2-4.刺客の標的
その夜。
「ヒュンケル様」
隣のベッドからシズが声をかけられた。
「いくら体力のある俺でも、今日はよく働いたし、アリサの祝宴で酒も飲んだ。休みたい気分なんだが」
と言うと
「違います」
と否定された。
「不審者のほうか。別の日にしてもらいたいものだが」
「気づきました?」
「シズでなくても、あれだけ強い気配をばら撒けば俺にもわかる」
「私たちが狙われているわけではないようです」
「なにものなんだ」
ヒュンケルとシズは不審者のあとを追って転移した。
◇
アリサは飯店に宿をとっていて、冒険者の仕事をしながら暮らしていた。そしてアリサが町に向かってくるドアボーグを倒したことを知った町の住民がアリサに宴を催してくれた。
実際ドアボーグを倒したのはヒュンケルだが、町の住民はアリサの強さは知っているが他所者のヒュンケルのことは知らない。アリサは気まずい思いを抱きながら宴の主席を務めた。
その夜。アリサも酒を嗜み、ベッドで疲れを癒していた。
だがアリサも不穏な気配を感じた。
窓からの侵入者にアリサは剣を抜いて威嚇した。
「だれ」
「気配を消して入ったつもりだったが・・」
「それだけ強い気配を持って入ってくれば気づくわよ」
「さすがS級の冒険者。だが・・お前の命は今夜限りだ」
「なぜ私を?」
「お前を邪魔に思っている者が居るということだ」
「私を?・・じゃあドアボーグが町に向かってきたのは・・」
「察しがいいな。ドアボーグを操ったのは俺ではないがな」
「誰が私を狙っているの?」
「俺はそれほど口は軽くない。だが冥途の土産に、教えておく。お前を狙ったのはお前がダルの娘だからだ」
「お父さんの?」
不審者は魔方陣を出し始めた。
「シャインブレイズ(穿孔)」
アリサに攻撃魔法が放たれた。だが、アリサは結界で防いだ。
「防御魔法も使えるのか。なら俺も武器を使おう」
不審者は剣を抜くとアリサに襲い掛かった。
アリサが剣で防御しながら窓から外に飛び出した。
追いかけてくる不審者。魔法も使えて剣さばきも素人ではない。
だがSクラスまで腕を上げたアリサの敵ではなかった。
アリサはころあいを見計らって不審者に襲い掛かった。
「剣の腕では、さすがに適わない。召喚、リザード」
不審者の周りから蜥蜴人が次々に現れた。
「召喚魔術?」
「召喚術も使える魔術師だ」
蜥蜴人がアリサに襲い掛かった。切り払うように蜥蜴人を倒していくが、次から次に現れる。いくら弱い相手でも数の多さには適わない。
アリサは剣に魔力を流し込むと
「フレアバースト(飛炎暫)」
蜥蜴人を一掃した。
「さすがS級の力。魔獣をも倒すという噂は本当のようだな。なら大きなデビルで相手をしよう。召喚、ダークデビル(妖鬼)」
十メートルもあるような鬼の面をした魔物が現れた。しかも魔気も発している。
アリサは剣を握り締めて魔力を込めると、飛び上がり、ダークデビルに切り付けた。だが、ダークデビルはアリサの剣を跳ね返した。
「魔獣は相手にしているけど、こんな魔物は初めてだわ」
「お前の力も限界のようだな」
不審者はアリサに勝てると思った。
そこに
「加勢していいかな」
とヒュンケルとシズが現れた。
「ヒュンケルさん」
「まさか不審者がアリサを狙ったとは、何者なのかな」
「わかりません」
「まずは、こいつを始末しようか」
「あいつはドアボーグの比ではありません。魔力も跳ね返します」
アリサはヒュンケルに注意喚起した。だが
「レベルの差はどうかな」
ヒュンケルは大剣クラナリを抜いて構えると魔力を込めて飛び上がり、ダークデビルめがけて振り下ろした。ダークデビルは切り裂かれるように消滅した。
唖然とするアリサと不審者。
「お前は何者!」
「そっちから名乗るのが筋じゃないのか? それに俺は名前の安売りはしない」
ヒュンケルは不審者に対峙した。
「どうして私がお父さん、ダルの娘だと狙われなければならないの?」
アリサが不審者に聞いた。
「それは知らん。雇い主にお前を始末することを請け負っただけだ」
「雇われ刺客というの?」
「今日は退散だ」
不審者は逃げ去った。
◇
翌朝、アリサは冒険者協会に行った。
「夕べの魔物もアリサが倒してくれたんだ」
狙われたのはアリサだが、大きな魔物が出現したのを町の住民やトナンも気づいていた。
トナンがアリサに礼を言おうとしたが
「あれは私が呼び寄せたのかもしれません」
とアリサが言った。
「え?」
「夕べの魔物も町に向かってきたドアボーグも私を倒すために・・」
「どういうこと?・・」
「私が誰かに狙われているようなの。私がこの町にいると、みんなに迷惑がかかるから、町を出ます」
「で、出て行くって」
「父が心配なのでシューリン村に戻ります」
するとトナンが
「アリサがダルの娘だから狙われたのか?」
とアリサに聞いた。
「どうしてそれを・・」
「実は昔、俺も冒険者としてダルとパーティを組んだことがある」
「そうなんですか」
「ダルは村に行くと言って町を離れていったが、俺は冒険者を続けて協会長になった。・・昔の思い出だ」
「知りませんでした」
「アリサには話していなかったが、ダルからも昔のことは口外しないように言われていたし。ダルのことだから無事でいるだろうが。どうしてこんな事態に・・」
「村に戻ってそれを確認します」
アリサはトナンに頭を下げると協会を後にした。
◇
冒険者協会に入ろうとしてアリサたちの話を聞いたヒュンケルは町を出るアリサを呼び止めた。
「盗み聞きするつもりはなかったが、話は聞いた」
「父が居る村に戻ります。私を襲った刺客の話が本当なら、父の身も心配なので」
「では同行していいかな」
「ヒュンケルさんたちも一緒に行ってくれるんですか?」
「旅は道連れ。せっかくアリサと知り合ったんだ。これからも力になりたい」
「ありがとうございます」
ヒュンケルはアリサが転生者と聞いて興味を持っていた。彼女の父親にも興味が湧いてきた。
アリサと出会ったことで、ヒュンケルは新たな騒動に巻き込まれていくことになる。




