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導きの灯り〜阿門甲斐吽〜  作者: 阿門 甲斐吽


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【第27話】水底の怨念


 鹿児島湾(かごしまわん)(くろ)(にご)った水面(すいめん)見据(みす)えた瞬間(しゅんかん)阿門(あもん)甲斐吽(かいうん)脳裏(のうり)に、この(みなみ)大地(だいち)歴史(れきし)(なか)(きざ)んできた幾多(いくた)傷跡(きずあと)(はげ)しく去来(きょらい)した。


 大正(たいしょう)()()きた桜島(さくらじま)のすさまじい大噴火(だいふんか)


 あるいは、古代(こだい)から(かた)()がれる隼人(はやと)たちの抵抗(ていこう)と、その血塗(ちぬ)られた鎮魂(ちんこん)歴史(れきし)


 その()度々(たびたび)鹿児島(かごしま)()()んできた大災害(だいさいがい)人々(ひとびと)悲劇(ひげき)は、(けっ)して(たん)なる偶然(ぐうぜん)自然現象(しぜんげんしょう)などではない。


 大地(だいち)(めぐ)霊脈(れいみゃく)(みだ)れと、(たみ)(こころ)巣食(すく)(おそ)れや(うら)みといった()のエネルギーが共鳴(きょうめい)し、蓄積(ちくせき)された(のろ)いが爆発(ばくはつ)した結果(けっか)にほかならなかった。


()てください、甲斐吽(かいうん)(さま)……。あの海底(かいてい)亀裂(きれつ)から()(のぼ)(よど)み、あれはまさに大正(たいしょう)大噴火(だいふんか)(おり)()()したマグマの(そこ)怨念(おんねん)(まった)(おな)気配(けはい)よ。(いにしえ)神話(しんわ)(かた)られる、海原(うなばら)(あら)ぶる(かみ)(ふたた)(いか)りに(くる)い、この(くに)(やみ)(しず)めようとしているわ」


 弘恵(ひろえ)神楽鈴(かぐらすず)(にぎ)()める(ゆび)(しろ)くさせながら、切迫(せっぱく)した(こえ)()げた。


 神話(しんわ)時代(じだい)(うみ)大地(だいち)()べる(かみ)(いか)りに()れたとき、世界(せかい)一度(いちど)その(かたち)(うしな)いかけたという。


 (いま)鹿児島湾(かごしまわん)海底(かいてい)()きているのは、まさにその再現(さいげん)だった。


 深海(しんかい)という人間(にんげん)(あし)(とど)かない領域(りょういき)(ひそ)元凶(げんきょう)直接(ちょくせつ)()(くだ)すことなど到底(とうてい)(かな)わない。


 だが、大地的(だいちてき)規模(きぼ)霊脈(れいみゃく)(みだ)れが地上(ちじょう)へと(ゆが)みを()()している以上(いじょう)、この岸壁(がんぺき)からその奔流(ほんりゅう)()(かえ)し、対抗(たいこう)するための(あし)がかりを(きず)くしかなかった。


「ああ。深海(しんかい)という()()相手(あいて)であっても、ここで(わたし)たちが退()くわけにはいかない。あの海底(かいてい)亀裂(きれつ)から(あふ)れる呪縛(じゅばく)()()るための足場(あしば)を、(わたし)たちの()()きずり()すぞ」


 甲斐吽(かいうん)仕込(しこ)(づえ)(つか)(つよ)(にぎ)()み、(きば)()(くろ)海面(かいめん)へと霊力(れいりょく)をぶつけた。


 (つぎ)瞬間(しゅんかん)怒濤(どとう)のような轟音(ごうおん)とともに海面(かいめん)()(ぷた)つに()れ、ドロドロとした(くろ)粘液(ねんえき)奔流(ほんりゅう)()()がった。


 それは数多(あまた)触手(しょくしゅ)()し、二人(ふたり)頭上(ずじょう)へと容赦(ようしゃ)なく(おそ)いかかる。


 過去(かこ)災害(さいがい)()っていった人々(ひとびと)絶望(ぜつぼう)記憶(きおく)が、(ひと)つの巨大(きょだい)(かげ)化身(けしん)となって海中(かいちゅう)から()()がってきたのだ。


(わたし)たちが退()けば、この(まち)もあの()悲劇(ひげき)()(まい)になるわ!」


 弘恵(ひろえ)()(ひるがえ)し、神楽鈴(かぐらすず)(はげ)しく()()らした。


 ジリリリッ! と夜気(やき)()()清浄(せいじょう)鈴音(すずね)が、空間(くうかん)()ちる(けが)れのエネルギーを(はげ)しく()(かえ)す。


 弘恵(ひろえ)(はな)(しろ)聖域(せいいき)(ひかり)は、まるで神話(しんわ)時代(じだい)(やみ)(はら)った(あめ)岩戸(いわと)(ひかり)(ごと)く、()()せる(くろ)触手(しょくしゅ)たちを根元(ねもと)から()(はら)っていった。


 しかし、深海(しんかい)(そこ)から()()()奔流(ほんりゅう)(おとろ)えることを()らない。


 (つぎ)から(つぎ)へと()()がる(かげ)()れに(たい)し、甲斐吽(かいうん)疾風(しっぷう)(ごと)()()み、仕込(しこ)(づえ)刀身(とうしん)(ひらめ)かせた。


化身(けしん)本体(ほんたい)深海(しんかい)(そこ)(ひそ)んでいようと、この地表(ちひょう)から呪脈(じゅみゃく)穿(うが)ち、決着(けっちゃく)をつけるための舞台(ぶたい)をこじ()けるのみ……!」


 甲斐吽(かいうん)気魄(きはく)黄金色(こがねいろ)(ひかり)となって刀身(とうしん)(つつ)()む。


 (かれ)剣技(けんぎ)(たん)なる物理的(ぶつりてき)斬撃(ざんげき)ではない。


 霧島(きりしま)から(なが)()本来(ほんらい)(きよ)らかな霊気(れいき)()()まし、深海(しんかい)へと逆流(ぎゃくりゅう)している(のろ)いの根源(こんげん)(あらが)うための神聖(しんせい)秘術(ひじゅつ)そのものだった。


 だが、(てき)もただ()(かえ)されるだけではなかった。


 深海(しんかい)(そこ)から渦巻(うずま)くようにせり()がった(くろ)潮騒(しおさい)は、さらなる密度(みつど)()して二人(ふたり)()()もうと(きば)()く。


 それはかつてこの()(おそ)った大災害(だいさいがい)記憶(きおく)そのものであり、人々(ひとびと)恐怖心(きょうふしん)直接(ちょくせつ)()さぶる心理的(しんりてき)呪縛(じゅばく)をも(ともな)っていた。


 足元(あしもと)がぐらりと()らぎ、意識(いしき)(そこ)から(つめ)たい(みず)()()せるような幻覚(げんかく)甲斐吽(かいうん)弘恵(ひろえ)精神(せいしん)(むしば)みにかかる。


()けないわ……! (わたし)たちの(うし)ろには、この(まち)()きる人々(ひとびと)(ぬく)もりがあるんだから!」


 弘恵(ひろえ)(みずか)らの指先(ゆびさき)()()め、その()(ちから)宿(やど)した神楽鈴(かぐらすず)をさらに(はげ)しく、全身全霊(ぜんしんぜんれい)()めて()()らした。


 その(きよ)らかな(ひび)きは、ただの音波(おんぱ)ではなく、神楽坂(かぐらざか)血脈(けつみゃく)代々(だいだい)()()いできた大地(だいち)鎮魂歌(ちんこんか)そのものだった。


 鈴音(すずね)呼応(こおう)するように、周囲(しゅうい)夜気(やき)(ねむ)っていた(かす)かな(ほし)(ひかり)幾筋(いくすじ)もの(ひかり)(いと)となって弘恵(ひろえ)背中(せなか)(ささ)える。


「そうだ。過去(かこ)悲劇(ひげき)(とら)われるのではなく、(わたし)たちが未来(みらい)()(ひら)く。()くぞ、弘恵(ひろえ)!」


 弘恵(ひろえ)(つく)()した神聖(しんせい)聖域(せいいき)爆発的(ばくはつてき)(ひろ)がりを足場(あしば)にして、甲斐吽(かいうん)(ちゅう)へと跳躍(ちょうやく)した。


 仕込(しこ)(づえ)刀身(とうしん)から(はな)たれた黄金(おうごん)(ひかり)が、夜空(よぞら)海面(かいめん)(つな)一本(いっぽん)巨大(きょだい)(ひかり)(はしら)(えが)()す。


 二人(ふたり)霊力(れいりょく)幾重(いくえ)にも(かさ)なり()い、海底(かいてい)亀裂(きれつ)へと直接(ちょくせつ)(なが)()んだその瞬間(しゅんかん)(はげ)しい地響(じひび)きとともに海面(かいめん)(おお)きく()()がった。


 轟音(ごうおん)()てて(なみ)()れ、甲斐吽(かいうん)弘恵(ひろえ)()っている埠頭(ふとう)沖合(おきあ)いに、禍々(まがまが)しいオーラを(まと)ったドス(ぐろ)鳥居(とりい)がそびえる(ひと)つの(しま)が、突如(とつじょ)として海面(かいめん)()(やぶ)隆起(りゅうき)した。


 その異様(いよう)(しま)出現(しゅつげん)呼応(こおう)するように、周囲(しゅうい)暗闇(くらやみ)から無数(むすう)(くろ)(かげ)──カラスの()れが一斉(いっせい)()()ち、夜空(よぞら)()()くすように不吉(ふきつ)()(ごえ)()げて(さわ)()す。


 (しま)中央(ちゅうおう)からは、()れる(もの)精神(せいしん)(くる)わせるほどのドス(ぐろ)怨念(おんねん)波動(はどう)容赦(ようしゃ)なく(あた)りに(はな)たれていた。


「あれが……深海(しんかい)元凶(げんきょう)地表(ちひょう)(つな)特異点(とくいてん)。あそこへ(わた)らなければ、本当(ほんとう)意味(いみ)でこの災厄(さいやく)()つことはできないわね」


 弘恵(ひろえ)(けわ)しい表情(ひょうじょう)隆起(りゅうき)した(しま)見据(みす)えると、甲斐吽(かいうん)もまた(しず)かに(うなず)き、二人(ふたり)はその(しま)へと(わた)ることを決意(けつい)した。


 しかし、その切迫(せっぱく)した状況(じょうきょう)(なか)背後(はいご)(やみ)()()くようにして二人(ふたり)見知(みし)った(もの)足音(あしおと)(ひび)いた。


 ()(かえ)ると、そこには不自然(ふしぜん)なほどの(みちび)きに()()せられるようにしてやってきた柏木(かしわぎ)(みなと)(たちばな)翔平(しょうへい)姿(すがた)があった。


甲斐吽(かいうん)さんもここに()ているってことはやっぱり(なに)かが()きてるんですね!……(おれ)たちも(まち)異変(いへん)気付(きづ)いてここに()たんです。(おれ)たちにも、(なに)協力(きょうりょく)させてください!」


 (みなと)(つよ)意志(いし)宿(やど)した(ひとみ)でまっすぐに(うった)えかける。


 翔平(しょうへい)もまた、その(となり)(かた)決意(けつい)()めて(こぶし)(にぎ)()めていた。


 これほどの危機的(ききてき)状況(じょうきょう)において、(かれ)らがここに(あらわ)れたのは偶然(ぐうぜん)などではない。


 すべては必然(ひつぜん)(みちび)きだった。


(みなと)翔平(しょうへい)……お(まえ)たち……」


危険(きけん)なのは()かっています。でも、(おれ)たちにだって(なに)役割(やくわり)があるはずです。あの(しま)()かなきゃならないんですよね!阿門(あもん)さん、あれを()てください……あそこに()るのは(おれ)(おや)所有(しょゆう)する(ふね)です。あれを使(つか)ってください!」


 (みなと)(ゆび)(しめ)した(さき)には、海沿(うみぞ)いの(ちい)さな桟橋(さんばし)(つな)がれていた頑丈(がんじょう)小型艇(こがたてい)があった。


 (ふる)くから(うみ)(かか)わる家系(かけい)であった(みなと)血筋(ちすじ)(ちな)むその(ふね)には、不思議(ふしぎ)禍々(まがまが)しい怨念(おんねん)波動(はどう)(はじ)(かす)かな神気(しんき)宿(やど)っている。


 すべてのピースが()(そろ)った。


 偶然(ぐうぜん)ではなく、必然(ひつぜん)(めぐ)()わせによって(つど)った四人(よにん)


 甲斐吽(かいうん)弘恵(ひろえ)、そして柏木(かしわぎ)(みなと)(たちばな)翔平(しょうへい)四人(よにん)は、(しず)かに視線(しせん)()わし()うと、隆起(りゅうき)した怨念(おんねん)(しま)へと()かう小型艇(こがたてい)へと()()んだ。






(だい)27()(かん)







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