2-2.アリサ
そして冒険者カードが発行されてからだった。
街に出ると
「緊急事態。冒険者は協会に集合してください」
と街に通達が走った。
冒険者協会に戻るとホールの中は騒然としていた。
「静粛に」
一人の男が階段を下りてきた。
「トナン協会長です」
受付嬢が教えてくれた。見た目は風采の無い中間管理職といった感じだった。
ヒュンケルも元の世界で営業マンとして働いていた頃、同じような中年の男を何人も見ている。
「街にドアボーグが向かってきています。討伐に協力してください」
トナンがホールに集まった冒険者に声を発した。
「何体、向かってきているんだ」
「10、いや20体は居るようです」
「無理だろう」
「いくらAクラスやSクラスでも無理だ」
「このまま手をこまねいていても、やつらは確実に街に向かってきている。みんなで、出来るだけ多くの冒険者で街を守ってほしい」
ホールの中はざわめき飛び出していく者もいた。
「逃げたな」
「この街を早く出たほうがいい」
大半が脱げるように出て行った。
トナンは膝を落として愕然となった。
「この街は終わりだ」
そのトナンに歩み寄る者がいた。
「私が街を守る」
若い女がトナンに言い寄った。
「アリサ・・いや、いくらSクラスのアリサでも一人では無理だ」
「でも、街を救わないと」
「頼みたいのはやまやまだが・・」
「街は救えなくても、私が出来るだけドアボーグを足止めするから、その間に、みんなは逃げて」
「アリサ・・すまない。イリス、協会も閉鎖する。みんなを連れて街を出るんだ」
とトナンは受付嬢をしている職員に指示した。
受付嬢はイリスと言うのか。ヒュンケルはまだ名前を聞いていなかった。
「会長も逃げて」
アリサが促すと
「いや、俺はこの町の責任者の一人でもある。先に逃げることは出来ない。最後まで残るよ」
とトナンは力強くこたえた。
見た目は強そうに見えないが、責任感はある男のようだった。
会話を聞いたヒュンケルは
「私も協力していいかな」
としゃしゃり出た。
「たしか申請書によると、異国でエリーター級だったとか」
「ドアボーグなら倒したことがある。10匹、いや20匹居たかな」
「信じていいんですね?」
「実力を見てもらえば。その代わり、報酬ははずんでもらいますよ」
「じゃあ、アリサとヒュンケルさんたちに頼んでいいですか?」
すると
「私一人でいい」
とアリサは迷惑そうな顔をした。
まさか拒否されると思っていなかったヒュンケルは唖然とした。見知らぬ者と組みたくないのか、それとも腕に自信があるのか、ヒュンケルは、このアリサに興味を抱いた。
「足手まといになるつもりはない」
「・・好きにすれば」
ヒュンケルとシズはアリサの先導でドアボーグ討伐に向かった。
「実力はあるとして、本当に私の足手まといにならないでね」
「信用されてないみたいだな」
見た目強そうなヒュンケルの力を、アリサは信用していないようだった。
◇
ドアボーグが集団でコーリンタウンの町に向かって進んできていた。
「信じられない。ありえないわ」
アリサはドアボーグの集団を見て驚いた顔をした。
「なぜ?」
「ドアボーグは集団で暮らしていても不思議じゃないけど、理由もなしにどこかを、町を整然とやってきて襲うなんてことは考えられないわ。そんなに知恵もないはず」
「ドアボーグがゼンウォール国の村を襲ったこともあったが、あのときは誰かに操られていた」
「え?」
「もしかして誰かに操られているのかも」
「まさか・・」
「ヒュンケル様、後から別の集団も向かってきています」
シズが遠視魔法で、それを確認した。
「合流されたらやっかいだな。先にこっちのドアボーグを倒しておくか」
「倒しておくって、どうやって」
アリサはまだヒュンケルの力を知らない。
ヒュンケルは手を空に掲げると
「サンダーストーム(落雷)!」
天空に魔方陣を出すと、空からドアボーグめがけて雷を雨のように落とした。ドアボーグは、雷に撃たれて倒れていった。
驚くアリサ。
「上級魔術。・・それも極大魔法。Sクラスの私でも使えない魔法だわ」
「極大魔法は大げさだろう。私はもっと極大魔法を使う者、仲間を知っている」
ヒュンケルは雅則を思い出していた。
「さてと。・・後から来るドアボーグも倒しておくか」
ヒュンケルが言うと
「極大魔法を連続で?・・」
とアリサはまた驚いていた。
「このくらい、どうってことないけど」
だが、ドアボーグたちは向きを返ると戻っていった。
「襲ってこないものを倒すこともないだろう」
コーリンタウンの難は逃れたようだった。
「倒したドアボーグの体の一部を持って帰れば、それが証明になり報酬がもらえます」
「しかし・・私は動物の解体は苦手だ」
ヒュンケルが顔に似合わぬことを言ったので、アリサはまた唖然とした。
「では、私がドアボーグの耳を削いで袋に入れましょう」
シズが笑顔で言った。
「シズは平気なのか?」
「はい。おまかせを」
シズは倒れたドアボーグの耳を切り取って袋に入れ始めた。
アリサが
「私はあなたを疑っていました。すみません」
とヒュンケルに頭を下げた。
「本当に見た目通りの力があるんですね。ああ、失礼な言い方を・・」
「気にしないでいい。私が極大魔法を使えることは内緒にね」
「はい」




