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導きの灯り〜阿門甲斐吽〜  作者: 阿門 甲斐吽


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【第29話】崩れゆく防衛線


 ドス(ぐろ)鳥居(とりい)()こう(がわ)から()()した無数(むすう)触手(しょくしゅ)は、まるで意思(いし)()(へび)()れのように、うねりながら四方八方(しほうはっぽう)から四人(よにん)へと言葉(ことば)なき殺意(さつい)()けて(せま)ってきた。


 (しま)全体(ぜんたい)(おお)怨念(おんねん)波動(はどう)(さき)ほどよりも一段(いちだん)密度(みつど)()し、呼吸(こきゅう)をするだけで(はい)(おく)()けるような錯覚(さっかく)(とら)われる。


()るぞ! 一斉(いっせい)攻撃(こうげき)仕掛(しか)け、(やつ)らの(ふところ)()()(すき)(つく)るんだ!」


 甲斐吽(かいうん)仕込(しこ)(づえ)黄金色(こがねいろ)(ひかり)(するど)くきらめかせ、目前(もくぜん)(せま)った巨大(きょだい)触手(しょくしゅ)一閃(いっせん)(もと)両断(りょうだん)した。


 しかし、()()られた断面(だんめん)からはどす(ぐろ)粘液(ねんえき)()()し、すぐにまた(あたら)しい触手(しょくしゅ)へと再生(さいせい)していく。


 物理的(ぶつりてき)斬撃(ざんげき)だけでは、この底知(そこし)れぬ怨念(おんねん)奔流(ほんりゅう)完全(かんぜん)()()ることはできない。


「みんな、()がってちゃダメだ! (おれ)たちがこの(すき)(つく)る!」


 (たちばな)翔平(しょうへい)(あら)(いき)()()しながら、小型艇(こがたてい)装備品(そうびひん)から()って()丈夫(じょうぶ)(てつ)パイプを力強(ちからづよ)(にぎ)()めた。


 (かれ)()つその道具(どうぐ)には、仲間(なかま)(まも)りたいという(つよ)意志(いし)霊気(れいき)となって宿(やど)り、(あわ)白銀色(はくぎんいろ)(かがや)きを(はな)っている。


 翔平(しょうへい)正面(しょうめん)から()()んできた(ふと)触手(しょくしゅ)()かって()()み、全身全霊(ぜんしんぜんれい)()めて(なぐ)りつけた。


 ガキン、と硬質(こうしつ)衝突音(しょうとつおん)(ひび)き、翔平(しょうへい)渾身(こんしん)一撃(いちげき)触手(しょくしゅ)(いきお)いを一時的(いちじてき)()(もど)す。


「すげえ手応(てごた)えだ……! だが、(かた)すぎる!」


翔平(しょうへい)油断(ゆだん)するな! 相手(あいて)(ひと)つじゃないぞ!」


 柏木(かしわぎ)(みなと)がすぐさま翔平(しょうへい)背後(はいご)(まわ)()み、祖父(そふ)形見(かたみ)である護身用(ごしんよう)(ふる)びた御守(おまも)りを(かか)げた。


 その御守(おまも)りから(はな)たれた(かす)かな神気(しんき)が、翔平(しょうへい)周囲(しゅうい)(うす)(ひかり)(まく)()(めぐ)らせ、側面(そくめん)から(しの)()(べつ)触手(しょくしゅ)奇襲(きしゅう)(ふせ)()る。


 (みなと)(ひたい)には()(あせ)がにじみ、その()(かす)かに(ふる)えていたが、その(ひとみ)には(けっ)して()かないという(かた)決意(けつい)宿(やど)っていた。


大丈夫(だいじょうぶ)翔平(しょうへい)(おれ)背中(せなか)(まも)る。二人(ふたり)でこの防衛線(ぼうえいせん)絶対(ぜったい)維持(いじ)するんだ!」


「おう、(たの)むぜ(みなと)!」


 二人(ふたり)連携(れんけい)見事(みごと)で、甲斐吽(かいうん)弘恵(ひろえ)(うし)ろから(ささ)える強固(きょうこ)(たて)となっていた。


 しかし、相手(あいて)太古(たいこ)からの怨念(おんねん)結晶化(けっしょうか)した異形(いぎょう)存在(そんざい)である。


 人間(にんげん)体力(たいりょく)精神力(せいしんりょく)がどれほど強靭(きょうじん)であっても、この過酷(かこく)環境下(かんきょうか)無限(むげん)()()(てき)相手(あいて)にし(つづ)けることには、おのずと限界(げんかい)があった。


 (しま)()()ちていた(よど)みがさらに()くなり、(みなと)翔平(しょうへい)足元(あしもと)()(くろ)粘液(ねんえき)が、まるで()きた(つた)のように(かれ)らの足首(あしくび)へと(から)みついていく。


「なっ……(あし)が、(うご)かない……!?」


 (みなと)がバランスを(くず)しそうになり、それを(ささ)えようと翔平(しょうへい)()()ばした瞬間(しゅんかん)背後(はいご)から(べつ)触手(しょくしゅ)(おと)もなく(しの)()った。


翔平(しょうへい)(みなと)(あぶ)ない!」


 弘恵(ひろえ)(するど)(さけ)(ごえ)同時(どうじ)に、彼女(かのじょ)神楽鈴(かぐらすず)(はげ)しく()()らし、(しろ)聖域(せいいき)(ひかり)二人(ふたり)足元(あしもと)へと()びせた。


 ジリリリッという清浄(せいじょう)(おと)(ひび)(わた)り、(から)みついていた粘液(ねんえき)()(はら)われるように消滅(しょうめつ)する。


 しかし、その代償(だいしょう)として、弘恵(ひろえ)自身(じしん)(はな)っていた聖域(せいいき)(ひかり)急激(きゅうげき)(よわ)まり、彼女(かのじょ)顔色(かおいろ)からサーッと()()()いていった。


 連続(れんぞく)して神楽鈴(かぐらすず)()(つづ)け、自身(じしん)霊力(れいりょく)極限(きょくげん)まで(けず)()っていたせいで、彼女(かのじょ)身体(からだ)はすでに限界(げんかい)(むか)えていたのだ。


弘恵(ひろえ)さん……!」


(わたし)は……大丈夫(だいじょうぶ)よ。まだ、まだ(たたか)えるわ……!」


 (つよ)がりを()いながらも、弘恵(ひろえ)(ひざ)がガクリと()らぎ、その()(くず)れそうになる。


 彼女(かのじょ)をかばうように甲斐吽(かいうん)一歩(いっぽ)(まえ)()ようとしたその(すき)を、怨念(おんねん)化身(けしん)見逃(みのが)さなかった。


 頭上(ずじょう)(おお)(やみ)(うず)から、ひと(きわ)巨大(きょだい)(するど)漆黒(しっこく)(やり)のような触手(しょくしゅ)が、(すさ)まじい速度(そくど)弘恵(ひろえ)めがけて()()さってきた。


弘恵(ひろえ)さん、(あぶ)ない!」


「っ……!」


 直撃(ちょくげき)瞬間(しゅんかん)弘恵(ひろえ)身代(みが)わりとなるように、()(てい)して()()んだのは(たちばな)翔平(しょうへい)だった。


 翔平(しょうへい)背中(せなか)にその(くろ)(やり)激突(げきとつ)し、(にぶ)衝撃音(しょうげきおん)(とも)(かれ)盛大(せいだい)()()ばされた。


翔平(しょうへい)――っ!」


 (みなと)絶叫(ぜっきょう)しながら翔平(しょうへい)(もと)へと()()る。


 翔平(しょうへい)地面(じめん)(たた)きつけられ、(くる)しそうにうめき(ごえ)()げると、そのまま意識(いしき)(うしな)ってピクリとも(うご)かなくなってしまった。


 背中(せなか)からは(わず)かに霊的(れいてき)(のろ)いが()()め、(かれ)呼吸(こきゅう)はみるみるうちに(あさ)くなっている。


翔平(しょうへい)! しっかりしろ、翔平(しょうへい)……!」


「……くっ、よくも……!」


 仲間(なかま)負傷(ふしょう)()()たりにした(みなと)(かお)に、(はげ)しい(いか)りと絶望(ぜつぼう)(かげ)()()じる。


 しかし、その(すき)()くように、今度(こんど)(みなと)足元(あしもと)から()()した(くろ)(どろ)のうねりが、(かれ)身体(からだ)一気(いっき)(から)()った。


「うわあ……っ!」


 (みなと)体制(たいせい)()(なお)()もなく、強力(きょうりょく)呪的(じゅてき)吸引力(きゅういんりょく)()きずり()まれ、地面(じめん)(つよ)()()けられた。


 祖父(そふ)から()()いだ御守(おまも)りの(ひかり)もここで完全(かんぜん)(くだ)()り、(みなと)(はげ)しい頭痛(ずつう)倦怠感(けんたいかん)(おそ)われて意識(いしき)(いと)()()られたようにその()(くず)()ちた。


(みなと)くんっ……!」


 弘恵(ひろえ)必死(ひっし)()()がり、(たお)()んだ(みなと)(かた)()()こそうとするが、彼女(かのじょ)自身(じしん)体力(たいりょく)もすでに(そこ)をつきかけていた。


 連続(れんぞく)する(はげ)しい戦闘(せんとう)と、圧倒的(あっとうてき)怨念(おんねん)重圧(じゅうあつ)が、神楽坂(かぐらざか)血筋(ちすじ)である彼女(かのじょ)精神(せいしん)をじわじわと(むしば)んでいたのだ。


「もう……これまでな……の……」


 弘恵(ひろえ)()から神楽鈴(かぐらすず)がポロリとこぼれ()ち、(くろ)岩肌(いわはだ)(かわ)いた(おと)()てた。


 彼女(かのじょ)(まも)っていた(しろ)聖域(せいいき)(ひかり)完全(かんぜん)()()り、周囲(しゅうい)(つつ)んでいた(やみ)津波(つなみ)のように二人(ふたり)意識(いしき)()()もうと(せま)ってくる。


弘恵(ひろえ)……!」


 一(しゅん)にして二人(ふたり)仲間(なかま)(たお)れ、そして弘恵(ひろえ)までもが(ちから)()きかけた光景(こうけい)()()たりにし、甲斐吽(かいうん)(こころ)怒涛(どとう)のような感情(かんじょう)渦巻(うずま)いた。


 だが、(かれ)(けっ)して絶望(ぜつぼう)(くっ)しはしない。


 むしろ、その(ひとみ)(おく)黄金色(こがねいろ)(かがや)きは、かつてないほど(はげ)しく、(くる)おしいほどの(ねつ)()びて()()がっていた。


「よくも……(わたし)仲間(なかま)たちを(きず)つけてくれたな」


 甲斐吽(かいうん)仕込(しこ)(づえ)(つか)両手(りょうて)でしっかりと(にぎ)(なお)し、(たお)れた弘恵(ひろえ)、そして気絶(きぜつ)した翔平(しょうへい)(みなと)背後(はいご)(かば)うようにして、一人(ひとり)巨大(きょだい)怨念(おんねん)化身(けしん)正面(しょうめん)へと(あゆ)()た。


 (てき)嘲笑(あざわら)うかのように、無数(むすう)触手(しょくしゅ)をさらに肥大化(ひだいか)させ、甲斐吽(かいうん)()(つぶ)さんとばかりに一斉(いっせい)(おそ)いかかる。


 だが、阿門(あもん)甲斐吽(かいうん)闘志(とうし)は、この絶望的(ぜつぼうてき)状況(じょうきょう)においてこそ、(もっと)(するど)()()まされていた。


 (すべ)ての防衛線(ぼうえいせん)(くず)()り、(だれ)もが()わりを予感(よかん)する極限(きょくげん)静寂(せいじゃく)(なか)、たった一人(ひとり)(やみ)()()かう甲斐吽(かいうん)反撃(はんげき)太刀(たち)が、(よる)(やみ)()いて(いま)まさに()()ろされようとしていた。






(だい)29()(かん)






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