第9話 世界のキャサリン登場!
第9話になります。
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それはそれは、この世に蔓延る邪悪よりもおぞましい存在がいた。
毛深い胸元に鍛え抜かれた肉体美。身長は悠に二メートルは越しているであろう体格とそれに見合うほどの圧倒的な顔面の濃さ。ゆるくパーマのかかったブロンド髪をツインテールにして肩甲骨辺りまで引っさげている。
しかしながら美徳を忘れてはいないのか胸元以外の手足などのムダ毛は綺麗さっぱり除去されており、彼女?の太くしなやかな曲線美は筋肉で膨らんでいるにもかかわらず硬質さと柔軟さを併せ持っていた。
そしてその肉体を強調するかのごとく魅せるために着用している衣服は、なんと、かの有名な白セーラー服。
プリーツスカートから覗く丸太のような足は見る者の視線を逸らし、半袖の口から伸びるはちきれんばかりの棍棒のような腕はウワサする者の口を縫い合わせる。
厚い胸板はセーラー服の良さであるはずの特有の緩さを一瞬でかき消し、まるでピッチピチのアンダーシャツでも着ているかのようにしっかりと胸板のラインを浮き上がらせている。
極めつけは、裾が足りていないのかプリーツスカートの根元とセーラー服の境目からへそが自己主張激しく出ており、生い茂った黒い雑草が縦を割るようにきっちりとラインを刻んでいた。
これが、世界か。
ヤツの第一印象に、俺は言葉も出なかった。
いや、はっきり言おう。
「オ"エ"ッッッ!!」
しまった。心の中でとどめておくつもりが、出てしまった。どうやら思っていたより俺の体は正直みたいだ。
いやだって、コスプレなんてもんじゃない。確かに元の世界でも体格のいいおっちゃんがコスプレしたりして女装を楽しむことはよくあった。それ自体悪いことじゃない。むしろ許容されるべきだ。
ある程度の女装を試みるならば色々と学ぶこともあるだろう。体毛が濃い人は積極的に剃ったり脱毛したりして美意識を追求する。
メイクだって動画などを参考に自分に合ったものを模索していくはずだ。
だが、目の前の奴は違った。コスプレなんてもんじゃない。ガチだ。自分がセーラー服とマッチしていることを一寸も疑っちゃいない。プロ中のプロ。
俺は女装が悪いなんてこれっぽっちも思っちゃいない。むしろ認めているくらいだ。これがまだ、ネタで済まされるような中途半端なものであったなら救いがあっただろう。だがそれをここまで着こなしていることに逆に違和感を覚えてしまったのだ。俺の理性と感性が齟齬を起こして歯車がズレ、頭がバグに犯されてしまう。
それゆえの嗚咽。
「コーキくん、失礼だよ……」
「いや、悪い……あまりのインパクトに体が化学反応を起こしてしまって……」
「まぁ気持ちはわかるけども……」
ぼそぼそとニルハに咎められ、頭を搔く。
「……? あの人の何が変なの?」
スラさんはまったく理解してないのかキョトンとしていた。スラさんはこういったのに鈍いから逆に羨ましい。
「いや、変じゃない。変じゃないぞ。ただ、ミスマッチのその先にたどり着いた勇者なんだ」
「えっ?! あの人勇者なの?!」
「いや、ごめん。言葉の綾だから真に受けないで」
テーブルに乗り出してニルハ達とひそひそ話していると話の当人が気づきこちらに向かってきた。
「あなた、見ない顔ねぇ〜」
「……ども」
じーっと興味深そうに俺の顔を覗き続ける。その眼は心做しか俺を審査しているかのようだった。
ひえっ。その容姿と顔で凄まんでくれますか。彼女のプレッシャーに気圧されて息が詰まってしまう。なんだこのプレッシャーは!? これが思念の波? 押し潰されそう!
「はじめまして! ボクはスラさんっていうんだ! この男の子はコーキ!」
「あんらっ! このスライムちゃんおしゃべり出来るのぉ〜〜!? すっご〜〜い! よろしくねぇ〜スラさん〜。あたくしはAランクのキャサリン・ウェーバーよ!」
緊迫した空気を一刀両断する意気揚々な自己紹介に俺は自我を取り戻しつつあった。
「は、はぢべばじで! おにちゅかきょーきでぃす!」
「……コーキくん?」
盛大に舌をかみまみた。そこまで緊張せんでええんとちゃう?と突っ込まれそうなぐらいにニルハが白けた眼で俺を見ていた。そんな目で見ないで。
「??? この子どうかしたの?」
キャサリンの当然の疑問にニルハが助け舟を漕ぎに漕ぎまくってくれた。
「いや〜。キャサリンさんの美貌にこの子圧倒されちゃいましてね、緊張してるんですよ。あとこの子がキャサリンさんがレクチャーする新人ですよ。ほら、ちゃんと自己紹介しないと」
わざわざ俺の傍まで来てニルハは硬直している俺を気付けせんとばかりに両肩をぱんぱん叩いた。ニルハまま……。おぎゃ……。
これ以上失礼を重ねるわけにもいかない。俺はグラスに残っていた全ての水を一気に煽り、緊張とともに嚥下する。
「さっきはすみませんでした……。改めて、鬼束紅桔です。今日はよろしくお願いします」
「はい、よろしくねぇ〜コーキちゃん。堅苦しいのもなんだしタメで良いわよぉ。それともう依頼は受けたのかしら?」
「ああ一応、スライムの討伐を受けたんだ」
「あら? スライムっていいのかしら?」
チラッとテーブルに乗っているスラさんを見たあとキャサリンは俺に視線を戻した。
「ああ、気にしないでくれ。本人も了承済みだ」
「そう! なら良かったわ。あとその服も変えて軽く装備なども揃えておきたいわね」
俺の学生服を指してキャサリンは街に出てなにか見繕ってやると提案してきた。
俺としてもこの服は元の世界に繋がりのある大事なものだ。またあんなことがあってボロボロにされる前に大切にしておきたい。
「わかった。お願いするよ」
「まっかせて! あたくしがビューティフォーにコーディネートしてあげるわよ!」
お願いするとは言ったもののちょっと不安になってきました。
「あ、それあたしもついて行っていいかな?」
ぴょんと手を挙げてニルハも同行に志願してきた。頼む、ニルハのセンスで俺を助けてくれ。
「大歓迎よ! ニルハちゃんもレクチャーしてあげてちょうだい!」
ニルハも同行することになりキャサリンは上の空で何か服の色やら形やらを妄想して俺を着せ替え人形にしているみたいだ。身ぐるみ剥がされちゃう!
「お、お手柔らかに……」
「安心しなよコーキくん。キャサリンさんはこれでも服飾店を営んでるちょっとした有名人だよ。着てる服はアレだけど売ってるのはかなり評判良いから!」
なん……だと……? 人は見かけによらないとはこのことだろうか。
「よし! だいたい決まったわ! 後は実際に着てみてチェックするだけね!」
ギュッ!!っと拳を握り、キャサリンは腕を掲げる。それはさながら一遍の悔いなしとか言い出しそうだった。
変なのだけは勘弁してくれ……。
食事を済ませると、食堂のスタッフさんとフィリアに見送られながら、俺たちはギルドを後にした。
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街中ぶらり。
そんな言葉が今の俺達にはぴったりな一言だった。
道行く人とすれ違いながら街を見渡していると変な記号としか思えず、全く読めなかった文字が、フィリアから使わせてもらった文字判別魔法のおかげで日本語のごとくスラスラと読める。
街の賑わいはここに訪れた時と遜色ない程に活気づいていた。
俺が住んでいた所は出店があんまりないコンクリートジャングルな都会らしい都会だったから出店があるだけでもとても新鮮だ。
そもそも出店なんてお祭りの時くらいしか見たことないしな。
ギルドを出て数分かそこらの時間歩くと前を進キャサリンが歩みを止めた。
「さ、ここがあたくしの店よ! コーキちゃんの服はここで見繕うわよ!」
俺たちに振り返り、手で目的の店を指す。看板には『ミス・ウェーバー』と書かれており、店の外観はキャサリンの容姿とはかけ離れたかなりシックなデザインをしていた。
「お、オサレだ……」
このギャップについポツリと零してしまう。なぜこのセンスを自分の服にも適用しないのだろうか。
「おされってなに? コーキ」
「あ、ああ。お洒落ってことだよ」
「当然よ! あたくしが手がけているんですもの!」
ならその服装はどうしてそうなった。
「さ、入って入って!」
キャサリンに背を押され、なすがまま店内へと入っていく。
店内は表の看板と同様にとても高級な雰囲気が漂っていた。しかし、変な堅苦しい空気を感じない。むしろ俺の苦手な店員が積極的に関わるようなオシャレなブティックではないみたいだ。
奥ゆかしくそれでいて落ち着いた雰囲気。だが一歩手前に収まらず、常に前を歩き続けている。そんな自信をこの店から感じた。
「これがキャサリンさんの店か」
「どう? 人気が出るのも納得でしょ?」
まるで自分の事のようにニルハが誇らしげに笑う。だが、ニルハは布面積の少ない防具も兼ねた衣服を着ているからあまり説得力がない。
「あ、今失礼なこと考えたね?」
「いや、別に……」
「今は仕事モードだからこんな服着てるけど普段はもっと可愛いからね?」
「さいですか……」
ぷんぷんと頬を膨らませてニルハは俺を睨みつける。さらに加えて彼女の愛らしい両耳がぴこぴこ動いていた。なんだこのあざと可愛い生き物。
それにこの世界の人はみんなエスパーなのか? なんで俺の考えてることが分かるんだよ……。俺そんなに顔に出てるのか?
まだ文句を言い続けているニルハを軽くあしらい、俺は店内を見渡しながら少し歩く。
主に女性向けの服が飾られており、あまり男物はなさそうに見えたがしっかり見てみるとちゃんと男向けの服なども取り揃えられていた。まぁターゲットは女性だろうから女物が目立っているんだろうな。
そんな折、ふとキャサリンの方を見やると店員に色々指示を出していた。すると俺の視線に気づいたのかこちらへ歩み寄り、にんまりと笑ったあとぽんと俺の肩に手を乗せる。
「少し待っていてねぇ」
そういうとキャサリンはすたすたと店の奥へと行ってしまった。
「みてみて、コーキくん。これ、どっちが私に似合うかな?」
背後からニルハの呼びかける声がしたので振り返り見ると、ハンガーにかかった二着の服を両手に持って見比べていた。
彼女がじっと見つめている服はオーソドックスに白を基調としたワンピースだった。所々にアクセントとして青色のラインが施されており、スカートの内側は布が二重になっていてそれがより服の質を高めている。
特に印象に残ったのが大きな襟に少し開けた胸元にある細いリボンで結ったアクセサリーで、服の清楚度合いを増幅していた。
一方、彼女の持つもうひとつの服は丈の長いだぼっとしたシャツの上から軽く赤いパステルカラーのカーディガンと思しきものを羽織っており、そのトップの下には裾部分が軽くウェーブのかかった柄入りのフレアスカートが添えられていた。
前者と比べればこちらの方はかなりカジュアルな雰囲気を持っており、日本の女子大生とかが好みそうなジャンルのものになっていた。
俺としては前者の透き通るようなデザインが好きなのだが、恐らくニルハの場合どちらも似合うだろう。
こんなデートのような経験を一度もした事の無い俺は正直、何を言えば正解なのか全く分からない。
気恥ずかしくもあり、つい照れ隠しで冗談めいたことを言ってしまいそうだ。だが真面目に答えないと俺はこの先、もし恋人ができて二人で服選びするときに赤っ恥をかいてしまうだろう。まぁ死んだ魚の仲間みたいな俺を選ぶような物好きな人はいないと思うから杞憂だろうがね! 言ってて悲しくなってきたぞ……。
だが一番気をつけねばならないのは俺が片方を選んだ場合、それがニルハの気に入るものでなかった時だ。その瞬間、彼女に「なぁーんだ、コーキくんってセンスないんだね」と、物寂しげに吐き捨てられてしまう。
そしてこれ以降、一切俺には服選びのセンスがないと笑いものにされた挙句、「どーせコーキくんってお母さんの選んだ服ばっかり着てそう」とか言われてしまうはめになるだろう。うるせぇいやい! ウチには母さん居ないんだよ! その理屈は全然通らねぇぜ! へっ!
と、こう言ったら逆に重い空気になってしまうので僕はありのままを受け入れるのだ……ぐすん。
つまるところ、きっとこの場合の正解はまず相手の意見を聞く、だ! 逃げてるわけじゃないぞ! ほんとだぞ!
「……ニルハはどっちがいいんだ?」
「ん? あたしはね〜、こっちの白いワンピースがすっごく好きなんだよね〜。だけどこれ清楚なイメージだからあたしには合わないんじゃないかな〜って思っててさ〜」
やは〜、と苦笑いしながらくるりとワンピースを翻したりしてみせる。自分には似合わないと言っているが、彼女はこのワンピースに憧れの視線を向けていた。なんだ、ニルハもなかなか乙女じゃないの。
そして、諸君よ聞いて欲しい。我々に選択の時が迫った。ニルハは謙遜して自分は清楚とは無縁だとのたまわっているが決して賛同してはダメだ。こういう時はお世辞でも似合っていると言うべきなのだ。ここでひとつ先人の知恵を教えて差し上げよう。
とても偉い人は言いました。男は対立を求め、女は同意を欲していると。
ふんふん、なるほど。……つまりこの場合どっちなんだ? わっかんね! まぁ褒めてりゃそのうちいい事あるよ。
だけど、煮え切らないものや当たり障りのない回答しても怒られるから時と場合によるぞ。で、結局どっちなんだよ。決まらねぇな。まったく、拙僧には女心が理解出来ぬ。だが行くしかあるまいて。ええい! 南無三! みんな! 骨は拾ってくれよな!
「そうか? 俺は案外似合うと思うけどな」
「へ……」
必死に考え抜いて出た中身空っぽな俺の答えは彼女の虚をついたみたいだ。
間抜けな声を出してキョトンとニルハは固まっている。おっとと、ちょいと待っておくれ。どうやら選択肢を誤ったかも? ならば急いでフォローしなければ!
「いやだってニルハは黒髪でいい感じのボブヘアーだし、髪のメッシュとかのセンスは俺には分からないがそれを考慮したとして黒髪と白のワンピースとか王道中の王道だろう? 合わないわけが無いんだよな」
ここにきて俺の悪い癖が出てきてしまう。常人ならばドン引きレベルのオタクの理想像である清楚とは何かを早口でひけらかしていく。実際、オタクからして清楚と言えば黒髪で落ち着いた雰囲気のお淑やかな女の子を想像するはずだ。奥ゆかしく、そしてたおやかに揺れる一輪の百合の花ような美少女が清楚だという全世界の共通認識だ。
そして俺たちの妄想が行き着く先は、大きな唾の麦わら帽子を片手で抑えながら黒髪ロングのストレート美少女が白いワンピースに少し高めのヒールを持って、夕日で煌めく海を背にして砂浜に思い出という名の足跡を残していくもんなんだよ。
……何言ってんだ俺は? 自分で言って自分でツッこんで自分を傷つけてるぞ? 頭大丈夫か? キモすぎるぞ?
それになんだこの典型的な童貞が好みそうなシチュエーションは。近年の泣きゲーにもこんなシーンないぞ。おいオタク共、夢なんか見てるとあとで現実が直面してきて心が苦しくなるぞ。なんたって俺が今絶賛苦しいからな!
「そ、そっか。コーキくんってこういうのが好みなの?」
恥ずかしそうにしてニルハはおずおずと俺の趣向を聞いてくる。可愛くて綺麗で美しくて素晴らしかったらもうなんでもいいわ。
「あ? あー、超好みめっちゃ好みすっごい好み。なんなら将来それ着た恋人と手を繋いで砂浜を散歩したいくらいだね」
「願望漏れ出すぎててちょっと引くよ……」
流石に真正面から褒めるのは俺も恥ずかしすぎるから敢えてここはドン引きされるくらいの性癖を暴露しておこう。なんならニルハもちょっと顔が赤くなってやがるので変な空気にしたくない。
会ってまだ一日も経っていない男からのガチ褒めなんて現代じゃセクハラ扱いだからな。彼女の尊厳を守るために俺は名誉をドブに捨てるのだ。
「まぁ、そっちの服も悪くないと思うけどな。どっちも良いと俺は思うぞ」
「……うん。ありがとうコーキくん」
ニルハは二つの服をまた見比べ始めてうんうんうなり出した。ふぅ……嵐は去った! 家は吹き飛んだがね!
悩むニルハをよそに俺はスラさんと服を見ながら奥に消えたキャサリンを待つこと数分。
「さぁコーキちゃん、準備が出来たわ! 早速更衣室へ来てちょうだい!」
バサッ!と奥のカーテンからキャサリンが折りたたまれた服を片手に俺を手招きしていた。変なのじゃありませんように……。
「お、やっとか。いってらっしゃいコーキくん。じゃスラさんはあたしと一緒に待ってようか!」
「はぁーい!」
ぽよんとジャンプをしてニルハの肩にスラさんは飛び移った。この二人いつの間にこんな仲良くなったんだ?
ニルハとスラさんに見送られ、俺はキャサリンの方へ向かうと服を受け取って更衣室へと入っていった。
――――――――――――――――――――――
「似合ってるね〜」
そう言い放ったのはニルハだった。
「あたくしの見立てに間違いはなかったわね!」
続けてふんと鼻を鳴らし、満足気にキャサリンは頷いた。
「そ、そうか」
俺は姿見と対峙しながら自分の服装をチェックしていく。
白のV字ベストの上から少し光を吸った黒をした半袖のクロップジャケットを羽織り、首もとには襟元まである長袖の黒いインナーが顔を覗かせていた。
また下はさらに黒いレイヤードアシンメトリーのワイドパンツになっていて、布の際などには白のラインを施してあり真正面の布には深い青がストライプ状にアレンジされていた。
そして丈の少し長いブーツまでもが黒く染って、見事にベスト以外全身真っ黒だった。俺はスターバーストストリームでも撃つのか?
だが俺の厨二心をくすぐりまくるデザインをしており半ば心が浮き足立っていた。
なんともかっこいいじゃないか。俺の顔を除けば。
「コーキちゃんはあまり派手なのは好みそうにないと思ったから、暗めの色で落ち着いた印象を与えてみたわ。それにコーキちゃんは剣士だからなるべく動きやすい格好がいいと思ってブカブカとした腕周りの悪そうなのは除外したの!」
やるじゃん、キャサリン。素直に見直したわ。
「それにこの服には強力なモンスターの作り出す糸を編み込んで作られた特殊な繊維を使っているからちょっとやそっとじゃ切り裂けないわよ!」
なるほど、防具性能も完備してるのか。一石二鳥だ。
「でもこれ、お高いんでしょう?」
「それがなんと、今限りの限定セールでコーキちゃんに半額で売っちゃうわ!」
「まぁなんと!」
……どっかで見たことのあるやりとりだな。
「……で? おいくら万円で?」
「もぅ! コーキちゃんったらせっかちね!」
俺もボケたつもりなのにスルーされてしまった……流石に円じゃ通じないか? おいくら金貨って言えばよかったか?
ただ、この服は見ただけでもわかるくらいは上等だし、絶対に値を張るものだというのも明白だ。軽いし丈夫だし手触りいいしデザインもイカしている。
そんな上質な服を上下丸々買うということは大人買いになるため相当な額になるはず。デスバラッドの報酬で潤沢な資金があるとはいえ俺はこの世界の相場を知らない。なんたって俺のマイフェイバリットブティックはしま○らだからな! いつもお世話になってます!
俺が必死に脳内で一、十、百、千……となんでも換算団をしていると待ちに待った答え合わせが訪れた。
「これを一式で揃えようと思ったら大体金貨五十枚はくだらないんだけど、さっきも言った通りその半額の金貨二十五枚であげるわ!」
二十五万? マジですか? 俺の換算団はゆうに百万はたたき出してましたよ? 俺の換算師使えないな!
しかし五十万から二十五万か……すごく安く感じてしまうのは俺だけだろうか? 金銭感覚が狂い始める音がしてきた。
だが二十五万でも大金だ、俺がそう易々と首を縦に振る男だと思ったら大間違いだぞ!
「おおー、コーキくんこれはなかなか無いチャンスだよ! キャサリンさん自らのコーデで金貨五十枚は破格なのにそれの更に半分だから大出血サービス! こんなの滅多にないんだから買った方がいいよ!!!」
ニルハが目を輝かせて俺にグイグイ詰め寄り、安さを俺にアピールしてきた。さながら今の彼女はバーゲンセールを目撃した昼下がりのおばちゃんだ。こやつも狩人であったか……買っちゃおうかしら!
「そ、そうなのか?」
「ふふふ、コーキちゃんは新米だから大目に見てあげる! これが貴族とかだったらもっと盛ってふんだくってやるつもりなのよ!」
チッチッチッとキャサリンは指を振り、如何にこの値段がお得なのかをペラペラと喋り始める。原価やら素材やら人件費やらなんやらかんやら説明してくるが最初の部分で俺の耳はただの通気孔になっていた。
こんな積極的されるとまるで怪しげな壺を売らされている気分だ。もうちょっとマシなマーケティングは無いのか? これ実質押し売りに近いぞ?
だが変なものを掴まされる心配は全くと言っていいほど無い。実際着てみて良いものだというのは分かったし、店の客入りを見ても信頼されているのはよく分かる。
故に購入以外、ありえない。
「じゃあこれもらおうかな……」
「んんぅ毎度ありぃいい!」
なにその溜めは。大友節?
こぶしの効きまくった唸るような雄叫びを上げてキャサリンは右腕を掲げる。ちゃっかりビブラートまでかかっていた。こいつカラオケ行ったら高得点出しそうだな。
そんなこんなで俺は懐から虚空巾着を取り出し、キャサリンに連れ立って会計を済ませる。
白金貨から何枚かの金貨と銀貨になって帰ってくる時、妙な安心感がある。だって万札だけ入った財布持っててもジュース買うのに苦労するじゃん? 小銭は大事だよ!
「はい、コーキちゃんのこれ返すわね。なかなかいい服着てるじゃない」
キャサリンは着替える時に預かってもらっていた学校の制服を綺麗に折りたたんで返してくれた。
折りたたまれた制服を見ていると故郷の記憶がフワッと甦る。まだこっちに来たばかりだというのに元の世界が急に遠い存在になっていく気がして少し切なさを感じた。
大切な記憶を虚空巾着にしまい込む。また着る日が来るのだろうか。
そんな哀愁を漂わせるが、装いを新たにしたことで気持ちも晴れ晴れとしてくる。形から入る異世界生活! というかこの服がかっこよすぎてさっきからニヤけが止まらない。
「さぁ! 本題のモンスター討伐に行くわよ!」
「「おぉー!」」
ふひっと薄ら笑いを浮かべて自分の着ている服に心を奪われていたら俺以外の面々が口を揃えて腕を上げ、掛け声を合わせていた。しまった、ビッグウェーブに乗り遅れた!
張り切る三人の間に挟まれながら遅れて俺も小さく「おぉ〜……」と腕をちょこんと上げたのだった。
次回投稿は2月3日を予定しています。




