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1-1.冒険者協会と初仕事

 ヒュンケルはシズを連れだって、ロワール城をつくって暮らしはじめた先民族の足跡を遡るように足をすすめた。

 魔王として転移してきたヒュンケルも、デュラハンのシズもアンデッドではないが、人族のように飲食や睡眠をとらずに過ごせる。山越えをしながら何日か歩いていくと、人族の街のようなものが見えてきた。

 近づいていくと、高い壁のようなもので中が囲まれているような印象だった。

「宮殿の壁にしては大きすぎる」

 壁のところどころに大きな門がありそれは開門されていた。その門から人々が出入りしている。

「街全体を塀で囲っているのか。スラーレン法国に似ている」

 ヒュンケルは、その中の一人に声をかけた。

「門は出入り自由なのか?」

 すると

「他所者かい? ああ、自由だよ。・・冒険者にでもなる気かい?」

と言われた。

「冒険者?」

「いい体しているから、魔物退治は楽なように見える。エリーター級になればいい稼ぎが出来るから。冒険者協会なら案内してもいい。俺も今から中に入るところだ」

「じゃあ、お願いする」

 友人となったハーロック(雅則)の住むワリキュール王国には冒険者協会があって、冒険者は魔物などを退治したりして報酬がもらえるらしい。ヒュンケルが国王を務めたスラーレン法国には、そのようなものがなかった。なので、ヒュンケルは冒険者についてあまり知識もない。

 が、せっかくの話なので

「じゃあ、お願いする」

と男に言った。

 高い壁に囲まれた中は、大きな町並みだった。高い建物はないが数百件もの建物が肩を寄せ合うように並んでいる。

「スラーレン法国のようなつくりに似ているが、こっちのほうが大きそうな国だな」

 ヒュンケルは案内してくれる男に聞いた。

「ここは何という国か街なんだ?」

「国はゼンウォール国。ここは、その領内のセーユータウン(セーユー街)だ。街は近隣の山々に住む魔獣たちから守るために高い壁で覆われている。周囲には何箇所か門があるが、昼夜、閉まることはない。魔獣たちがやってきたときに締められる」

「なるほど」

「街は、その高い壁と冒険者によって守られている」

「軍隊とか衛兵隊とかは?」

 聞いてみると

「国としては国軍があることはあるが、ここセーユータウンは宮殿のある街から離れているのでたまにしか出張ってこない。だから冒険者頼りの街なんだ」

と男がこたえてくれた。

 話を聞きながら歩いていると

「ここが冒険者協会だ」

と男が立ち止まった。

「ありがとう。紹介しておこう。俺、いや私はヒュンケルという者で、彼女はシズ」

「俺、いや私は、ソルト。この先で薬屋をやっている。それじゃな」

 男は挨拶を済ませると去っていった。


「では、協会に入ってみるか」

 中に入ると、意外に広々とした空間が広がっていた。

「あそこが受付か?」

 それらしき場所が目に入った。その近くに何やら何枚も張り紙が張ってある場所も。

「クエストボードか?」

 近づいてみると、いろんなクエストがある。

「聞いたことのない魔獣も居るようだな」

「私も知らない魔獣のようです」

「え? シズも読めるのか?」

「私も文語翻訳魔法が使えるので」

「そう・・知らなかった。どんな魔獣か知らないが、この仕事を請けてみるか」

 ヒュンケルは受付らしい場所に移ると、そこに居る女に聞いた。

「受付はここでいいのかな?」

 聞かれた女はヒュンケルを見て怪訝な顔をした。

 ヒュンケル自身は気づいていなかったが、ヒュンケルは身体も大きく、ちょっと強面な顔をしている。魔王としてはふさわしいだろうが。

 受付の女は気を取り直して

「この街ははじめての方ですか?」

とヒュンケルに聞いた。

「そうだ。稼ぐなら冒険者協会にと案内してもらった」

「強そうに見えますが、他の国とかで冒険者をしていたとか・・」

「いや、冒険者はしたことがない。しかし・・クエストを見たら倒せそうだと思ったので」

「クエストの魔獣もレベルの低いものからエリーター級でないと倒せないものまで居ますけど」

「エリーター級?・・ドアボーグを倒すとかなりの報奨金が出るようだが」

 ヒュンケルがそう言うと、女は青ざめた顔をした。

「ドアボーグは並みの冒険者では倒すことは出来ません。エリーター級でも難しい凶暴な魔獣です」

「では、それを退治してこよう」

「嘘でしょう!」

 女は思わず声をあらげた。

「この街にも来たばかりで資金がないから」

「ドアボーグを倒しても、その前に冒険者登録をしないと報酬は出ません」

「あ、・・そう」

「それに、まず冒険者になるための講習を受けてもらいます。それから登録料も・・」

「だよね。・・でも、この街に来たばかりで、ここで使える通貨はまだ持ち合わせがない」

 ヒュンケルは困った。食べ物や休むところがなくても困ることはないが、資金がないと動きようもない。

 思案をはじめると

「ドアボーグを倒してくれると?」

と男が現れた。

「私は冒険者協会長のトルマ。冒険者登録の資金は私が出そう」

「いいんですか?」

 受付の女がトルマに確認した。

「見るからに強そうだ。今までに魔獣を倒したことは?」

「何度か。魔族を相手にしたこともある」

 ヒュンケルは咄嗟にこたえた。ほんとうに強い印象を与えないと。

「それは頼もしい。では本当に期待するぞ。まずは講習を受けていてもらおうか」

 担当は受付の女がしてくれた。

 講習は冒険者にとしての基本的な内容で、理解に苦しむことはなかった。そして冒険者にはクラスがあって、下からブロンズ、シルバー、ゴールド、プラチナ、そしてエリーターの順になっているらしい。

 講習を終えて待たされていると、トルマが若い男を連れてきた。

「私の次男のソルマだ。私も少々魔法を使えるが、ソルマは私より才能があって、テレポーションも使える。近距離だがな。危ないときはテレポーションで逃げることが出来る」

「便利な魔法でもありますね」

 テレポーションはヒュンケルもシズも使える。

「ドアボーグの居る場所はソルマが知っているので案内させる」

「わかりました」


 ヒュンケルとシズはソルマのあとを山に向かって歩いた。

「ヒュンケルさんたちは、ほんとうに強いですか? 前にドアボーグを倒しに行った冒険者はドアボーグを馬鹿にしていたようで、倒されました。僕はテレポーションで逃げましたけど」

「そんなことが・・もし危ないと思ったら逃げていいからね」

「はい。・・先に話しておきますけど、以前にドアボーグを退治に向かった一隊の中に、僕の兄も居て、結局みんな倒されました。それで、父はドアボーグを恨んでいるんです。それでドアボーグを倒せそうな冒険者が来ると頼んでいるんです」

「そういうことか」

「ドアボーグは、あの山の方角にいます。かなり大きいですよ。小さくても2メートル。3メートル近いのも居ます」

「で、そのドアボーグは攻撃に魔法も使う?」

「素手か殴る武器で向かってきます。防御力は高くて、レベルの低い魔法は跳ね除けます」

「なるほど」

「倒せそうですか?」

「たぶん、楽勝だと思う」

 それを聞いてソルマは逆に疑った。安易に考えて倒された冒険者を見たことがあったからだ。しかし、期待もした。

「一匹でも倒せば父から報奨金が出ます」

「あのクエストはきみの父、トルマが出したのか」

「はい」

 シズが

「何かが近づいてきます」

と言った。

「シズの敵感知(センスエネミー)は俺より優れているからな」

「こっちには向かってきません。あっちの方向に向かっています」

 シズが指を指すと

「そっちにはロナウ村が・・」

とソルマが悲痛な声を発した。

「救いに行くようだな」

 ヒュンケルたちは村に向かって急いだ。


 ◇


 ドアボーグがロナウ村を襲いはじめた。逃げ惑う村人たち。

 ヒュンケルたちは、その様子を確認した。

「確かに大きそうだ。身体は毛で覆われているのか?」

「村が襲われている。でも僕は村に転移出来るけど、僕が行っても村を助けることは出来ない」

 ソルマは拳を握り締めた。

「転移なら俺たちも出来る。見えるところになら確実にね」

 ヒュンケルがそう言うと

「転移魔法も使えるんですか」

とソルマが驚いた顔をした。

「走って駆けつけるより確実に速い。行こう」

 ヒュンケルたちはロナウ村に転移した。

 だが、ソルマは何も出来ない。

「どうして村がドアボーグに・・」

 村人がドアボーグに襲われるのを見ているしかなかった。

「十体くらいか。自分の力を試してみるか。チェインライトニング(連鎖電撃)」

 ヒュンケルはドアボーグに向けて電撃を放った。

 倒れこむドアボーグたち。

「いっぱいいたから強めに出したが、強すぎたか」

「死んだようです」

 シズが確認した。

「思ったよりレベルの低い魔獣だな」

 電撃(ライトニング)は魔術師のレベルによって、その強さは弱かったり強かったりする。ヒュンケルはドアボーグの強さがわからなかったので、強めに出したが、息絶えたようだった。

 ソルマは

「ヒュンケルさんは本当に強いんだ」

とヒュンケルの力に驚いた。

「楽勝と言っていたはずだが」

 ドアボーグが、どのくらいのレベルの魔物か知らなかったけど。簡単に倒せたから、ここは自慢してもいいだろう。


「レーテル!」

 ソルマは急に大声をあげた。

「レーテルなら、まだ薬草の小屋に・・」

 村人に言われ、ソルマは駆け出した。

「レーテル!」

 小屋の外で倒れている女、レーテルを発見したソルマがレーテルを抱き上げた。そして

「ぐったりはしているが、まだ生きている」

と確認した。

 ヒュンケルも近づいていって

「傷を負っているようだな。ライトヒーリング(軽傷治癒)」

 レーテルに治癒魔法をかけた。

「ポーションを使わずに傷を?」

「大した傷でなければ治癒出来る。さらに俺のライフを与えよう。ライフディテクト(体力付与)」

 ヒュンケルが手をかざすと、レーテルの体が淡い光に包まれ、レーテルが意識を取り戻した。

「レーテル」

 気を取り戻したレーテルがソルマの顔を見て

「ソルマ。ソルマが助けてくれたの?」

と口を開いた。

「いや・・ヒュンケルさんが・・」

 そこへ

「なんだ。ドアボーグが倒されている」

と兵士をした格好の者たちがやってきた。そしてヒュンケルを見て

「ゼンウォール国の冒険者か」

と言った。

「そういうおまえたちは」

「シグ王国、特別巡視隊だ」

「シグ王国?」

 ソルマが

「ゼンウォール国の隣に領地を広げている国です」

とヒュンケルに教えた。

「周りの土地や国を奪っているのか。マルケドーラ帝国のような国だな。人族は欲が深くて迷惑な存在だ」

 ヒュンケルはロワール城近隣やスラーレン法国を襲ってきたマルケドーラ帝国を思い出してつぶやいた。

 兵士が

「我々にたてつく者は、誰とて容赦はしない」

とヒュンケルに言った。

「おまえたちにたてついた覚えは無い。突然やってきて何を言っている」

 そう言い返すと

「・・お、大人しく薬草を渡せば見逃してやる」

と兵士たちは剣を抜いてヒュンケルに向けた。

「薬草? 何のことだ」

「この村で扱っている薬草だ」

「村に薬草を奪いに来たのか。まさかおまえたちがドアボーグを使って村を襲ったのか」

 言われた兵士たちはたじろいだ。

「おまえたちこそ容赦はしない。ライトニング」

 ヒュンケルが兵士の一人に軽く電撃を浴びせると、兵士はその場に崩れるように倒れた。

「ひっ、逃げろぉ!」

 兵士たちは一斉に逃げ出した。

「殺しますか?」

 シズが聞くと

「生かして返さないほうがいいかも。始末してくれる?」

とヒュンケルはシズに言った。

 シズが兵士たちの前に転移すると、兵士たちは大男ではなく女だったので、シズに剣を振りかざして切りつけようとした。だが次の瞬間

「ライトニング(電撃)」

 兵士たちは倒れこんでいった。

「生かしておくつもりはないから」

 シズのライトニングも人族の命を奪うのには容易な威力があった。


 ◇


 村は救われたが、多くの村人が犠牲になった。レーテルの親も、その中に居た。

「レーテルを、街中に住む彼女の親類の家に預かってもらいます」

 ソルマが言うと

「なら、俺がみんな転移させてやる」

 ヒュンケルは魔方陣を出した。

「一度に何人も転移出来るんですか?」

「魔方陣の中に入れたものは転移出来る」

 ソルマはヒュンケルの魔法力に驚いていた。

 ヒュンケルは魔方陣にシズ、ソルマ、レーテルを入れてセーユータウンの冒険者協会の前に転移した。

 ヒュンケルとシズが、ソルマとレーテルについていくと、そこはソルトの家だった。

 ソルマが事情をソルトに話した。

「わかった。うちで預かるよ」

 そしてソルトは

「あんたが街に入るときに声をかけて正解だったようだな。普段より気がはやってね」

とヒュンケルに言った。

「私も知り合いでよかった」


 それからヒュンケルとシズはソルマに冒険者協会に案内され、村でのことをトルマに報告してもらった。

「何十体ものドアボーグを一撃で?・・まさにエリーター級、いやそれ以上かも知れない。感謝します。それに一度に何人も転移出来るとは・・まさかあなたはアリオン神国の上級魔術師・・」

「いや、私はアリオン神国とは縁のない者。たまたま転移魔法に優れているにすぎません」

 アリオン神国とは・・ヒュンケルはすぐに思い出せなかった。

「そうですか」

「しかし、問題も。村を襲ったのはドアボーグだが、それを仕向けたのはシグ王国の兵士だった。薬草を奪おうとしたようだ」

「ほんとうですか?」

「我々にも危害を加えようとしたので倒したが。まずかったかな」

「シグ王国が絡んでることには驚きましたが、彼らの目的は薬草を奪うこと。そして、我々冒険者は国の機関ではありません。我々が関与することではありません」

「そう・・なんだ。・・では問題はない・・ということでいいのかな?」

「ヒュンケル殿には、あらためて感謝します。エリーター級のプレートを与えましょう。それと、街での居住権も。宿は私のほうで手配させてもらいます」

 トルマはヒュンケルたちが村に出かけるかける前とは、みちがえるように態度を変えて接した。


 そしてヒュンケルとシズは街中にある大きな宿、大飯店に案内された。

「ここの経費も私が払うのでくつろいでください」

 ヒュンケルとシズはトルマの客人として扱われた。

 案内された部屋はリビングダイニングに浴室などの水回り、ベッドの置かれた寝室も二部屋ある。

「スイートルームのような部屋かな。トルマは勘違いしていないだろうな」

「え?」

「いや、何でもない」

 ヒュンケルはトルマが自分とシズの関係を夫婦だと勘違いしているのかと思った。

「で、これからどうします?」

「とりあえず予定はないが。と言うより何も考えられない。この街に来て、冒険者協会に案内されてドアボーグとかいう魔物を退治してきて、エリーター級の冒険者になれた。・・とりあえず休もう。風呂に入って旅の疲れも洗い流そう。しばらく風呂に入ってなかったな。・・シズが先に入るか?」

「私は人族のようにお風呂に入ったことはありません」

「そう。・・一緒に入ってくれる・・とかも、ないよね」

「もしヒュンケルさまがそれを望むなら・・そういうところも、ハーロック様たちを見習います?」

「いや・・そういう気はない」

 ヒュンケルが友達になった雅則(ハーロック)は、魔族やセキュバスとお風呂に入ることもあるらしい。

 ヒュンケルはあらためて思った。ロワール城では、シズたち魔族に身の回りの世話をしてもらっているが、彼女たちについてほとんど干渉していなかったことに気づいた。

 そしてヒュンケルは世話をしてくれるシズとどういう関係にあればいいか、前から悩んではいた。

「問題のひとつにシズがデュラハンであることだ。・・首を外すことが出来る」


 



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