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導きの灯り〜阿門甲斐吽〜  作者: 阿門 甲斐吽


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【第24話】血脈に刻まれし伝承


 外山(とやま)弘樹(ひろき)()()んだ恐怖(きょうふ)余韻(よいん)が、薄暗(うすぐら)部屋(へや)隅々(すみずみ)にまだ(おも)(よど)んでいた。


 阿門(あもん)甲斐吽(かいうん)は、円卓(えんたく)(うえ)()らばったタロットカードを一枚(いちまい)ずつ(しず)かに回収(かいしゅう)しながら、壁際(かべぎわ)()けられた(すす)けた古文書(こもんじょ)(たば)へと視線(しせん)(はし)らせた。その双眸(そうぼう)には、突然(とつぜん)異変(いへん)(たい)する動揺(どうよう)(いろ)一切(いっさい)なく、むしろ「ついにその(とき)()た」という(しず)かな覚悟(かくご)(いろ)宿(やど)っている。


「……やはり、祖父(そふ)(のこ)したあの警告(けいこく)(とお)りだな」


 甲斐吽(かいうん)(ひく)(ひと)(ごと)(つぶや)きながら、(ふる)びた()(もの)古文書(こもんじょ)をゆっくりと手繰(たぐ)()せた。


 ()ばんだ和紙(わし)には、幾世代(いくせだい)にもわたって()()がれた呪文(じゅもん)や、南九州(みなみきゅうしゅう)地図(ちず)(きざ)まれた霊的(れいてき)結界(けっかい)要所(ようしょ)(こま)かく(しる)されている。


 阿門(あもん)一族(いちぞく)は、代々(だいだい)この南九州(みなみきゅうしゅう)()において、()()えない(ことわり)均衡(きんこう)(かげ)ながら守護(しゅご)してきた血脈(けつみゃく)であった。


 天孫降臨(てんそんこうりん)()として()られる霧島(きりしま)峰々(みねみね)から、(みなみ)海洋(かいよう)へと(つづ)広大(こうだい)霊的(れいてき)ネットワーク。


 その要所要所(ようしょようしょ)(ほどこ)された封印(ふういん)結界(けっかい)(やぶ)られたとき、世界(せかい)(なに)()きるのか。


 甲斐吽(かいうん)(おさな)(ころ)から、先祖代々(せんぞだいだい)(つた)わる厳重(げんじゅう)()(つた)えとしてそのすべてを(たた)()まれていた。


 代々(だいだい)当主(とうしゅ)たちが(くち)(そろ)えて(かた)っていたのは、鹿児島(かごしま)という土地(とち)特殊性(とくしゅせい)だった。


 この()は、神話(しんわ)時代(じだい)から神々(かみがみ)(ひと)ならざるものが交錯(こうさく)する神聖(しんせい)領域(りょういき)であると同時(どうじ)に、ひとたびその均衡(きんこう)(くず)れれば、底知(そこし)れぬ禍々(まがまが)しいエネルギーが()()危険(きけん)な「地層(ちそう)急所(きゅうしょ)」でもあるのだと。


(うみ)(おお)(くろ)潮騒(しおさい)、そして神話(しんわ)結界(けっかい)のほころび……。これは(たん)なる妖怪(ようかい)(たぐい)や、個人(こじん)因果(いんが)(ゆが)みなどではない。この大地(だいち)(そこ)(ねむ)る、かつての巨大(きょだい)災厄(さいやく)記憶(きおく)そのものが、現代(げんだい)(ゆが)みと共鳴(きょうめい)して()()まそうとしているのだ)


 甲斐吽(かいうん)数珠(じゅず)()()(ちから)()めた。


 先祖(せんぞ)たちもまた、幾度(いくど)となく(おとず)れる時代(じだい)危機(きき)において、(いのち)()けてこの()(ことわり)(ただ)してきた。


 その血脈(けつみゃく)()()(もの)として、(いま)ここで自分(じぶん)退()くわけにはいかない。


「しかし、今回(こんかい)異変(いへん)はこれまでの(だい)のどの記録(きろく)とも(ちが)う。霧島(きりしま)(みね)から(ひろ)がる霊的(れいてき)(あみ)()が、何者(なにもの)かによって意図的(いとてき)()()られている……」


 甲斐吽(かいうん)眉間(みけん)()せ、さらに思考(しこう)(めぐ)らせた。このままでは、鹿児島湾(かごしまわん)から()()がる(くろ)潮騒(しおさい)はやがて市街地(しがいち)()()み、やがては南九州(みなみきゅうしゅう)全体(ぜんたい)結界(けっかい)崩壊(ほうかい)させるだろう。


 そして、その(さき)には――かつてこの大地(だいち)()()くした、歴史(れきし)(ふか)くに(かく)された「あの災厄(さいやく)」の記憶(きおく)が、霊的(れいてき)次元(じげん)(ふたた)現実(げんじつ)侵食(しんしょく)(はじ)めるかもしれない。


 先祖(せんぞ)から()(およ)んでいた最悪(さいあく)のシナリオが、着実(ちゃくじつ)現実(げんじつ)(かたち)をとって(うご)()していた。


 たった一人(ひとり)でこの巨大(きょだい)災厄(さいやく)重荷(おもに)背負(せお)うには、あまりにも相手(あいて)規模(きぼ)(おお)きすぎた。


 だが、(かれ)孤独(こどく)(たたか)いを覚悟(かくご)したその瞬間(しゅんかん)部屋(へや)(おも)空気(くうき)()()くように、(そと)路地裏(ろじうら)から(りん)とした、しかし焦燥(しょうそう)()びた足音(あしおと)(ちか)づいてきた。


 トントン、と()(たた)(おと)ではなく、(まよ)うことなく()()(いきお)いよく()(はな)たれた。


甲斐吽(かいうん)(さま)! やはり、ここにいたのですね!」


 ()()んできたのは、(つや)やかな黒髪(くろかみ)(ひと)つに(むす)び、(しろ)(しゅ)巫女装束(みこしょうぞく)(すそ)(かぜ)(ひるがえ)した一人(ひとり)女性(じょせい)だった。


 その顔立(かおだ)ちは気高(けだか)(うつく)しいが、(いま)切迫(せっぱく)した緊張(きんちょう)(いろ)()ちている。


 彼女(かのじょ)名前(なまえ)は、神楽坂(かぐらざか)弘恵(ひろえ)


 天孫降臨(てんそんこうりん)()霧島(きりしま)(ふもと)(ふる)くから鎮座(ちんざ)し、阿門(あもん)()とともに南九州(みなみきゅうしゅう)神聖(しんせい)結界(けっかい)守護(しゅご)(つづ)けてきた「神楽坂寺家(かぐらざかけ)」の現当主(げんとうしゅ)一人娘(ひとりむすめ)であり、甲斐吽(かいうん)許嫁(いいなずけ)でもある女性(じょせい)だった。


弘恵(ひろえ)……どうして(きみ)がここに?」


 甲斐吽(かいうん)(おどろ)戸惑(とまど)うのも無理(むり)はなかった。


 神楽坂(かぐらざか)()()彼女(かのじょ)本来(ほんらい)霧島(きりしま)霊地(れいち)(はな)れることが(ゆる)されていない()であるはずなのだ。


「そんなこと、()かなくても()かっているのでしょう! 霧島(きりしま)峰々(みねみね)()(めぐ)らせていた(わたし)たちの結界(けっかい)が、昨夜(さくや)から次々(つぎつぎ)(くろ)(よど)みに()()られているのよ。神域(しんいき)神々(かみがみ)(ねむ)地層(ちそう)奥底(おくそこ)から、尋常(じんじょう)ならざる()波動(はどう)鹿児島湾(かごしまわん)()かって(なが)()しているわ。阿門(あもん)()()くあなたなら、この異常(いじょう)()づいていないはずがないと(おも)って()けつけたのよ!」


 弘恵(ひろえ)(いき)はわずかに(はず)んでおり、彼女(かのじょ)自身(じしん)神域(しんいき)維持(いじ)全力(ぜんりょく)(そそ)いだ直後(ちょくご)であることが(うかが)えた。


 その()には、神楽鈴(かぐらすず)強力(きょうりょく)破邪(はじゃ)(ちから)宿(やど)神剣(しんけん)(つか)がしっかりと(にぎ)りしめられている。


(きみ)までこの(まち)危険(きけん)()()んでくるとはな……。だが、(たす)かる。今回(こんかい)(よど)みは、これまでの因果(いんが)(ゆが)みとは次元(じげん)(ちが)う。(わたし)一人(ひとり)では、すべての結界(けっかい)のほころびを修復(しゅうふく)しきれなかったかもしれない」


 甲斐吽(かいうん)言葉(ことば)に、弘恵(ひろえ)はふっとわずかに(やわ)らかな()みを()かべ、しかしすぐに真剣(しんけん)眼差(まなざ)しへと(もど)した。


水臭(みずくさ)いことを()わないで。(わたし)たちは代々(だいだい)阿門(あもん)神楽坂(かぐらざか)両輪(りょうりん)でこの(みなみ)()(まも)ってきたのだから。あなたが一人(ひとり)背負(せお)()もうなんて(おも)ったら、(わたし)(ゆる)さないわ」


 二人(ふたり)血脈(けつみゃく)(まじ)わるとき、(うしな)われかけていた神話(しんわ)結界(けっかい)()(なお)すための強力(きょうりょく)(きずな)()まれる。


 弘恵(ひろえ)加勢(かせい)()たことで、甲斐吽(かいうん)背負(せお)重圧(じゅうあつ)(たし)かな決意(けつい)へと()わった。


()かった。時間(じかん)はない。霧島(きりしま)神域(しんいき)鹿児島湾(かごしまわん)(つな)霊的(れいてき)動脈(どうみゃく)完全(かんぜん)()()られる(まえ)に、(わたし)たちの()でその(みなもと)()つ。準備(じゅんび)はいいな、弘恵(ひろえ)


「いつだってできています。()きましょう、甲斐吽(かいうん)(さま)!」


 一人(ひとり)から二人(ふたり)へ。


 血脈(けつみゃく)(きざ)まれた伝承(でんしょう)()()(もの)たちが()()()い、鹿児島(かごしま)全体(ぜんたい)()()もうとする(くろ)潮騒(しおさい)()()かうための、本当(ほんとう)(たたか)いが(いま)(まく)()けた。






(だい) 24()(かん)







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