第22話 アステリシア王国とウランドラス帝国
遅れてしまいすみません。
言い訳なんて見苦しいですが、リアルの方が忙しくストックしていた話がほとんど出ききっていまして猛スピードで遅筆に火をつけています。
不定期更新は絶対したくないのでなるべく更新日時などはお伝えするつもりですが、もしかしたら少しずれることもあるかもしれません。
本当に申し訳ありません。
あ、22話になります。よろしくお願いします。
ウランドラス帝国。それはここアステリシアから西へ大きく離れた場所にある人族絶対至上主義国家である。
多人種国家のアステリシアと違い、人口のおよそ八割が人族で構成されており、残りの二割は全て亜人種の奴隷となっていて、この人口分布はウランドラス帝国特有で他の国では見られない。
今となってはほとんどの貴族が奴隷を持っており、労働、娼婦、売買など多岐にわたって使われている。
また貴族だけでなく市民も奴隷を持っているがその扱いようは良いとは言えないもので完全に亜人種を道具として見ている節がある。
しかし昔のウランドラスは今と違って奴隷国家じゃなく、複数の亜人種によって出来た国で人族よりも亜人種の方が力が強かったというり
そんなウランドラスがなぜここまで人族主義の奴隷国家になっていったのか。それは一重に彼らの辿ってきた歴史が物語っていた。
今から三百年ほど前、まだ奴隷という文化は芽生えていなかった頃、かつてのウランドラスは帝国と呼べるほどの国じゃなく小さな国の一つだった。
人族と他種族の人口分布も人族が四割に対して他種族が六割という今とは真逆の構成になっていた。また過去の人族と他種族の関係性も違っていて身体能力や魔力などが人族よりも他種族の方が優れている点から人族は半ば貧弱種族として差別を受けて日々を過ごしていた。
それはアステリシアも例外ではなかったがウランドラスほどの厳しいものではなく、まだしかしそんな差別社会がある世の中を当時のアステリシアの王家は変えたいと望み、王家に伝わる秘術である召喚術で別世界からの勇者を召喚した。
それに対し、召喚された当時の勇者は王家の要求に応じて差別を無くそうと世界を奔走していく。彼は長いようで短い旅を経験し様々な種族と出会い、思いを知っていく。
その旅が如何なるものだったのかは本人しか知りえない。しかしその旅のおかげで世界は変わり始めていたのは事実だった。
亜人種と人族の間には確かに種族間の壁が存在していたけれど、それも徐々に崩されていって互いの存在を認め合うことができるようにまで景色は変わっていった。
だがそんな夢のような物語はかの勇者がこの世界に降り立っている間の一年というほんの少しの時間の隙間だけだった。
勇者が役目を終えてこの世界を去った後、人族の勢力を盛り返していたウランドラスの帝王がこれを皮切りに亜人種に対してこれまで募らせてきた恨みをぶつけたのだ。
これによってウランドラスに住む亜人種は例外無く捕らえられてしまい帝王が密かに開発していた隷従の首輪を付けて亜人種の強力な魔法を封印し、従えさせていった。
勇者という調停の使者が存在しなくなったため、彼によって保たれていた人族と亜人種の均衡が容易く瓦解していったのだ。
そしてなぜ人族よりも強いはずの亜人種が負けてしまったのか、その答えは単純かつ明快なもので、ただ人族が結託したからに過ぎないからだ。
人族が勝てた理由としてひとつは人族の数が他の一種族と比べて遥かに多いこと。そしてもうひとつが亜人種同士が互いに友好関係を築いている訳じゃなかったことがあげられる。
そういった要因が重なっていき、亜人種は最終的に人族の軍門に下らざるを得なかったのだ。
これで勢いを付けたウランドラス帝王は人族が世界の覇権を握るための足がかりとして取った次の手段が、同じく他種族国家であったアステリシア王国の占領だった。
ウランドラス帝国が攻めてくるという話はアステリシア王家へ瞬時に伝わるが、当時のアステリシアとウランドラスの国力は拮抗しており、ウランドラスが全種族の力を用いて戦争を仕掛けてくると分かった際、まだ内部で種族間の軋轢が完全に取り払われていない状態のアステリシアではそれに対抗する力を持っていなかった。
そのため、アステリシアは自身の国を守るためにもまた勇者を召喚しなければならなかったが、召喚術には膨大な魔力が必要であり、その魔力を溜めるために二十年という長い時間も必要だった。
次の勇者を召喚するまでの二十年間、アステリシアはウランドラスとの途方もない戦いの歴史を刻んでいった。
日々消耗するアステリシアに対し、ウランドラスは戦いの合間に他の地域に住む亜人種を捕らえては連れて帰り、隷従の首輪で無理矢理戦争に参加させたりとアステリシア程のダメージはなかったのだ。
アステリシアもウランドラスの非道を理由に他種族の国家へ助力を求めて何とか凌いでいた。
そうして不毛な争いを続けているとついにアステリシアの方が先に限界を迎えてしまう。
このままではウランドラスに占領されてしまい人族と亜人種の壁は永久に消えないままになることを恐れたアステリシア王家は一縷の望みを賭けてウランドラスへ和平交渉を持ち込んだ。
ウランドラスからすれば受け入れる理由がないのも明白だったため、和平を呑ませるためある条件を追加した。
それはアステリシアに伝わる秘術である召喚術をウランドラスへ技術提供をする代わり、ウランドラスへの要求がアステリシアへの軍事介入をしないというものだった。
するとウランドラスはこの和平をあっさりと了承した。しかし、その和平の証としてウランドラスからの使者をアステリシアの政治に参加させるという条件も付け加えられた。
アステリシアは自国を守るためにもこの条件を呑むしか道はなく、評議会の中にウランドラスの席を作ることになった。
だが和平交渉のおかげでアステリシアはウランドラスに攻めいられることはなく、なんとか平穏を保つことができていたのだ。
まだ召喚術を譲渡されたばかりのウランドラスでは魔力の溜め方に難があり、アステリシアのような二十年の周期では勇者を召喚できずその倍となる四十年もの時間が必要なので易々とアステリシアに攻め入ることができなくなっていった。
そのためアステリシアが勇者を召喚する頻度が多いことからウランドラスとの戦力に差が生まれないよう、ウランドラスがアステリシアに同時期での勇者召喚をするように迫った。
アステリシアからすればこれは戦力を削がれてしまうので不利になる条件だが、これをダシにしてウランドラスに対して有利な立場を取れるのを利用しないわけにはいかなかった。
そうしてアステリシアは交渉を重ねに重ねた末に締結されたの勇者条約だった。
片方が勇者を召喚した場合、片方も勇者を召喚するというもの。そして、アステリシアは召喚できる頻度多さからウランドラスよりも先に勇者を召喚できないというものだった。
その対価にアステリシアは内政におけるウランドラスの発言力の低下を求め、ウランドラスの内政事情をアステリシアに流させた。
その結果アステリシアの評議会にあるウランドラスの席は実質連絡員用のものになりなんとか武力面と政治面の二つを拮抗状態へと持ち込むことができた。
そうして表面上の平和を築き、二国間でのやり取りを続けた。すると時が経つにつれてアステリシアにもウランドラスの影響で奴隷制度が浸透していき、つい最近までは奴隷を持つことが当たり前の世の中になってしまったのだ。
その制度に待ったをかけたのが二十五年前に召喚された勇者であり、アステリシアが召喚した人物だった。
当時はウランドラスが勇者を召喚したのに合わせてアステリシアが国を守るために召喚したただの牽制だった。しかし勇者はとても正義感が強く、曲がったことが嫌いな性格をしていた。アステリシアに染み込んだ奴隷制度に腹を立て、彼女はなんと召喚した王家に直談判をして片っ端から奴隷を開放していった。
本来なら隷従の首輪はウランドラスの特殊な魔法で造られた魔道具だが彼女の持つ魔法属性には基本属性の三種類の他に無属性の特殊な魔法、「レジストクリア」を初めから持っていた。
その力は魔法や呪い、洗脳までもを解除するという極めて稀な性質で他の人には習得のできない彼女専用の魔法だった。
そんな強力な魔法と召喚者特有の魔力量の多さ、そして複数の魔法属性で稀代の勇者と彼女は謳われ、その思いに彼女は全身全霊で応えた。
結果、彼女は世界に変革をもたらし、世界から奴隷を無くすことに成功した。ただひとつ、ウランドラスだけを除いて。
ウランドラスは奴隷を文化と主張して聞く耳を持たず、勇者とウランドラスは解放しては従属させ、解放しては従属させを繰り返すイタチごっこ状態になっていた。
そしてある日、ウランドラスは召喚術を元にして造り上げた送還術を完成させ、それを使って勇者を元の世界に強制帰還させた。
これを受けアステリシアはウランドラスに対して怒りを露わにして彼女の意志を尊重し、奴隷撤廃を徹底的に実行し始めた。それが今の奴隷撤廃制度である。
しかしこの法律も完璧ではなく、まだウランドラスからの強い圧力を掛けられ奴隷の権利を主張させてしまい、完全な撤廃に至ることが出来なかった。
その権利関係の話は国の上層部の人間しか知らず、市民の間では奴隷を持つことは禁止されているという観念が植え付けられ、誰も奴隷の権利の仕組みなどは知らない。ウランドラスが明確に奴隷に権利は無いと述べておらず、皆は奴隷の権利なんてないと思っているところを突いた卑怯なやり口だ。
そして俺は今、この奴隷の権利を買えとクアッドから言われているのだ。
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「お判りいただけましたか?」
「な、なんとなく」
小一時間ほどクアッドから世界事情、というかアステリシア王国とウランドラス帝国の話を聞かせてくれた。この世界が思ったよりも重苦しい世界だったってのがなかなか心にくる。
しかし俺にとってそれよりも気になるところがひとつあった。
「あの、前代の勇者が送還術で元の世界に帰ったって……」
「ああ、そのことですか」
そう、元の世界へ帰る手段があったという点だ。俺のよく知る物語では世界の果てまで行ったっきりみたいなものが多いから帰る方法があるのは喜ばしい。
しかし、クアッドは内心ウキウキだった俺の期待を簡単に打ち砕いてきた。
「あれはやめておいた方がいいですよ」
「えっ、なんで」
「不完全なんですよ」
「ふかんぜん」
あまりにもあっさりと否定されてしまって感情の起伏に脳が追い付かなくなる。
「あの送還術は起動するのに魔力を消費します。その消費量は移動する距離によって変わるのですが、度を超えた距離を移動しようとすると魔力の代わりにあるものを送還される対象者から奪うのです」
「……それは?」
ごくりと固唾を飲み込んで喉が鳴る。自分のこれからに関わる大事なことだ。この話によっては俺はこの世界に長居するのかパパっと帰れるのかが決まる。もし大したことのない話だったらレイナの問題を片付けてウランドラスへ乗り込んでやる。
だが、俺の考えとは裏腹に世界というのは都合よく作られてはいないのだ。等価交換、因果応報。これは森羅万象、物理法則にだって通用するものだ。
真剣な眼差しで見つめる俺にクアッドは俯き加減で少し間を置いてから口を開く。
「……寿命です」
「……あー」
……まぁそうだろうな。言い淀んでいた時点で何となく察しは付いていた。ただたった少し、ほんの少しの希望にも縋りたくなるってのが追いつめられた人間の性だ。……俺追いつめられてたのか?
「ですのでよした方がよろしいかと。まだアステリシアからウランドラスくらいの距離ならば魔力で十分ですが、別の世界となると話は別です。時空を超えて世界を渡るわけですからその代償はとてつもないものでしょう。」
「……だよな」
「ましてやウランドラスはアステリシアから召喚の秘術を提供されたとはいえアステリシアのようにうまく扱えません。魔法使いで例えるなら三流の使い手なのですよ」
なるほど、そんなへたっぴには自分の命を使ってまで家に帰ることを頼みたくないな。だけど帰りたいのは本心でもある。
希望を断たれ、半ば放心状態で頭を抱えているとクアッドが朗らかに微笑みかけた。
「帰りたいのならウランドラスを頼るのではなく、己で見つけなさい」
「え?」
「私の話は聞いていたでしょう? 自分の世界に帰ったのは何も二十五年前の勇者だけじゃないのですよ」
「……あっ!」
言われて気づいた。そういえば話の中でさりげなく言ってたな、自分の世界に帰ったもう一人の勇者が。
「紅桔くん、あなたは三百年前に自分の世界に帰った勇者の情報を集めなさい。そうすればいずれは帰ることができるはずです」
コポコポと軽快な音を立ててながらクアッドはさっきまで拭いていたグラスに何か炭酸のような液体を注ぐと俺の前にコトリと置いた。
弾ける泡から何やら爽やかな柑橘系の香りが鼻をくすぐる。その酸味の効いた匂いは凝り固まった俺の心をシュワシュワと溶かしていく。
じっと透きとおった黄色い飲み物を見つめているとグラスの底から湧き上がる泡に目が行った。
それを見ているとなんだか俺の心にも何かが湧き上がる感覚がしたのだった。
次回更新は4月11日予定です……!




