↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
導きの灯り〜阿門甲斐吽〜  作者: 阿門 甲斐吽


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
26/40

【第26話】夜を裂く鈴音


 (ふる)びた木造家屋(もくぞうかおく)()()()にして一歩(いっぽ)()()した瞬間(しゅんかん)阿門(あもん)甲斐吽(かいうん)神楽坂(かぐらざか)弘恵(ひろえ)(はだ)を、尋常(じんじょう)ではない冷気(れいき)()びた初夏(しょか)夜風(よかぜ)()でた。


 普段(ふだん)であれば、静寂(せいじゃく)(つつ)まれているはずの天文館(てんもんかん)裏路地(うらろじ)は、異様(いよう)重圧(じゅうあつ)()ちていた。


 (そら)見上(みあ)げれば、満天(まんてん)星々(ほしぼし)(おお)(かく)すように、ドス(ぐろ)不気味(ぶきみ)(くも)のような禍々(まがまが)しいノイズがうねりを()げて(ひろ)がっている。


 (とお)くの夜空(よぞら)()こう――霧島(きりしま)峰々(みねみね)位置(いち)する(きた)方角(ほうがく)からも、かすかに地鳴(じな)りのような(ひく)振動(しんどう)(つた)わってきた。


()て、甲斐吽(かいうん)(さま)(そら)()完全(かんぜん)逆流(ぎゃくりゅう)しています」


 弘恵(ひろえ)(しろ)(しゅ)巫女装束(みこしょうぞく)(そで)(かぜ)(ひるがえ)し、(すこ)切迫(せっぱく)した(こえ)()げた。


 その()にはすでに神楽鈴(かぐらすず)(にぎ)られており、彼女(かのじょ)(かる)手首(てくび)()ると、チリリンと(きよ)らかな金属音(きんぞくおん)(よる)(やみ)(ひび)(わた)った。


 その(すず)()(ひろ)がる半径(はんけい)(すう)メートルだけは、まとわりつくような(くろ)(よど)みが綺麗(きれい)(はら)()とされる。


 しかし、その外側(そとがわ)では、ドロドロとした(くろ)気配(けはい)がまるで()(もの)のようにうねり、二人(ふたり)威嚇(いかく)するように(うごめ)いていた。


「ああ。(わたし)たちの(うご)きを察知(さっち)した何者(なにもの)かが、この周辺(しゅうへん)空間(くうかん)そのものを(ゆが)ませ、目的地(もくてきち)への(みち)(ふさ)ごうとしている。」


 甲斐吽(かいうん)代々(だいだい)(つた)わる仕込(しこ)(づえ)(つか)()をかけ、いつでも抜刀(ばっとう)できるように身構(みがま)えた。


 (さき)ほど青銅製(せいどうせい)(うつわ)水鏡(みずかがみ)(みちび)()した目的地(もくてきち)――鹿児島湾(かごしまわん)海底(かいてい)へと(つづ)地層(ちそう)亀裂(きれつ)ポイントへ()かうには、天文館(てんもんかん)から海岸線(かいがんせん)にかけて()(めぐ)らされた「()結界網(けっかいもう)」を突破(とっぱ)しなければならない。


 二人(ふたり)(なら)んで路地裏(ろじうら)()け、大通(おおどお)りへと()た。


 街灯(がいとう)()かりはともっているものの、(よる)(まち)には(ひと)気配(けはい)(まった)くなかった。


 いや、正確(せいかく)には、人々(ひとびと)(とお)りのあちこちに(ふさ)()(ふか)悪夢(あくむ)幻聴(げんちょう)にうなされ、意識(いしき)(そこ)(くろ)潮騒(しおさい)(とら)われているのだ。


 (まち)全体(ぜんたい)が、巨大(きょだい)災厄(さいやく)(わな)(そこ)(しず)められているような状態(じょうたい)だった。


()をつけて、甲斐吽(かいうん)(さま)()るわ!」


 弘恵(ひろえ)警告(けいこく)同時(どうじ)に、前方(ぜんぽう)空間(くうかん)がまるで水面(すいめん)のようにぐにゃりと(ゆが)んだ。


 アスファルトの路面(ろめん)から、ドロドロとした(くろ)粘液(ねんえき)()()し、それが(またた)()人間(にんげん)(かたち)をした(いびつ)(かげ)()れへと変化(へんか)していく。


 外山(とやま)弘樹(ひろき)目撃(もくげき)した「(うみ)から()()がる(かげ)」の縮図(しゅくず)が、この市街地(しがいち)()(なか)出現(しゅつげん)したのだ。


 数十体(すうじったい)もの(くろ)(かげ)が、(ひとみ)のない(うつ)ろな視線(しせん)二人(ふたり)()け、一斉(いっせい)奇怪(きかい)なうめき(ごえ)()げながら(おそ)いかかってきた。


雑魚(ざこ)()れか……! だが、ここで足止(あしど)めを()らうわけにはいかない!」


 甲斐吽(かいうん)仕込(しこ)(づえ)(さや)(はら)い、一気(いっき)刀身(とうしん)()(はな)った。


 刀身(とうしん)にはあらかじめ仕込(しこ)まれた破邪(はじゃ)真言(しんごん)(きざ)まれており、(かれ)(つよ)霊力(れいりょく)(そそ)()まれると、(まばゆ)黄金色(こがねいろ)(ひかり)()びて(するど)(かがや)いた。


 甲斐吽(かいうん)疾風(しっぷう)のような()()みで最初(さいしょ)(かげ)()れへと肉薄(にくはく)し、一閃(いっせん)(もと)へと()()せた。


 物理的(ぶつりてき)実体(じったい)()たないはずの常世(とこよ)(かげ)であっても、阿門家(あもんけ)秘伝(ひでん)剣術(けんじゅつ)精製(せいせい)された霊力(れいりょく)(まえ)には(あらが)えず、黄金(おうごん)(ひかり)()びた瞬間(しゅんかん)(くろ)(けむり)となって霧散(むさん)していく。


(うし)ろは(まか)せて、甲斐吽(かいうん)(さま)!」


 背後(はいご)から(おそ)いかかろうとした(べつ)(かげ)()れに(たい)し、弘恵(ひろえ)素早(すばや)(ひるがえ)り、神楽鈴(かぐらすず)(はげ)しく()()らした。


 ジリリリッ! と、(さき)ほどよりも(するど)(たか)清浄(せいじょう)(おと)夜気(やき)()()く。


 神楽坂(かぐらざか)血脈(けつみゃく)(つた)わる神楽(かぐら)波動(はどう)は、邪悪(じゃあく)(けが)れのエネルギーを根本(こんぽん)から浄化(じょうか)する強烈(きょうれつ)(ちから)()っていた。


 弘恵(ひろえ)周囲(しゅうい)(ひろ)がる(しろ)聖域(せいいき)()れた(くろ)(かげ)たちは、まるで熱湯(ねっとう)()れた(ゆき)のように(あわ)()てて消滅(しょうめつ)していく。


 甲斐吽(かいうん)(けん)物理的(ぶつりてき)かつ呪術的(じゅじゅつてき)(てき)両断(りょうだん)し、神楽坂(かぐらざか)鈴音(すずね)周囲(しゅうい)空間(くうかん)(きよ)浄化(じょうか)する。


 二人(ふたり)(いき)(おどろ)くほど完璧(かんぺき)合致(がっち)しており、無数(むすう)(かげ)(なみ)のように()()せても、その(あゆ)みが()まることはなかった。


「さすがね、甲斐吽(かいうん)(さま)相変(あいか)わらず見事(みごと)太刀筋(たちすじ)だわ」


油断(ゆだん)するなよ、弘恵(ひろえ)。これはまだ序盤(じょばん)迎撃(げいげき)にすぎない。(てき)本体(ほんたい)は、もっと(ふか)場所(ばしょ)――あの(うみ)(そこ)(わたし)たちを()(かま)えている」


 (てき)(かず)()っていくのを確認(かくにん)し、二人(ふたり)はさらに(あし)(はや)めた。


 天文館(てんもんかん)街並(まちな)みを()け、いよいよ視界(しかい)(さき)鹿児島湾(かごしまわん)(くろ)(つめ)たい水面(すいめん)()えてきた。


 潮風(しおかぜ)()って(ただよ)ってきたのは、ただの(いそ)(かお)りではない。


 (てつ)(どろ)と、そして底知(そこし)れぬ古代(こだい)絶望(ぜつぼう)()()じった、(はな)をつくような禍々(まがまが)しい(よど)みの(にお)いだった。


 岸壁(がんぺき)(ちか)づくにつれて、空間(くうかん)(ゆが)みはさらに(はげ)しさを()していった。


 (そら)(ひろ)がる(くろ)(くも)(うず)(ひと)つの巨大(きょだい)中心点(ちゅうしんてん)()かって収束(しゅうそく)し、まるで地獄(じごく)へと(つづ)大穴(おおあな)()けているかのように、海面(かいめん)(はげ)しく逆巻(さかま)いている。


「あそこが……星辰(せいしん)(みちび)きが(しめ)した亀裂(きれつ)場所(ばしょ)ね、甲斐吽(かいうん)(さま)


 弘恵(ひろえ)神楽鈴(かぐらすず)をしっかりと(にぎ)()め、(けわ)しい表情(ひょうじょう)(うみ)一点(いってん)()(しめ)した。


 岸壁(がんぺき)のすぐ足元(あしもと)普段(ふだん)(おだ)やかな(なみ)()()せるはずの海面(かいめん)が、(しん)じられないことに()(くろ)粘液(ねんえき)(おお)われ、グツグツと()(かえ)るように(あわ)()てていた。


 その中央(ちゅうおう)から、さらに巨大(きょだい)で、人間(にんげん)とは比較(ひかく)にならないほど(いびつ)な「(なに)か」の気配(けはい)が、水面(すいめん)()()げて()()がろうとしている。


 鹿児島(かごしま)全体(ぜんたい)()()(くろ)潮騒(しおさい)核心(かくしん)


 その(しん)脅威(きょうい)が、(いま)まさに姿(すがた)(あらわ)そうとしていた。


 背後(はいご)には(まも)るべき(まち)があり、前方(ぜんぽう)には世界(せかい)()るがす(やみ)源流(げんりゅう)がある。


 ()()のない極限(きょくげん)状況(じょうきょう)(なか)阿門(あもん)甲斐吽(かいうん)脳裏(のうり)にある記憶(きおく)(よみが)える。





(だい)26()(かん)







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。