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導きの灯り〜阿門甲斐吽〜  作者: 阿門 甲斐吽


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【第16話】歪む街の追憶


 まばゆい青白(あおじろ)閃光(せんこう)視界(しかい)()()くした瞬間(しゅんかん)(はげ)しい耳鳴(みみな)りとともに、(あたま)(しん)がぐらりと()さぶられた。


 足元(あしもと)にあったはずの(ふる)木造家屋(もくぞうかおく)床板(ゆかいた)感触(かんしょく)()()せ、()わりに皮膚(ひふ)()すのは、湿(しめ)()()びた(おも)たい夜気(やき)と、どこか(すす)けたアスファルトの(つめ)たさだった。


「……っ、なんだ……ここは……?」


 柏木(かしわぎ)(みなと)(あら)(いき)()きながら身体(からだ)()こすと、そこは(さき)ほどの路地裏(ろじうら)とは()ても()つかない、しかし見覚(みおぼ)えのあるような、どこか(ゆが)んだ景色(けしき)(ひろ)がる空間(くうかん)だった。


 街灯(がいとう)(ひかり)黄色(きいろ)(にご)り、(とお)りを()()人々(ひとびと)姿(すがた)はどこか(かげ)のようにぼやけている。


 そして(とお)くに()えるはずの桜島(さくらじま)のシルエットは、不気味(ぶきみ)なほど(くろ)く、まるで巨大(きょだい)(かべ)のように(そび)()っていた。


「ここは、鹿児島市内(かごしましない)の……しかし、(いま)時代(じだい)ではないな」


 (ひく)(こえ)(つぶや)きながら()()がったのは、阿門(あもん)甲斐吽(かいうん)だった。


 その(くろ)(ころも)(しず)まり(かえ)った(やみ)()()み、周囲(しゅうい)異質(いしつ)気配(けはい)(するど)眼光(がんこう)見据(みす)えている。


阿門(あもん)さん、それに……一体(いったい)(なに)()きたんだよここは!」


 (すこ)(はな)れた場所(ばしょ)から、(たちばな)翔平(しょうへい)戸惑(とまど)いながら()()がり、周囲(しゅうい)景色(けしき)見回(みまわ)して(いき)()んだ。


 翔平(しょうへい)元々(もともと)相談者(そうだんしゃ)としてこの()居合(いあ)わせたはずが、(みなと)()()まれる(かたち)で、時空(じくう)(ゆが)みの中心(ちゅうしん)へと()きずり()まれてしまったのだ。


(わたし)たちが(あし)()()れたのは、柏木(かしわぎ)(みなと)祖父(そふ)がかつて()き、そして(おお)きな選択(せんたく)(あやま)った『過去(かこ)記憶(きおく)残骸(ざんがい)』が(おり)となって渦巻(うずま)世界(せかい)です。現実(げんじつ)時空(じくう)から()(はな)された、因果(いんが)迷宮(めいきゅう)()ってもいい」


 甲斐吽(かいうん)冷静(れいせい)状況(じょうきょう)分析(ぶんせき)しながら、懐中時計(かいちゅうどけい)(ひかり)(はな)(つづ)ける(みなと)視線(しせん)()けた。


(おれ)祖父(そふ)の……過去(かこ)記憶(きおく)、だと? どういうことだよ。(おれ)のじいさんは普通(ふつう)職人(しょくにん)だったはずだ。こんなおかしな世界(せかい)(かか)わっていたなんて()いたこともない!」


 (みなと)(しん)じられないといった面持(おもも)ちで(こえ)(あら)げたが、その()(にぎ)られた懐中時計(かいちゅうどけい)(はり)は、相変(あいか)わらず不気味(ぶきみ)なスピードで逆回転(ぎゃくかいてん)(つづ)けている。


 時計(とけい)(ひかり)脈打(みゃくう)つたびに、周囲(しゅうい)景色(けしき)波打(なみう)つようにゆがみ、(とお)くから何者(なにもの)かの足音(あしおと)や、()(ころ)したような(はな)(ごえ)()こえてくるような錯覚(さっかく)(おそ)われた。


祖父(そふ)(かく)した秘密(ひみつ)、そして(かれ)がこの(まち)()たせなかった『やり(なお)しの選択(せんたく)』。それがこの時計(とけい)(きざ)まれている。それを()きほぐさなければ、あなたも、そしてこの(まち)現在(げんざい)も、永遠(えいえん)にその(ゆが)みから(のが)れることはできません」


 甲斐吽(かいうん)言葉(ことば)に、(みなと)はぐっと()()いしばった。


恐怖心(きょうふしん)()えていないが、自分(じぶん)背負(せお)()んでしまった因果(いんが)(おも)さが、()()(ふさ)いでいることを本能(ほんのう)理解(りかい)していた。


「……()かったよ。やるしかないんだろ、この過去(かこ)(まぼろし)とやらに()()えばいいんだろう!」


 (みなと)覚悟(かくご)()めたように(さけ)んだその(とき)(にご)った街灯(がいとう)(ひかり)()こうから、一筋(ひとすじ)人影(ひとかげ)がすうっと姿(すがた)(あらわ)した。


 (ふる)びた作業着(さぎょうぎ)()(つつ)み、疲労(ひろう)(いろ)()くにじんだ(かお)をした初老(しょろう)(おとこ)


 その()には、(みなと)(いま)(にぎ)りしめているものと(まった)(おな)じ、しかし(ひかり)(うしな)った(ふる)懐中時計(かいちゅうどけい)(にぎ)られていた。


「……あれは……祖父(そふ)……なのか?」


 (みなと)(こえ)(ふる)える。


 ()(まえ)(あらわ)れた(おとこ)姿(すがた)は、(みなと)記憶(きおく)にある晩年(ばんねん)祖父(そふ)よりもはるかに(わか)く、しかしその表情(ひょうじょう)には、すべてを(あきら)めかけたような絶望的(ぜつぼうてき)(くら)さが(ただよ)っていた。


柏木(かしわぎ)……お(まえ)(えら)んだその(みち)は、本当(ほんとう)(ただ)しかったのか……?」


 幻影(げんえい)祖父(そふ)が、(だれ)とも()れぬ(だれ)かに()かって、あるいは自分自身(じぶんじしん)()けて、(かす)れた(こえ)(つぶや)く。


 その言葉(ことば)(はっ)せられた瞬間(しゅんかん)周囲(しゅうい)空間(くうかん)温度(おんど)急激(きゅうげき)低下(ていか)し、(つめ)たい(かぜ)()()けた。


過去(かこ)記憶(きおく)が、あの()後悔(こうかい)再現(さいげん)しようとしています。(みなと)、あの(おとこ)過去(かこ)選択(せんたく)(あやま)った瞬間(しゅんかん)放置(ほうち)すれば、その因果(いんが)現在(げんざい)のあなたを()()み、すべてを()かったことにしてしまうでしょう」


 甲斐吽(かいうん)(するど)警告(けいこく)(はっ)する。


 翔平(しょうへい)(みなと)(かた)にそっと()()き、力強(ちからづよ)くうなずいた。


柏木(かしわぎ)さん、()げちゃダメだ。あの(ひと)(かか)えた後悔(こうかい)正体(しょうたい)()()めて、あんたがその連鎖(れんさ)()()るんだ!」


 (みなと)(ふか)(いき)()()み、()(まえ)()祖父(そふ)幻影(げんえい)へと一歩(いっぽ)、また一歩(いっぽ)(あゆ)()した。


 懐中時計(かいちゅうどけい)青白(あおじろ)(ひかり)が、まるで(かれ)背中(せなか)()すように(はげ)しく明滅(めいめつ)()(かえ)す。


 (ゆが)んだ時間(じかん)迷宮(めいきゅう)(なか)で、過去(かこ)亡霊(ぼうれい)現代(げんだい)青年(せいねん)対峙(たいじ)する。


 鹿児島(かごしま)()るがす時空(じくう)試練(しれん)は、(いま)まさに(もっと)(ふか)核心(かくしん)へと突入(とつにゅう)しようとしていた。






(だい)16()(かん)








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