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1-5.セレナ

 村人からトリエルタウンの方向を聞いたヒュンケルとシズは、そこに向けて足を運んだ。

「人家のある辺りは自警団が歩き回っていますね」

「かかわりたくない連中だ」

 自警団を避けるように歩いていくと畑の端に小屋を見つけた。

「誰か居るようです」

「情報収集してみるか」

 ヒュンケルが小屋に近づくと一人が小屋から出てきた。鎧を身につけた男だった。彼はヒュンケルに剣を抜いて構えた。

「シグ王国の兵か」

 ヒュンケルがそう聞くと

「自警団ではないのか」

と逆に聞かれた。

「旅の途中にシグ王国にやってきた者だ」

 男にそう言うと、男はヒュンケルと連れが女と知って剣をおさめた。

 そして

「王国の者でないなら、力になってもらえないだろうか」

と言われた。

 ヒュンケルとシズは小屋の中に案内され入っていくと、そこに女がうずくまっていた。ドレスを着たその女は平民には見えなかった。

「貴族の女か」

「彼女は姫だ。シグ王族の令嬢」

「令嬢? なぜこんなところに居る」

「宮殿を脱出してきた。だが、この先、どうしたらいいか・・旅の者なら力になってもらえないだろうか」

「力にか・・シグ王国は王家貴族と民衆で争っていると聞いた。俺も前に居た国で王家貴族が驕り高ぶっていたのを知っている。人族の国はたいていそうらしいが」

 ヒュンケルが男に言うと、男は

「姫を民衆に渡すようなことは考えるな」

 男はまた剣を抜いてヒュンケルに構えた。

「彼女は、姫は弱っているのか」

 女はぐったりしていた。

「衰弱している」

「しょうがない。出会った縁だ」

 ヒュンケルは女に気を送った。

「ライフディテクト(体力付与)」

 女は目を開けるとゆっくり身体を起こした。

「セレナ様」

 男は嬉しそうに声をかけた。

「怪我はしていないようだな」

 ヒュンケルが言うと女は

「助けていただきありがとうございます」

とヒュンケルに頭を下げた。

「私はシグ王国の王女、セレナと言います。そして彼はクラウス」

 セレナが自己紹介したのでヒュンケルも

「俺、いや私はヒュンケル。そして彼女がシズだ」

と挨拶した。

 クラウスが

「魔法を使えるようだが護衛を頼みたい」

とヒュンケルに上から目線で言った。

 ヒュンケルは、こういう権力や地位を誇示する者たちが不快だった。

 元の世界で営業マンをしていた頃、器量も業績もないのに上から目線で威張り散らしている役員たちを見てうんざりしていた。

「その価値があるならな」

「価値だと?」

「姫を助ける価値があるかだ。シグ王国の民衆は貴族たちに反感を持っているのだろう?」

 ヒュンケルはこの世界を知るために旅をしているとセレナとクラウスに話した。すると

「確かにヒュンケルさんが言うように、かつてのシグ王国もシグ王族が築いてきた国です。貴族たちは威張り、平民には田畑を開拓させてきました。でも・・今は国も豊かになってきて政治経済のあり方も見直されてきました。平民にもいろいろな権限を与えて、より豊かになっていったのです。そんな中、平民の中から打倒王族派を名乗る人物が現れ、国は混乱を招き、国内で抗争も勃発しています」

「そういう状況か。なんか昔の日本に似ている。天皇の社会から武家社会に変わった頃に。歴史で学んだだけだが」

 ヒュンケルの話はシズやセレナたちには理解出来ないようだった。

「で、これからどうしたいって?」

「わかりません。ただ、私は争いは好みません。国が王族の手から誰の手になってもかまいませんが、人族同士で命を奪うようなことは避けないと・・」

 シズが

「センスエネミー(敵感知)。近づいてきます」

とヒュンケルに教えた。


 そして小屋の戸がいきなり開けられた。

「おまえは旅人の・・」

 やってきたのは自警団だった。

「いきなり開けるとは礼儀知らずだな」

「二人だけじゃなかったのか。・・まさか王女、おまえはほんとうに旅人か。王族に関わりがあるんじゃないか?」

「二人も俺の仲間だ。王女なんか知らない」

「ごまかしても駄目だ。そのドレス。それに顔も間違いなく王女だ」

 自警団はセレナを知っているようだった。ヒュンケルは

「前は何だったか知らないが、今は俺の仲間だ」

と言い返した。

「身体が大きいからって俺たちを甘く見るなよ。腕に覚えのある者を揃えている」

 自警団の男たちは剣を抜いてヒュンケルに構えた。

「あ、そう。狭いから外に出ようか」

 ヒュンケルに圧倒されて男たちは外に出るとヒュンケルを囲んだ。

「このまま俺たちを見逃せば何もしない。だが、逆らえば命はないと思え」

 ヒュンケルは自警団に忠告した。

「俺たちにも魔術師はいる」

 呼ばれた魔術師はヒュンケルをジャッジマジック(魔法力判定)をして

「彼に逆らわないほうがいい」

と顔を引きつらせた。

「魔法も使えるということか」

「とてつもないレベルだ」

 魔術師はいちもくさんに逃げ出した。

「お前は何者だ」

 自警団はヒュンケルを囲むように剣をかまえた。

 ヒュンケルは、やれやれという顔をして

「魔王ヒュンケル」

と名乗った。

「なに?!」

「もう一度警告する。立ち去れ」

「一斉にかかれ!」

「しょうがない。始末するようか」

 ヒュンケルは

「ライトニング」

 襲い掛かる男たちに電撃を浴びせて倒した。

「ハーロックがよく言っていたが、人族が本当にごみに思えてくる」


 ヒュンケルが男たちを相手にしているときに、小屋の中に進入した男が

「姫は俺がもらう」

と剣をシズとクラウスに向けた。シズが

「ライトニング(電撃)」

 男を倒した。

 セレナもクラウスもシズやヒュンケルの強さに驚いていた。

「さて、これからどうしたものか」

 セレナとクラウスを自警団には仲間と言ったが、本当に仲間にする気はない。

「私も姫も、しばらく何も食べていません」

 クラウスが気弱な声で言った。

「俺たちは食べなくても問題はないが、それにこの国のお金の持ち合わせもない」

「ヒュンケル様、新たな集団が向かってきます」

「しつこいやつらだ」

「近くの村に入っていきました。村を襲っています」

 シズがホロスコープアイ(遠視魔法)で確認した。

「なぜ自警団が村を襲う? ついでだ助けてやるか」

 ヒュンケルは魔方陣を出した。そこにシズ、セレナ、クラウスを入れると転移した。



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