第14話 氷人族の少女レイナ
第14話です。
よろしくお願いいたします。
日が昇り、外が明るくなってくるとスラさんは俺の頭を軽くゆする。グラグラと揺れる頭に違和感を覚えて俺の目はゆっくりと開かれた。
天高くとまでは行かないほどの高さまで昇った太陽の光が窓から注ぎ込む。大体七時くらいだろうか?
ベッドの方を見るとまだ彼女は眠ったままで胸のあたりが僅かに浮き沈みしていた。
ふとつーんとした臭いがして気になり、辺りをすんすん嗅いでいると自分の身体からするのが分かった。昨日の夜、シャワーを浴びずにそのまま寝てしまったからな。
俺は囁き声でスラさんに彼女のことを見ておくように言ってシャワー室に入った。中はユニットバスのような作りになっていて、ちゃんとトイレとシャワーの間にはカーテンが吊るされていた。
どうやらここのシャワーは魔道具になっていて魔力を流すとお湯が出てくる仕組みみたいだ。え、すごくね? 水道引かなくていいってやばいな。
服を脱いで適当に汗を流していると部屋の中から突然「キャー!!」と悲鳴が鳴り響いた。
「なんだ!」
俺はびしょ濡れのまま慌てて備え付けられていたタオルを腰に巻いてシャワー室から出た。
するとベッドの上で必死な形相をした氷人族の彼女が枕を投げようとする光景が目に入った。その手前には彼女が使っていた毛布に埋もれたスラさんがへたり込んでいた。
「……ど、どうした?」
毛布を取って下敷きになっていたスラさんを救助する。
「いや、あの子目が覚めたみたいだから話しかけただけなんだけど……すっごい怖がらせちゃったみたいで」
「あ、あー……」
喋るスライムなんてまず居ないだろうからな……。
スラさんを抱えながら彼女の方を見ると息を荒くしてこちらを睨んでいる。心做しか顔が赤いようにも見えるな。
「えーと……」
氷人族の少女は黙ったままこちらを見続けるばかりで何も喋らない。怒っているのか恥ずかしいのかよく分からない表情のまま彼女に話しかけてみたものの反応してくれない。
「お、俺鬼束紅桔っていうんだ。君の名前は……」
沈黙に耐えられず、自己紹介を試みた。すると彼女は一瞬チラッと下の方へ視線をやった後すぐに俺と目を合わせる。
「……裸の男なんかに名乗る名前はないわ」
「えっ、あっ」
言われて気づいた。俺いまタオルしか装備せずに人前に出てきてしまっていた。悲鳴が聞こえたもんだから咄嗟に出てきたけど、これ他の人に見られたらまずい状況では?
「ちょ、ちょっとまっててくれぇ!」
俺はすぐさまシャワー室に舞い戻って着替え直した。
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「えーと……」
着替えた俺は椅子に座りながら話しかけるが、彼女は三角座りで枕を膝に挟みながら顔を半分隠してそっぽを向かれていた。
うーん。困った。何も話してくれない。
どこから来たとか誰の奴隷だとか聞いてみたものの、さっきの一言以外彼女は何も答えてくれなかったのだ。
「ねー、君の他に仲間は居ないの?」
スラさんが話しかけた時、彼女は少し反応したがチラッとスラさんを見るばかりで口を利かなかった。
「俺が人族だからダメなのかもな。仕方ない。ちょっとマスターに相談してみる」
椅子から立ち上がって俺はテーブルに置かれていた紙袋をベッドの上に置くと彼女はビクッと身体を跳ねさせる。
「何もしないから……これ、君の着替え。そのまんまでいる訳にもいかないだろ? 俺ちょっと出かけるからそれまでに着替えておいてくれるとありがたいんだけど」
じーっと怪訝な顔で紙袋を見つめつつ彼女は俺の方を横目で覗く。だいぶ警戒されてるな……。まぁ仕方ないか。
部屋の扉に手をかけて肩越しに後ろを向く。
「じゃあスラさんちょっとその子見ててくれ」
「分かったー!」
元気良いスラさんの返事を聞きながら扉を閉める。ここはスラさんのコミュ力に賭けるしかないな。さて、このままマスター室へ行ってもいいが流石に無礼だなと思い、一度エントランスまで戻る。
まだ朝早いからか冒険者がまったくおらず、集会所はとても静かで書類を整理する事務作業の音だけしか聞こえなかった。
受付の方を見るとフィリアとはまた違う髪の長いお姉さんな受付嬢がカウンターの奥で作業していた。
「あのー」
「! は〜い」
俺の呼びかけで受付嬢が反応すると、いそいそと書類を片付けてとてとてカウンターまで歩いて来る。なんというかおっとりした人だなぁ……。彼女の右眼の下にある泣き黒子がとても色っぽい。
カウンターに向かい、受付嬢にミラがいるかどうか聞くと、もう朝早くから別件で外に出ているとの事だった。ああ見えてマスターは忙しいのだろう。
どうやら「リード」という国にあるギルド「ガーティア」まで行ったみたいだ。受付嬢の話によると獣人の国らしく、アステリシアみたいに色んな種族が住んでいる所じゃないらしい。人族やエルフといった種族はかなり規制が設けられているみたいだ。
まぁ場所を聞いたところで追いかけるわけにもいかないのでマスターのことはあきらめよう。
仕方なく戻ろうと思ったがまだ朝早いということもあって食堂が開いてないのではないかと思い、一度食堂の方をちらりと覗く。
食堂の席では昨日のウェイターさんがもう制服を着てテーブルを拭いていた。しかしまだ営業しているとは限らないため一応ウェイターさんに確認を取るともうすぐ開くらしい。
満面の笑みで「お待ちしております!」と言われて少々照れくさかったが後でお邪魔させてもらうことにした。
こうしてる間にもいい具合に時間が過ぎていた。ざっと十分くらいだろうか。あの子もさすがに着替え終わってるか。
部屋に戻りつつ今日の行動を決めておこう。デスバラッドの報酬があるとはいえ物価もなにもわからない。安心はできないし一度キャサリンのところに顔を出して知恵を借りようか。
そう考えているとあっという間に自室のまでたどり着き、ノブをひねってドアを開ける。
「スラさん、マスター居ないらしいし飯食ったら一度キャサリンのところへ行こうか……ってあれ」
部屋の中へ入るとなんと誰もおらず、もぬけの殻だった。ベッドも朝の状態のままで紙袋も置かれたままだった。一応中を確認してみるがきっちりと服が折り畳んで入れられている。
「……?」
彼女だけでなくスラさんまでも部屋にいなかった。一体どこへ行ったのか。まさかこの短時間で外に出たのか? それを追いかけてスラさんも出ていってしまったんじゃないか? そうだとしたらまだ何も聞けていないのにまずいことになったな。
急いで外へ探しに行こうと踵を返した瞬間、隣にあるシャワー室へ繋がるドアがおもむろに開かれる。
不意に開かれたドアへ自然と目が向いていき扉を開けた人物を確認しようと体が自然に動きを止めた。もくもくと立ち上る湯気と共にふー、と言って出てきたのは彼女だった。
彼女も目の前に誰か居るのに気づいたのかドアノブを持ったまま足を止めるとお互いに目と目が合って固まった。
「あ……」
固まったまま俺は息を漏らして、つい彼女の綺麗な身体を上から下まで見入ってしまう。上気した肌は水滴も相まって異様に艶やかさを醸し出していた。
「ごめん!!!」
慌てて俺は両目を隠して壁にぶち当たるまで後ずさった。様子を確認しようと顔から手を離すと、呆然としていた彼女は状況を段々と理解し始めて顔が徐々に真っ赤になっていく。
そしてタオルで前を隠したまま凄い形相で俺の方へと歩み寄ってくると右手を大きく振りかざして重い平手打ちをバチンッッ!! と俺の頬に浴びせた。
「ったあぁい!!!」
なんと力の強い一撃だろうか。ぶたれた勢いのまま俺は転がるように床に倒れ伏してしまう。ジンジンと痛む頬を擦りながら彼女の方を見上げると眉をこれでもかとひそめて、目だけこちらに向けてまるでゴミクズを蔑んで見下すような視線を送っていた。めっちゃ怖い。
そんな彼女の鋭く冷たい視線に俺は涙目でぷるぷるとライオンに怯えるウサギのように震えていた。
すると彼女は女の子が出すとは思えないような低くドスの効いた声を出した。
「着替えるから、出てもらえる?」
初めての会話はバッドコミュニケーションでした。眉一つ動かさずにずっと彼女は俺を睨み続けている。有無を言わさない彼女のオーラを感じるとこのままでは殺られると思い、俺は素直に返事をしてささっと逃げるように部屋を出て、扉を閉めきると滑るようにしてその場に座り込む。まだヒリヒリと痛む頬を撫でながら俺は思った。
こんな形で話してしまったけどラッキースケベの神様、ありがとう……と。
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数分くらい外で頬を慰めながら待っていると、中からスラさんが着替え終わったと声が聞こえたので俺はおそるおそる扉を開ける。というかなんでスラさんは良いんだよ? スライムだからか?
部屋の中へ入るとそこには絶世の美少女が凛々しい横姿で佇んでいた。
彼女は深い青色をしたノースリーブの肩が出たワンピースを着ており、首元から胸元までは黒く薄いレース生地で大人びた印象を与えていた。
腰部分には元から縫い合わせられていた布生地のベルトをひと巻きして腰のくびれを強調して、膝上まであるスカートは上と同じような青いシースルーのレースがなびき、下はプリーツスカートのような段を形成していた。そしてスカートから伸びる華奢な足はタイツ越しでもその白さが窺える。
背中側が大きく開かれたそのワンピースは彼女のスラッとした体型を如実に表していて清廉そうなのにどこか扇情的に感じられた。
長く綺麗な青みがかった白いロングストレートヘアの上に黒いカチューシャが付けられ、片側の端には花を象った装飾と薄いフリルが施されていた。また、両腕にはワンピースと同じ色合いをした丈の長いロンググローブをしており、手首周りに少し装飾が施されていた。
彼女はこちらに気づくと俺には目もくれず、背中を向けて服の様子を確認し始めた。
「……服、大丈夫そう?」
反応しないだろうなと思いつつも声をかけてみる。彼女は服の裾を伸ばしたりして身体に合わせるのが忙しいとばかりに無言で身なりを整えていた。俺を視界に入れたくないのがひしひしと伝わってくる。
「すっごく似合ってるよ!」
「……ありがとう」
スラさんに褒められて満更でもなさそうに彼女は柔らかく笑った。スラさんも彼女の周りをぐるぐる周りながら「かわいいー!」「きれいー!」と褒めちぎっている。
ちょっと待ってくれ。なんだか仲良さそうに見えるんだけど、この十数分の間で何があった……? 確かにスラさんに賭けたは賭けたんだけど、少しの間だけでこの子を絆すなんてスラさんってば恐ろしい子……。
「コーキ! 服、どう?」
「あ、ああ……」
スラさんは急に俺の方へ振り返って聞いてくる。正直、似合いすぎて言葉に詰まった。ここまで着こなされたらお世辞を言うのが恥ずかしくなってくるくらいだ。
「いいんじゃないか?」
真正面から褒めるのは慣れていなくて照れくさくなり、つい視線を逸らしてしまう。……見惚れてたなんて言えない。
「だってさ! 良かったねレイナ!」
「……」
「へ……」
なんと、スラさんは俺がどれだけ聞いても答えてくれなかった彼女の名前を口にした。嬉しそうにするスラさんに対し、レイナと呼ばれた彼女はこちらを一瞥するとすぐにスラさんの方へ向き直った。
「スラさん……いつの間に名前を……」
「え? ちゃんと自己紹介したら普通に教えてくれたよ?」
「……そうか」
どうやら本当に人族をとことん嫌っているようだ。いや、それだけじゃないことは確かなんだけども、ここまで扱いに差があると俺でも流石に悲しくなってくるな……。まだ裸見たこと怒ってらっしゃるのかしら……?
「ところでコーキ、マスターは居たの?」
「いや、居なかったし問題も解決した気がする……」
「??」
頭を抱える俺を不思議そうにスラさんは見上げる。スラさん、俺は君が羨ましいよ……。その純粋さが俺を傷つける……。
「はぁ……とりあえず朝ご飯だ。レイナ……さん? 君も一緒に来てくれるとありがたいんだけど」
「……」
「お腹減ってるでしょ? 行こーよ!」
「……分かった」
俺が話しかけても反応しないのにスラさんには答えてレイナは頷いた。俺もスライムになろうかしら?
俺たちは部屋を出るとそのままギルドの食堂へと向かって行った。
――――――――――――――――――――――――――――
ギルドの食堂は先程来た時より少し賑わいを見せていた。ちらほらと利用客が増えて食堂も活気に満ち溢れていた。
厨房も朝のラッシュに忙しいのか調理の音が忙しなく鳴り響く。
それを横目に俺は席に座ってメニューを取り出しているとレイナが傍を立ったまま椅子に座ろうとしなかった。困った表情でレイナがこちらを見ているのに気づく。
「ん? どうしたんだ?」
「……えっと」
お、反応してくれた。ちゃんとした会話とまではいかないが大事な一歩を踏み出せた気がする。しかし、その言葉の先を待っていてもレイナは何か迷っているばかりで一向に座らなかった。
「レイナ! こっちおいで!」
躊躇するレイナを見かねたのかスラさんは俺の肩から降りて向かい側の席へ移動し、触手を伸ばして椅子を引いてあげた。待って、このスライム紳士過ぎないか?
戸惑いつつも俺の顔をチラチラ見ながらレイナは俺の向かい側の席に座った。この食堂に入ってから彼女はずっとそわそわしっぱなしで何か落ち着かない様子だ。俺と飯を食べるのがそんなに嫌なのだろうか……。
内心勝手に傷つきながら彼女の様子を見ているとどうやら俺じゃなくて周りの様子を気にしているみたいだ。
んー、嫌いな人族がいっぱい居るから緊張してるんだろうか? 確かに他の客が物珍しそうにレイナを見ているが遠巻きに見るだけで何かしようという雰囲気ではない。
ここは安心させるためにも慎重にならなければ。
「レイナさん、好きなの選んで」
そう思って俺はレイナの前に取り出したメニューを開いて差し出した。その瞬間驚いたのかレイナは肩をビクッと跳ねさせて少し仰け反る。
さすがに手渡しは警戒されるか。
俺はメニューをテーブルに置いてレイナが見やすいように彼女の手前の方まで滑らせる。すると、もう一方の席からスラさんが登ってきて彼女と一緒にメニューを覗いた。
「ボク、パンケーキ!」
にゅにゅっと触手を伸ばしてスラさんは昨日食べたパンケーキを選んだ。その横でレイナが小声で「パンケーキ……」と小さく呟く。
「朝からそれ食べるのか? まぁいいけど……レイナさんは?」
じーっとメニューとにらめっこをしていたレイナは俺の言葉に疑問を抱いたのか目だけをこちらに向けて上目遣いで口を開いた。まるで借りてきた猫みたいだな……。
「私も食べて……いいの?」
さっきまでの冷徹な態度はどこへ行ったのかおずおずとレイナは俺に尋ねてきた。まさかの形勢逆転。
というかさっきからそわそわしていたのはそれが理由か?
「え? そんなことでおろおろしてたのか?」
レイナはコクリと首肯して縮こまる。
なんだもっと違う理由だと思ってた。ほら、人族なんかに奢られたくないとかこんなゴボウ野郎に施しを受けたくないとか同じものを口に入れるなんて舌を噛み切って死んでやるとかそう思ってたわ。自分で言ってて悲しさが溢れてきそうだ……。
「全然食べてくれていいんだ。むしろ食べてくれないと俺が困る」
そう優しく穏やかに努めて俺は居住まいを正す。彼女は先程の自分の態度をちゃんと自覚していたのか食事を取れるなんて思ってもみなかったみたいだ。
「私、さっきまで……それにお金とか……」
「ああ、気にしない気にしない。ほとんど俺の自己満足みたいなもんだから」
申し訳なさそうにするレイナに俺は首をブンブン振る。俺を甘く見てもらっちゃ困るな。俺が怒るときは大事にとってあったプリンを勝手に食べられた時くらいだ。案外器ちっせえな……。
「でも……」
と、まだ食い下がろうとレイナが言った途端、ぐぅ~と誰かのお腹が鳴った。その音の方へ目をやると、目の前にいる空腹の持ち主は白い頬を好調させて恥ずかしそうに手でお腹を押さえた。
「……身体の方がよっぽど聞き分けが良いみたいだけど?」
「……」
わざと俺はいじらしく言って、恥じらうレイナの俯いた可愛い表情を覗き見る。恥ずかしさのあまり目がぐるぐると回り、耳まで真っ赤にさせて彼女は見られまいとさらに顔を伏せる。
はぁ~~……可愛すぎかよ? 今のでお腹いっぱいになったわ。
「で、どうすんの?」
俺は頬杖をついてニヤニヤと我ながらキモすぎる笑顔で彼女に催促した。もし俺がもう一人いたらこの場で殴り倒してしまうほどにキモイ。キモイキモイ言うな!
そんな俺など気にせずにレイナはぷるぷると震える手でメニューの一品を指差す。それはスラさんと同じパンケーキだった。
「ん、分かった」
さっきのスラさんの時みたいな無粋なツッコミはしない。だって女の子だからね、甘いものに目がないんだよ。なんたってパンケーキは主食だからな、今俺が決めた。ほら、朝にホットケーキ食べる人いるでしょ? それと同じ。 え? パンケーキとホットケーキは違う? だから朝には食べない? …………マジ?
まぁ二人も決まった事だしさっさと頼んでしまおう。さっきからレイナが凄く目立ちすぎて周りの視線が彼女に集中している。仕方ないと思うけどな! だって冗談抜きで綺麗だし……。氷人族ってみんなこうなのか? 不覚にも貴族が欲しがる気持ちを分かってしまう。
俺は辺りを見渡してホールスタッフを探しているとキョロキョロする俺に気づいたのかホールスタッフが持っていた料理を一瞬で運び終えてこちらのテーブルへ飛んできた。
「お客さん! 宣言通りちゃんと来てくれてありがとうございます!」
「お、おお……。ども」
シュバッ! と飛んでピタッ! と止まった彼女はニコニコと笑顔を振りまいていた。いつの間にか俺たちの前には水まで運ばれており何時置かれたのか本当に分からなかった。
とりあえず俺は三人分の注文を伝えると彼女は歩いているとは思えない速さでホールを駆けて注文を通していった。
料理が来るまで俺はなるべくレイナと打ち解けようと試みるが如何せん話題がない。ここに来て自分の対人スキルのなさを痛感する。なんなら喋っている量なら俺よりもスラさんのほうが俺よりレイナと喋っている。
だが最初はどうなるかと思ったがこうして話してみると案外普通の女の子だった。人族を嫌っているとキャサリンたちは言ってたけど思っていたよりはそんなにだ。おそらくスラさんのおかげもあるけどな。
そうこうしている間に頼んでいた料理が運ばれてきた。俺はテキトーに安い定食で、レイナとスラさんの前にはお揃いのパンケーキが並べられた。
俺が小さく「いただきます」と言って食べ始めるとスラさんも後に続いて食べ始めた。しかしレイナはまだ食べないのかじっと待っていた。
「食べていいんだぞ?」
それを不思議に思って食事の手を止め、レイナを見る。するとレイナはまるでその言葉を待っていたかのようにナイフとフォークを手にした。食べ方が分からないのかレイナは横でひとりパクパクとパンケーキを口にしているスラさんを見ながら真似をする。
パンケーキ、初めてなのか。普通にメニューにあったから広く知られてると思ったけどそうじゃなさそうだな。
パンケーキを小さく切り分けてレイナは口に運んだ瞬間ピタッと止まる。目を見開き、食べた姿勢のまま固まっていた。
すると突然彼女の瞳から涙が溢れ始めてポロポロと溢れ出す。その姿に俺はギョッと驚いてしまった。
「えっえっ、なに? どうしたんだ?」
「……こんなに美味しいの久しぶりで……」
泣きながらひと口、ひと口を大事そうに食べるレイナの涙は止まらなかった。彼女の言葉で俺は理解した。今まで奴隷生活を送っていた彼女はまともな扱いを受けてこなかったのだろう。まるで一個のパンを少しずつちぎって食べるかのようにパンケーキを食べる姿に胸が痛くなる。
しかし、彼女の身体がやせ細ったりやつれたりしてるようには見えないのは不思議だ。
「また後で良いんだけど、レイナさんの話聞かせて貰えないか?」
レイナは俺の目を見ると少し躊躇うような素振りを見せたが、ゆっくりと頷いた。
「ありがとう。とりあえず今は好きなだけ食べてくれ。なんならおかわりしてくれても構わないから」
「……あなた人族なのに優しいのね」
また目を伏せて顔を合わせようとしなかったがほんのわずか、彼女の声が優しくなった気がする。
「だってコーキは特別だからね!」
するとまるで自分の事みたくスラさんがむん! と胸と思われるあたりを張った。
「特別……?」
「いや、普通だからな。そこらへんの人となんら変わんないよ」
スラさんの言葉にレイナは俺を見ながら首を傾げた。しかし変な風に取られたら困るので俺はキッパリと訂正しておく。軽はずみな発言は誤解を招きやすいからな。これ、豆な。
その後も俺たちは会話をしながら食事を進めた。気づけばいつの間にか集まっていた周囲の目も分散しており、気になることは何も無かった。
ちなみに、レイナはパンケーキを三回もおかわりしたのだった。
次回投稿は2月28日予定です。
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