第26話 だから勇者じゃねぇって言ってんでしょ!
すみません。昨日あげるつもりが多忙であげれませんでした……。
ごめんなさい。
第26話になります。
よろしくお願いします。
俺は今背丈がそんなに変わらない美人な女性に詰められ窮地に立たされていた。目の前の彼女はまるで俺を品定めするようにじっと俺の瞳を覗き込み険しい顔をしている。せっかくの美人が台無しだ。
なぜこんな状況になってしまったのか。それはこの俺の足元でぷるぷる震えるスライムのおかげだ。この状況を作り出してくれたスラさんを恨めしい顔で睨む。
「え、なに? コーキなんか怒ってる?」
そら怒るでしょ。勇者とバレたら大騒ぎになるし、この世界の勇者の実情を知ってしまったから安易に自分の正体を晒せない。本当のところは勇者じゃないのだが異世界人というだけで誰でも彼でも勇者と見られてしまう。
「……コーキ様とおっしゃるのですね」
ほら、名乗ってないのにもう名前まで知られちゃったじゃない。それに人の名前を聞くときはまずは自分から名乗るってのが礼儀なんだぜ?
「あなたは?」
「……フェリアとでも名乗っておきましょうか」
「なんだそれ」
自分の名前なのに変な言い方だな。しかもフェリア? フィリアさんと似ててごちゃごちゃになりそうだ。
「それよりもコーキ様」
「……その様で呼ぶのやめてくれないか? 俺そんな大層な人間じゃないし超一般人だから」
「え? そ、そうですか……分かりました。コーキさんにお聞きしたいことがあって」
「その前にもう一つ」
俺が次々と話を遮ったからか、彼女は少し不機嫌そうな顔で眉をひそめる。卑怯なやり方かもしれないがこうでもしないと色々と聞きだされそうで怖い。というかこの人何なんだよ。まさかアステリシア王家の関係者かなんかじゃないだろうな? 初対面で俺のこと様付けで呼んでたし……。怪しすぎる。
にしてもどうするか……言ったものの何も言葉が出てこない。おかしいな、いつもならテキトーなアドリブが出てきてこの場をしのげるのに……。俺の行く末がかかってるからか? さっきから心臓の音がうるさい。
「あの……」
しびれを切らしたのか彼女は怪訝な顔で俺の顔をさらに覗いてきた。切れ長のまつ毛が異様に目に入ってきて思考がまとまらない。
「えーと……そのぉ……」
「まさか、何も考えていなかったのですか……?」
「……」
困ったことに何も言い返せない。彼女も俺のテキトーさに呆れたのかため息をついて目を伏せる。
「では改めてお聞きしますが」
そう続けて彼女はもう一度顔を上げて俺を見据える。そんな真剣な眼差しを送ってくる彼女の次に出る言葉が容易に想像がついた。
「……はい」
俺はもう後には引けないことを確信して大人しく彼女の言葉を待つ。まるで絞首台の階段に足をかけ始めた気分だ。
「コーキさんは勇者様ですか?」
ほら来た。わかりきってんだよな。逆にこれを聞いてこなかった方がおかしく思えるほどだ。だがまだ折れるわけにはいかない。例え勇者と見られようと俺はめんどくさい事に巻き込まれたくないし、勇者を利用した戦争なんてもってのほかだ。
それにこの世界の人はおそらく勘違いをしている。厳密には異世界人=勇者ではない。ミラが言っていたように異世界人が三属性の魔法を扱えることが多く戦闘に長けていたからそういう風に見られるようになっただけだ。
確かに召喚された過去の人達は勇者だったのだろう。しかし、それは条件を満たしていたから勇者と認識されていたに過ぎない。俺のように巻き込まれて召喚されたやつは果たして本当に勇者なのだろうか。
勝手に呼んどいてスペックを見たら使えないからってポイ捨てされた人間だぞ? そんなやつが自ら勇者を名乗るなんて痛いヤツだ。
俺はただの異世界人であって勇者ではないのだ。そして生憎俺にはそれを証明するための抵抗材料が残っている。さっきは遅れを取ったが今はそれを存分に使わせてもらうとしよう。
「いや? 俺は勇者じゃないぞ?」
「……まだ隠すおつもりですか?」
「まさか、隠す必要なんて無い。なぜなら事実だからだ」
「?」
ここにきて自信満々に俺がニヒルに笑うと納得がいかないのか彼女は眉をこれでもかとひそめ、難しい顔をした。美人さんの苦悩する顔ってなんか新鮮で見てて飽きない。そしてこの隙を逃さまいと俺は彼女の言葉を遮って続けざまに連ねると俺は虚空巾着からあるものを取りだした。
「だって魔法属性が風しかないし、しかもEランクの冒険者だぞ? この俺のどこが勇者に見えるんだ?」
わざとらしくおどけながら、自分のギルドカードを見せびらかす。そうして自分の無能さをアピールすることで相手の興味を削いで俺を彼女の関心から引き剥がす。こういった自分を卑下して相手を呆れさせるのは俺の十八番だ。なんて悲しい十八番なんだ……。
手に持ったギルドカードをヒラヒラさせていると気になったのか彼女が俺のギルドカードを見つめてきたのでフフンとドヤ顔で手渡す。
彼女はギルドカードを手に取ると顔を伏せてじっと見つめる。
「……本当ですね」
「だろ? 確かにこのスライムは話が出来る珍しいスライムだ。だけどそれだけ。俺が勇者だと結びつけるには理由として弱いんじゃないか?」
苦し紛れに理屈を捏ねて目の前の現状から逃避し、己の逃げ道を用意するのが得策。そして崖っぷちに立たされて相手が優位に立ったときほど油断を誘えて崩れやすくなる。偉い人は言った、いつだって戦いにおいて一番強いのは先手必勝かカウンターだと。いや、矛盾してんなこれ……。
「それにあのおっさんたちの話を聞いてたなら知ってると思うけど、あんたの探してる勇者様ってのはデスバラッドを拳一つで倒したムキムキの男らしいな? 対して俺はまったくのヒョロガリ。どこも勇者の情報と一致しないが?」
「……あくまでも噂だと思いますが」
「噂を信じて俺を引っ捕らえるのか?」
「ひ、引っ捕らえる? 何を言って……」
とぼけるか。もうこの場は俺が優位に立っているから簡単には主導権を握らせない。
「そんな根も葉もない噂を鵜呑みにするのはよくないと思う。それに衛兵に突き出したって無駄だぞ」
「え、衛兵??」
さっきからこの人なんでポカーンと口を開けて間抜けな顔を晒してるんだ? 俺変なこと言ってるか?
「あ、あのなにか勘違いをなさって」
「勘違い? 俺の事を勇者と勘違いしてるのはあんたのほうだろ」
「そ、それは……」
よし、いいぞ。この人には揚げ足を取るのが一番効くみたいだ。さっきからしどろもどろで顔に焦りと不安が入り交じり混乱している。
「俺、そんなに勇者に見える? 俺のどこが勇者に見えるか言ってみてくれないか?」
「え、あ、その……」
俺はものを言わせまいどんどん彼女に詰め寄って圧力をかける。傍から見れば美人をたかる不良高校生だ。サイテーだな。
「あれ? コーキくんじゃん? おーい」
すると聞き覚えのある声が俺の名前を呼んだ。声のするほうを見るとニルハがレイナを連れて手を振っていた。
「あれ、二人とも」
「なにしてんの?」
話しながら近寄る二人に向き直ると、ニルハは俺と彼女を交互に見やり、レイナも同じように目だけで俺たちの間を行き来した。そうして何回か目を動かしたあと眉を八の字にさせ、レイナは困り顔で首を傾げる。
「……事案?」
「事案ゆうな」
くそ、可愛いなこいつ。でも事案っていうのはやめてくれませんか。まるで俺が悪者じゃねぇか。いや、悪者かもしれねぇ!
「にしても二人とも随分長いことまわってたんだな」
「まぁね! 案外話してみれば普通だったし楽しめたよ!」
そういってニルハはチラリとレイナを見てニシシと朗らかに笑った。なんや、こいつもごっつ可愛ええな……可愛いやつしかおらんのか?
「ええ、久しぶりに自由を満喫できたわ」
レイナもほんのりとだが口許が緩み柔らかい笑みを浮かべた。そのほんの少しの気持ちの表れに俺はとても満足した気分でいた。
「そっか、ならよかった」
俺も彼女の雰囲気に当てられてつい笑みがこぼれた。
「ええ……ありがとう」
すると思いもよらぬ彼女の一言が真正面からぶつけられた。レイナはしっかりと俺の顔を捉えて今までにないほどの嬉しそうな顔で感謝を伝えてきた。
全く意識していなかったためとんでもない不意打ちに言葉を失う。あまりにも突然の出来事に脳の処理領域がオーバーフローを起こし思考停止してしまう。
「あれ? コーキくん? どったの? おーい」
なんの前触れもなしに俺がフリーズしたのを見てニルハは俺の顔を様々な角度から覗いたり、顔の前で手を振り出した。
その動作に俺は我を取り戻し停止していた生体機能を活動させる。
「ッハァ!! あっぶね……尊みで昇天しかけたわ」
「はぁ? 何言ってんの?」
あんたバカァ?とでも言いそうな顔でニルハは口をへの字に曲げると俺の後ろにいる人物に目をやった。
「で、その人は?」
「えーと、なんか追いかけられて……」
「あ、あなたが逃げるから……」
だって追いかけられたら誰だって逃げるでしょ?
「ぷっ、あははは!!! まぁ、コーキくんの顔は普通に不審者な顔つきしてるからね〜」
俺と彼女の会話を聞いて突然ケラケラとお腹を抱えながら涙目で笑いだすニルハを俺は目だけで訴えかけた。おい、せめて目が腐ってるくらいで抑えてくれ。不審者は普通に傷つく……。
「いや、ごめんって。ほんとおもしろいねコーキくんって」
「それはどうも」
「で、なんで追いかけられてたの?」
「……さぁ?」
「さぁって……」
俺では情報を引き出せないと思ったのかニルハは俺を追った当人であるフェリアに目で問いかけた。
「……この方が勇者ではないかと思いまして」
「え? コーキくんが勇者?」
目を丸くしたニルハは俺の方をチラッと見てきたので俺は渋い顔で軽く首を横に振ると、俺の意図を察してくれたのかニルハはパチッとウィンクした。
「ないないない! コーキくんは勇者じゃないよ!」
ニルハは苦笑いしながらブンブンと手を振り、俺の肩を持つ。するとそれに続いてレイナも口を開いた。
「彼は普通の冒険者よ。それ以上でもそれ以下でもないわ。時折私のことを卑猥な目で見てくることが玉に瑕ね」
「おい、さらっと流れるようにディスるな」
さっきの胸を打つような微笑みとは裏腹に口から出た言葉はキレッキレだった。しかしいつもの冷たい仏頂面の顔とは違い、少し柔らかい表情で俺の方を見ていたからか不思議と不快でなかった。むしろ彼女が冗談で言っているのが分かり、いじられていることに心地良さすら感じる。……ただのドМでは?
「仕方ないわ。全部本当のことだから……ね?」
「……おう、そうだな」
俺とレイナの間になにかふんわりとした風が流れたような気がした。その風に誘われて彼女の髪が靡き少し顔が隠れてしまう。その瞬間、流れた髪からほんのり赤みを帯びた耳が見えたような気がした。
「そうですか……、ところでその」
やり取りを見ていたコートの女性は俺からレイナへと視線を移し、彼女の容姿をまじまじと見つめる。すると途端にレイナはいつもの冷たい表情に戻り、険しい顔つきで警戒していた。
「……なにか?」
「レイナ様……とおっしゃいましたか? あなたはその……氷人族、ですよね?」
彼女の発せられた台詞にレイナは一気に青ざめ、逃げるように後ずさりながら俺の後ろへ下がった。俺も手汗が噴き出してきて心臓の鼓動が早くなる。
「そ、そんなに警戒なさらないでください。私は怪しいものじゃありませんから」
「いや十分怪しいだろ」
「コーキくんほどは怪しくないと思うけどなぁ……?」
「え、俺そんなに怪しい?」
「……パッと見ね」
「えぇ……うそぉ……」
あかん。俺の周りには敵しかおらんのか。
「で、コーキくんはいつも怪しいとしてレイナが氷人族だと何か問題でも?」
「いえ、珍しくてつい……。すごく人族嫌いの種族だと聞き及んでいましたが、なんともないのですか?」
「なんともってのはよく分からんが、俺に対して当たりが強くて冷たくてほんのちょっぴり嫌われてるだけで他はいたって普通だぞ?」
「え?」
「違うわ。ほんのちょっぴりじゃなくて大分嫌われてるが正しいわよ」
「て、手厳しい……」
「………????」
フェリアは「何を言ってるの?」と心の声が漏れてるかのように頬を引きつらせ、ニルハの方にその真意を目で問いただすとニルハはまた苦笑いをした。
「ほんとだよ」
「じ、じゃあなぜ一緒に……?」
「……成り行き?」
ニルハも俺たちの事情を知っているから本当のところは言わずぼかした表現で首を傾げた。
「そ、そうですか……」
「まぁこの二人はいろいろと特殊だから気にしたらダメだよ」
「わかりました」
「にしても……」
そう言うとニルハはキャスケットのつばを持って少し前に深くかぶるフェリアに近づいて下から顔をのぞいた。そのニルハの行動に驚いたのかフェリアは大きく仰け反るとあからさまに顔を見せようとしなかった。
「……どっかで見たことあるような気がするんだよね~? お名前なんだっけ?」
「ッ……」
さっき俺が名前を聞いた時と明らかに様子がおかしい。何か見られちゃまずいのかくるくると周りをまわるニルハに連れてフェリアは顔を見せまいと隠し続けた。
「その人フェリアって言うらしいぞ?」
「あっ……」
「フェリア?」
俺が彼女の名前を告げるとフェリアは小さく吐息を漏らし、ニルハは俺の方を向いて難しい顔をした。
「フェリアって……まさか……?」
ニルハがフェリアの方へゆっくりと振り向いていくほどに彼女の顔はさっきのレイナみたいに青ざめていく。
「あんた、アステリ「わ、わたしはこれで失礼いたしますッ!!!!!!」
ニルハが言い終える前にフェリアはぴゅぴゅーっと俺を追いかけて疲れ切っていたはずなのにどこからそんな体力が湧いたのかあっという間に走り去ってしまった。
「……なんだ?」
「彼女、どうしたの?」
「なぁるほどねぇ~」
一人だけ納得してニルハは腕を組むと遠い目で空を見上げていた。
「コーキくん、これから忙しくなるね」
「……は?」
ヘラっとニルハは笑うと俺の肩をポンポンと叩き、小声で「どんまい」とつぶやいたのだった。
GWの間は投稿をお休みさせていただきたいです。
その間もちゃんと書きます。
次回投稿は5月8日予定です。




