第31話 報酬は……あなたの笑顔……なんです?
第31話になります。
ちょっと遅れてしまい申し訳ありません
お楽しみください
ドレッドビーの討伐を終えた俺たちは解体したドレッドビーの素材を虚空巾着に携えてギルドへと戻ってきていた。
ギルドに着く頃には、辺りが既に暗くなり始めており、街頭などのない草原地帯では夜を迎えると完全な闇に包まれる。唯一の救いはアステリシアから漏れる光が冒険者や旅の者の道標となっていることだ。
まぁ暗くなる前に帰ってきたから実際どれくらい暗いのかはわからんけどな!
「あっ、コーキさん! おかえりなさい!」
カウンターでわたわたと書類整理をしていたフィリアが俺たちに気づき、いそいそと紙の山になった書類たちをドサッとカウンター内のデスクに置いた。
「フィリアさん、お疲れ様です」
「ドレッドビー、どうでしたか? 大量にいて大変だったでしょう!」
「ええ、まぁ……」
「なんせ一体一体駆除していくのには骨が折れますからね〜。でも大きいからか動き自体は鈍いので比較的倒しやすいかったでしょう」
「……そっすね」
嬉々として話すフィリアに俺は少し罪悪感を感じていた。だってほとんどレイナが処理したようなもんだし俺が活躍したところなんて火を出してそよ風で煙を流したくらいだ。刀なんて抜いちゃあいない。
きっと彼女の頭の中では俺がかっこよくドレッドビーを倒す情景が浮かんでいるに違いない。でもごめんね? 実際はもっと地味で、且つ楽な方法で倒しました。全部レイナさんのおかげです!
「??? どうしましたか? コーキさん?」
「いや、そのぉ……今回の依頼はなんというか……」
「えっ?! 失敗しちゃったんですか!?」
「いやいやいや、失敗はしてないです、はい。ただ、ほとんど俺役に立ってなくて……」
「えっ?」
「実は後ろにいるレイナさんの功績なんですよ……」
「へぇ〜!! 彼女やりますね!」
「なので俺が報酬を貰うのはなんだか気が引けて……」
「?? 別にいいんじゃないですか? パーティを組んでいることになっているので何も問題は無いと思いますが」
「いやでも俺マジで役にたったところないような気が……」
「なにをそんな気にしてらっしゃるのですか! あのー! レイナさーん!」
フィリアはグッとカウンターに少し身を乗り出すと、俺の後ろの方で依頼掲示板を眺めるレイナを呼んだ。
呼ばれたことに気づいたレイナはスラさんを肩に乗せ、こちらへと歩み寄ってきた。
「なにかしら」
「今回の依頼、レイナさん大活躍だったそうで!」
「え? そう? 普通に駆除しただけなのだけれど?」
「いやいや、ここにいるコーキさんが『今回はレイナさんのおかげで、俺なんもしてないんだが』とおっしゃるのでどういった手法を取られたのか気になりまして!」
「別に特段変わったことはしていないわ、ただドレッドビーに効く毒草の汁を染み込ませた布を炙って煙を吸わせただけよ。それにこの人の魔法がなかったらできなかった事だし」
「ほほー! じゃあコーキさんもちゃんと報酬を受け取る必要がありますね」
「お、おう……」
「なに? そんな話をしていたの?」
「そうなんですよ。コーキさんってば変に引け目を感じてるらしくて、こちらとしても報酬は受け取っていただかないといけませんので困ってるんです」
「そうね、貰えるものはちゃんと貰わないと。そんなんじゃこの先生きていけないわよ」
「レイナさんが言うと重みが違いすぎる……」
「とりあえず、報酬は受け取っていただくとして、今回はどれほど討伐なさってきたのですか?」
「うーん、ざっとでしか見ていないから正確な数は分からないけれど五十体近くはやったんじゃないかしら?」
「五十体ですか!? それはまた凄いですね……」
「この中に解体して詰め込んであるから後で鑑定してくれないか?」
俺がカウンターの上に虚空巾着を置くとフィリアはそれを手に取って口を開き、中を覗いた。
「うわぁ……大量ですね。ちょっと中身見た事後悔しました……」
「俺は見る勇気ないんで出来ればそっちで取り出して欲しいです。ていうかしてくださいお願いします」
「そ、それは全然構いませんが……ちょっと量が量なのでお時間いただきますがよろしいですか? 中身を取り出し次第、虚空巾着はすぐにお返し致しますので」
「わかりました、その間晩飯でも食べて時間潰します。レイナさんもそれでいいか?」
「ええ、構わないわ」
「よし、じゃ、そういうことでよろしくお願いします」
「はい! ごゆっくりなさってください!」
俺たちは一旦カウンターを離れ、また食堂の方へ足を向けた。食堂は昨日の夜と変わらず賑わっており酒を酌み交わす冒険者たちで溢れ返っていた。
その光景を目にしたレイナは目に見えて嫌そうな顔をして後ずさりする。
「……ここで食べるの?」
レイナが嫌がるのも分かる。なんせ人が居すぎて居心地が悪すぎるからだ。落ち着いてゆっくり食べる気にならないだろう。だがここは一つレイナに気張ってもらうことにしよう。
「別のとこにしたいのは山々なんだがな……如何せん俺はどこで食べれるのか全くもって分からない。今日の悠久亭だってフィリアさんが紹介してくれなかったら行けなかっただろうし……だから」
「……だから?」
「今日はここで我慢してくれませんか! また次、開拓しようと思うんで!!!」
俺が手を合わせて高速で頭を下げる。腰をきっかり三十度折り曲げ、両手を頭の上に飾った。傍から見ればまるで遅刻してきたところを彼女に謝る姿に見えるだろう。……本当に見えるのか?
「やめて、頭を下げないで。そこまでする必要ないわ」
レイナは困り顔で腕を組み、頭をあげるよう俺に言う。
「それにこれくらい……なんともないわ……」
気丈に振る舞う彼女の肩を見れば震えているのがわかる。全然そうは見えないんだが……。
「悪いな……今度は別のところにしような」
「……ええ」
レイナは首を傾けるように首肯し、意を決した様な面持ちになった。今から戦場にでも行くような顔つきだな。
俺たちはなるべく騒いでいる冒険者たちから離れたところの空いている席を選び、腰をかける。ふと騒いでいる冒険者の方を見ると慌ただしくウェイターの女性がせこせこ機敏に動いていた。うわぁ、忙しそう……。
俺がウェイターさんの多忙さを憐れんでいると、スラさんが肩から降りてメニューを取ってくれた。
「はいコーキ」
「お、サンキュースラさん」
メニューを受け取り開くと、向かいに座るレイナに見えるよう置いた。俺もメニューを覗くがなんだかイマイチパッとしない。うーん、なんだかんだで唐揚げ定食がいちばん美味い気がする。
「俺はもう決めてるからさ、好きなの選んでくれ」
「ありがとう……ちなみに何にしたの?」
「え? この唐揚げ定食だけど……」
「……じゃあ私もそれにするわ」
「良いのか?」
「ええ」
「そ、そうか……スラさんは?」
「パンケーキ!」
「ブレねぇな……」
「お決まりですか?」
「うぉあァ!?」
食べるものを決めていると突然横から話しかけられドキッと心臓が跳ね、ガタガタッ!と音を立てて仰け反ってしまう。横を見ればあの忙しそうにしていたウェイターがもう水を持ってきているではないか。この人ほんとに気配ないんだけど!? 不意を突かれるのもこれで三度目な気がするんだが!?
「……驚いたわ、さっきまであんなに忙しそうだったのに……」
「あんなの夕飯前ですよ!」
「……ウソでしょ」
「さ! ご注文をどうぞ!」
ニカっとウェイターさんは微笑むと手早く伝票を取り出しクルクルとペンを回しながら注文を取る姿勢取った。
「「……」」
そんな彼女の姿に俺とレイナはお互いに顔を見合わせ、苦笑いをした。
「? どうされました?」
「いや、なんでも。唐揚げ定食二つとふわとろパンケーキ、お願いします」
「は~い!」
彼女は元気よく返事をすると小走りで厨房の方へ駆け寄っていった。その道中何回か客の冒険者たちに捕まっていたが歩みを止めず、高速で手元を動かしながら注文を取っていた。もはやメモを取っている手元なんか目が追い付かないほど速い。あのウェイター、優秀過ぎないか? もしかしたらここにいる誰よりも強いかもしれん。
「……あのウェイター、すごいわね」
「だな、もしかしたらまだ彼女の深淵を俺たちは覗いていないのかもな」
「何言ってるの……」
あれ? 結構かっこよく言ったつもりなんだが軽くあしらわれてしまった。見ればレイナの顔はどこか呆れているようにも見える。
俺のちょっとしたボケが受けなかった理由を考えているとスラさんが口を開いた。
「ねぇコーキ、マスターって今どうしてるの?」
「ん? ああ、なんかリード?って国に向かったらしい。理由は良く知らないけどな」
「リード……獣人の国ね」
「知ってるのか?」
「昔、ちょっと噂を耳に挟んだくらいだけどね。人族を完全に排除してて人口のすべてが獣人で構成されているとか」
「なんか氷人族みたいだな……」
「……」
ポツリと呟いた俺の一言にレイナがムッと顔をしかめ、睨んできた。自分の言葉に俺はあっと気づき手をわたわたと動かして悪意はないと証明する。
「あ、悪口じゃないぞ? あくまで例えだからそんな怖い顔しないでくれ……」
「もとはと言えば人族が」
「その経緯もクアッドさんから聞いた」
「……そう」
彼女が言いかけた所を上から無理やり被せるとさらに顔を不機嫌に歪める。く~! 美人さんの苦悶する顔はたまらんな!! 俺は狂人か?
俺たちのやりとりをなぜか笑顔で見つめながらスラさんは続けた。
「じゃあマスターは当分帰ってこないかもってこと?」
「そうかもな? 詳しくは分からないんだ、またフィリアさんにでも聞いてみる」
「リードはここからだとだいぶ遠いと思うわ。少なくともリードまで行くのに一週間近くはかかるわ」
「え、そんなに?」
「ええ、馬車でもそのくらいかかるわ」
「おおん……」
自動車やバイクはともかく、自転車もないとなれば大変そうだな。そういった交通のラインがないってのが異世界の大変なところだよな。ところで、馬車って早いの?
「だが、その一週間が勝負だな」
「え?」
俺はテーブルに肘をついて両手を組み、レイナを見据える。
「マスターは奴隷商人が現れたら君を引き渡すようには言ったけどな、その通りにする必要はないんだ」
「つまり……」
「ああ、奴隷商人となんとかして交渉する、マスターがいたら問答無用でレイナさんは奴隷生活に逆戻りだし」
「それは絶対に嫌」
「だからマスターのいないこの時間が大事なんだ」
「そう、具体的にはどうするの?」
「それは……」
「それは?」
俺は少し考え、彼女の顔を見ると俺の答えに期待を膨らませているのかレイナは少し目が輝いているようにも見えた。
そんな期待を孕んだ目で見ないでくれ、今から言うセリフが言いづらいじゃないか。しかし意を決して俺は勇気を出し口を開く。
「分からん!」
「……は?」
ドドンッ!と勢いよく告げてキリッとドヤ顔を彼女に見せつける。俺は正直だからな、臆することなく自身の情けない姿を晒すのは大の得意なんだ! ほら見てみろ、俺の超絶ウルトラスーパーエキセントリックドヤ顔にレイナもドン引きだ。……ドン引き? 心外だな……。
「もう少し何か考えているのかと思ったけれどそうでもなかったみたいね」
「こ、これから考えるんです!!」
彼女は頭を抱えて疲弊しきったような顔で盛大なため息をつき、ガクッとテーブルに崩れる。仕方ないだろ、俺だって分からんのだから。
「はぁ……私、これからどうなるの……」
彼女は目を閉じ、うなだれる。不安の声が無意識にもれているのだろうか。ごめんね? 俺はダメな部分を惜しみなく見せていく人間でしてね……。自分でもやっかいな人間だと思います。
「でも、なんとかなるとは本当に思ってるから」
「口から出まかせを……」
「出まかせじゃないんだけどなぁ……」
実際、目途は立っている。彼女を奴隷から解放する方法、そしてそれを可能にするための手段。クアッドが教えてくれた方法しかとる道はない。ただ、実行するためにはもっと情報が必要だ。不確定な要素をつなぎ合わせて憶測を語るのは良くない。語るのならばしっかりと調べ上げた上で実行に移すべきだ。それでもダメなら諦める、それが私です。いや、今回は諦めちゃダメだろ。
でも一週間で調べられるのか……? 実際、奴隷の権利ってどれくらいで買えるんだろう……。白金貨四枚で足りるか?
腕を組み今後の方針を考えていると、ふとレイナの背後に誰かが立った。見上げると酔いの回った冒険者が「うぃ~」っとしゃっくりを繰り返しながらレイナの据わる椅子の背もたれに手をかけた。片方の手には大ジョッキのビールをかざし今にも泡が零れてしまいそうだ。
「うぇっへぇ~~~。おじょぉちゃぁ~~んぅ。ふぃっく……。きれ~だね~~ぇ。おでと一緒に飲まなぁ~い??」
うわぁ~……。典型的な酒飲みのダルがらみタイプだな……。
引き攣る口元を何とか抑え込み、ちらっとレイナの方を見ると案の定怯えていた。眼を開き、眉を八の字にさせて俯いていた。うーん、非常にまずいな……。
「ね~~え~~~こっちむいてよ~~~」
冒険者は真っ赤な顔でレイナの顔を覗こうとぐいぐい詰め寄っている。レイナはなんとかみせまいと顔を背けるが相手のしつこさに参っていた。
彼女は俺と話すようにはなったが、まだこの世界の人族には慣れていない。せっかく馴染んできたってのに……いらん水を差しおって……。
「あの、すんません。この人怯えてるんでやめてもらっていいですか?」
俺は立ち上がると冒険者は俺の方を見るやいなや口をへの字に曲げた。
「なにぃ~~~~~?……おおお?? おまえぇ、昨日ガルドとやりやってた坊主じゃねぇか!?」
おや、どうやら昨日の決闘を見ていた冒険者の一人か。
「昨日はすごかったなぁ~。派手ではなかったけど軽くあしらってさぁ~~なかなか見どころあんじゃねぇか!!」
お、いいこというじゃん。なんだかこいつのこと気に入ってきたぞ。
「ど、どうも……」
「しかもこんな美人を連れてるなんてなぁ……うらやましいぜ!!」
「え、えへそうですかぁ?」
俺が照れているとレイナが口に手を添えてこっちを睨んできた。
「ちょっと、なに絆されてるの……」
「あ、すまん」
俺は目で謝りつつ、また冒険者と向き合った。
「とりあえず、その人に絡むのやめてくれないか? 人に慣れてなくってさ」
「お? そうか? 悪いことしたな!!」
なんだ、案外話の分かるやつじゃないか。ガルドみたいなやつだったらどうしようかと思ったわ。
と、話していると横からウェイターさんがかわいいお尻を冒険者にドン!と当てて彼をどかした。
「失礼しまーす、お客さん、ちょっとどいてくれますか~」
「うお、ねぇちゃんあぶねえって!!!」
「あんまり他のお客さんに絡まないで下さいね~、この人うちのお得意さんなんで来なくなったら困りますから」
「わ、悪かったよぉ……じゃな、坊主! 嬢ちゃんと仲良くな!!」
「は、はぁ……」
冒険者は自分の席へ戻ると仲間たちとまた騒ぎ、飲み始めた。なんだったんだ……。
ふとレイナの方を見ると「ふー……」とため息をついて肩の力を抜いていた。
「レイナさん、大丈夫か?」
「え、ええ……」
まだ緊張がほぐれていないのか、彼女は表情をこわばらせていた。
「すみませんお客さん。うちはああいう人が多いから気を付けてくださいね。特に美人な方は目を付けられやすいので……」
「ありがとうございます」
「でもうちに来るのを辞めないでくださいね! ここはおじさんばかりでむさくるしいので来てくれるとありがたいです!」
「お、おう……」
ウェイターさんは運んできた料理をテーブルに並べ、ニコニコと笑顔を向けてきた。
「わー! やっときたー!」
パンケーキを前にスラさんが目を輝かせ、カチャカチャと器用に触手を伸ばしてカトラリーを持つと勝手に食べ始める。
「お、おいスラさん。食べ始めんのはええよ……」
「えー! おなかしゅいてたからさぁ!」
「飲み込んでから話しなさい、それとせめていただきますしよう……な?」
「そんなの待ってられないよ!」
「あ、おま! 食への感謝を忘れちゃいけないんだぞ!!」
「……ふふっ」
ギャーギャーと言い合う俺とスラさんを見てレイナは硬くなっていた表情を和らげてクスリと笑った。
「な、なにか……?」
「いいえ? 何も。持ってきてくれてありがとう。いただくわ」
「どうぞ! ごゆっくり!」
レイナはお礼を言うとウェイターさんは嬉しそうにニカっと笑った。
一時はどうなることかと思ったが何事もなくてよかった。
俺はスラさんと仲睦まじく話しながら食事をするレイナを尻目に唐揚げをほおばったのだった。
次回投稿は6月11日予定です。




