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無難に生きるのが俺のモットーです。  作者: よにー
第一章 氷人族の少女
28/52

第25話 俺は勇者じゃないので勇者と思わないでくれますか?

一日もお待たせしてしまい本当に申し訳ありません。

第25話になります。

よろしくお願いします。



 悠久亭を離れ幾数十分、スラさんを肩に俺は一人しわしわの顔をさせながらトボトボと歩いていた。なぜそんなことになっているかというと、あの二人が一向に見つからないからだ。まあそりゃそうなんだけどね? 二人とどこで待ち合わせるとか全く決めてない。大人しく待っておけばよかったんだが、クアッドにこれ以上いじられたら体がむずむずして落ち着かなかったし、その場を離れたくて飛び出してきたようなもんだから仕方ないじゃない。それに偉く故人は言った。旅は道連れ世は情け、自己責任の行き当たりばったり道端行き倒れと。いや、死んじゃうのかよ。


「コーキ、顔がおじいちゃんみたいになってるよ?」


 俺の悲しい一人言い訳タイムなぞ聞こえてないのかスラさんはぺちぺちと触手で俺の頬を叩く。


「……もしかしたら二人とも悠久亭に戻ってるのかもしれん」

「じゃあなんで悠久亭でたの? 待ってればよかったんじゃ?」


 だからそれはさっき説明……してないな、というか聞こえるはずないもんな俺の心の声だし。


 スラさんのド正論に俺はぐうの音も出なかった。そうですね、あなたのいうとおりです。でもこれみよがしに正論を突き付けてくるヤツは自分が正当だと思い込んで酔いしれている奴だと俺は思っているので嫌いです。うそです、本当のこと言われてムカつくからです。

 

「ま、まぁ散歩しながらでも捜そう、な? もし見つからなくてもニルハのことだし遅くなる前にギルドにレイナさんを連れてきてると思うから大丈夫だろ。多分」

「だといいけど~」


 スラさんはうっすらと目を細めて俺の顔をじーっと見つめてくる。まるで何の考えもなしに飛び出してきた計画性のないアホの子を見るような眼だ。まったく、どこでそんな目つきの仕方を覚えたのか。スラさんの成長を感じる。


「とりあえずショッピングとかなんとか言ってた気がするし大通りの方を回ってみよう」


 俺はそうスラさんに提案して足早に道を急いだ。今俺のいるところはギルド付近の噴水広場にいて大通りは王城へと続く道幅の大きい街道だ。その道脇には様々な露店が所狭しと並んでおりそのにぎやかさは昨日と同じかそれ以上の盛況さで忙しなく人が行き交う。


 おそらく二人はここでなにかしらお楽しみの最中であると思うが、この人混みの中を探すのは流石に骨が折れる。ニルハはともかく、レイナに関しては絶対目立つだろうから見つけることは不可能ではないはずだ。


 だが俺としてはこの人口密度の中に飛び込む勇気はない。というか行きたくない。行ったら最後、様々な人からおしくらまんじゅうを仕掛けられ、人の物量、人圧とでも言おうか、その人圧でぺしゃんこにされてしまい口だけでなく見た目までもぺらっぺらのペーパーコーキになってしまう。ちなみにRPGは名作だぞ。


「うげぇ……この人の中からあいつらを探すのか……」

「すぐ見つかるんじゃない?」

「簡単に言うなぁ」

「レイナのこと心配でしょ? いこ!」

「ぬぅ……」


 確かに心配ではあるがどうしてもこの人波に飛び込まなくてはいけないのだろうか。ただでさえ噴水広場にも人は大勢いるのにさらにその倍くらいのところへ自ら向かうのは俺としてはNGだ。俺は満員電車とかやり過ごすタイプなのだ。


「コーキ、何もたもたしてるの? 早く!」

「わかったよ……」


 スラさんに急かされ俺は仕方なく大通りへと足を運んで行った。そして案の定荒波に揉まれた。


 満員電車とまではいかないがそれなりの人の圧に息が苦しくなる。なんとかして合間を縫うようにして歩いていくがレイナもニルハも見当たらない。そらそうだ、こんなの森の中に隠した木を見つけるようなもんだろ。自分でも馬鹿なことしてるなーと思ってます。


 数分ほどのらりくらりと人を避けて移動しているとだいぶ人の層が薄くなってきて普通に歩けるほどになった。なんだ、噴水広場の近くに人が多いだけかよ。


 気づけばアステリシア城にも結構近づいていて城の前には広大な庭が広がっていた。そして庭を取り囲うようにして大きな柵がびっしりと並んでおり入口と思われる門には見張り番が二人起立して居た。


「こうしてみると壮観だな」

「ねぇ〜、人間の建物っておっきいよね。こんだけ大きくて立派だと住み心地良さそうだね!」

「いや、スラさん。こういうのはな威厳を見せつけるために建ててるわけで住みやすさとかは度外視なんだぞ」

「ええそうなの!?」

「しかも王族の部屋とかは思ってるよりも小さいんだぞ」

「コーキって物知りだね! さすが異世界人!」


 んなわけねーじゃん。嘘である。後半は嘘である。だってスラさんなんでもかんでも信じちゃうからつい虚言を吐いちゃうの。俺の自宅の部屋の四五倍はあるはずだ。しかもベッドはキングサイズを超えるもので天蓋なんてモノまで着いてるオーダーメイド製だ。それと比べりゃうちの布団と言ったら畳の上に簀子(すのこ)を敷いて敷布団を二三枚置いたものだ。結構寝心地いいんだぞ?


 しかし、このまま間違った知識をスラさんに教えたままでは可哀想なのでちゃんと訂正する。 


「スラさん」

「ん? なに?」

「今の嘘」

「えっ?!」

「部屋が狭いって嘘」

「そうなの?!」

「むしろめっちゃ広い」

「えええっ?! なんで嘘ついたの?!」

「スラさんの反応が面白いから」

「ふつーにひどくないかな?!」


 ムキーッとスラさんからの触手ポコポコ攻撃を顔面半分に浴びながら「ハハハハハハハ」とわざとらしく笑う。ほら、もう面白い。


 スラさんと他愛の無いやり取りをしているとふと後ろの方から会話と思しき声が耳に入ってきた。


「なぁ知ってるか?。ウランドラスが勇者を召喚したって話」

「はぁ? 何言ってんだ? 前の召喚からまだ二十五年しか経ってねぇだろ? 召喚出来るわけねぇじゃん」


 どうやらウランドラスの勇者召喚のことを話してるみたいだ。確かミラが朝出かけた理由がその勇者召喚に関するものじゃないかってクアッドが言ってたな……。いや広まんの早くねぇか? まだ今朝出発してからのことだろ? まだ一日も経ってないんだけど?


 しかし自分のウワサというのは気になるもんでして俺はついつい耳を傾けてしまう。もしかしたら元の世界で聞き耳を立てまくってた癖があるからかも。でも大半が俺への烏丸さん絡みの怨念にも似た噂だったから基本いいものではない。……俺のクラス怖すぎないか?


 会話の聞こえる方に眼だけを向け、背中越しにその会話の人物を拝む。そこには男が二人、店の前で話し込んでいた。もう少し会話が聞こえるように


「でもよ、その召喚された勇者の一人がここに紛れ込んでるって噂だぜ?」

「本当なのか?」

「ああ、今朝店を開ける時、アルバートのマスターがカイトを連れて王城に向かっててな。そん時になんか勇者の話してたぞ?」


 なんというガバガバセキュリティ! 情報漏洩は日常茶飯事なのですか? 勇者という華美に見えて危うい立場の人間の話をそんな白昼堂々声高らかに話していいんですか!? 個人情報ですよ!!


「マジか。じゃあもうすぐ戦争が始まるのか」

「もしかしたらアステリシアを詮索するための密偵かもしれねぇな」

「くそ……ウランドラスめ……そこまでしてこの国を潰したいのかよ」

「かもな。まったく野蛮な国だよ」


 片方の男は悔しそうに歯噛みをしながら強く拳を握っていた。うわー……。思ってたよりもウランドラスに対する憎しみが深いな。


「もし勇者を見つけたら俺がとっつ捕まえて腕の骨へし折ってやる!」


 ……ん?? マジですか? 俺、腕折られちゃうの?


「だけどその勇者滅茶苦茶強いらしいぞ? なんでもあのデスバラッドを拳一つで殴り倒したとか」

「嘘だろ!!??」


 うそでしょ!? 噂に変な尾ひれついてんですけど!? 一体あの二人はどんな会話してんだ!?


「しかも大男でごいす!が口癖らしい」

「な、なんて個性的な勇者なんだ!!!」

「本当かどうかわからねぇけどな! 第一ギルドの奴さんたちの話をちょろっと聞いただけだからな! 勇者召喚なんてまだまだ先の話だろ!」

「だな! もし勇者ってもウランドラスがこっちに潜入させるわけないもんな!」


 いや、誰やねんそいつ。個性強すぎて俺の存在が薄れてきたわ。


「え?なに? あの人たちコーキの話してるの?」

「どうやらそうらしい、でも大男じゃないし拳一つで倒してないぞ。なんならボロ負けまである」

「あはは、デスバラッドだからね。初めて戦ったにしては生き残っただけでもすごいから自信もってコーキ」


 遠巻きに彼らを眺めながら全く身に覚えのないウワサに苦笑いが自然と浮き出てしまう。


 するとその噂に釣られてきたのか大きなコートに黒いキャスケットを被った眼鏡の女性が買い物帰りだろうか紙袋を胸に抱きながら彼らに近づいてきた。後頭部で結わえてコンパクトになった深い紫色の髪が目を引く。


「あの、すみません。今の話本当ですか?」

「え? あ、ああ。本当かどうかは分からないがギルドのマスターと冒険者が話しながら王城に入っていったしおそらく間違いないと思うんだが」

「まさかウランドラスがもう……」


 二人の言葉を聞いて彼女は顎に手を添えて深刻そうに思案顔で俯く。そして何かぶつぶつと小さく独り言を続けていた。


「ちなみにその勇者を見たことありますか?」

「い、いや? ギルドの奴らが話してたのを聞いただけだし」

「ギルドの?」

「ああ、マスターとカイトが話してたのを見たんだ」

「! ミラ様とカイト様が……」

「ん? なんだ嬢ちゃんギルドのファンか?」

「あ、いえ。そういうわけではないのですが……」


 彼女は彼らから視線を逸らすと俺と目が合ってしまった。すると彼女はじっとこっちを見続けてきた。なぜかは分からないが俺はつい顔を背ける。やましい理由は無いんですけどね? 人に見られ続けるのはどうにも苦手で……。


「ふーん? あ、そうそうもう一つなんか言ってたっけな」

「それは?」


 その男は彼女と同じように俺の方を見て指をさしてきた。おい、知らない人に指さしたらいけないんだぞう!


「ちょうどあの子みたいにスライムをテイムしてるって話だぜ」

「……なるほど」


 彼女はまだ俺の方を見て何か考え事をしているのかずーっとこっちを見続けている。……いや、俺じゃなくスラさんを見てる? まずい気がする。俺の人間関係危険ですよセンサーがびんびんに反応している。急いでこの場を離れないと。


 俺はスラさんに小声で話しかけ、すぐに彼らに背を向けた。


「スラさん、行くぞ」

「うん? わかった」


 しかし、このやり取りがいけなかった。彼女はその一瞬を見逃さず目を見開いてすぐさまこっちへ駆け寄った。


「お? 嬢ちゃん? どうしたんだ?」

「あ、貴重な情報、ありがとうございました。これで失礼いたしますね」


 一度止まって彼らの方へ丁寧にお辞儀をするとまた振り返って俺の方へ駆け寄ってくる。それに合わせて俺も彼女から離れるために一気に駆け出す。


「やべ、逃げるぞ」

「え? なんで!?」 

「ま、待ってください!」


 彼女の制止を聞かず、俺は走り続ける。大通りで走ると人が多すぎて抜けるのも難しいので脇の路地へと逃げ込むが、彼女も必死に俺を追いかけてきた。しかし走る体力がないのかすぐに息切れを起こし、速度を失っていく。


「はぁ、はぁ。待って……お願いですから……。きゃっ!!」


 その悲鳴につい反応して背後を見やると彼女は鈍い音を立てて倒れこみ、俺も足を止めて振り向き直る。そして彼女の紙袋も地面に放り出され、中身が散乱していた。そのひとつが俺の足元までコロコロと転がってきて靴に当たる。なんだこれ?


拾い上げてよく見てみれば包装紙に包まれたお菓子のようだ。それがたくさん地面に散らばっている。まだ包装紙に包まれてるからセーフだな、うん。


 彼女の方を見やると彼女は倒れこんだまま息苦しそうに浅い呼吸を早く繰り返していた。……流石に放置するのはダメかな? 


 そろりそろりと近づいて俺は散乱したお菓子たちを拾い集めながら倒れている彼女の前に腰をかがめる。スラさんも気になったのか俺の肩から降りて彼女の傍へすり寄った。


「……大丈夫か?」


 恐る恐る声をかけて紙袋にお菓子を詰め込みながら彼女の様子を伺う。


「はぁ、はぁ……申し訳ありません。ちょっと待っていただけますか……?」


 よろよろと体を支えながら彼女はむくりと起き上がり、なんとか上半身を起こしきる。胸の当たりを抑えながら彼女は急いで呼吸を整えようとするが焦っているのか妙に落ち着かない。そんなに距離は走ってないつもりだったが結構辛そうだ。なんか悪いことしたな……。


「分かったから焦らないでくれ。ゆっくりでいいから」

「はぁ……はぁ……はい、ありがとうございます……」


 大きく深呼吸を繰り返して彼女は呼吸を整える。少しずつ上がっていた息も落ち着きを取り戻して彼女はフーッと息を吐いた。俺は彼女に紙袋を返して立ち上がる。


「ふぅ……すみませんでした」

「いや、なんかこっちこそすみませんでした」


 俺もバツが悪くなり頭を掻きながら軽く頭を下げ、申し訳なさそうに。


「どうして逃げたんですか?」

「あー……急に追いかけられたもんだから?」

「あっ、それは失礼しました」


 彼女も自分に非があると思ったのか深く頭を下げる。実際のところは俺の方から逃げ出したから謝る必要ないんだけどな。人がよすぎるなこの人。


「ところで、そこのスライムは先程喋っていたようにも見えましたが……」


 立ち上がって彼女は足下にいるスラさんを見下ろす。さてどうしたものか……。とりあえずシラを切ってみるか。


「え? いや、そんなことないと思いますよ?」

「……」 


 じーっと彼女は細目で俺の顔を見据え、睨みつけてくる。んん……今ちゃんとはっきり見たがこの人結構可愛いな?


 整った眉にキレのある目元、その瞳は翡翠のごとく輝いて俺を掴んで離さない。そして極めつけはそのインパクトのある目つきをしているにもかかわらず、レイナにも引けを取らないほど端正で見事な頬の曲線美を有した顔立ち。レイナが童顔よりなのに対してこの人は少し大人びた顔つきをしている。また、キャスケットの内側から収まりきっていないのかウルトラバイオレットの色をした艶のある前髪が数束垂れ下がっていた。


 何とも言い難い神秘的な容姿に不覚にもドキッとしてしまう。俺が黙りこくってしまうと彼女はかがんでスラさんへと向き直る。


「スライム様、お話できますか?」

「え? うん!」

「ちょ、スラさん!」


 ダメだ。スラさんって基本素直だからこういう場面だとすぐに答えてしまう。もっと教育的指導が必要のようだ。


「! 本当にお話ができるのですね!」


 スラさんの声を聴いて急に彼女の顔がパァっと明るくなる。さっきまで大人っぽいなって思ってたけど違ったみたいだ。


「どうしてこの子はお話ができるのですか?」


 スラさんを撫でながら彼女は俺を見上げて聞いてきた。


「えーっとそれは……その……あー……」


 カイトがしゃべれるようにしてくれたなんて口が裂けても言えない。彼女はさっきの二人の会話からミラとカイトが関わっていることは知られている。そしてスライムをテイムはしてないがこうして一緒に行動しているところを見られた。ここでスラさんとカイトたちの関係に繋がりがあると知られたら必然的に俺が勇者だと気づかれてしまう。……でも捨てられたんですけどね! もうどうしよ! 紅桔わかんない!


 こうなったらあれだ、あの二人が言っていたことを信じてもらうしかないな。俺が詭弁を弄すために口を開こうとするとスラさんがまたもややらかした。


「カイトに喋れるようにしてもらったんだ!」

「えっ」

「……スーーーッ」


 終わりました。僕の冒険はこれにて完結です! 今まで見守って下さりありがとうございました! 次回の勇者の召喚にご期待ください!


「まさか……あなたは……」


 予想が当たった嬉しさなのか、はたまたただの驚きなのか分からないが彼女は眼を見開いてゆっくりと立ち上がる。


 こうなるともう言い逃れはできない。勇者とバレてしまった俺は一体何をされるのだろうか。尋問という名の拷問だろうか? それとも命尽きるまで戦争に駆り出され戦場に墓標を立てるのか……。


 俺の明日はどっちだろうかね?

次回投稿は4月27日予定とさせてください……!


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