第18話 受験校決定
十二月の予備校は、進路の話がもう調査票の段階ではなくなっていた。
志望理由を書く時期は終わり、共通テストまでの日数を数える時期に入っている。個別面談の予定表にも、「併願校最終確認」という文字が並んでいた。
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面談室で、路沙の担当講師は模試の推移を一通り確認したあと、成績表の端を指でなぞった。
「東大は本命のまま。併願は、早慶明で組みましょう」
「明治、ですか」
「ええ。文系なら手堅い併願です」
路沙は少し黙ってから言った。
「明治はカラーが違うので、上智にしたいんですけど」
講師が顔を上げる。
「上智ね。理由は?」
「……ずっと御ミサにイグナチオに行ったりしてたし、自分に合ってる気がして」
うまく説明できなかった。雙葉の卒業生には上智へ進む先輩も多い。カトリック系という共通点のせいなのか、それとも別の理由なのか、路沙自身にもまだよくわかっていなかった。
「悪くはないけど、上智は年によって難易度が跳ねるから、明治や立教より安全校としては弱くなります」
「はい」
「一浪覚悟なら、それでもいい。でも、そうでないなら」
講師は少し間を置いた。
「明治、立教もきちんと受けるか。それとも、本命のために消耗しない最小限の受験に絞るか。どちらかに決めたほうがいいです」
路沙はすぐには答えられなかった。
安全を広く取るか、絞って本命に集中するか。
どちらも間違いではない。だからこそ、決めるのは自分だった。
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その夜、家族で夕食を囲みながら、路沙は面談の内容を話した。
「明治と立教、受けなくていいと思う?」
父が箸を止めて言った。
「一浪までなら、好きにしていい。無理して受験校増やして共倒れになるほうが困る」
「一浪、ほんとにいいの」
「本気で行きたいところがあるなら、一年くらいはどうにでもなる」
母も静かにうなずいた。
「あなたが決めなさい」
その言葉に、路沙は少し驚いた。
もっと安全策を勧められると思っていた。でも、両親はむしろ、路沙自身の選択に任せる構えだった。
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翌週、学校の担任との面談で、路沙はもう一度同じ話をした。
「早慶明のうち、明治を外して上智にしたいと思っていて」
担任は少し考えてから言った。
「一浪の覚悟はできているの」
「はい」
「なら、無理に受験校を増やす必要はないでしょう。共通テスト利用も含めて、早稲田、慶應、上智。この三本に絞ってもいいと思います」
「立教は」
「入れてもいいけど、日程が本命の直前に重なるなら、削ったほうが体力は温存できます」
担任の言い方は、予備校の講師よりも、もう少し路沙自身の生活に寄っていた。
「東大に全部懸けるわけじゃない。でも、散らばりすぎない併願にする、ということね」
「はい」
「それなら、早慶上智で組みましょう。上智は白谷さんなら英語学科でも合格圏だと思うけど、なんなら哲学科も受ければ滑り止めになるでしょう」
その一言で、決まった。
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放課後、図書室で有馬にその話をした。
「明治、受けないことにした」
「へえ」
「早慶上智に絞った」
有馬は少し意外そうな顔をした。
「思ったより思い切ったのね」
「両親も、一浪までならいいって」
「それは、ずいぶん信頼されているのね」
その言い方には、少しだけ羨ましそうな響きがあった。
「有馬は、併願どうするの」
「理三一本」
「……それ、滑り止めなしってこと?」
「私大は共通テスト利用でいくつか出すけれど、実質、東大に懸けているようなものね」
路沙はしばらく黙った。
自分はまだ、三校まで絞ることに迷いがあった。有馬はもっと先で、迷いすらないように見える。
「怖くないの」
「怖いわよ」
有馬は静かに言った。
「でも、広く構えても、怖さは消えないでしょう」
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夜、真壁に面談の結果を伝えると、返信は短かった。
〈早慶上智〉
〈慶應以外は共通テストで受験できるから、慶應の分を早稲田か上智で受験学科増やしたら〉
〈広く構えて共倒れになるより、絞ったほうがいい〉
路沙は少し笑った。
真壁の言い方は数学の話とまったく同じだった。
欲張って手を広げるより、取れるところに絞る。
安全校選びも、結局はそれと同じ形をしているのかもしれなかった。
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その夜、机の上に併願校の一覧を書き出す。
東京大学。早稲田。上智。
慶應、明治の文字は、もうそこにない。
削ったことに、寂しさがないわけではなかった。それでも、広く構えて薄く散らばるより、この三校に絞ったほうが、自分の力を全部そこに注げる気がした。
一浪の可能性を、両親はもう引き受けてくれている。
だから今は、怖さごと、絞ったこの形で戦うしかない。
路沙は一覧を机の端に寄せて、問題集を開いた。
冬はまだ長い。




