物騒な同居人
俺は部屋へ入るとリビングのソファーに腰かける。
部屋を見回し内部構造を把握する。
外から入ってすぐ右のドアを開ければトイレがあり、左のドアを開けたら風呂場がある。
そして外から入り真っ直ぐ行くとリビングに行き着き、そこには小さいながらもキッチンがあり、リビングに1つだけあるドアを開ければそこは寝室だ。
こちらは部屋の端に2段ベッドが配置されており、ベッド他には2つ机と椅子がある。
パッと見た感じは小奇麗なアパートと言った感じか。
ベッドや机の数を見る限り2人で生活するのが前提になっているらしい。
「しかし、年頃の女の子と男の子を同じ部屋に放り込むかね?普通」
いや、しかしここは異世界。
現実世界なら絶対に有り得ない事も普通に起こりうるのだ。
俺は今まで多数の漫画やアニメを見てきた。
その中には学園を舞台としたラブコメも当然の様に題材としてあった。
そう、今まで見てきたテンプレ展開は全てそれらの作品には当たり前の様に組み込まれていたのだ。
だが、俺は1つどうしても納得出来ない要素があり、それらの作品を好きにはなれなかった。
それは主人公が絶望的に鈍いのである。
それらの作品中の主人公は完全に受け身の姿勢で、降りかかる火の粉を仕方なく払い結果としてヒロインに好かれていく。
こうしてハーレムが形成されていくのだが、その際に誰かと引っ付く事は無い。
そう、誰かと付き合えばハーレムが終わってしまうからだ。
だから絶望的に主人公は鈍く、女の子が勇気を出して告白しても都合良く聞こえない難聴スキルを持ち合わせている。
しかし、当面俺はそれらの主人公を模倣する事になるだろう。
この世界で俺はどうやら主人公的なポジションを獲得出来ているらしい。
神様は何も言ってなかったけれども、きっとそうだと思いたい。
しかし、何がファンタジーの世界の主人公らしからぬ対応を取った時、どうなるかは分からない。
少しずつ、そう少しずつ確かめる必要がある。
まずはイベントを自分から起こしに行く、受動的な主人公では無く、能動的な主人公として振る舞う。
当面の目標はそれだ。
俺が当面の行動指針を固めた所でドアがガチャリと開き外から誰かが入ってくる。
鍵を持っているのは俺とソフィーしかいない、結果として入って来たのは彼女だろう。
俯きながら入って来た彼女は俺の方まで歩いてくるとソファーの傍で立ち止まる。
「……何を命令するか決まったの?」
ハッキリ言って考えてなかった。
どうすれば良い?
当面の目標としては特定の誰か1人の好感度を上げすぎるのは不味い。
しかし、ここで不味い事を言えばタダでさえ低い好感度が地に落ちる可能性もある。
考えろ……どうすれば良い……?
そうだ!別に何でも命令できるからと言って深く考える必要は無いのだ。
もっとも現実的かつ今必要な事、それは
「俺に剣術を教えてくれないか?それだけで良い」
「え…?それだけで良いの?」
「何だ?足りないのか?しょうがないな、他にも何か……」
「いや!良いの!剣術を教えれば良いのね!」
これで良い筈だ…
後1月という短い期間で何としても第1位まで序列を上げる必要がある。
そう、序列を1位にする期限までは神様から指定されていないが、闘技大会を勝ち抜いたご褒美が気になるのだ。
それには現状の能力では無理がある。
先程の勝利はまぐれだ。
もし相手に黒鏡の能力が割れていた場合、能力を見せずに押し切られて終わりだ。
一見強力なギアにも見える黒鏡だが非常に癖が強い。
まず、相手に何としても能力を使わせる必要がある。
それにはこちらが相手より剣術で上回る必要がある。
相手が能力を出さざるを得ない状況まで追い込む必要があるのだ。
その為、序列11位という高位の序列を持つソフィーに教えを乞うのは間違っていないだろう。
直ぐにも行動に移したいが今日はもう無理だろう。
もう夕方だし、何より腹が減った。
「ソフィー腹が減ったんだが、食堂は学園内にあるのか?」
「あるけれど、あなた荷物の整理しなくても良いの?」
荷物……?
そうか、学園生……つまりは学生なのだから教科書等もある筈だ。
神様が用意してくれたのだろうか?
部屋の隅に置いてある段ボールがそうだろうか。
3つの大き目の段ボールを1つ開ける。
中には予想通り様々な教科書やノート、筆記用具の類が入っていた。
2つ目の段ボールを開ける。
こちらには私服が詰め込まれていた、着替えが無かったのでありがたい。
最後の段ボールを開ける。
そこには本が詰め込まれていた、本と言っても教科書の類では無く娯楽本の類だ。
問題は魔法や魔装具に関する資料や漫画と思われる書物に混じってあるものが入っていた事だ。
そう、端的に言えばエロ本である。
俺が今まで住んでいた世界に有ったフルカラーの物に近いそれはファンタジーの世界という非現実的な世界において非常に場違いに見えた。
ちょっとあのロリっ子何してんの!?
何でエロ本!?いや、嬉しいけど!
当然の如く興味を引かれ捲ってみる。
この世界にも印刷技術があるのだろうか?
現実世界の様に綺麗に印刷された本だった。
内容的には青年誌に付いてくる様なR15の袋とじ的な内容だ。
R18の様な過激な内容では無く、精々が水着の女性が若干際どくも見えるポーズを取っていたりするだけだ。
なーんだ、異世界のエロ本に興味があったがその辺は元の世界と変わらないらしい。
俺が若干落胆していると後ろから殺気を感じた。
そう、殺気だ。
平和な国の人間として生まれ育って来た俺にもハッキリと伝わる程濃厚で思わず逃げ出したくなる程だった。
「あんた良い度胸してるわね……私の前でそんな下劣な本を開くなんて……」
「ちょっと待て!ここは俺の部屋でもある!」
そうだ!別にこの位何とも無いではないか。
健全な男子であればこの位当たり前であろう。
神様が何を思いこれを準備したのかは知らないが、きっとその判断は間違ってはいない筈だ。
「逆巻け レーヴァテイン!」
「待て!落ち着け!」
本は兎も角として一緒に他の荷物まで燃やされたら敵わない。
俺が飛び掛かった所為で2人して床にこける。
その際果たしてどうやったのか?
俺の右手がソフィーの服の中へ潜り込む。
掌に温かい感覚と何やら柔らかい感触が伝わり
状況を理解したらしい、ソフィーの顔が見る見る赤く染まっていく。
「……きゅー……」
謎の鳴き声を発した後、ソフィーが目を回して気絶してしまった。
何なんだこれ……
こける時に押し倒してしまうならまだ分かる。
なぜ手が服の中へ潜り込むのか?
………
主人公補正って怖いな。
そう言う事にしておこう。
決してワザとでは無い。
しかし、どうしたものか……
頭は打ってないと思うが、気絶している以上このまま床に放置も不味いだろう。
若干名残惜しさを感じながらソフィーの服の中から手を引き抜く。
どうする?
ベッドに寝かせとけば良いのか?
人を運ぶ時にはどうすれば良いのか?
うーん。
あれか?横抱き(お姫様抱っこ)って奴で運ぶのが正解なのか?
しかし、あれは相当筋力が無いと……
ん?
確かこの世界に入った時に肉体を最適化って言ってたよな?
もしかして筋力も増えてるのか?
そう言えばステータスも強化されてたよな?
自分の腕を見る。
どうだろう、若干引き締まっている様にも見えるが、筋肉質とは言えないか。
ソフィーと決闘してた時も体が軽かったし元の体よりは力がある筈だ。
それに、ソフィーは小さいからきっと軽い筈だ。
本人に言えば燃やされそうだが、この場合は寝ていて助かった。
試しに床に転がっているソフィーの肩の辺りと、膝の辺りの下へ腕を差し入れる。
そのまま持ち上げてみると案外あっさり持ち上がる。
「軽!」
予想外に軽くて驚く、大よそ体感ではあるが40KG程度か?
こいつ何食ってんだ……
その小さな体……とりわけ哀愁さえ感じさせる‘まな板’に目を向け、余りの悲しさに目を背ける。
「まあ、まだ17歳だったら希望はあるさ……多分……」
起きていれば確実に燃やされたであろうセリフを吐き、寝室までソフィーを運ぶ。
寝室のドアを足で器用に開け放ち部屋へ入る。
「2段ベッドのどちらに寝かせるべきだ?」
正直毎回上に上がるのは面倒くさいので自分が下が良いのだが、本人の確認無しに決めて大丈夫だろうか?
燃やされないかな……?
いや、勝手に気絶したこいつが悪い、そうだ俺は悪くない!
7割位自分が悪い気もしたが努めて考えない様にする。
「上に乗せるの面倒臭いし下で良いか」
流石にソフィーを抱えて上には登れない。
俺は妥協すると2段ベッドの下へソフィーを寝かせる事を決める。
「よいしょっと」
爺臭い声を出すとソフィーをベッドへ寝かせる。
夏だしそのまま布団の上に転がしとけば大丈夫か?
いや、布団位かけてやったやった方が良いのか?
でも布団を掛けるなら制服のままだと皺になって後から燃やされるか?
しかし、そのまま放置しても燃やされる気がするな……
じゃあどうする?
脱がすのか?
…………
ゴクリと喉が鳴る。
最初に会った時は完全に子供だと思っていたのだが、いざ年齢を知ってしまうと見方が若干変わってしまう。
この世界での自分と同年代の女の子を脱がすのか……
しかも寝ている相手を……
いや、待て待て別にこれはやましい気持ちがある訳じゃあ無い。
決して無い。
…………
無い……
ぬわーー
もうなるようになれ!
俺は若干混乱するとソフィーの服を脱がしにかかる。
しかし、他人の服とは非常に脱がしにくいのだ。
俺が悪戦苦闘しながら服のボタンを外し、ようやく上着とシャツをはぎ取った。
果たして付ける意味はあるのだろうか?
髪の色と同じ赤のブラジャーが眼前に現れる。
その時、ソフィーの目が開いた。
その瞬間俺は悟ってしまった。
あ………死んだ……
この状況、ソフィー視点から見れば
1、ベッドにいつの間にか寝かされている
2、傍に男が立っている
3、その男が自分の上着とシャツを剥ぎ取り上半身はブラジャーのみとなっている
もはや俺が申し開き出来る状況ではない。
いや待つんだ、生を諦めるのはまだ早いだろう。
「ちょっちょっと待ってくれ!これには止むを得ない事情があってだな……」
一体どんな事情なのか?
頭が混乱して言葉が纏まらない。
不味い不味い不味い、燃やされる!
「え?……う?……え?」
ソフィーが目を白黒させて自分と俺を見比べて今、自分の置かれた状況の把握に努めている。
不味い!状況を把握されたら確実に燃やされる!
しかし、逃げ出せばどうなる?
それも不味い…ソフィーは大貴族の娘だと言っていた、これ以上心証を悪化させれば、この部屋所か学園すら追い出される可能性がある。
どうする?どうすれば良い?
俺がそんな事を考えていると、ようやく状況を把握できてきたのかソフィーが徐々に赤く染まっていく。
果たしてそれは羞恥によるものなのか、怒りによるものなのか。
後者であれば確実に死が待っている。
最早火葬する必要も無い位に完璧に灰になるだろう。
しかし、ソフィーは一向に行動を起こさない。
赤く染まりこちらをジッと見つめて固まっている。
不味い!こいつ絶対今処刑方法考えてやがる!
どうする?どうする?どうすれば良いんだ?
何としても命だけは助かりたい……そう最早主人公補正がどうの言ってる場合じゃない。
命が助かる方法を考えるんだ!
その瞬間俺の脳裏に1つの案が浮かぶ。
しかし、それを実行すれば最悪死、良くても主人公補正を失う可能性もある。
しかし、行動しなければ今確実に死ぬ!
あるかも分からない物に縋って死んだら元も子もない!
背に腹は代えられないのだ。
運命の女神が微笑んでくれるのを期待しながら俺は考え付いた案を実行する。
「ソフィー。今何故自分が脱がされていると思う?」
頼むから燃やさないでくれ!
と心の中で祈り、命が掛かっているという必死さも手伝い非常に真面目な顔を作れたと思う。
最早怒りの余り声も出ないのかソフィーは赤い顔を左右に振る。
まだ、怒りメーターは振り切れてないらしい。
しかしだ、いつ怒りのレーヴァテインが飛んでくるとも限らない以上、俺の命はソフィーに握られているも同様だ。
「俺はお前が好きだったんだよ!」
どうしてそうなったんだ!
いや、俺でも分からないんだ……
もう滅茶苦茶だよ……
そう、俺の思いついた案とは、好き過ぎて思わず襲いそうになりました、テヘペロって奴だ。
有り得ない、そう通常考えられないが、代替案が思い浮かばなかった以上は、勢いで押し切るしかない!
「最初に会った時に思わず押し倒したのも!着替えを覗いたのも!さっき押し倒したのも!全部お前が魅力的過ぎて!好き過ぎて自分を抑えきれなかったんだよ!」
滅茶苦茶苦しい。
完全にストーカーが悪化して最終段階に突入している状態だろそれ……
てか、元の世界なら問答無用で強制猥褻で逮捕待った無しな状況。
だが、考えてほしい……ここは異世界!
最初にラッキースケベの対象になった美少女は落ちる!
そして俺には最強の主人公補正が付いている!
たぶん……付いている!
更に!相手は大貴族様の娘!
間違いなく箱入り娘で男に対して免疫など無い!ある筈がない!あってはいけない!
命が掛かっている俺は自分を無理矢理納得させる。
頼む!押し切られてくれ!
しかし、ソフィーは動かない。
こちらを見つめ赤い顔のまま、まだ固まっている。
ええい!ここまで来たらプランBだ!
え?プランBって何かって?
決めてないって事だよ!勢いとノリで無理矢理押し切るんだよ!
俺はガバっとソフィーに覆い被さる様に抱きつく。
もう自分でも何をやっているのか分からない。
混乱は最高潮に達し、錯乱状態に陥りそうだった。
ああ……くそう……女の子ってこんなに柔らかくて良い匂いがするのか……
人生の最後に神様が土産をくれたのだろうか?
もう終わりだ……こんな無茶な案が上手く行く訳がなかったんだ……
俺は人生最後の感触と匂いを最後まで味わってやる!
と意味不明な決意を固め、更にソフィーに強く抱きつく。




