第23話 勇者が召喚される意味
遅くなり申し訳ございません。
第23話です
よろしくお願いします。
三百年前の勇者。千年もの時を生きたクアッドが知る限り一番古い勇者。それより前に勇者はいなかったのだろうか。いや、召喚する必要がなかったのか。
その勇者が初めての勇者なのかどうかはさほど興味が無い。今俺が知りたいのはどうやって元の世界に帰ったかだ。
ウランドラスの送還術が確立するずっと前だ。同じようなものかもしれないけど探す価値はあるはずだ。
しかしそれはアステリシアとウランドラスを長い間見てきたクアッドでも知りえないものなのか?
「三百年も前の勇者が帰った方法……」
俺はクアッドに縋るような視線を送るが彼はゆっくりと首を振った。
「すみません。私も千年生きてきましたが、彼が元の世界に帰った方法は知らないのです。というか当時帰ったことも知られていませんでしたね」
「えーー」
「いやはやお恥ずかしい限りです。なにぶんあの勇者は差別を無くしたのですが好色家でしてね。ここで知り合った数人の女性方と元の世界へ渡るためにあちこち旅をして記録が残っていないのです。彼が旅をし始めて一年ほどたった後、彼と共に歩んだ女性の一人が家族に残していった手紙が見つかってから発覚しましてね」
「えぇ……」
三百年前の勇者すごい人なんだろうが己の欲望にも忠実な奴と見た。さぞかしモテたんだろうな……、うらや……けしからんっ!!!
そんなことよりも日本に帰る方法が簡単に見つからないことは分かった。くそ、残すなら英雄譚だけじゃなくアフターエピソードの分も残していけよ。俺が困るだろ。
「まぁ焦ることはありません。紅桔さんもまだこちらの世界に来たばかりでしょう? 帰りたい気持ちは分かりますがこの世界を楽しむのも大切ですよ。それに彼女のこともありますから帰るに帰れないですしね」
「……ふぁい」
確かに今は日本に帰ることよりも目先の問題が俺を待っている。日本に帰る方法はまたの機会にするしかない。
それに勇者はこの二人以外にももっとたくさんいるはずだ。俺みたいに巻き込まれて召喚されたような奴もいるかもしれない。聞けるだけ聞いておこうか。
「それにしてもクアッドさんって長いこと生きてるだけあって物知りだよな。ならさ他にもこの世界に呼ばれた勇者のことも知ってるんだろ? 聞かせてくれないか?」
過去に召喚された勇者がどんな偉業をなしてるのか純粋に気になる。もしかしたらギルドのシャワーとかを作ってくれた偉大な人の話も聞けるかも。二人の勇者でこんなに濃密な話を聞けたんだ。クアッドもさぞかし話がいがあるだろう。
しかし俺が思っていたよりもクアッドの様子は芳しくなかった。
「……」
なんてことのない俺の質問にクアッドはなぜか急に黙り込んだ。その表情には少し陰りが見える。もしかして何か地雷でも踏んだかな……?
「……紅桔さん、実は今あげた二人以外の勇者に関してなんですが」
妙に重苦しい彼の雰囲気が不思議と店の照明を暗くしたように思えた。
「は、はい」
「皆さん、アステリシアとウランドラスの諍いで起こった戦争でみんな亡くなっているんですよ」
「……」
絶句。今の俺にはピッタリの言葉だ。
「アステリシアとウランドラスって和平結んでるんじゃなかったのか?」
「本当に表面上なだけでその場しのぎのものだったんですよ。和平を結んでもずっと争っているのですよ」
なんて国だ。三百年前からずっと戦争してるのか? 戦争ってのはそんなにも長い時間やれるのだろうか……?
「紅桔さん、勇者が召喚される理由ってご存じですか?」
「え? ……差別とか奴隷とか何かしらの問題を抱えた状況を打破するため……だろ?」
召喚に巻き込まれた俺には正直なところ理由が思いつかない。二十五年前に召喚された勇者は確か奴隷を開放するため……だっけか? なんだっけ? 二国間のいざこざの話が重すぎて話吹っ飛んじまった。
もし俺がちゃんとウランドラスに召喚されていたのならその理由が分かっただろう。今頃烏丸さんたちはそのために色々と国から仕込まれているんじゃないか?
「確かに三百年前の勇者はそういった名目で召喚されました。しかしその後は違います。二十五年前の勇者もその前の勇者も全員戦争のために召喚されました。」
……ろくな話じゃない。そうなると烏丸さんたちだけでなく俺までもその目的で召喚されたのか? 嫌な話だ。
「お互い勇者が召喚される度に戦争を起こしてきたんですよ。ですので明確には三百年間ずっとという訳ではなく四十年に一度戦争を起こしてきたんですよ」
「四十年に一度ねぇ……」
自分でそう呟いた瞬間、なにか引っかかった。四十年に一度? 待て待て待て。そうなると矛盾してるじゃないか?
確かアステリシアはウランドラスに合わせて勇者を召喚しているはずだ。そして直近で召喚したのは今を除けば二十五年前ってことになる。……二十五年しかまだ経ってないのに何で召喚できるんだ?
ハッとして俺は付いていた頬杖から顔を離した。
「気づきましたか」
クアッドは自分の説明の矛盾にはとっくに気づいていたのか、それともわざと俺に気づかせるために指摘しなかったのか。そんなことは瑣末な問題だ。
「二十五年しか経ってないのになんでウランドラスが勇者を召喚出来てるんだ?」
「わかりません。私も紅桔さんのことを聞いた時、耳を疑いました。しかしこうしてあなたはここにいる。ウランドラスが勇者を召喚している何よりの証拠です」
「……」
「おそらく、なにかアステリシアの召喚術に細工をしたのか……それともウランドラスが召喚術の短期化に成功した可能性がありますね」
「じゃあアステリシア王家はこの召喚のことは知っているのか?」
「いえ、本来なら向こうが召喚する前に一報がアステリシア王家に飛ぶはず、少なくとも相手が召喚したその日に王家も動いて召喚しているものです」
「なら王家には向こうが召喚したことは知らされていないと」
「ええ、これは由々しき事態です。ただこの召喚において、唯一の救いは紅桔さんが召喚から省かれた点ですね」
「そうか? 俺はとんでもない目に遭ったけどな……」
本当、スラさんに出会ってなかったら俺はここにいないだろう。とっくの昔にデスバラッドに食われて出すもの出されて土に養分になっていることだ。
「ウランドラスからすればあなたは戦闘では価値が無いと思われた上に、そんな役立たずを他の勇者と同じような待遇をするわけにもいかない。また捨てようにも野放しにしておいてはアステリシアに勇者召喚という重要な情報を流してしまう。ウランドラスにとって都合が悪すぎたので簡単に消すことのできる幻獣の森に追いやったのでしょう」
「ひ、ひどすぎる……」
何のためらいもなく淡々と俺の身に起きた状況をクアッドは推測する。なんか昔話をしていた時よりも饒舌じゃありませんこと? もうちょっと同情してくれてもいいのよ……?
「ですがウランドラスの思惑は容易に外れてしまった。なぜだかわかりますか?」
「ええ……そこ振るの……」
ニヤっと口角を上げるとどこか嬉しそうにクアッドは俺の顔を見据える。クアッドのさりげない視線がなんとも面はゆくて頭がかゆくなってくる。
ぽりぽりと俺が頭を掻いているとクアッドは何が面白いのかクスリと笑った。
「ふふ、単純な話で紅桔さんが強かったという点です」
……ええい!! やめいやめい! 真正面からそんな恥ずかしいこと言うな!! それに齢千を超えるスーパーおじいちゃんに言われたってあんま嬉しくないぞ!! こういうのはもっと可愛くて綺麗で素敵で美人でクールで普段棘のある事しか言わないくせに時々デレていつも澄まし冷めた顔をほんのり紅くさせて恥ずかし気に言う子が一番良いんだよ!!
……願望駄々洩れじゃねぇか!!!!!!!! しかもこの条件に合致するヤツ俺の中じゃ一人しかいねぇなぁ!!
恥ずかしさのあまり心の中で無駄にハイテンションになって一人漫才を繰り広げているとその心を見透かしているのかクアッドがまた怪しげに笑った。
「ん? 今レイナさんのこと考えてましたか?」
「ヒェ、んんんなわけ」
「その態度で一目瞭然ですね」
「コーキってば分かりやす過ぎるよ」
この世界ホントなんでエスパーばっかなの? なに? サイコキネシスうっちゃうの? ならこっちはかみつくぞ?
「……ごちそうさまでした!!! あと有意義な話もありがとうございました!!!」
二人からのニマニマした視線に耐えきれず俺は半ば投げやりになって席を立ち、皿をクアッドの方へ押し出す。
「おや? もう行かれるのですか? まだおふたりとも戻っていませんよ?」
「テキトーに探して合流しますんで!」
「そうですか、お気をつけて。またいらして下さいね」
「アッハイ! ドーモでした!」
食事代をカウンターの上に置くと俺はすぐさま踵を返してズカズカと足早に出口へと向かう。
「ま、待ってよ! コーキぃ!」
置いていかれたスラさんがぽてぽてと跳ねながら俺の後を必死に着いてきた。
その愛くるしい声に俺は少し、ほんの少しだけ罪悪感を覚えと扉の前で立ち止まった。すると勢いよくスラさんがジャンプをして定位置である俺の肩へと乗った。
不意にチラッと後ろを振り返るとカウンターの中で佇むクアッドと目が合った。その顔を見て一つ気になった。
「……ウランドラスが勇者を召喚したことって王家に伝えなくていいのか?」
「ん? 大丈夫でしょう。おそらくギルドが動いていると思いますよ」
なるほど、今朝ミラがいなかったのはそういう事情があったからかもしれないな。
「そっか。クアッドさん、色々ありがとうございました」
「いえいえ。あなたの行く末に幸あらんことを」
ふりふりと手を振ってクアッドは見送り、俺とスラさんは悠久亭の扉をくぐったのだった。
次回投稿は4月16日予定です




