じ言葉を繰り返さなくても意味はわかるから……。わかるけど理解はできない。


「……すみません。どういうことなのかさっぱり分かりません。確かにウランドラス帝国という国は聞いたことがありません。私が知らないだけでそういう国があるんだろうと思って聞き流してましたが、流石に異世界と言われて、頭が混乱して……」

「ですから、言葉通りです。シオン様は我が帝国の召喚術にて世界の次元を飛び越え、ここに舞い降りたのです」

「……そんな妄想の話じゃないんですから」

「妄想ではございません。現実ですよ」


 アテナの真摯な眼差しが嘘偽りのないものだと断言して私の瞳を突き刺す。


「……本当なんですか?」

「まだ信じられませんか」


 私は険しい顔でゆっくりと首肯するとアテナは目を閉じ私と同じように首肯した。


「分かりました。ではもう一度」


 そう言うとアテナはまたさっきと同じように軽く手を横に掲げるとまるで呼応するかのようにブラックホールが出現した。


「………」


 流石に二度目ともなると自分の目を疑うことは出来ない。それにアテナは証明するためにさっきから真顔で忙しなくブラックホールに手を入れたり出したりしてる。案外お茶目な人なのかも?


「わ、わかりました。一応納得しておきます」

「助かりますシオン様。この指輪に仕込まれた空間魔法は出来が悪く魔力の消費が激しいので疲れるのです」

「ま、魔法……」

「ふふ、困惑なされるのは無理もありません。シオン様の世界では魔法が目覚めないらしいですから」

「は、はぁ……」

「時期に慣れていきますよ」


 そういうものなのかな。人の順応力は侮れないからいずれ慣れはするんだろうけど未だに目の前の光景が夢なんじゃないかって思えて仕方ない。……夢?


 私はあっと気がつき、少し詰め寄ってアテナに問いかける。


「あの、さっき食事してるって仰ってた二人の名前って分かりますか?」

「はい、トオル様とケント様にございます」


 トオルとケント……たしか臼見くんと剛力くんの名前……。


 私は焦燥感に駆られ心臓の鼓動が早くなるのを感じる。嫌な予感というのは当たりやすいんだよね……。


「……もう一人居ませんでしたか?」

「? いえ。ここへ召喚されたのはトオル様とケント様、そしてシオン様だけですが」


 はて?とアテナは首を傾げ私に何の話かと目で問いただす。どういうこと? 確か、あの時道場には私を含めて四人いたはず。……彼だけ巻き込まれてない?


「本当に私たちだけですか? その……ボサボサの髪に死んだ魚のような目をした塩顔の男の子は見ませんでしたか?」

「そんな特徴的なお方は存じ上げませんね」

「……そうですか」


 うーん、巻き込まれていない……のかな?


 私が腕を組んで考え込んでいるとアテナは軽く咳払いをした。


「……失礼ですが、その殿方はシオン様の大切な人でいらっしゃいますか?」

「えっ!?」


 不意に変なことを言われてドキッと心臓が跳ねてしまう。


「ち、違います! や、大切な人って意味ではその違わなくはないんですが……。えっと、彼は……ただのクラスメイトで……でも仲良くなりたい人で……えーと……」


 あからさまに口篭る私にアテナはどこか察したような面持ちで首肯した。


「なるほど、大体分かりました」

「な、何が」

「皆まで言う事はありません。そして私は人の気持ちを慮る人間ですので無粋なことも言いません」

「うぅ……」


 翌々冷静になって考えてみれば友人として大切だと言ってしまえば難なく話し終えたはず。だけどそれじゃ嘘をついてるみたいで嫌だったからつい要らないことまで言ってしまってなんだか負けた気分だ。焦ったら負けとはよく言ったものだと思う。


「雑談はこのくらいにするとして、シオン様もお二人の所へご案内させていただきたく存じますので、元のお召し物にお着替えなさってください」

「は、はい」

「では私は外へ出ておりますので身支度を終えましたら出ていらしてよろしいですか」

「分かりました」


 アテナは深くお辞儀をした後スタスタと部屋から出て行き、静かに扉を閉めた。ぽつんと広く煌びやかな空間の中に置き去りにされた私は小さくため息をついた。


「……はぁ……何やってるんだろ……私」


 チェストの上に置かれた制服に触れながらさっきのことを思い出し、ブツブツと独りごちる。だけど今の話を聞いてどこか少し安心した私がいた。


「でも、巻き込まれてないのなら良かったのかも……」


 静かに目を閉じて、まぶたの裏にここにはいないであろう彼の顔を映し出す。


 きっと彼は今頃、自宅の道場で大慌てしてるかもしれない。急に消えた私たち三人に驚いて辺りをキョロキョロと捜して目まぐるしい姿になってるかも。


「ふふっ」


 そんな姿を思い浮かべて一人笑ってしまう。普段落ち着いていて誰かの話をテキトーに聞きながら相槌を打ってる彼が慌てている姿を見るだけでも中々の見物だ。そんな可愛らしい姿が見たいがために彼へわざわざちょっかいをかけているのかも。


 いつも話しかけるだけで口元が引き攣って「うわマジか……」って引き気味の表情なり、愛想笑い……いや、苦笑いかな?そんな笑みとは言えないものを浮かべながらもちゃんと話し相手になってくれる人。ごめんね、本当は嫌なんだろうけど自分を止められないの。拒んでくれても文句なんて言わない……いや言うかも、相手にされないとちょっと怒る。


 そんな事を考えながら制服を手に取り、思いを馳せる。


「鬼束くん、今どうしてるんだろ」


 ここにいない彼の名前を口ずさみ、私は着替え始めた。





―――――――――――――――――――――――――――――――――――――





「よし」


 着慣れた制服に着替えて乱れた髪を軽く梳き終えると私は扉のドアノブに手をかけ、部屋を出ると隣にアテナが静かに立って待っていた。


「お待たせしました」

「いえ、お気になさらず。ではシオン様、こちらへ」


 アテナは手で道の先を指しながら私の前を歩いて先導してくれた。天井が高く、人が数人程横に並んでもまだ余裕のあるほどの大きな廊下の壁面にはきらびやかに飾り立てられた縦長く丸い窓が均等に配置されていた。


 そこから見える景色は、日本ではまず見ないような広く大きな庭園が拡がっており、所々人を模した銅像のようなものが立ち並んでいた。それぞれ格好や立ち振る舞いが違うがなんとなく似たような雰囲気を持っているように感じられた。


「わぁ……すごい……」


 外の景色に目を奪われているとアテナが振り向きもせず口を開いた。


「あそこに立っている銅像は歴代の勇者様方なのですよ」

「そ、そうなんですね……」


 まだ勇者については分かってないけどきっと彼らも私と同じように召喚された人だというのは理解出来た。


 しかしどの銅像も何故かうっすらと笑っていて妙に気持ちが悪い。まるで作り笑いをしてるみたいに見える。


「あの、アテナさん」

「はい、なんでしょうか」

「あの勇者さんたちはなんで笑ってるんですか?」

「なぜ、ですか。笑った方が雰囲気が良くなるからだとは思いますが……どこか変でしょうか?」

「その、なんだか無理やり笑ってるように見えて……」


 私の言葉を聞いてずっと前を向いていたアテナは首を窓の方へ向けじっと外を見つめる。


「ふむ、そうでしょうか……申し訳ありません、私にはなんとも……」

「そ、そうですか」


 気にしすぎなのかな? 変なことが起こりすぎて頭がついていっていないからかもしれない。


 自分の精神状態を気にしながらアテナに着いて少し歩くと彼女は大きな扉の前で止まった。その扉を見れば大きい両扉で耳をすませば何やら扉の向こうから話し声が聞こえる。


「ここに臼見くんたちが?」

「はい、シオン様少々お待ちを」


 そういうとアテナは片側の扉を開いて先に中へ入っていった。


「ギムレット様。最後の勇者様がお目覚めになられたのでお連れいたしました。」

「うん、入ってもらって」


 アテナがよく通る声を出すと、低いけど明るい雰囲気を持った声が中から聞こえてきてアテナは扉の後ろにいた私に目配せをした。


「シオン様」

「は、はい」


 促されるまま私は部屋へと入りアテナの隣に立つ。するとそこには縦に長くとても広いテーブルが広がっていて、すごい勢いで目の前の料理を食い散らかす剛力くんと静かに黙々と上品に肉料理をナイフとフォークで切り分ける臼見くんがいた。


「お! やっと起きたか紫苑!」

「寝坊助だね紫苑は。そんなところも可愛いんだけど」


 臼見と剛力は食事の手を休めると同時に私の方へ目を向ける。なんでこの人たち呑気にご飯なんて食べれるんだろう……?


 軽く二人を流し見したあと、ふと最奥の席に座っている人物が目に入る。仰々しい格好をした若い男が頬杖をつきながら私の方を見つめていた。


「やぁ、見目麗しいご婦人。眠っている姿も美しかったがその心が震えるような瞳を見れて俺は嬉しいよ」


 両手を広げ嬉々とした表情で彼は私を歓迎した。でも言ってることが……新手のナンパなのかしら?


 私が首を傾げて変な人だなぁと思っていると察したのか彼は居住まいを正して咳払いをした。


「これは失礼した。俺はギムレット・オルバ・ウランドラス。この一応この国の王をしている」


 新手のナンパじゃなかった。一番偉い人でした。


「か、烏丸紫苑です……」

「そうかしこまることはない。気楽にしてくれたらいい」

「は、はぁ……」

「シオン様、お好きな席へどうぞ」


 アテナは彼らの座るテーブルへ私を案内しようとすると臼見と剛力が分かりやすくガタッと椅子を動かした。二人をみると如何にも一人座れるように席をずらし指先でちょいちょいと空いた席を指した。こんな広いテーブルなのにそんな詰める必要ないでしょ……。


 と、思っているとお互いの行動が目に入ったのか臼見と剛力はすぐ睨み合い始めグルルと唸り合った。……野良犬の喧嘩かしら?


 当然私はそんな二人どちらかの隣に座ることなんてあるはずもなく、アテナが立つ前の席に座る。


「くぅ……」

「ちぃ……」


 私が一番遠い席に座ったのを見て二人はとても悔しそうにしていた。こんなところまできて変な争いしないでよ……。


 そんな光景を楽しんでいたのかアテナは口元に手を当てて隠すように笑い、ギムレットはガハハ!と大きく口をあけて笑っていた。


「ははは、アテナ彼女にも」

「はっ」


 ギムレットがアテナに合図を送るとアテナはパンパンと手を叩いて何かを呼んだ。すると部屋の入り口からたくさんの料理を乗せた銀の台車を押しながら数人のメイドが現れ、私の前へ次々と料理を置いていく。一皿でもかなり盛られた料理なのにそれがいくつも並んでいる。明らかに女子高生が食べきれる量じゃない。


「こ、こんなに……」

「おやお気に召さなかったか?」

「い、いえそういうわけじゃ……」

「ギムレット様、おそらくシオン様は量を問題視なされているかと思われます」

「ああ! そーね! 確かにそうだ。他の二人がたくさん食べるもんだからシオンもそうなのかと思ってしまったよ」

「お! じゃあ食いきれねぇ分は俺の方まで持ってきてくれよ!」

「いいねぇ! 若いって素晴らしいよ! キミたち!」


 ギムレットがメイドたちに指示すると彼女たちはいそいそと私の前に置かれた料理をいくつか持って剛力の方へ持って行った。ちょっと……警戒心が薄すぎない?


「剛力君……」

「ん? どうした? やっぱ食べるか?」

「何言ってるんだ。紫苑は呆れてるんだよ」

「臼見君……」


 そうよ。臼見君からも言ってほしいわ。


「意地汚いのもほどほどにしろって怒ってるぞ」

「…………はぁ」


 期待した私がばかだった。


 ってこんなことを話してる場合じゃないわ。王様なら彼のことを知ってるかもしれない。


「あの、すみません」

「む?」

「私たち以外にもう一人ここに来ませんでしたか?」

「……いや? 知らないなぁ」


 ん? なにか一瞬笑顔が消えたような……気のせいかな。


「ほ、本当ですか? こう、目が死んでて髪がぼさぼさのやる気のないような雰囲気をした……」


 わかりやすいように身振り手振りも追加して彼の容姿を伝えてみるがギムレットは首を振った。


「そ、そうですか……」

「すまないね」

「いえ……」

「そんな落ち込むこたねぇって! ここに居なかったらどうせ日本にいんだろ」

「そうさ! 彼は別段いてもいなくても変わらないしね!」


 なぜか嬉々としてはしゃぐ二人に私はきつくにらみつけると、二人とも黙って縮こまった。


「食が進みませんか?」



 心配してくれたのかアテナが私の顔色を窺うように腰をかがめた。


「い、いえ」

「ふむ、そうだな。ではシオンが気になっているその者のことを詳しく教えてくれないだろうか」

「えっ」

「興味が湧いたんだ。ここにいる二人のことではなくずっとその一人のことを気にかけていることにさ」


 ギムレットは二やり笑うと背の高い金の盃を煽ったのだった。

次回投稿は6月25日予定です。

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