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無難に生きるのが俺のモットーです。  作者: よにー
第一章 氷人族の少女
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第16話 紅桔の絡まれ癖

第16話になります。

よろしくお願いします。



 日が高く登りはじめ、空は青く暖かい日差しがぽかぽかと降り注ぐ。そんなお茶を嗜むには絶好日和なのに、『ミス・ウェーバー』の店の前で道行く群衆に見守られながら俺はボルシャックから猛烈な殺意を受けていた。


 こんな公で、しかもしょうもない理由で殺されるなんてたまったもんじゃない。俺は冗談半分でボルシャックの言葉を聞き流すつもりでいた。


 だが、これを聞いた群衆は騒然とし、空気が変わって俺を見ながらひそひそと小声で話す人がちらほらと見受けられる。中には「可哀想に……」と何故か哀れみの声まで聞こえた。


 あれ? 思っていたよりもまずい状況ですか?


 周囲の反応に半ば戦慄しているとハウンズがわざわざこちらまでそばにより、耳元で囁いてくる。


「私の主がすみません……」


 ハウンズはペコリと軽く頭を下げた。


 ……悪い人ではないんだよなぁ。


「お熱いお二人を邪魔するつもりは御座いませんのでどうかご安心を……」


 そう言ってハウンズはバチコン!と慣れていない下手なウィンクをしてきた。


 ……やだ、そう見える? へへへ……。


 世辞や嘘だとしてもそう言われてしまったら俺としてもデレデレするしかない。きっと今の俺の顔はとろけに蕩けきって目が無くなってるじゃないか?


 不意にちらっとレイナの方を見やるとハウンズの台詞が聞こえていたのかシラケた視線で嫌そうに俺を見ていた。


 そこまで拒否反応されると変な扉開いちゃうからやめて。


 そんな一方、こんな状況を作り出したボルシャックはというとさっきから涙目で何かギャーギャー騒いでいた。


「ハウンズ何してる!! さっさと捕らえんか!」


 ぶんぶん腕を振り回しながら泣き喚くその姿は駄々をこねる子どもそのものだ。というかこの子いくつなの?


 対してハウンズは眉間に皺を寄せ、頭痛でもするかのように目を瞑って頭を抱えている。いや、実際頭痛してそう。


「ボルシャック様、いい加減になさいませ。そのような言動はピンザッツ家として相応しくございません。奪うなら正々堂々と奪ってください」


 やれやれと首を振りながらハウンズは手のひらを前に突き出す。


 ……??? 何言ってるんだこのおっさん? さっきと言ってること違うぞ?


「だって! その女見向きもしないし! そこのゴボウはなんかムカつくし!! なんでそんなヤツがモテるんだよ!!!」


 鼻水をだらだらと溢れさせ、びちゃびちゃの顔面を振りまきながらボルシャックは顔を真っ赤にしていた。


 ……モテてはないと思うよ? だってレイナは心を開いてると思ったけどそうでもなさそうだし……。目も冷たいし体温も冷たいし態度も結構冷たい。


 しかし俺、めちゃくちゃディスられてないか? しかもゴボウ呼ばわりされてる?


 ひとりショックを受けている俺を置いて、泣き叫ぶボルシャックにハウンズが優しく言葉をかけた。


「ボルシャック様はまだ九歳なのでこれからでございます。そうヤケになる必要はありませんよ」

「うるさいっ!!」


 え? ボルシャックって九歳なの? めっちゃませてるな。


 なんとかハウンズがなだめようとするが抑えが効かないのかボルシャックはもっと喚き出し、完全に収集がつかなくなってしまっていた。


 周りの人達もボルシャックが泣き喚いてるのがおかしいのかクスクスと笑い声が聞こえてくる。もはや事態の収拾がつかなくなってきたな。


 そんな暴走するボルシャックをどうしたものかと頭を悩ませているとおもむろにレイナがため息をついて口を開いた。


「こんなの、好きになる人なんていないわ。どこにそんな要素があるの?」


 腕を抱いて細目でピタッと止まるボルシャックを見下ろすレイナの顔は死骸に群がるハエを見ているかのように冷徹だった。


「こ……んな……の……」


 そして放たれたレイナの鋭いナイフのような痛烈な一言がボルシャックの心を貫いて抉り抜き、完全に沈黙してしまった。心做しか真っ白になって口から魂が抜けているように見える。


 ほわほわと何か口からエクトプラズムのようなものを浮かべるボルシャック。流石にちょっといたたまれなくなってくる。どれ、ここは一つお兄さんが人肌脱いで進ぜよう。


 横にいるレイナを見据え俺はボソッと呟くように言う。


「レイナさんもうちょっと手加減を……」

「手加減? そんなのしてたらこれ一生ついてまわるのよ? それに九歳なんてまだ子供じゃない」

「子供だからこそ手加減を……」

「子供だからこそキッパリ分からせる必要があるんでしょ」


俺の言い分も虚しく、フンと鼻を鳴らしてレイナは腕を組み直す。すまん、ボルシャック。俺じゃあこの女に勝てねぇわ!


鬱憤が溜まっていたんだろうか、彼女は少しスッキリしたような顔つきをしていた。しかしまだ出したりないのか、それにと言葉を付け加える。


「私は年上の物静かな大人の方が好きなの」

「はぐッ!!!」


 うぐっ!!!


 ……まて、俺はなぜダメージを食らっているんだ? まだ俺は物静かな方ではなかろうか? なんならほとんど自分から喋らないまである。しかもレイナが俺よりも年上という確証は無いんだ。希望はある!


 トドメの一刺しと言わんばかりにレイナは語気を強めるとボルシャックは心臓発作でも起こしたのかくたりと倒れ込んでしまい、それを瞬時にハウンズが抱き抱えた。流石、できる執事は違うな。


 まるで体から魂が抜け落ちてしまったかのようにボルシャックは口をあんぐりと開けて白目を蒸していた。


 ボルシャック……。成仏してくれ……。


 しかし、レイナがいくつなのかも気になるところではある。俺は意を決し、手でレイナだけに聞こえるように囁いた。


「ちなみに、レイナさんはおいくつで……?」

「……十九だけど?」

「へ」


 自分から聞いたものの、完全に年下と思っていた俺はガツンと頭に石をぶつけられたみたいな衝撃に襲われた。


 じゅ、十九!? うそだろ!! 十六かそこらへんかと思ってたわ!!!


 その瞬間俺の脳内でさっきのレイナの言葉が反芻する。年上……年上……。……俺もまだガキなんだなぁ。


 一人目を瞑る今の俺はさらさらと崩れていく砂の像の気分だった。


「あれ? コーキ? この子みたいになんだか真っ白になってるよ?」


 スラさん、今はそっとしておいてくれ……。


 悲しさにくれていると喋るスラさんに驚きつつもハウンズは乾いた笑いを上げ、抱いたボルシャックを持ち直す。


「いや、助かりました。主の前では大きく言えませんがなにぶん我儘なもので我々も手を焼いていて……」


 あんたのせいな所も結構あると思うけどな?


 口には出さず心の中だけに留めてツッコンでおく。それにハウンズが俺を止めなければこんなことにはならなかった気もする。


「こんなめんどくさい事になるなら俺たちを止めるべきじゃなかったんじゃないか?」

「その件に関しては申し訳ございません。止めて置かないとボルシャック様はあなたたちを執拗に追いかけ回すと思いまして……」


 なるほど、それは容易に想像つくな。現にさっきもボルシャックは短い足で必死にレイナを追い回していた。


 まったく、なんて積極さだ。その点だけは見習わなければならないというのが尚更無性に腹が立つ。


「まぁ止めても止めなくてもどっちみち俺は因縁つけられてたかもだけどな」

「あなたも隅に置けないということです」


 ハウンズはチラリとレイナを見るが、レイナはその視線に敏感に反応してまた俺の後ろに隠れた。……ほんとに君、十九なんだよね? 年下の背中に隠れるってどうなの……。


 だがこうしてレイナが俺の背中に隠れるのは好奇の視線が苦手だからだろう。なにせ周りの人間が振り向くほどの美貌だ。ずっと誰かから見られている感覚がして気持ち悪いんだろう。


「……どうでしょうね」


 俺は背中に隠れるレイナを肩越しに見るが彼女は俺と目を合わせない。一回だけ目を合わせて話したのはあのシャワー室のラッキースケベの時だけだ。


 そんな俺とレイナの様子を見てハウンズは訝しむ。


「む? まさか本当に恋人ではないのですか?」

「は?」


 ハウンズの言葉に間髪入れず、レイナが反応する。彼女は至極不愉快だと言わんばかりに渋い顔をさせてハウンズを睨んでいた。ハウンズも癪に障る事を言ったつもりがないからか少し表情に焦りが見える。


「私、人族なんかとは絶対恋人にならないから。まだスラさんの方がマシよ」

「お、おう……」


 吐き捨てるように言い放ったレイナは俺の肩に乗っていたスラさんを取り上げて胸に抱き抱える。……スラさんすごいな。レイナにここまで言わせるなんて。いや、俺しかいないから消去法でスラさんなのか?


「でもレイナ、コーキは君の知っているような人族じゃないよ?」

「それは……」


 スラさんはレイナの顔を見上げるとレイナの言葉尻が弱くなっていく。レイナも頭では理解しているが感情が追いついていないみたいだ。


 その会話に聞いたハウンズは少し疑問の顔を浮かべた。


「……もしやとは思っていましたが、その娘は氷人族ですか? それによく見ればその首あるのは……」


 顎に手をやりハウンズはググッと顔を前に出してレイナを凝視する。レイナはハッとしてさっきまで涼しかった表情が一気に焦燥へと変わり、思わず後ずさってしまう。


 案外この人、目ざといな。知ってる人までは服装で誤魔化しきれないか?


 しかし、氷人族はともかく首輪のことをバレるわけにもいかない。咄嗟に俺は弁を立て、それっぽい理屈をこねる。


「こんだけ分かりやすい見た目してるんだからそりゃ分かるよな。でもこの首輪は違うぞ? これはチョーカーであってただのアクセサリーだ。それもとびっきり珍しいやつ」

「……チョーカーですか」

「そうそう、このチョーカーを自慢したくて知り合いのキャサリンの店まで来たんだ。な? レイナさん」

「え? えぇ……」


 自分でも無理があるなと思いつつもレイナへ目配せをすると、不安そうに俺の顔を覗くレイナも俺の意図を汲んでくれたのか首を縦に振って話を合わせた。こんなこじつけた理由で納得するとは思えないが沈黙するよりはマシだ。嘘くさくても言ってしまえば真実はある程度隠せる。


 ぺらぺらと舌を動かし、身振り手振りも加えてハウンズの目を欺く。でもこれ傍から見たら超絶怪しいだろうな。


「……そうですか。そういうことにしておきましょうか」

「そう! そういうことなんで!」


 脂汗を流し、俺の引きつった笑顔を見てハウンズは訝しんだがコクリと頷いてくれた。でもこれは絶対にバレてる。


 そしてハウンズは俺の後ろに隠れて少し震えているレイナを見据えた。


「レイナ様……とおっしゃいましたか?」

「……はい」


 さっきまでの覇気がまるで感じられない声を出したレイナの顔は澄ましているように見えた。だがその実、怯えが勝ってしまいまた俺の服の裾を掴んでいる。


「そこの優しいお方と出会えたことに感謝をしなければなりませんね」

「……」


 ハウンズの言葉にレイナは何も答えず複雑そうな顔をして目を逸らしてしまった。


「では、私はボルシャック様のこともございますしお暇させていただきます」


 お辞儀をするとハウンズはカツカツと靴を鳴らしこの場から去っていった。なんか嵐みたいなやつらだったな……。


 しかし、やはりレイナは目立ちすぎるな。氷人族が如何に珍しく人目を引くのかが身をもって思い知った。ボルシャックはまだ子供だったから多少何とかなったけどこれが他の貴族ならこうはいかなかったかも。まぁボルシャック相手でも俺何もできなかったけどな……。


 俺がハウンズの背中を見送っている最中、レイナはずっとうつむいたままで何も喋らなかった。彼女なりにハウンズの言葉が心のどこかで刺さっているのだろう。これで少しは俺に対する態度も軟化してくれればいいんだけどな。


 すると遠くの方からインパクトのある服装をしたガタイの良い人影がこちらへ近づいてきた。


「あらぁ? コーキちゃんじゃないの!」


 おどけた顔でキャサリンは手を挙げて挨拶してきたので、それに俺も答える。その挨拶に反応しレイナも顔を上げた瞬間、ピシッと亀裂が入ったみたいにとても分かりやすく固まった。


「あらあら! その子!」


 キャサリンは俺の後ろに隠れていたレイナに気づき、その顔を拝もうとする。しかし、レイナはおぞましい何かを目撃したのかハウンズの時よりも一層怯え、俺の背中を使って完全に顔を隠した。……まぁ正しい反応だな。


「レイナさん、この人が言ってたキャサリンだよ」

「……え」


 まるで目の前の真実を信じられないみたいだ。でも現実だ。俺は振り向いて無理やりレイナを背中から引き剥がし、レイナをキャサリンの前に押し出す。


「え、あ、やだ……」


 別にやましくも危険でもないのだがレイナは本気の声にならない悲鳴で首を横に振っていた。


「この子に私はちょっと刺激が強すぎたかしら?」


 フフッと困った顔で笑いキャサリンは手を頬に当てた。初見なら誰でも怖がるわ。


「怖がらないで良いよレイナ! キャサリンはとっても強くて優しいから!」


 レイナの腕の中にいたスラさんがぴょんと跳ねて彼女の肩に乗り移った。


「そうそう。見た目はあれだけどできた人だから安心しなって」

「コーキちゃん? 褒めてるのか貶してるのかどっちなの?」


 俺はキャサリンに不敵な笑みで首根っこを掴まれ、為す術を失った猫のようになっていた、にゃん。


「それにしても本当に綺麗な娘ね。自分で選んだ服だけどそんなに似合ってると思わなかったから嫉妬しちゃうわ」


 キャサリンは目を輝かせうっとりとレイナに見惚れ、感嘆の息を漏らした。出会う人々皆が彼女の見た目を褒めるってこれもはや才能だな。


だけど肝心の本人は人とまともに話せないし怖がるから不思議とプラスとマイナスのバランスが取れている気がする。黙っていればかわいいとかそういう類だ。僕は黙っても喋っても汚物を見るような目でも全部かわいいと思いますがね!


「ところで店まで来て何か用事でもあったのかしら?」

「あ、ああちょっと知恵を借りようかなと。それと一応キャサリンに合わせておこうと思ってな」

「そう! ならこんな店前で話さずに入って入って!」


 キャサリンは店の鍵をあけて扉を開くと鈴の音が動きに合わせてリンと鳴る。


 俺はいまだに目の前のキャサリンが服の人だと信じられずに戦慄しているレイナを引っ張って店の中へ入っていった。




―――――――――――――――――――――――――――――――

 

 


「それは大変だったわね〜」

「はぁ……これでおめでたくレイナさんは目をつけられたと……」


 店の在庫帳簿をペラペラめくりながらキャサリンはさっき起きた出来事を知り、俺は椅子を借りて膝に肘を着いて項垂れていた。頭に乗るスラさんがやけに重く感じる。というか首が痛い。


「……私が悪いの?」


 不機嫌そうにレイナが腕を抱いて俺を見下ろす。そうじゃないと首を振って俺は彼女と目を合わせるが直ぐに逸らされてしまった。


「まだピンザッツ伯爵の嫡男だったから良かったわ。あそこの執事さん、良い人だったでしょ? マクちゃんはうちによく来てくれる常連さんなのよ」

「マクちゃん?」

「そ、マクレイス・ハウンズ。ラーヴィン・ショウ・ピンザッツ伯爵、つまりボルシャック坊ちゃんのお父様に仕えてる凄腕執事よ」


 伯爵家に仕える凄腕執事をあだ名で呼べるあんたは一体何者なんだ……。


「その凄腕さんは今、頭を抱えるほどの問題児ボルシャックを受け持つとはね」

「仕方ないわ、あの子はかなり遅くに出来た子らしいからよっぽど可愛がられてるのよ」


 会話の最中でもテキパキと俊敏に開店業務をこなし、キャサリンは淡く光っていた店内の明かりを一気に明るくした。


 それでもあの我侭っぷりと傍若無人さは目に余る。お兄さんボルシャック君の将来が不安です。


「だけどちょっとまずいかもしれないわね」


 パンパンと手の埃を叩いて払い、キャサリンもカウンターの椅子に腰をかけた。


「やっぱり、貴族だからか?」

「それもあるけれど、マクちゃんが仕えるラーヴィン伯爵ってねアステリシア王家に忠実な方で王家が掲げてる奴隷制度の撤廃を目指している人でもあるのよ。だからレイナちゃんが奴隷ってことも見抜かれてるなら上に報告するかも知れないわ」

「うわぁ……」


 ボルシャックの方はレイナが奴隷どころか氷人族っていうことも知らないみたいだから大丈夫だろうが問題はハウンズか……。


「もしマクちゃんが黙っててくれていたとしてもラーヴィン伯爵はとても勘の良い人よ。ボルシャックちゃんとマクちゃんの様子から何かを察すると思うわ」

「早めに奴隷商人を見つけ出して解放してもらわないといけないな」

「そうね」

「……そんなあっさりいかないと思うけれど」


 俺たちの会話にレイナが冷たく水を差す。目を伏せ苦虫を噛み潰したように渋い顔をして彼女は寒そうに腕をさする。


「レイナちゃん、こういうのはもっと前向きに考えるのよ。後ろを向いてちゃ進むべき道は見えないわ」

「そうだぞ。最悪脅してでもやらせるから」

「脅したら絶対解放してくれないわよ……」


 おどけて冗談めかしくいうとキャサリンが白い目で俺を見据えた。


「とにかく、奴隷商人は今血眼になってレイナちゃんを探していると思うわ」

「ここにいることは目星がついてんのかな?」

「幻獣の森から一番近いところだからね。一人で逃げたと考えているならきっとアステリシアまで来ているわ」


 それなら奴隷商人が見つかるのも時間の問題だな。なんならレイナは目立つからきっと一瞬で噂が広まってあっちから見つけてきてくれるだろう。


「いろいろと問題は山積みだけど焦らず冷静に対処していけばきっと大丈夫よ」

「そうだな」


 ひとまず現状の目的は大体固まった。まずは奴隷商人を見つけ、交渉しなければならない。引き渡すのはもがいてからでも遅くはないだろう。人生諦めが肝心ではあるが粘り強さも大切だ。


「ところでコーキちゃん、今日は依頼を受けるの?」

「ん? ああ、日銭は稼がないとな」

「日銭って……コーキちゃんは今お金持ちだから少しゆっくりできるじゃない」

「その実感がないんだよなぁ……。金というのは減らすのは簡単だけど増やすのは難しいんだぜ?」

「なに達観ぶってるのよ……」


 別に日本にいたころの生活が苦しいわけじゃなかった。家事全般を俺が担っていたからか無駄遣いができないし、使うにしても勝手に使えなかったからな。爺ちゃんには遠慮するなって言われてたけど必死に頑張ってる父さんをよそに自分が贅沢するのは何となく気が引けたのだ。


「まぁコーキちゃんの好きにしたらいいと思うわ。早くこの生活にも慣れないとね」

「おう」

「それとレイナちゃんはどうするの?」

「あぁ、ギルドに置いて―――――

「待って」


 と俺が言い終える前にレイナが上から被せてきた。


「私も行かせてほしい」

「「「え?」」」


レイナ意外の三人が同時にマヌケな声を出して彼女に振り向いて互いに顔を見合わせる。


「ギルドにいたほうが安全だと思うけど」

「……一人でいるのは、嫌だから」


 静かに俯き、垂れる髪の隙間から彼女の曇った表情が窺える。


「そういうことならスラさんも置いていくが?」

「……」


 彼女は少し顔を上げて俺の目を覗く。その深い青色をした瞳にはうっすらと俺の顔が映りこみ、彼女はすこし困惑した表情をしていた。スラさんでは不安なのだろうか?


「レイナって、戦えるの?」


 カウンターの上に佇むスラさんは心配そうな声でレイナを見る。


「今はこの首輪のせいで魔法は使えないけれど、剣を使って戦えるわ」


 レイナは少し前のめりになりながら必死そうな顔でカウンターへ詰め寄ってきた。魔法が使えない……隷従の首輪ってのはそんな効果まであるのか。厄介なものだ。


「剣って、もしかして氷刃舞(ひょうじんぶ)のことかしら?」

「氷刃舞?」

「……詳しいのね」


 俺が聞き返すとキャサリンとレイナは説明してくれた。


 氷人族には彼らだけに伝わる特殊な戦い方があるらしい。なんでも氷上を滑るアイススケートのように優雅に舞って戦うらしい。水魔法の上級属性である氷魔法を駆使して攻防一体を実現した戦い方らしい。ブレイドダンスみたいなものか? 


「でもそれって魔法ありきの戦い方だよな? それじゃあ氷刃舞ってのは使えないんじゃないのか?」

「あなたって結構細かいのね」


 そう言ってレイナは俺の向いて突然睨んできた。え? いま好感度下がった? なんで?


「確かにコーキちゃんの言うとおりね。だけど剣術だけでも相当なものらしいわよ?」

「え、あ、そうなの……」

「少なくともそこら辺の冒険者よりは腕があるわ」


 戸惑う俺をよそにレイナは自信ありげにフフンと鼻を鳴らした。自信満々の顔もちょっとポンコツっぽくてかわいいな……。


「なら別にいいけど……。人手が増えるならありがたいしな」

「それに今はコーキちゃんと一緒にいるのが一番安全かも知れないわ、ね?」


 キャサリンは頬杖をついて目を閉じ、いたずらっぽく笑って見せる。まさかキャサリンそこまで気を回して? 


「一人よりはマシってだけよ」


 レイナはキャサリンの言葉に付け足すかのようにはっきりと言ってのける。そんなに強く言わんでもよくない?


「……じゃあお手並み拝見といきますかね」


 少しレイナの言い草にムカつきながらも俺は平静を装う。


 そして俺たちはキャサリンに見送られながら一度ギルドに戻り、依頼を受けてまた幻獣の森へと足を運んだのだった。


 

次回投稿は3月10日を予定しています。

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