1-7.ワイナ村とスピラ族
ヒュンケルはワイナ村に転移して戻った。そしてサラを訪ねた。
「ヒュンケルさま」
「村は無事か?」
「はい。でも、自警団はまた来るはずです。ヒュンケル様、村の力になってもらえませんか?」
「それはかまわないが。しかし・・俺も長居はしたくない。いつまでも留まっていられないからな。それに・・村がいつも誰かに頼っていては、今までと同じことを繰り返すだけだ」
「そうですよね。でも・・農民が武器を持って戦うなど・・」
「しかし、場合によっては必要なこともあるんじゃないか?あくまで自衛のために」
「・・みんなと相談します」
サラは村人を集めて話し合った。それは長い時間を要していた。
ヒュンケルたちは空いている家を借りて一夜を過ごした。
夕食を村人に出してもらったが、セレナとクラウスからすれば粗末な食べ物ばかりだった。
「村人は、こういうものを食べている。米や穀物はおまえたち貴族が取り上げてしまうからな」
「・・これが国民の暮らし、わが国なんですね」
「よく味わうがいい」
クラウスが
「俺・・私も農家の出なのでわかっていたつもりでした。しかし、セレナさまに拾われてから宮殿で暮らし、贅沢な生活に甘んじていました」
と反省したように言った。
「俺も他国で貴族たちの傲慢な態度を眼にしてきた。だから貴族は好きではないんだ」
「ヒュンケルさまが経験してきたことを聞かせてほしいわ」
「まだ聞かせるほど経験はしていない。俺はこの世界をもっと知りたくて旅をはじめた。ところで、セレナはどうして素直に宮殿を出ることを決意したんだ?」
「命が惜しくて出ようと思ったわけではありません。バシル公爵の息女、ローラのことが気になったからです。ローラとは幼い頃から遊んだ仲でもあるんです。バジルがケルトンについているのは、ローラが囚われているから。もし、ローラを救い出せたら、国もいい方向に向かうんじゃないかと・・ヒュンケルさま、力を貸してもらえませんか」
「そういうことか。・・袖摺りあってしまったからな。・・無碍には出来ないか。いいだろう」
翌朝、ヒュンケルはサラから
「誰かに頼ってばかりでは駄目だという結論にはなったんですが、具体的にどうしたらいいか、途方に暮れる結果になりました」
と言われた。
「そうか。農作業にしか関わってこなかっただろうからな。すぐには無理でも力をつけることは大事だ。出来ることは協力しよう」
セレナも
「私もあななたがたの力になります。この村が、そしてこの国が素晴らしい、豊かな国になるように」
と誓った。
「まずはクラウスに剣など武器の扱いを学んでもらおうか」
そしてセレナに
「ローラが囚われている場所の心当たりはあるか?」
と聞くと
「ケルンが託っている魔術師のセバフが修練に出入りしているシガの森が怪しいとにらんでいます。魔獣士でもあるセバフはドアボーグも扱えるようです」
「ドアボーグにロナウ村を襲わせたのもセバフか。じゃあ、そこを探ってみるか」
ヒュンケルは空間転移魔法を使いながらシズとセレナを連れてシガの森に近づいていった。
途中、ドアボーグが移動している場所に遭遇した。移動しているというより、何処かを襲いに行く感じだった。
「街は無いようだが、村でもあるのか?」
「わかりません。・・山奥に向かっています」
「気になるな」
ヒュンケルはポーテーションを繰り返しながらドアボーグの後を追った。
すると、ドアボーグに攻撃を加えるものたちが現れた。
「あれは・・」
人族のように見えるが、よく見ると額に角のようなものが出ている。
「あれはスピラ族だと思われます」
「スピラ族?」
「宮殿の書籍で読んだことがあります。森に住む一族で額に突起物がある種族です。人族ではありませんが、エルフのように知能は高いようです」
「見た目は以前、アニメで見た鬼族に似ているな。かなり前だから、おぼろげにしか覚えていないけど」
スピラ族は襲ってくるドアボーグを倒しているようだった。が、人族より戦う力はありそうだが苦戦しているようにも見えた。
「助けるか」
「スピラ族をですか?」
「不都合でもあるか?」
「いえ・・スピラ族は人族とは敵対していませんから」
ヒュンケルはドアボーグの群れに
「チェインライトニング!」
を放った。ドアボーグが次々に倒れていった。
静まり返ったあと、ヒュンケルは倒れているスピラ族にヒーリングマジックをかけて治癒していった。
「死んだものに、この魔法は効かない」
あきらめるか、と思っていると、セレナがリバイブルマジック(蘇生魔法)をかけていった。
「セレナ・・」
「私は冷たい人族じゃありませんから」
スピラ族の一人がヒュンケルの前に現れた。
「助けてくれたのか」
「たまたま出くわしたからな」
「人族に見えるが」
「人族と言うか・・俺は魔王ヒュンケル」
「魔王?・・それであんな強力な魔法を放てたのか」
「チェインライトニングのことか? あんなもの、大したことはない」
「大したことだろう。何匹のドアボーグを倒したと思っている」
「ああ・・」
ヒュンケルは倒れたドアボーグを数えて
「20匹はいたか。どうでもないことだ」
と言った。
「なぜ、我々を助けた」
「たまたまだ。通りかかったら、ドアボーグを見つけたから」
「・・感謝する。礼をしたい」
「それには及ばん。スピラ族に恩を売るつもりはない」
「わかった。名乗っておこう。私はスピラ族の族長、ルウ。しかし助かった」
「で、なぜドアボーグはスピラ族を?」
「人族が麓で内輪もめをしているのはわかっている。そして彼らが我々の住処を奪っていることも。仕方なく、我々は山の奥へと入らざるを得ないのだ。戦えば、我々のほうが体力もある。武力では勝る。しかし、戦いを好む種族ではない」
「それで人族がドアボーグを使ってスピラ族の土地を荒しているのか。理解した」
「魔王は人族の味方ではないのか」
「違う。俺は魔王としてこの世界に転移してきた。しかしこの世界の人族も俺の元の世界のように欲が深い。辟易している部分もある」
「我々も、以前は山の麓で住居を築き、食べ物を育てて生活していたが、人族がやってきて土地を奪った。数百年も前の話だが。それ以来、我々は山奥で暮らす道を選んだ」
「そうか。・・それなら提案がある」
◇
ヒュンケルはルウを連れてワイナ村に戻った。そしてサラに会わせた。
「スピラ族にも村に住んでもらって村を守ってもらう?」
ヒュンケルの提案にサラは驚いた。
「スピラ族の事情は話したとおりだ。種族は違うが、自警団率いるケルンたちに狙われているのは同じだ。種族を越えて共存を考えないか。お互いwinwinの関係になればやっていけるだろう。俺の友人のハーロックも魔族たちと共存をはじめた。出来ない話ではない」
「私もヒュンケルに説得された。それが実現するなら悪い話ではない。村は我々が守る」
「・・みんなに諮ってみます」
サラはまた、村人と相談した。結果が出るまでに1日を要した。まさか異種族と共存するなど、考えたこともない人族だ。だが、農作物をつくる以外、何も出来ない村人は誰かを頼らなければ生きていけないのが現実だった。
その間に、ヒュンケルはルウに
「シバの森に人族は居るか?」
と聞いた。
「住んでいる様子はない。しかし出入りはしているようだ」
「ドアボーグを操る人族のセバフという魔術師だろう。彼が人族の女を託っているかも知れない。それを確かめにシバの森に向かっているところだった」
「それなら、もしかすると山の中腹に人族が作ったような建物がある。いぜん、確認したときは誰もいなかった」
「それってポツンと一軒屋みたいな・・何でもない。そこに囚われているかも知れない」
「なら、私の娘のランにそこに案内させてもいい。山で鍛えているランは私より腕がたつ。それに誰に似たのか、魔法の才能もある」
「そのときは頼む」




