2-1.新たな冒険者登録
シグ王国領を出たヒュンケルとシズはルウォール国領のコーリンタウンに入った。途中、行商人の馬車に遭遇し、ヒュンケルの風貌から頼れると思われ、警護を頼まれた。そして期待通り魔物や野党を倒しながら町に入った。
行商人からはヒュンケルの強さに驚かれ、報酬を割り増しされ、町に入ると従弟が営んでいる宿に泊めて貰えることになった。ヒュンケルはその代わりに割り増しは遠慮した。
「宿の料理も不味くはなかったが、街中の店で見かけた串に刺した焼き物が気になる。別に食べなくても問題はないが、懐かしく感じてしまった。長旅で休みたい気もするが、街はまだにぎわっているようだから散策がてら買いに行ってみるか」
ヒュンケルがつぶやくと
「それなら私が買ってきますよ。ヒュンケル様はちょっと目立ちすぎますから。戻るまで休んでいてください」
とシズが言った。
確かに大柄で厳ついた顔つきのヒュンケルは街の中では目だったようだった。
「じゃあ、頼むか」
街に出たシズは、串焼きを購入したあと不審な気配を感じた。
真っ直ぐ宿には、戻らず裏通りへ。不審者たちは、それを機にシズの前後から現れた。
「あなたたちは?」
「見かけない顔だ。旅の者か、それとも他所から来たのか。美人で、いい体をしている。頭領の目に適ってしまったんだ。顔を貸してもらおうか」
と男はいい獲物を見つけたように顔をほころばせて言った。
「あら、顔だけでいいの? どうぞ」
シズは首を外してみせた。
「わ、なんだ?・・人族じゃないのか」
男は腰を抜かして地べたに尻餅をついた。
「借りるんじゃないの?」
シズは首を元に戻すと、男たちをライトニングで倒し、宿に戻った。
「ヒュンケル様、戻りました」
「ごくろう・・何かいいことあったか?」
ヒュンケルはシズが普段より明るい顔をしているのに気づいて聞いた。
「ええ、ちょっと。ここもよからぬ人族がいるようです」
「・・そうか」
◇
翌日、ヒュンケルはシズを連れて冒険者協会に向かった。
「国が違えば通貨も変わる。稼ぐに便利な冒険者家業」
協会は街の中心部に近い場所にあった。
中に入ると大きなホールになっていて、隅に受け付けらしい場所があった。そこには数人の男女が並んでいた。
「冒険者登録する者たちかな」
街の中ではじろじろ見られる気がしていたヒュンケルだが、協会の中ではわりと普通だった。冒険者にもいろいろいろ居るからだろうか。
後方に並んでみる。何の列だかわからないまま並ぶ人々をヒュンケルも元居た世界で見たことがある。ラーメン店や新装開店のスーパーマーケットなど、人々は並ぶのが好きなんだな、と思ったこともある。
そしてやっと順番が。受付嬢も最初はヒュンケルの強面の顔に目を見開いたが、すぐに笑顔になって
「冒険者登録でよろしいですか?」
と聞いた。
さすがプロ。・・しかし冒険者協会の受付嬢は、どこもみんな綺麗だなと思った。しかも聡明な感じもする。
「頼みたい。よそ者だが登録は可能かな?」
「はい。大丈夫です。申請書にいろいろ記入してもらうことになりますが、代筆しなくて大丈夫ですか?」
言われてヒュンケルは申請書を眺めた。すると申請書の文字が解読出来た。文字翻訳魔法が効力を発揮した。
「代筆は要りません」
ヒュンケルは時々思うことがある。魔王ヒュンケルとしてこの世界に転移してきて色んな魔法が使える自分の力に驚くことがある。文字翻訳魔法もそうだ。
ヒュンケルは申請書を受け取ると空いているテーブルに行って必要事項を書きはじめた。
「名前はヒュンケル。歳は・・」
ヒュンケルは自分の歳についてあらためて悩んだ。この世界に転移してきたとき、元の世界では32歳の営業マンだった。この世界に来てから数年経つが、魔王ヒュンケルとして転移してきた。
「シズ、魔王って、何歳くらいが妥当なんだ?」
シズに聞いてみると
「私はヒュンケル様以外の魔王を知りませんので、わかりません」
と言われた。
ゼンウォール国の冒険者協会では適当に35歳で登録したが
「わざわざ魔王として登録することはないか。35歳。・・出身地、領か国?・・スラーレン法国にしておくか。懐かしくなってきたな。・・冒険者の経験?・・ゼンウォール国でエリーター級。・・」
と記入した。そして受付に提出すると
「エリーター級って、最上位の?」
受付嬢が驚いたように聞いた。
「ここも最上位はエリーター?」
「いえ、ここではEからはじまってAまで上がっていき、最上位はSクラスになります。他の国から流れてきた冒険者から他国の冒険者協会のクラス分けを聞いたことがあるので」
「なるほど。・・で、私たちはEクラスからはじめるようなのかな?」
「そうですね」
受付嬢は申し訳なさそうな顔をした。容姿からしてヒュンケルがそれなりの力を持つ者として認識したようだった。
「クエストはクラスに見合ったものを提示します。ただ・・もともと他所で実力のある人は実績により飛び級もあります。ただし、実力以上の相手をして亡くなる人がほとんどですけど」
「なるほど。それは自己責任ということか」
シズもヒュンケル同様に申請書に記入して提出した。
「シズも文字翻訳魔法が使えるのか?」
「はい」
シズは当然のような顔をした。
受付嬢は
「シズさんもエリーター級?」
見た目、あまり強そうに見えないシズを眺めて驚いた顔をした。
「はい」
シズは笑みを浮かべて自信ありげにこたえた。
「ああ、シズも実力はある。俺の女房だ」
「え?」
受付嬢とシズも驚いた顔をした。
「わかりました。すぐ証明カードを作成し、お渡しします」
ヒュンケルとシズはホールでカードが出来るのを待った。
「ヒュンケル様、私が女房って・・」
シズの戸惑いに
「ゼンウォール国のこともあったので、パーティ仲間だと言って信用されないより、最初から妻だと言ったほうがあとあと面倒くさくならないだろうと思って・・迷惑だったか?」
とこたえると
「いえ・・嬉しいです」
とシズは喜んでいた。




