2-8.コーリンタウンの危機
「ヒュンケルさんに農作業を手伝わせては申し訳ない。ゆっくりしていってください」
「いや、何事も経験。何か手伝わせてください」
「では畑を耕してもらえますか?」
「はい。ただ、経験がないので、どのくらいお役にたてるか・・」
ヒュンケルは元の世界では営業マンだった。業績は芳しくなく、田舎に行って農業でも始めようかと考えたことはあった。
◇
御者のエルがシューリン村にやってきた。
「アリサさん、コーリンタウンが大変なことになっている」
「どうしたの?」
「魔獣に襲われはじめた。冒険者が警護に当たっているけど、大半は町から逃げるように出て行ってしまった。協会長から助けにアリサさんに戻ってきてくれるように頼まれて・・」
「町に迷惑をかけると思って出てきたのに・・」
「それと・・協会長がダルさんも呼んできてもらえないかと・・」
「お父さんを? どういうこと」
「ダルさんの力も借りたいと言ってました」
「お父さんが昔、冒険者をしていたことは聞いていたけど、冒険者をやめて村に来たって」
「当時、私とトナンはA級冒険者で活躍していたことがあった」
ダルが言うと
「協会長、トナンさんは、そんなに強いんですか?」
とエルも驚いていた。
「私は冒険者稼業に見切りをつけて村にやってきた。彼はその後も冒険者を続け、今や協会長に昇りつめた。・・で、町の状況は?」
「冒険者たちが倒したり追い払っても、近隣から魔獣たちが次々に現れて・・そのうち冒険者たちは町を見捨てて出て行っています」
「そんな状況に・・」
「どうするの? お父さん」
「トナンの頼みじゃ行かないわけには・・やはり私も腕を頼りにされる存在なのだろう。それに町が狙われる理由を確かめないと」
「今から急いでも夜更けになってしまいます」
聞いていたヒュンケルが
「アリサが町に戻るなら、力を貸さないでもない」
と言った。
「ヒュンケルさん」
「急ぐなら転移魔法をつかう」
「え?」
ヒュンケルの言葉にダルとエルが驚いた顔をした。
「私は転移魔法が使える。コーリンタウンには滞在していたので、そこに転移することが出来る」
「ええ! そんなにレベルの高い魔法が使えるんですか?」
「正体は隠しているが魔王なので」
ヒュンケルは大きな魔方陣を出した。
「エルと馬車も魔方陣に入るんだ。一緒に転移する」
◇
コーリンタウンの冒険者協会。
「会長。冒険者たちが、また町を出て行ってしまいました」
残っている職員のイリスがトナンに報告した。
「残っている冒険者だけで町を守るのは限界だ。町の住民も避難をはじめた。イリスも支度をして町を出るんだ」
「でも・・」
「ここもそのうちがら空きになる」
「アリサさんを呼びに行かせたんじゃ・・」
「ああ、でも戻ってくるかの保障もないし、いくらS級のアリサでも一人でどうこう出来る状況ではなくなってきた」
トナンが悲壮感に浸ろうとしたところに
「私たちもまだがんばるよ」
冒険者のプリオとパメルがトナンを励ますように言った。
「戻ってきたか」
二人はコーリンタウンでAクラスの冒険者になり、町を出ていたが、戻ってきた。
プリオは魔法も使える女剣士で、アリサを目標にがんばっている。パメルは魔法に特化した冒険者で炎を放ったり、物を移動させる魔法や、防御魔法に優れている女魔術師だが、魔力や体力の消耗が激しい。
「ありがたいが、今のうちに町を出るといい。町を見捨てても誰も責める者はいない」
「何処へ行けというの? 私たちはこの町で世話になり、この町で生きてきた。故郷だと思っているから。だから戻ってきた」
「プリオ・・」
「アリサが戻ってくるんじゃ、まだ逃げるわけにはいかない」
「以前はアリサとパーティを組んでいたこともあったな」
「でも、アリサがどんどん強くなってS級クラスになったら、私たちは足手まといになるから私たちから辞退した。・・アリサはもともと一人が好きだったし」
「そうか」
そこに
「昔と違って、ここも寂しくなったのう」
と歳を召した女が現れた。
「モニカさん」
「トナンはまだ残っていたか」
「どうしてここへ?」
「町の惨状を知れば放ってはおけないだろう」
「一緒に町を守ってくれると?」
「バカを言うな。自分の歳をわきまえている。いくら元A級冒険者とて、歳には勝てん」
「誰?」
「元A級冒険者のモニカ。パーティを組んだ仲間でもある。と言うより俺たちのお姉さん的存在だった」
「年寄り扱いするな!」
「お姉さんといわれるのがいやだったな。今は引退して旅に出たと聞いていたけど」
「出たのは出たが、隣国はアリオン神国の脅威により、従属国にされつつある。ルウォール国もその危機が迫ってきている」
「そんな事態に・・」
「コーリンタウンが魔獣に襲われはじめたのも、それに関わっているかも。魔獣は誰かに操られている」
「ドアボーグに襲われそうになったように?」
◇
ヒュンケルたちは冒険者協会のホールに転移してきた。
唖然とするトナンとイリス。
「転移魔法が使えるんですか? もしかしてアリオン神国の神官なのでは・・」
トナンが驚いて聞いた。
「いや、私はアリオン神国とは関わりがない」
「そうですか。・・アリサ・・それにダルも来てくれたのか」
「冒険者は廃業したが、トナンの力にはならないと、と思って・・」
そうダルが話すと
「ありがとう」
とトナンはダルの手を握り締めた。
アリサはプリオとパメルを見て
「冒険者の大半が町を見捨てたと聞いたけど、戻ってきたんだ」
となつかしそうな顔をして言った。
「あたりまえでしょう。ここで冒険者として育ったんだから」
そしてもう一人
「モニカさん」
見覚えのある顔に顔が緩んだ。
モニカはアリサがコーリンタウンで冒険者として育っていくのを応援してくれた一人だった。
「アリサもS級になったとか、成長しているな」
「まだまだです」
ダルが
「どうしてこんなことに・・」
とトナンに聞いた。
「わからん。誰かが魔獣たちを操って町を襲い始めた」
「私が襲われた様に?」
「アリサとは関係ないかも知れない」
「アリサは私の娘ということが知れて襲われたらしい。王家や貴族がらみで町が狙われたのなら申し訳ない」
ダルはトナンに頭を下げた。
「町を気遣って、ダルは町を出てくれた。俺はそれを理解している」
「余計なことかも知れないが、ルウォール国の第二王女のシャルティーナも雇われた魔獣士に狙われたらしい」
「やはり王族が絡んでいるのか」
「手に負えない魔獣は俺とアリサで退治する。何としても町を守ろう」
「鈍っているかも知れないが、俺もA級冒険者として腕を振るおう」
トナンは仕舞っておいた剣を取り出した。
「え? 会長も戦うの?」
アリサが心配した。
「俺だって元はA級冒険者だった。かなり前のことだがな。今はどれだけ力が出せるか自信はないけど。でも・・町は守らないと」
これが冒険者か・・と感嘆したヒュンケルは
「私も加勢させてもらいます」
とトナンに言った。そして
「シズは、また魔獣士を探し出してくれないか」
と頼んだ。
「わかりました」
「アリサが戻ってくれれば、怖いものはない。パメル、町を守るわよ」
プリオがホールを出て行こうとした。
「またパーティを組むのかと思った」
アリサが言うと
「アリサはS級。私たちはまだA級。足手まといになったら悪いから」
とプリオはパメルとホールを出て行った。
襲ってくる魔獣たちから残っている冒険者たちが町を守るために戦っている。
「たのもしいものだ」
だが、襲来する魔獣は多かった。
パメルの魔力が尽きようとしていた。
「ライフディテクト」
ヒュンケルがパメルの魔力を回復させた。
「そんな魔法も使えるのね」
「いろんな魔術師がいる。一気に片付けるか。シャイニングバースト(閃光暫)」
ヒュンケルは大剣クラナリを一振りして迫ってくる魔獣たちを殲滅した。
その威力にプリオが
「アリサに劣らぬ力。・・彼もS級の冒険者? 顔がいかついだけじゃなかった」
と感心していた。
◇
ルウォール国の宮殿。
今、玉座に座っているのは第一王女のサラティーナだった。
ユールゴク卿が謁見にやってきた。
「サラティーナ王女、そろそろラバスナ国に返事をしないと・・」
「ラバスナ国に投降する気はありません。何としてもルウォール国を、国民を守らなければなりません」
「しかし我が軍の兵はラバスナ軍の進攻において大半が全滅。サラティーナ王女たちが頼りにしていたケルマン家もあえなく散っています」
「わかっています。でも・・頼りになる人が、一団が味方になってくれると言ってくれました」
「それは誰ですか」
「空賊のハーロックです」
「空賊? そのような者に?」
「空賊を名乗っていますが、その正体はラバスナ国の国王の弟。兄である国王のシャインドールに異を唱えて、私たちの味方になってくれるのです」
それを聞いてユールゴクは空賊ハーロックの存在をいまいましく思いながら、一旦引き下がった。
そしてシャルティーナが戻ってきた。
「お姉さま、ダルを見つけましたが、連れてくることは叶いませんでした。もうケルマン家に戻る気はないようです」
「そう。・・ケルマン家も倒れた今、ルウォール国最強の剣士と噂をされたダルの力に期待していたのだけれど」
「そんなダルをケルマン家はどうして追い出したのかしら」
「邪魔だったからよ。末弟が一番強いことに、兄たちが嫉妬していたから」
「そんな理由で?」
「ルウォール国も領土が広いこともあって幾つかの領に分散し、それぞれに統治者を置いた。ケルマン家はその領主になり次第に奢り高ぶっていたのよ。ユールゴク卿もその一人だけどね」
「私もユールゴク卿は気に入らないわ。それと、私が魔獣に襲われたの。誰かが私たちを狙っているようだわ」
「ここでラバスナ国や誰にも屈することは許されないわ。国民を守るためにも」




