2-7.転生者の父娘
シューリン村が近づくとアリサは
「なつかしいわ。毎年1回は父に会いに戻っているけどね」
と嬉しそうだった。
そして村へ。
家には誰もいなかった。
「きっと畑だわ」
アリサは一目散に畑に向かった。
「お父さん!」
「戻ってきたのか」
突然のアリサの里帰りにダルは驚いた。
そしてアリサの傍には厳つい顔をした大男と綺麗な女。ダルはアリサのパーティ仲間なのかと思った。
「紹介するわ。町で出会ったヒュンケルさんとシズさん。・・で、いいの?」
「それでいい」
「パーティ仲間なのか?」
「そういうわけじゃ」
ヒュンケルが
「はじめまして。私はマオウ、いや冒険者のヒュンケルといいます。コーリンタウンに来てアリサと知り合いました」
とダルに挨拶した。
「そうですか」
礼儀正しいヒュンケルにダルは安堵した思いだった。
「連れは私の妻で、一緒に冒険者をしてるシズといいます」
「ダルです。よろしく」
そして
「しかし、どうして今頃・・」
ダルは娘のアリサが会いに戻ってくるのは嬉しかったが、戻る前に手紙を送ってくれていた。突然戻ってくるのはめずらしかった。
そのアリサから
「町で私が狙われたの。私がお父さんの子という理由だそうなの」
と報告された。
「え?」
ダルはそれを聞いて不安を覚えた。
「誰に?」
「誰かに雇われた魔術師。意外に強かったわ。魔獣を召喚する術も使えるし。ここに来る途中、シャルティーナ王女も襲われたわ。犯人はどちらもドアボーグを操って・・」
「魔獣士か」
ヒュンケルが
「王女を襲った刺客を雇ったのは、ユールゴク卿らしい」
とダルに話した。
「ユールゴク卿が?・・」
「お父さんが心配になったから戻ってきたの。知っていることを話して」
「まずは家に行こう」
家に戻るとアリサがヒュンケルとシズに出合ったときからの話をした。
「極大魔法で10匹ものドアボーグを一気に倒したの」
「そんな大げさな魔法ではない」
ヒュンケルは謙遜するように言った。
「私もまだ、そんな上位魔法は見たことがありません」
ダルも聞いて驚いていた。
「お父さん、私が転生者であることをヒュンケルさんに話しました。信頼おける人だと思って」
「そうか」
ダルはアリサが転生者であることを他人に話したことに複雑な思いがした。
ヒュンケルは
「私がアリサについてあなたの元に来たのは、私が異世界からの転移者だからです。それでアリサからアリサやあなたが転生だと聞いて興味を示して」
と打ち明けた。
「私はこの世界に魔王ヒュンケルとして転移してきました。この世界で魔王風を吹かせて国を世界を支配しようなどと言う気はありません。そしてこの世界のことをもっと知ろうとシズと旅に出て、アリサと出会いました。私は他にこの世界に転移してきた者たちも知っていますが、転移すると力が増すようです」
「そうなんですか」
ヒュンケルは、この世界に転移してきたいきさつと、旅に出るまでの話をダルとアリサに聞かせた。
「そうだったんですか。でも驚きました。そういう人も居たことを知って」
「あなたがアリサを転生者だと思ったのは・・」
「まず私のことから話しましょう」
ダルは語りはじめた。
◇
ダルはルウォール国のケルマン家の末弟として育てられた。ケルマン家は代々剣術に優れた家系で、王族に仕える仕事もしていた。
ダルも幼少の頃からその才能を発揮していた。だが大きくなるに連れて不思議な夢を見るようになった。まるで環境の違う世界の夢を。
夢の中ではダルは當馬という名前だった。
下級武士として育った當馬は、剣の腕を上げることで生計をたてていた。だが、大棚の用心棒をしていたとき、賊に切られて命を落とした。
「また同じような夢を・・」
いやな夢を何度も見るようになった。
そしてダルは、自分は生まれ変わったのではないかと思うようになった。
「もしかして前世では武士だった」
「剣の腕が立つのはそのせい。自分は転生者。そう思うようになったのです」
だが、ダルはケルマン家の末弟として育てられたが、父の妾の子だった。
当主である父が亡くなると、剣の腕をあげていったダルは、兄たちに疎まれてたこともありケルマン家を追い出された。
父の妾であった母の生家のあったシューリン村で暮らしたこともあったが、ダルはコーリンタウンで冒険者として生計をたてるようになる。
そして3年後にはAクラスの冒険者になった。
クラスが上がると凶暴な魔物がクラスの対象になり、一人では倒しづらくなっていった。
そしてパーティを組んで町や人々に危害を加える魔獣たちを退治していった。
「ダル。犀魔獣の始末を頼まれた。Aクラスのパーティに頼みたいらしい」
パーティ仲間のトナンが誘いに来た。
「犀魔獣ってAクラスでも倒すのは用意じゃないぞ。頼みたくてもSクラスの冒険者は他所へ行ったようだけど」
「モニカ姉さんにも声をかけた」
すると
「いくら私が年上だからって、年寄り扱いするなと行っているだろう」
とモニカがやってきた。
「ばあさんとは言っていない。お姉さんと言っているだろう」
「西の方から50体は近づいてくる」
「さすがお姉さん、いやお嬢さんの探索魔法は頼りに出来る。魔獣退治は俺たちに任せて」
「気合を入れて退治してくるか」
だがダルたちの知名度が上がってからだった。トナンから
「ダルは貴族なのか」
と聞かれた。
「貴族を追い出された身だ。剣が使えるので冒険者稼業をはじめた。だが元貴族なのは間違いない」
「貴族が冒険者になる事例は今まで聞いたことがない」
貴族の出であることが知られると、周りの目が変わっていくように思えたダルは
「町を出るよ」
とトナンとモニカに言ってシューリン村に移った。
それから数年後、ダルは農作業に従事しながら、畑を荒らしに来る魔物退治もして村に馴染んでいった。
そんなある日、ダルは近くの山の中で赤ん坊を見つけた。
誰かに捨てられたにしては、魔物も現れるような危険な場所だ。
ダルは見捨てておけず、家に連れて帰ると、アリサと名づけて育てることにした。
前世でもこっちの世界でも独身だった自分がが父親を務めることになろうとは思ってもいなかった。
ダルはアリサをアリサの好きなように育てるつもりでいたが、アリサは魔物を追い払ったり倒したりするダルの姿を見ているうちに剣技を真似するようになった。そしてアリサには魔法を使える力もあることを知り、やはり普通の子ではないと確信していった。
ダルは町に出て冒険者をしていた時、異世界転移には転生と転移というものがあると聞いたことがあった。
転生とは事故や病気などで亡くなったあと、別の世界で生まれ変わる。前世での記憶は亡くし、別の生命体として生まれ変わる。
転移は元の世界での姿のまま転移する。記憶も亡くすことはない。
ダルは転生してこの世界で生まれ変わったが、なぜか前世の記憶が甦ってきた特別な存在だったのだろう。
アリサは山の中に赤ん坊として現れ、ろくに教えないのに剣技をマスターし、生活魔法は自然に編み出していた。もしかしてアリサも転生者なのかも。そして自分の前に現れたのは運命なのかも。
だがアリサをどう育てればいいのか。
悩んだダルは、アリサ自身の身を守るために剣技と魔法を研鑽するようにアリサを育てた。
そして15歳を迎えるとアリサは
「私、町に行く」
と言い出した。
「お父さんが昔していたという冒険者になる」
「辞めなさい。お父さんは薦めない」
アリサに剣技と魔法の研鑽をすすめたのは、あくまで身を守るため。危険な仕事に着かせるためではない。
しかし
「ときどき村にやってくる業者や配達人たちの話を聞いているうちに、私も役にたてることがあるような気がするの」
とアリサは冒険者になる夢をあきらめなかった。
ダルはしばらく悩んでいたが、アリサをこのまま村娘として育てるのも不憫に思えてきてアリサが冒険者になることを許可した。
「ただし、お父さんのことや、出生については誰にも秘密にするように」
「はい」
そしてアリサはコーリンタウンに出ていった。
「アリサなら町に出ても生きていける。いつでも戻ってきていいと言ったし」
その後、アリサはしばらく戻ってこなかった。
次第に心配になるダル。
だが、村にやってくる配達人から、アリサが冒険者として腕を上げている話を聞いて安心していた。
そしてアリサから手紙が。・・Bクラスの冒険者になったと書いてあった。
「早すぎるだろう」
元気で活躍していることにダルは嬉しく思った。
◇
「私はお父さんから、私も転生者かもしれないと聞いたのを思い出して、町で腕を磨いたの。そうしたら剣技もどんどん強くなって魔法もレベルが上がっていったの」
あらためて父、ダルの話を聞いたアリサは追随するように言った。
「あなたとアリサのことは理解しました」
ヒュンケルは、こういう転移の仕方もあるんだとあらためて思った。
話を切り替えるようにダルが
「今日、ルウォール国の第二王女、シャルティーナが私に助力を頼みに来ました。ルウォール国がアリオン神国に狙われているとかで、王族内で混乱を生じさせているようなのです。ケルマン家の兄たちは国王に借り出されて戦死。その国王も亡くなり、第一王女のサラティーナが国王に代わって内政をつかさどっているようです。第二王女のシャルティーナが私に助力を頼みに来ましたが、私はもう政には関わりたくないのでお断りしました。そういう流れです」
とヒュンケルにも話してくれた。
「私が狙われたこととも関係があるのかしら」
アリサが気にかかっていた点を質問すると
「さあ・・でも、アリサが私の娘であることが公になれば、今後も用心しないと」
とダルもアリサを心配した。
そして
「あなたは魔王ヒュンケルといいましたよね。・・魔王ヒュンケル・・ヒュンケル・・どこかで聞いたような・・」
とダルは記憶を搾り出そうとした。
「風の噂ですが、たしかアリオン神国の神官のアスターとか言う者が、異国の地で建国に尽力したが魔王が現れて殺されかけ、命からがらアリオン神国に戻ったとか・・」
と思い出して話した。
「それはまさしくハーロックのことだな」
ヒュンケルも雅則から聞いた話を思い出した。
「その後、その国は魔王ヒュンケルに奪われたとか・・」
「私が悪者にされている?・・確かに噂通り、私はハスラーが築いたスラーレン法国の玉座に座ったことがあります。しかし、噂のほとんどは嘘。ハスラーが撒いた嘘です。ハスラーこそ、スラーレン法国を我が物にしようと考えていた男です。私の友人でもあるハーロックに敗れたハスラーはアリオン神国に戻り、女神を使って異世界から力量のある者を召喚し、ハーロックを倒そうとしたのです。ハーロックは魔王なんかではなく、スラーレン法国を救った男なんです」
「そんな事情が・・実はアリオン神国には悪い噂があって、私もアリオン神国をよく思っていません。しかし聞いてみないとわからないものです。ヒュンケルさんに出会えてよかった」




