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無難に生きるのが俺のモットーです。  作者: よにー
第一章 氷人族の少女
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第24話 女子たちの憩い

第24話になります。

今回は結構短いです。

よろしくお願いします。




 まだあの人が悠久亭で食事を取っている最中、ニルハに連れ去られるように悠久亭を飛び出して、私は今繁華街の中心に佇んでいた。


 道行く人の視線が物珍しそうに私の顔を見てきてとても居心地が悪い。今すれ違った人なんかわざわざ振り返ってまで私の方を見てる。


 感じる視線にそわそわしているとニルハが気を使ってくれたのか私の腕に自分の腕をからませて体を擦り寄せてきた。


「気にしない気にしない! みんなレイナが珍しくて見てるだけだから!」


 そうなのかどうかは分からないけれど、ニルハがこうして気を遣ってくれてるのはとてもありがたい。彼女は私と周囲を交互に見ながら周りの人ににらみを利かせていた。


「ありがとう。だいぶ慣れたから大丈夫よ」

「そう? ならいいけど」


 心配そうにニルハは私の顔を窺う、それに対して私は柔らかく笑って見せた。


「ふーん。レイナってそういう顔もするんだ」

「え?」

「いや、さっきのコーキくんとのやりとりを見た後だとめんどくさそうな子だなーって」

「めんどくさそう……」


 不意に言われてしまってちょっと傷ついた。ニルハは思ったことをすぐに口に出してしまうの性分なのかな。


「ま、でも初めて会った時と比べたらいい顔してるね」

「……?」

「ああ、レイナが気を失っているときの話ね。あの時はそれはもう死にそうな顔してたしなんか何もかも諦めた感じもしてたからさ」


 あの時のことは正直あまり覚えていない。ゴブリンに追われて必死だったし足も感覚が麻痺して動いてるのかどうかも分からなかった。


 疲弊しきってもうどうにもならないと悟ってしまった。そうして目を閉じて死を待つばかり。だけど諦めてしまった私とは違って神様は簡単に死なせてくれなかった。


 まだ生きていることに疑問を持った私は思い瞼を上げて目の前に広がる景色を瞳に映した。そこには無数のゴブリンを相手にする彼がいた。彼が来てくれなかったら私は今ここにはいない。意識が朦朧としていたはずなのになぜかあの時の光景が鮮明に浮かんでくる。


「……あの人って元から強かったの?」

「あの人……? あ、コーキくんのことか。うーんどうだろう? ガルドと戦った時は結構余裕そうだったしそうなんじゃない? デスバラッドの時は死にかけたって言ってたけど、あと一歩のとこだったって聞いたし結構強いと思うよ? カイトさんが目をかけるわけだね」

「カイト……?」

「うん! うちのアルバートでいっちばん強い冒険者! Sランクに最も近いって言われてるの!」

「へぇ……そんな人にも注目されてるのね」


 彼のギルドカードを見てもそんな大層な感じの人じゃなさそうだったけれど、人は見かけによらないものね。


「そそ、レイナもラッキーだったね。コーキくんに見つけてもらえてさ」


 するとニヤっと口から八重歯を覗かせてニルハはいじらしく笑った。なにか変なことを考えていそうで下手なことを言えない。この猫氏族に隙を見せてはいけない気がする。


「……そうね」

「お、さすが氷人族。クールだねぇ」


 欲しかった反応をもらえなかったからかニルハは少し悔しそうに口をへの字に曲げる。一体この人は何を期待しているのか。


「ま、私はコーキくんのこと取ったりしないから安心しなよ。どっちかというとカイトさんの方が好みだからね。それにカイトさんとコネクションを作りたかったからね、いい子だけどタイプじゃないんだよね~」

「まさかそんな理由であの人に関わって……?」

「みんなそんなもんだって。コーキくんだってそうだと思うよ?」

「どういうこと?」

「あの子がレイナを助けた理由だよ」


 言われてふと悠久亭での会話を思い出す。そう言えばなんかそんな風なことも言ってたような……。


「でもコーキくんが純真で助かったね。もしこれが狼だったら今頃おいしく食べられちゃってたよ?」

「そんなことしてきたら今頃殺してるわ」

「うーん、冗談に聞こえないなぁ……」

「冗談じゃないもの」


 だけど確かに彼が手を出してこなかったのは以外だった。てっきりそういうことをしてくるものだと思っていた。

 

「案外小心者なのかしらね」

「だねー、コーキくんのことよく分かんないや。金貨を簡単に渡してくるくせにね」


 それには本当に驚いた。見ず知らずの人間に軽い気持ちで大金を渡してくる人がこの世にいるとは思わなかった。彼はこの世界の相場を理解していないのかな? 


「彼が何考えてるのかわからないわ……」

「結構単純かもね? それに今はそのおかげで買い物もできるし、いいんじゃない? 使えるものは使っちゃいなよ。奴隷生活で色々苦しい思いもしてきただろうしここで発散しちゃいなよ!」


 するとニルハは私の手を引いて、街を歩きだした。


 それからは時間を忘れてニルハと一緒に様々な場所を闊歩し、アステリシアの露店を見て回った。途中、お菓子やらを買って食べたりして過ごした。


 時折、ニルハが彼の話題を持ち掛けたりしてきて結構しつこく彼との生活を聞かれた。生活と言ってもまだ一日も経とうとしていないのに。どうしてここまで入れ込んでくるのだろう。もしかしてニルハは彼のことが……。それは無いわね。


 でも、どうしてみんなして彼のことを気にかけるのかしら。そんなに魅力のある人とは思えない、どちらかというとあれは表立って目立つような人間じゃなくて後ろで何かコソコソするタイプだと思うけれど。


 彼が異世界人ってだけでみんな注目してるに過ぎないんじゃないかしら。


 なんだかんだと小一時間ほど街を堪能しているとニルハが串焼きを片手にほおばりながらこちらをジッと見つめてきた。


「にしてもレイナってほんとに美人だよねー。氷人族ってやっぱみんなそうなの?」

「なに、急に?」


 不意に自分の容姿を褒められ、内心ドキッとしてしまう。それでも表情は崩さまいと努めて冷静に振舞いニルハに気取られないようにした。


「だってその見た目は女なら誰しもうらやむものだよ? コーキくんだってレイナの見た目に惹かれたんだから本物だよ」

「……あまりうれしくないわね」

「え?」


 私の芳しくない反応にニルハはもぐもぐと食べていた口をピタッと止めた。


「だって、この容姿のせいで私は奴隷として捕まって大変な目に遭ってるんだから。こんなことになるくらいなら別の種族に生まれたかったわ」

「そっかー……そうだよね」

「でもこうなった一番の原因は人族にあるのだけれどね」


 熱のこもった私の言葉にニルハはちょっと間を置いた後、口の中に残っていた串焼きをごくっと飲み込んでぷはッと一息ついた。


「でもでも、その環境からレイナを見つけて拾い上げたのも人族だね」

「うぐ……」

「いい加減コーキくんのこと認めてあげたら? あの子もレイナのことどう扱っていいのかわからないみたいだし、ああ見えて結構困ってると思うよ?」

「うう……」

「そんな意地張るようなことしないでさ、もっと気楽に接したらいいと思うよ」


 ニルハの言うことはもっとも。彼はこの世界の住人じゃなく、ましてやこの世界の人族とはなんら関係ない。それはわかってるのだけど、氷人族の性なのかどうしても受け入れることができない。


 スライムと話ができてニルハやクアッドといった他の亜人種の人たちとも普通に接している彼は私の嫌う人族からすれば異質だと思う。だけどその異質さに助けられているのも事実。


 彼もこの世界に来てまだまだ日が浅い。見知らぬ土地に来てしまったのは私も彼も同じか……。少し柔和に接するべきなのかもしれないわね。


「……努力するわ」

「そんな決戦に挑むような顔で言われても説得力ないよ? レイナってかなり不器用だね? そんなんじゃコーキくんい見限られるよ? もっと媚び売ってこ?」


 そんなはっきり言わなくてもいいんじゃない? それに媚びって……一番やりたくないことを提案してきたわねこの猫娘。なんだか段々遠慮がなくなってきているような気がするのだけれど。

 

「まぁでもこうして一対一で話もできたし、レイナの気分転換になったんなら連れてきてよかったかな」


 そう言ってニルハは両手を頭の後ろに回して気持ちよさそうに体を伸ばした。


「……そうね、ありがとうニルハ。おかげでなんだか少し心が軽くなった気がするわ」

「それならよかったよ。そろそろ戻ろっか、保護者のコーキくんが首を長くして娘の帰りを待ってると思うよ」

「保護者って……たぶん私の方が年上だと思うんだけど?」

「えっ!? そーなの?!」


 そんな話をしながら私たちはまた悠久亭を目指して足を進めていったのだった。

次回投稿は4月21日になります。

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