1-6.シグ王国の末路
自警団の男が人家を襲い
「こんなところに隠れていたか。殺すのはもったいない。俺の女にしてやる」
と中に居た少女に近づいていった。
そこにヒュンケルも入っていった。
「俺が先に見つけたんだからな。横取りするなよ」
男がヒュンケルに言うと
「そういうつもりはないが、お前は倒す」
と大剣を抜き
「残酷な描写は彼女に見せられないな」
と大剣を収めてライトニングを放った。男はその場に気絶するように倒れた。
助かった少女は、ヒュンケルの顔にもおびえていた。無理もない。ヒュンケルは立派な体格をしていて強面な顔をしている。
「何もしないから」
そうやさしく声をかけたが、少女はただ怯えていた。
隣の部屋に男と女が倒れていた。
「両親か」
二人は自警団に襲われて、切られたようだった。
「致命傷だな。ヒーリングマジックでも回復させられない」
あきらめるしかない、と思っていると、セレナが入ってきて倒れている二人に呪文を唱え始めた。すると、二人は息を吹き返した。
「セレナも魔法が使えるのか」
「死後経過していなければ復活させられる場合があります。それ以外の魔法は使えても力としては弱いです」
「リバイブルマジック(蘇生魔法)か。ほんとうに使える者をはじめて見た」
「ヒュンケル様、外では他の自警団が村を襲っています」
シズから聞いたヒュンケルは外に出ると、大剣クラナリで村人を襲う自警団を倒していった。
あらかた倒すと、残り少なくなった自警団は逃げるように戻っていった。
「あなたがたはもしかして冒険者?」
ヒュンケルは村人に聞かれて
「他国で冒険者をしていた。通りかかったらみんなが襲われていたので・・」
と話すと
「お陰で助かりました」
と礼を言われた。
「どうして自警団があなたたちを?」
「我々が自警団に協力しないからです。村の産物を納めろと脅されてきたのです」
「なるほど。納得」
「あまり礼は出来ませんが、これからも村を守ってもらえませんか?」
「それはかまわないが、なら頼みがある。連れがいるんだが、何か食べ物を提供してもらえないか」
ヒュンケルはセレナとクラウスを村人の前に連れて来た。
だが・・。
「彼女は貴族側の・・面倒をみるのはお断りします」
と言われた。
「かつては自警団ほどではないが、貴族側は我々の生産物を取り上げていった」
「そういうことか。心情はわかる。無理には頼まない。但し、俺も村の力になるのは拒否する」
ヒュンケルが転移して去ろうとすると
「待ってください」
と女が声をあげた。そして
「この方に村を守ってもらいましょう」
と村人に言った。
え、誰、彼女・・。
「確かに昔は貴族たちの悪政に苦しい思いをしていたと両親からも聞いたことがあります。でも今は自警団側のほうが私たちを苦しめています。誰がどうの言っている場合ではありません」
女の説得に村人たちは渋々納得するしかなかった。
「私は元、この村の長の娘、サラといいます。あらためて村を救ってくれたことを感謝します」
「元とは?」
「両親は亡くなったので、代わりに私が長を務めています。私の家に来てください。大したものはありませんが、おなかを満たすことは出来るでしょう」
食事をもらったセレナが
「美味しかったわ。ありがとう。私は宮殿の中で育ったので、それなりにご馳走を食してきたけど、味気ないものだったわ。心がこもっていないというか、宮殿の中で足りなかったもの、それは心だと思っていました。形だけの贅沢で満足しようとする貴族たち。それは政にも通じていました」
と話しはじめた。
◇
セレナ・ティフェール・シグ。シグ王国の王女だ。魔法の素質を持って生まれたセレナは、それでけでなく、1歳には言語を覚え、3歳にはシグ王国の政治を理解するだけの知恵を持った。そして、身の回りのあらゆることを理解し、疑問に思ったことはすぐに確認し、調べ、納得のいく状態に持っていった。
だが明晰な頭脳と奇抜なアイデアを出すセレナは、幼いころから宮殿内で気味悪がられた存在だった。
「お父さま。このままではシグ王国は発展するどころか隣のゼンウォール国にも遅れをとってしまいます。周りの山々には魔獣などいろんな生き物がいます。国をあげて農業や産業の改革をしていかなければ・・」
セレナは成人になる前から父である国王に進言してきたが、セレナにはリックという兄も居て、王である父もリックを次期国王の後継者としてたてて、セレナの進言は右の耳から左の耳へ聞き流すように取り上げなかった。その結果、いまや王宮の権限は失墜し、平民から生まれた自警団が権限をものにしていった。
「セレナよ、私は間違っていたのかもしれない。お前の進言をもっと大切に取り上げておけばよかったと思う」
国王である父はセレナに言ったが、既に遅し、貴族たちは次々に自警団に倒されていった。
「おまえだけでも逃げ伸びるんだ」
セレナはクライムに託され、宮殿を後にした。
◇
「で、今、国王たちは?」
「宮殿で父の弟のバジル公爵に幽閉されています」
「弟に? 玉座を狙っているのか。醜い兄弟喧嘩のようなもの。そのために犠牲になるのは国民だ」
「バジルは自警団の団長・ケルンにだまされたのです。そして気づいたバジルは娘であるローラをさらわれ隠されているんです。それでケルン逆らえないで居るんです」
「そんな事態に・・しかし・・」
ヒュンケルは出来れば一国の内情には関わりたくなかった。
「ところでシグ王国の特別巡視隊とかいう者たちがゼンウォール国の村を襲ってきて薬草を奪おうとしたことがあった。セレナは心当たりはあるか」
ヒュンケルは思い出してセレナに聞いた。
「いいえ。わが国の兵は他国に行っている場合ではないし」
「そうか。じゃああれは偽者か」
サラが
「薬草はシグ王国のほうには少なく、ゼンウォール国から仕入れている話を聞いたことがあります」
と思い出したように言った。
「となると、自警団がシグの兵に化けてゼンウォール国に奪いに来たとも考えられる。それと、このまま放っておけば王宮はもちろん、村も自警団の犠牲になりそうだな。自警団だけでも潰していくか」
「聞いた話では、自警団は各地から同士を集めて数万に膨れ上がっているようです」
サラが教えてくれた。
「ハーロックなら『流星雨』など極大魔法で潰してしまうだろうが・・」
ヒュンケルは悩んで
「よし、まず宮殿に行こう。自警団はそのあと潰す。その前に村の力になるか。セレナ、ヒーリングマジックが使えるなら、村人の怪我や傷を癒してくれ」
ヒュンケルがセレナに頼むと
「王女様に何をさせる気だ」
とクライムが反対した。
「元はといえば、王族や貴族の驕りが原因だろう。償えと言っているんだ」
「どうして王女が償わなければならないんだ」
「王族だからだ。王族はただ威張っていればいいものではない。民に尽くして、民もそれにこたえて国は成り立つ」
だがクライムは、ヒュンケルの言葉を聞き入れなかった。
が
「わかりました。村人のために尽くします」
とセレナが承知した。
「セレナ様・・」
「クライム、身分を盾に民を従えるのは間違っているかも・・」
セレナは村人の治療に努めた。
◇
翌日、ヒュンケルたちはサラに礼を言って村を出ると、シグ王国の宮殿に向かった。
宮殿の周りは自警団が囲んでいた。城下町として栄えたトリエルタウンは自警団の本拠地になっていて、そこに団長のケルンが居た。
「王族側の篭城も、そろそろ限界にきています。我々に投降する貴族も増えています」
「バジルを最初に取り込めてよかった。王族の統治する時代は終わりに近づいた。これからは我々庶民の時代になる」
「統治者が王族からケルン様に替わるだけでしょう?」
「はっきり言うな。そのからくりは、国民は知らないのだから」
ケルンは最初、無能な国王に代わってバジルが国王になることを薦めた。しかし、国王が亡き後、ケルトンが貴族に代わって国民の代表として国王になることを目論んでいた。ということになっている。
ヒュンケルたちは遠くから宮殿を眺めていた。
「自警団が宮殿の周りを囲んでいる。宮殿に歩いて潜入するのは困難だ。転移するにも初めて足を踏み入れるところだからな。セレナはどのあたりで過ごしていた?」
「東の塔です」
「そこに転移するか。宮殿内の案内はセレナに頼もう」
ヒュンケルは魔方陣を出した。
◇
ヒュンケルはシズ、セレナ、クライムを連れて宮殿の東の塔の前の広場に転移した。
「国王が無事なら謁見するか」
「玉座に案内します。クライム」
セレナの指示でクライムが先頭になって玉座に向かった。
「王女様」
途中セレナに気づいた貴族や侍女たちを無視して宮殿内を急いだ。
玉座の間には国王たちや数人の貴族も居た。
「お父様」
「セレナ、無事だったか。というより戻ってきたのか。せっかくセレナだけでも逃げ延びてほしいと思っていたものを」
「どこに逃げ延びろと言うんですか? 国のどこもかしこも、自警団によって身動き出来なくなっていました。村さえも自警団の手が伸びているんです」
「・・そうなのか」
セレナが
「紹介します。国王である父のシャーロット、母のドリス、そして兄のリックです」
とヒュンケルに紹介した。
「そなたはなにもの」
シャーロットが玉座の上からヒュンケルに上から目線で聞いた。
「私は魔王ヒュンケル」
ヒュンケルは魔王と名乗った。身分をたてに威厳を示そうとするシャーロットに、ヒュンケルは思わず魔王を名乗った。
「魔王?・・そなたがセレナを宮殿に戻してくれたのか。理由を聞こう」
「は?」
ヒュンケルはシャーロットの態度が理解できず、唖然とした。
「セレナは身の危険を回避するために宮殿を出た。なぜ戻した」
リックも上から目線でヒュンケルに言った。
「では聞くが、何処へ行けばよかったんだ。身寄りでもあるのか。それとも国民がセレナをかくまってくれるとでも思っているのか」
ヒュンケルが逆に聞いた。
「宮殿の外は、セレナが言った通り、自警団が我がもの顔で、好き放題をしている」
ヒュンケルに言われてリックは返す言葉がなかった。
シャーロットが
「ヒュンケルとやら、魔王と言うには強いのか。私の力になってもらえないだろうか」
と聞いた。
「それは状況による。この国に来て騒ぎを知った。そしてセレナとも会った。だが、まだ来たばかりで状況がわからない。だからとりあえず国王たちが無事かやってきた」
「場合によっては国民側につくと」
「それもありえる。俺は旅人。この国に深く関わりたいとは思っていないが」
「国王と対等に話すなど、身分をわきまえろ」
貴族がヒュンケルに声を荒げた。
「身分? それがどうした。自分たちがどんな状況におかれているかわからないのか」
「捕らえろ!」
控えていた衛兵がヒュンケルを囲んだ。
「やれやれ、これだから貴族は嫌いなんだ。チェインライトニング」
ヒュンケルは周りの衛兵や貴族たちに電撃を放ち、彼らはばたばたと倒れはじめた。
唖然とするシャーロットたちに
「気絶させただけだ」
とヒュンケルは言った。
「今は気絶させただけだが、俺は一瞬で近くのものの生命を奪う力も出せる。覚えておいてもらおうか」
ヒュンケルはシャーロットやリックたちを脅しておいた。
セレナが
「お父様、国民に謝罪しましょう」
とシャーロットに言った。
「何を言う。国民になんか頭を下げられるか。誰がこの国をつくったと思うんだ」
リックがセレナに反論した。
「おまえがつくったのか」
ヒュンケルがリックに聞いた。
「作ったのは先代だが、俺たちはその血を継いでいる」
「そうだ。おまえたちは、先代がつくった国に居座り、ただ驕っているだけだ。国のために国民のために何をしている」
「それは・・」
「何もしていないんだろう? ただ、国民から金品、食料を巻き上げているだけだろう?」
そこに
「バジル公爵が来ました」
と報告があった。
バジルは
「貴族の大半は国民側に寝返っています。これ以上篭城を続けるなら、自警団が宮殿を落とすことなります。宮殿を血で汚すことになります。投降することを勧めます」
とシャーロットに言った。
「バジルよ、お前は・・」
「私も娘を奪われ・・ケルンに逆らうことが出来ない。今は後悔している」
「今さら後悔されても・・」
シャーロットはヒュンケルに
「セレナだけでもどこかへ逃がしてくれないか。彼らもセレナが宮殿に戻ってきたことはまだ知らないだろう」
と頼んだ。
「セレナ。それでいいか?」
ヒュンケルが聞くと、セレナはうなずいた.
「わかった。だが、この先のことは保障しないぞ」
ヒュンケルは魔方陣を出すとクラウスが
「私も連れていってください。セレナさまをお守りしたい」
と言った。
「どうする?」
「クラウスは私の警護役に今までも尽くしてくれました。身内もいないようですし、お願い出来ますか?」
「まあ、いいだろう」
ヒュンケルはシズとセレナとクラウスを連れて転移した。




