抱えるもの
まるで闇の中のようだ。いくら歩いても真っ暗。ここはどこだ。さっきまで居酒屋にいたはずなのにと考えているとなにか光っている場所をみつけた。そこに近づくと不思議と温もりを感じた。そのぬくもりを掴むと突然意識が覚醒し見覚えのない天井が目に入る。さっきまで暗闇の中だったのにどうしてと思いつつもどうも体に力が入らないことに気がついた。それでも温もりの正体は、人の手であるということが分かった。
「春樹さん、わかりますか?どこか痛いですか?はきそうですか?」
その手の持ち主である美姫の声だ。声を出して答えようとしたが声がかすれてしまっているためうなずくだけにしておいた。すると俺の手になにか雫が落ちていることに気がついた。
「いきなり倒れて心配したんですよ。わたし・・どうしたらいいかわからなくて。」
美姫が泣きながらそのような言葉を漏らす。会ったばかりのやつのためにこんなに泣いてくれるとは思わなかった。そしてなにか黒い気持ちが問いかけてくる。
ーこいつは涙をみせて騙そうとしてる女だぞ?傷つきたくなんてないよなー
久々に遭遇したな。あの日から俺の中に巣食う闇。会ったばかりの人にすらこの闇の標的になるのかよ。そんなことをすべて押し込み、押し殺し隠した。
「み、美姫さん・・めい、わ、く、かけたね。すまない。」
途切れ途切れになってしまっていたが何とか伝えることができた。
「春樹さんが無事で何よりです。」
儚げな笑みを見せてくれた。なんでそんなに君が辛そうなんだ。こんなに心配もしてくれて・・。今も流れ出し続けている美姫の涙を止めてあげたいと・・拭ってあげたいと思ってしまった。思っただけではだめだということもよく理解もしているから少しだけ・・・。
「もう、泣きやん、でよ。笑って?」
俺は、美姫の頬に手をのばし撫でた。泣かしてしまったのならとめてあげたかった。ただその一心だった。美姫は驚いた顔をしていたが次第に頬が赤くなっていき・・・
「あ、ありがとうございます!もう大丈夫です!」
そっぽを向いてしまった。そんな姿をみてすこし胸が痛むような気がしたが気のせいにした。ようやく頭もさえてきたので少し倒れる前のことを思い出してみようとしたら体が震え、手に力が入らなくなっているのに気がついた。またやっちまったか。ストレスやトラウマそれにたしてある一定の条件下でのみ発症する震えと脱力症である。それが今回俺が倒れ美姫に心配をかけてしまった原因だった。たぶんあいつと遭遇したからだろうと決めつけて俺はもう一度眠るのであった。




