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それからふたりは、体を動かそうと努力した。仮死状態にあるだけに、体の感覚がまったくない。だから、それぞれが自分の体を頭のなかに思い描き、想像のなかの足や手の先を動かそうと試みた。
そうしている間、ふたりは現状に至るまでの互いの情報交換をした。ティアはどうして自分がこんな境遇に置かれているかを。怜は、自分が意識を取り戻す前のことを話した。
それ以外にも、ふたりはさまざまなことを話し、互いの属する未知の世界について知っていった。
ティアは、レイの世界には魔法がなくても、便利な道具が魔法同然の働きをするのだと知った。そして、レイには自分と同じく十四歳――仮死状態になる前の年齢ではあるが――の、リンという妹がいるのも聞いた。
怜は、ティアが自分より二歳下で、ティアの世界が自分の暮らす世界とまったく異なることを多く学んでいった。
*
〝レイのお父さんとお母さんはどんな人?〟
『そうだな……どちらかというと、お父さんはおっとりしていて、いつもお母さんに振り回されてる感じかな。とにかく、おれのお母さんはほがらかだし元気で、いつも家族を引っ張っていってくれる人なんだ』
太陽のように明るい母親を思い出すだけで、怜は寂しくなってくる。
『おれの意識がティアのなかにあるってことは、きっとおれの体は目覚めてないんだろうな。きっとお母さん、心配してる……』
怜の気持ちは沈んだ。もちろん、父親や凛も心配しているだろうが、母親の心労はそれの比ではないだろう。
『おれのお母さんも、土砂に埋もれたことがあるんだ』
〝え?〟
『おれは崖から落ちて土砂に埋もれたんだろうけど、お母さんは大雨で土砂崩れが起きて、家ごと土砂に埋まってしまったことがあるんだ』
幼いころ、母親に聞いたことを思い出す。
〝お母さんは大丈夫だったの?〟
『ううん、ちっとも大丈夫じゃなかった。お母さん以外の家族は全員亡くなって、お母さんも発見されたときは心肺停止状態だったんだって。そんなお母さんを見つけたのが、お父さんだったんだ』
怜の父親は消防士で、レスキュー隊の一員だ。きっとティアの世界に消防士なんて存在しないだろうから、どう説明すればいいんだろう。
『おれのお父さんは――なんというか、人を助ける仕事をしていて』
〝人を助ける? 騎士みたいな感じかしら?〟
騎士? なんだかファンタジーな世界みたいだ。
『騎士みたいに戦ったりはしないけど、そうだね、そんな感じかな』
そういうことにしておこう。
『それで、自分が助けたお母さんが気になって、たまたまお母さんが入院している病院に行く用事があった際、病室に顔を出したんだって。それで、目覚めたお母さんの記憶がすべて失われてしまったと知ったらしい。おれのお母さんは、その土砂崩れで、家族も記憶も失ってしまったんだ。お父さんは、そんなお母さんを支えたいと思っているうちに、恋に落ちたみたいだよ』
〝レイのお母さんは……とても大変な思いをしたんでしょうね〟
『おれたち家族に大変さは見せないけど、きっと心のなかでは今も複雑な思いを抱えていると思う。失った記憶を取り戻せないもどかしさもあるだろうから。そんなお母さんと同じように、もしおれが土砂崩れに巻き込まれて目覚めてないんだとしたら、早く意識を取り戻して安心させてあげないと』
今後、自分がどうなるかまったくわからず、二度と家族に会えなかったらどうしようと、不安にも襲われる。けれど、ここで折れてしまったら駄目だ。前向きになろうと、怜は自分を奮い立たせる。
『ティアのご両親はどんな人たちなんだ? きょうだいはいるの?』
〝四歳のときに魔法協会に売られてしまったから、あまりよく覚えてないの。でも、姉と弟がいたことだけは覚えてる〟
売られた、という言葉に、怜は驚いた。
『ご、ごめん……。答えづらいことを聞いちゃったみたいで』
〝ううん、気にしないで。うちは貧しかったから、魔力量の多いわたしを売ることで、家族の暮らしも少しはラクになったはずだし、わたしも実家にいたときよりもずっといい生活を遅れるようになったから。一日三食ご飯も出たし、自分専用のベッドももらえた。それに、魔法協会に入れば、将来の働き口も見つけやすいし……といっても、いまはこんな状況だけど〟
妹と同じ年であるというのに、ティアはとても苦労してきたようだ。妹の凛が考えることなんて、大好きなアイドルについてや、友達とどこに遊びに行くかなど、いたってお気楽なことばかりなのだから。
それに引き換え、ティアは幼くして背負っているものが違う。なんとしてでも、いまの状況から脱却させてあげなければと、怜は考えた。それには、この世界の知識を身につける必要がある。
思いつくかぎりのことを、怜はティアに質問した。そして、ティアも同じように、怜に質問を投げかけた。
『じゃあ、この世界で遠くに移動するときには、基本、徒歩や馬、それに馬車を使うの?』
〝そうよ。飛行魔法もあるけど、魔力消費量が多いから長距離移動には向かないわ。転移陣での移動もあるけど、それは行く先に陣が用意されていないと無理ね。あとは、ちょっと危険だけど、大型の魔物を使役して足代わりにする方法もある。それにしても、レイの世界にあるという、機械仕掛けの乗り物なんて想像できない。わたしたちの世界にある機械といえば、レイの世界にある『全自動』ではなく、『ゼンマイ仕掛け』や『人力』だもの〟
『想像できないのは、ぼくのほうだよ。魔法とか魔物とか、まるでゲームの世界みたいだ』
〝ゲーム?〟
『うん、別世界を体験する一種の遊びだよ』
ティアの話してくれることは、まるでファンタジーRPGの世界のようだ。アウトドア派の怜はほとんどゲームの経験がないけれど、クラスの友人から聞いたゲームの世界観が、ティアの話してくれたこの世界の様子に近い気がする。
剣に魔法。それに魔物──ドラゴンまで、この世界にはいるらしい。もっとも、ドラゴン遭遇率はかなり低く、ティアも見たことはないそうだ。
体が動かないことや、自分がいったいどうなってしまったのかという不安や心配はある。けれど、ティアのおかげで、怜はそこまで心細い思いをすることはなかった。それに、住む世界は異なるのに、こうして言葉が通じるのもありがたい。
自分の意識がティアのなかに入りこんだことで、言語の違いという壁が取り払われたのだとしたら、体が動くようになったときにはどうなるのだろう。そもそも、自分の体はここに存在しない。あるのはティアの体だ。だったら、自分の意識はどうなってしまうのだろうか。
『ティア……もし体が動くようになったら、おれはどうなると思う?』
不安のまま口にする。
〝わからないけど……レイが不安に思うのも当然ね。目覚めたら知らない世界だったうえに、自分の体以外に魂が入りこんでしまったんだもの。体が動くようになったら、すぐにあなたの体がどうなっているかを調べるわ。それで、何かわかったらこれからどうするかを相談しましょう。安心して、わたしはあなたを絶対に見捨てないから〟
『うん。ありがとう、ティア』
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もう1話分更新するので、そちらもご覧いただけると嬉しいです




