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無難に生きるのが俺のモットーです。  作者: よにー
第一章 氷人族の少女
30/52

第27話 討伐ではなく駆除です

ちょっと遅れてしまい申し訳ありません。

皆さんはGWはゆっくり過ごせましたか?

私は大半寝てました。

第27話になります。

よろしくお願いします。



 フェリアが姿を消したあと、ニルハもなにか急用を思い出したとかでその場で別れてしまった。そんなニルハを俺とレイナは変に思いつつもギルドへ戻り、時間的にはまだお昼のど真ん中なので追加で依頼でも受けようかという話になった。


 朝は軽く薬草の採取をしただけだったので少し物足りなさをがありなにか良さげな依頼でもないかと掲示板とにらめっこしているとレイナが「あっ」と声を漏らして一枚の依頼書に手をかけた。


「なにかいいのあったか?」


 俺は彼女が手にした依頼書に目を落として聞く。横から覗くように見ているからか反射的にレイナが身体を逸らして俺にも見えるように依頼書を見せてきた。あれ? 今日の朝とかだったら近づかれるのも嫌がっていたはずなのになんだか優しい?


 なんか悠久亭の時とは全然態度が違うような気がする。ニルハ出かけている時になにか言われたのだろうか? もっとやさしくしてやれとか?


 さっきの柔らかい笑みといい、レイナの不自然な態度に心をドギマギさせつつもその行為に甘んじる。


 レイナが手にしていた依頼書には蜂?が描かれていてその上にはドレッドビーの討伐と記されていた。見たところ報酬が銀貨三十枚とEランクにしてはなかなか高い報酬量だ。しかしこれを受けるには一つ困ったことがあり、俺は渋い顔をした。


「……これがいいのか?」

「ええ、ドレッドビーは怖そうに見えて本来は大人しいのよ。気づかれないように蜂に有害な毒草をすりつぶして出た汁を染みこませた布か何かを炙って煙を吸わせれば簡単に駆除ができるわ」

「……そうか」

「? どうしたの顔色が悪いみたいだけど?」

「あー……」


 レイナが怪訝な顔をして覗き見てきたので俺は申し訳なく顔をして応えて見せた。


「……苦手なんだよな、虫」

「……へぇ? デスバラッドを追いつめた人間からは想像ができない台詞ね?」

「やめてくれ。本当に苦手なんだ」


 いじらしいレイナをよそに俺は頭を押さえた。


 思い出される。小さい頃、学校の帰り道で不意に耳元に大きな羽音がして思わず手を当てると何やら硬くもぞもぞした物体が手の中で蠢いていた感触がよみがえる。ああ、無理だ。なんであいつら足が六本もあるんだよ……。


「そう、苦手なら止めるけれど……」


 俺が過去のトラウマを思い返して顔を真っ青にしているとレイナが少ししょんぼりした様子でいそいそと掲示板に依頼書を戻す。え、そんなにこの依頼受けたかったの?


 なんだか申し訳なくなり俺は咄嗟に適当な言葉を取り繕ろいながら彼女が戻した依頼書を手に取った。


「いや、苦手なだけだ、うん、倒すだけなら問題ないんじゃないか?」

「え?」

「それにこの依頼もEランクだろ? 一般人でも処理ができるレベルなんだから余裕だって」

「……無理してない?」

「ええ? レイナさん、今日はほんとにどうしたんだ?」

「はぁ、杞憂だったみたいね。受けてくるわ」


 自分の言ったことを後悔したのか小さくため息をついてレイナは俺から依頼書を取り上げると、一人でフィリアの待つカウンターへと向かっていった。


「んんん……わからん」

「どうしたの?」


 俺がレイナの態度に疑問を抱いていると耳元でスラさんが話しかけてきた。


「いや、なんかレイナさんが悠久亭の時と全然違うから何かあったのかって」

「んーそう? いつも通りだと思うよ?」

「いつも通りって……俺たちまだ出会って二日も経っていないんだぞ? なんでわかるんだ……」

「え? だってレイナの顔を見ればわかるよ。昨日と同じだってね」

「……スラさんってもしかして人の表情読むの得意?」

「どうかなー? でもレイナが変わってないってのは言えるよ」

「うそぉ……」


 本当だろうか。しかし、不思議なことに彼女はスラさん心を開いているみたいだしスラさんの言うことは本当かもしれない。


 だがどうにも腑に落ちない、態度をコロコロ変え過ぎじゃないのか……? やはり奴隷の生活が長かったから精神的に不安定なのだろうか? お兄さん不安になります。


「ニルハと一体何を話したんだ……」

「そんなに気にすることかなぁ」

「ばっかスラさん、レイナさんは今まで過酷な経験をしてきたんだぞ? 気にしない方がおかしいだろ」

「そ、そっかぁ……そうかも?」

「そうなの」


 スラさんにご高説を賜っているとレイナが戻ってくるのが見えた。


「なに話し込んでいるの?」

「スラさんに人間の何たるかを教えていた」

「なにそれ」

「レイナ~、コーキってば心配症なんだよ」

「え?」

「もうレイナのことばっか「ばっ!! スラさん、やめい!!」

「ぐえぇ!!」


 俺は言わせまいとスラさんのにっくきプルプル体をこれでもかと揉んで揉んで揉みまくってやった。


「……そう」

「か、勘違いしないでよね! 俺はただ保護者として心配してるんだからっ!」


 もうほとんどレイナに言ってしまっているようなものだから意味はないだろうが、それでも恥ずかしいのでツンデレキャラになりきってごまかしてみた。


「きもいわね」

「ふへっ」


 冷え切った彼女のひとことに俺は心の中で吐血した。ふっ……効いたぜ……。


「スラさん、ドレッドビーの依頼受けて来たから行きましょ」

「うん!」


 スラさんは元気よく返事をすると俺の肩からレイナの肩へひとっ飛びで乗り移った。するとレイナはこっちを見向きもしないでまた一人ギルドの出口に向かって歩き始めた。


「え、ちょ、おい?」


 俺の呼び止める声に反応せずコツコツとそのまま歩き続ける。


「変な人は放っておくに限るわ」

「コーキかわいそ~」

「ほんっと仲いいなお前ら!!」


 置いていかれないように俺は二人のあとを追っていった。




------------------------------------------




 ここに来るのも何度目だろうか。アステリシアから平原を抜けて見慣れた森に足を踏み入れた俺はそんなことを考えていた。まぁ四度目だけどな!!


 だが行くのは慣れても問題のモンスターが見つからず、俺たちは森の中を只々うろうろしていた。


「で、問題の蜂さんはどこにいるんだか」

「ドレッドビーはその大人しさから生息地の特定が難しいの。飛んでいる働き蜂を何とか見つけて巣にたどり着かないと」

「ふーん」

「……真面目に探してる?」

「探してる探してる」

 

 というのは半ば嘘で俺の本心は蜂と出会いたくないと思っていた。だってあの羽音聞いただけで背筋がゾクゾクして落ち着かないし、条件反射で身体が強張ってしまうしでいいことなんて何一つない。もしドレッドビーと遭遇したら俺は何もできないポンコツと化してしまうだろう。


「スラさんはこの森に住んでいたのよね?」

「そうだよ!」

「ドレッドビーは見たことある?」

「うーん、昔ならあったんだけどなぁ。ここ最近はないなぁ」

「そう……ありがとう」

「ごめんね? 役に立てなくて」

「いいのよ。そこで口笛を吹いて空を見上げてる誰かさんよりはずっと役に立っているわ」

「ひ、ひでぇ……」 


 知らないうちにディスられているのはなぜでしょうか?


「ちゃんと探してるって……お?」


 レイナの冷たい目線をじりじりと受けながら俺は探している風を装って適当に辺りを見渡していると何やら森の奥の方で小さく黄色い点がふよふよと浮いているのが見えた。


「なぁ、あれってそうじゃないか?」


 俺が指をさした方向に飛んでいる橙色と黒のストライプ上の模様はあの依頼書通りの色合いで、レイナとスラさんが目を向けるとレイナは目を見張った。


「……驚いた。本当に探していたのね」

「ドヤァ」

「……うざ」

「コーキ……」


 やめろ、そんな顔で俺を見るな。ちょっと見返したかっただけだから。いや、ほんとごめんって。


「ほ、ほら見失うぞ!」


 本当は追いかけたくないが汚名返上のため俺は二人置いて一人先に突っ走りドレッドビーの後を追いかける。レイナも呆れながら俺の後ろをついて走り出す。そして追いかけて目的の巣にたどり着くと俺はドレッドビーを追いかけたことを深く後悔した。


 俺は思わず目を見張り、眉をひそめてうげーっと舌を出した。ある程度距離は開いているにしろここから見てもあのドレッドビーが異常だとすぐに分かる。


 あの蜂、くっそデカいんだが? おそらく俺の頭かそれよりも大きいぞ?


 物陰に隠れながら様子を窺う中、濁った瞳をさらに淀ませてレイナの方をギロっと睨むがレイナは涼しい顔をして気にも留めていないようだった。


「あんな大きいなんて聞いてないんだが?」

「あら? 言ってなかった?」

「言ってない」

「だって聞かれなかったんだもの」

「……」

「そんなに睨まないで。それにこの依頼受けてもいいって言ったのはあなたよ?」


 確かにね? レイナが簡単に駆除ができるって言うから苦手意識を持ちつつも受けようと思ったんだ。それに報酬もおいしいし。でもね、今はドレッドビーを間近に見て本当に後悔してる。こんなやつ本当に毒の煙で倒せるのかよ? 毒が回るまで何分かかるんだ?


「まさかとは思うけどこんなのが何十匹といる巣を見つけて駆除するんだよな……?」

「ええ、依頼書にはドレッドビーの討伐とあったけれど一体じゃ駄目ね。少なくとも十匹以上は倒さないと依頼達成と認められないわ」

「ぐぬぬ……」

「安心して、あなたが思っているよりも簡単にこの依頼はクリアできるわ」


 そう言うとレイナは突然俺の腰に下げている虚空巾着へ手を伸ばすともぞもぞと中をまさぐり始める。……近いな。


 レイナが虚空巾着の中に手を入れながら「えーと、どこにあるのかしら……」と難しい顔で目的のものを探している間、俺は借りてきた猫のようにじっと待って固まっていた。さっきからなんか知らんが甘い香りが俺の鼻をくすぐって仕方ない。は、はやくしてけれ~!!


「あ、あったわ」


 見つけたのかレイナは虚空巾着からズルズルと何やら大量の葉っぱと布を引き出してきた。


「もう使うのか?」

「ええ」


 レイナが虚空巾着から取り出した物は事前に用意していた代物だ。実はギルドでこの依頼を受けたあと、彼女が寄りたいところがあると言って雑貨屋か何かよく分からないところへ一緒に赴いたのだ。そしてその時に買ったのがこの葉っぱと布でドレッドビーの駆除に使うと言っていた毒草とそれをすりつぶして染みこませるための布だ。


 またそれだけでなく、細い棒状のガラスのような杖を一緒に取り出してきた。


「ん? それは?」

「火の魔法を記憶させたスクロールよ」

「へー……いろんな形のものがあるんだな」


 俺はそのガラスのスクロールを手に取って眺める。うーん、ただの細長いガラスにしか見えねぇ……エクスペリ〇ームズ!!


 ブンブンと重さなどを確認して一人魔法遊んでいるとレイナから小言が飛んできた。


「気を付けて。それ、すごく割れやすいから」

「お、おう」

「あと私は首輪のせいで魔力も流せないからあなたが魔力を流して火を出して」

「へい」


 言うや否やレイナは手際良く作業をし始め、俺は少し遠くの方でブンブンと蜂が飛んでいる音を耳にしながらその姿を眺めた。


 広げた布に何枚もの毒草を広げ、別で用意していた安物の手袋をつけた。そしてそこらへんに転がっていた手ごろな石を持ったかと思うと、突然思いっきり毒草に叩きつけ始める。


「!?」


 急なレイナの行動に俺はギョッと目ん玉を飛び出させて目の前の光景を疑った。あれ? すりつぶすって言ってたよな? 叩きつけてるように思えるんだけど?


 鈍い音が周囲に響いていることも厭わず、レイナは真顔かつ無心、そして無言でゴッ!ゴッ!っと何度も何度も石を叩きつけ、毒草から飛び散る紫色の汁が石やレイナの頬へ無造作に飛沫していく。無言で石を打ち付けているその様は何か恨みめいたものを発散しているようにも見える。心無しか打ち付けられている石から悲鳴が漏れているような気さえしてきた。モウヤメテ!


「れ、レイナさん……?」


 その異様な光景に俺は思わず声をかけてしまい、彼女はその作業の手を止めた。


「なに?」


 きっとレイナからすれば何気なく聞き返したつもりなんだろうが飛び散って着いた毒草の汁がまるで血飛沫みたいに見えて余計に自分の恐怖心をあおってしまう。


「……怒ってる?」

「え? どうして?」

「いやその……」

「??」


 言い淀む俺を不思議そうに眺めながらレイナはまた作業へと戻る。なんとも言えない闇を垣間見えてしまったからか俺は何も言えなかった。ただ、彼女の顔に着いた毒草の汁が気になる。毒草だから肌に良くないんじゃないか?


 そう思い、俺は虚空巾着からタオルを取り出してさりげなく彼女に差し出すが集中しているのか全く気づかずにこちらを見向きもしない。……それにさっき話しかけたからか声をかけづらい。キザったらしいことはしたくないけど毒草の汁のせいでレイナの綺麗な顔にいらぬ跡が残るのもなんか癪だ。


 俺は集中して作業をするレイナの傍へそーっと擦り寄り、タオルを丸めてゆっくりとレイナの顔に近づける。ここまで近づいてもこっちのことを気にしてないのか黙々とレイナは石を打ち続けておりちょっと心配になる。この子、一度集中し出すと周りが見えなくなるタイプなのかしら?


 しかし、毒汁を放置しておくわけにもいかず、俺は意を決してレイナの頬にタオルを宛てがったその瞬間、レイナはビクゥッ!と跳ね上がって俺からそそくさと離れると、驚いた猫のような表情で目をまん丸とさせて俺の顔を凝視していた。そんな驚きます?


 ビクビクしながらレイナは戦慄く唇を何とか開く。


「な、なに?」

「あ、すまん。あまりにも集中してたもんだから……その、顔に着いた汁を拭こうと思いまして……」

「え? あ……」


 俺は自分の頬をちょいちょいと指して汁がついていることをアピールすると、レイナは手袋を脱いで指先を頬に当てた。彼女は何か液体が触れたのを感じたのか手を見下ろし、うげっと嫌そうな顔をしていた。どうやら本当に気がつかなかった見たいだ。うそやろ?


「あと、もうそれくらいでいいんじゃないか? 十分毒も出てると思うし……」

「……そうね」


 広がる布の上で無惨にも惨殺されたような毒草の姿を見てレイナも我を取り戻したのか目の前の光景に少し驚いていた。……やっぱりレイナは精神的に不安定なのだろう。もうちょっと優しくするべきだな。既に十分優しいと思うけど。


「ほれ」


 俺はレイナにタオルを手渡すと彼女は素直に受け取って顔を拭き、その最中レイナはゴシゴシとタオルに埋もれながらもちょっと顔を覗かせてこっちを見ていた。気のせいだろうけどほんのりと耳が赤くなっている気がする。うん、きのせいだ。


「……ありがとう」

「どいたま」

「ど……?」


 素直にお礼を言われるのになんだかむず痒くてちょっと茶化してお礼を受け取る。しかし、レイナはその略し方は知らなかったみたいで「何言ってんの?」みたいな顔をしている。


「んっんぅ……どういたしまして」


 咳ばらいをして俺は小さく、本当に小さい声でぽつりとつぶやいた。無駄に茶化してしまったから言い直す羽目になってしまった。ぴえん、かっこわり。


「で、こっからどうすんだ?」


 紅くなった顔をごまかすために布の方へ振り返ってこの後の手順をレイナに催促する。 


「え、ええ。もう葉はいらないから避けてしみ込んだ布を丸めるの」

「おし」

「あ、そのまま触ったら毒のせいでかぶれるわよ」


 そういってレイナは先程自分が使っていた手袋を俺に手渡してきた。え? これ使うの?


「どうしたの?」


 レイナは気にしていないのか俺が手袋をつけないでいると不思議そうな顔をした。


「いや、これレイナさんが使って……」

「そうね?」

「……いいの?」

「何が?」

「いや、いいならいいんだ……」

「???」


 何に困っているのかわからないとばかりにレイナは訝しむような視線で俺を見つめる。うーん、意識し過ぎか? 俺キモいな。


 心の中で深いため息をついて俺はいそいそとレイナから受け取った手袋をつける。……微妙に生暖かい? 氷人族でもそれなりに体温があるのか。


 俺はレイナの指示を受けながら近くに落ちていた木の枝に布をくるくると丸める。傍からみれば即席の松明みたいだな。


「それ、私が持つからあなたはスクロールに魔力を流して火を出して」

「おん」


 言われるがまま俺はガラスの杖を手に取って、全身を巡る水のような感覚に意識を集中させる。そしてその水を指先から少しずつ放出するイメージで魔力をスクロールへと送っていくと杖の先からほんのりと小さい明かりが点いたのが見えた。


「そのまま魔力の量を多くして」

「うい」


 レイナの言う通り体から流れ出る水の量を増やすように送り出す魔力量を徐々に増やしていく。するとみるみるうちに杖から吹き出るようにして赤い火が現れ始めた。


「お、おお~」

「コーキすごーい!」


 俺とスラさんが感動しているのをよそにレイナは反応を示さずに火の頭の方へ丸めた布を持ってくると俺の顔を見て口を開いた。


「ねぇ、あなた風の適性を持っているのよね?」

「え? あ、ああそうだが?」

「なら、火を点けたまま風魔法を出せる?」

「うぇ? で、できるかな……?」


 それって二重詠唱的なやつで高度な技術と知恵が必要なやつなのではないのだろうか?


「二つの魔法を同時に使うってできんのか?」

「別に片方はスクロールに魔力を流してるだけだからさほど難しいものじゃないわ」

「あ、そう……」

「ただ、複数の属性魔法を持っていてそれを同時に使うのはなかなか難しいわね」


 やっぱり? まぁでも俺は風しかないから二重詠唱できても意味ないんだけどね!!


 そんな話をしているとチリチリと布を弱火でじっくり炙っているとほんのりと焦げ臭いにおいが鼻を刺激してきた。布の方を見ると小さいが煙が上がっているのが見える。


「じゃあこの煙を風魔法を使ってあのドレッドビーの巣まで泳がせてほしいの」

「やってみるわ」


 俺はスクロールに送っている魔力を途切れさせないように気を付けながらもう片方の手をかざして魔力を放出する。しかし何も起こらず煙はただ天を目指して上り続けていた。


「? どうしたの?」

「……すまん、魔法ってどうやって出すんですか?」

「えっ……そこから……?」


 うそでしょ……? とでも言いたげにレイナはドン引きしながら俺を可哀そうな奴を見る目で見つめていた。うう……そんな目で見られると本当に申し訳なくなる。


「ごめん、ほんとごめん」

「はぁ……謝らないで。そうよね、あなたはこの世界に来てまだ二日しかたっていないのよね……いいわ」


 そう言うとレイナはため息を吐きつつも懇切丁寧に魔法の出し方をレクチャーしてくれた。


 基本的に魔法とはイメージを具現化したものが多く、そのイメージを魔法として形作るための材料が魔力だという。そして、魔力の調節具合では限界はあるものの大きくなったり、強力になったり、性質自体を変化させることも可能だという。


 今回は単純に風を送るだけだから、その条件に合致したイメージをすればいいとのこと。


「わかった?」

「なるほど、なんとなくは」

「じゃあやってみて」  


 そう促されて俺は風を送るイメージを頭の中で思い描く。しかし、風を送るって言っても自分からじゃなくて扇風機くらいしかイメージが湧かない。手から扇風機の羽が出るわけでもないので、俺は手をかざすのをやめて、うちわを仰ぐように手を上下に動かした。すると。


「あ」


 スラさんが小さく鳴くと煙が俺の手から送られる風を受けてそのままゆっくりとまっすぐ巣の方へと流されているのが見えた。


「お?」

「……まぁいいんじゃない?」


 レイナの反応は芳しくないが俺としては超上出来だった。なぜなら手うちわが数段パワーアップしているのだからすごいことだ。いや、しょっっぼ。


 だが目的の風で煙を送ることに成功したのだから喜ばしい事は間違いない。紅桔、あの風を体に纏わせる以外に自分の意志で風を放出させる魔法を身に着けました! 手うちわだけど!!


 まぁでも煙自体はゆっくりと流れているのでドレッドビーたちが駆除されるまで数十分仰ぎ続けなければいけないのだった。



次回投稿は5月13日予定です。

よろしくお願いします。

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