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加護ナシな無能令嬢は回帰したので弁が立つ 〜再会した愛しの従者が何故か前世よりも重い愛で囲ってきます〜  作者: 黒糖あずき
第一部

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07 誰にとっても予想外。

 ガタンッ

 パリンッ


 少しの浮遊感と何かが倒れる音に続き何かが割れる音が耳に届いた直後、レティシアの世界に光が戻ってきた。


「レティシアッ!?」


 驚きにこれでもかという位に目を見開いた父が視界を独占する。


「……え、お父さま?」


 《祈りの間》にいたはずのレティシアは、何故か別室に通された父の腕の中にいた。


「レティシア、怪我は?」

「えっと、ありません……?」


 父は呼び掛けに応えた娘をひしりと抱き締めた。そして、自身の驚愕の声に慌ててなだれ込んで来た神官たちを威嚇する。


「寄るな!」


 その怒号を合図にカイオンとトーリが神官たちの前に立ちはだかる。先程とは騎士と神官の立場が逆転したようだった。


「あ。俺、今、帯剣してねーんだった……」


 普段のクセで腰に手を持って行ったトーリがタジタジしているのを他所に、父は手負いの獣のように殺気立った目で神官たちを見据えている。


「一歩でもこちらに近づいてみろ、原型も分からぬ程に刻んでやるからな」


 あまりにも物騒な言葉を放つ父の腕から何とか首を出し状況を確認する。

 神界を模したステンドグラスに大理石の床、白金の天鵝絨のカーテン――。


(王侯貴族が通される応接室かしら)


 《祈りの間》へ続く扉が閉まる間際ちらりと聞こえた『控えの間』だと予想がつく。

 その場所になぜレティシアがいるのか。


「――しゅんかんいどう?」


 捻り出したのはあまり現実味のない言葉。

 というのも、女神の祝福によって摩訶不思議な能力が使えるヴァルディアに唯一存在しないのが瞬間移動だからだ。


「そう、それだそれ! 一体何がどうなってる?? 突然何も無い空間からレティが現れたものだから、父様は本っっっっっ当に驚いたんだぞ!?」


 独り言にピクリと反応した父が勢いよく両肩を掴む。その顔には見たこともないほどの焦りが滲み出ていた。


「心臓に悪い!」


 倒れた椅子と無惨に割れたティーカップ、そしてレティシアを抱き抱えて床に座っている髪を乱した父を見るに、正に突然の出来事だったようだ。父が間に合っていなければ、私は臀部を強打していたことだろう。


「お父さま、ありがとうございます。お父様がいなかったら危なかったかもしれません」


 ニコリと笑えば、それを見た父がくしゃりと顔を歪めた。


「よかった……」


 何もない空間から突如娘が出てきて、ひどく焦ったことだろう。

 ひしりと抱き締めてくれる父は、レティシアからすればいつもと変わらない娘を愛してくれる父なのだが、社交界では《最恐の文官》として知られている。


「お、おい。あれ……」


 それは神殿でも適用されるため、神官たちは初めて目の当たりにするであろう最恐の文官の素な状態に目を丸くしている。


「アルフレド様〜、ここ外〜」


 レティシアたちを護るようにして神官たちとの間に出ていたトーリが呆れたような声を出す。回帰前とは違うことが起こりすぎて、予期せぬこと(父のメンツ)に関して二次被害が出そうだ。


「ほんとに怪我は無いな?」

「だいじょうぶです」


 レティシアは先程まで父が座っていたであろうまだ温かい一人掛けの椅子へ腕の中から下ろされた。


「こっ、ここに、()られたか、レティシア様」

「だいしんかんさま」


 ゼェゼェと息を切らして駆けつけた大神官が扉を支えに安堵の表情を浮かべる。


「大神官殿、説明してもらおうか。一つ間違えれば娘は大怪我を負っていたのだぞ。もしそうなったらどうしてくれるか」

「お、お答えしたい、ところなのだが、私めにも、さっぱりで」

「なに?」


 未だ息が整わないご老体に鞭を打つように、父は容赦なく捲し立てる。その視線は閃光のように鋭い。


「ッ! 私が居たにも関わらず――誠に申し訳ない」

「……もう良い。今日の所はこのまま帰らせて頂く」

「かしこまり――」

「が、今回の件は到底見逃せるものでは無いことを努努(ゆめゆめ)忘れるな」

「勿論でございます」

「一刻も早い神殿の申し開きを待っている。こちらが納得出来るような言い訳があればだがな」


 父は深深とお辞儀をする大神官と右に習う神官らに見向きもしなかった。

 神殿へ足を踏み入れた時はレティシアの狭い歩幅に合わせてのスローペースだったが、抱き上げられた状態での帰り道は二分の一程の時間に短縮されるほど早かった。


「お早いご帰還で」

「あぁ、すぐ出発しよう」

「御意に」

「あの~、ところで、お嬢の祝福ってなんだったんすか?」


 忠犬の如く無駄口を叩かず帰程の準備を始めるカイオン、オーリとトーリとは別に、ソワソワしていたノーランが躊躇なく結果を尋ねる。


「「あっ」」


 レティシアとトーリの声が被った。

 先程の出来事が衝撃的すぎてすっかりレティシアの頭からはすっぽりと抜けていたが、本来の目的として祝福を授かりに来たのだからノーランが気になるのも当然だ。

 馬車に乗り込もうとしていたところだった父がピタリと動きを止める。


「えっと……。聞いちゃダメなやつだった、コレ?」


 父の只事ではなさそうな雰囲気に、ノーランは隣にいるトーリに耳打ちする。

 眉間に皺を寄せ苦い顔をしたトーリが自分からは話せないからノーコメントで、と首を振る。


「……帰るぞ」


 暫しフリーズしていた父が唸るようにして告げ、それに反応した四人と御者が準備を再開させ馬車を出す。


「疲れただろう」


 労う言葉を掛けてくれた父はレティシアよりも疲れた顔をしていた。


「家までは距離があるから寝ていなさい」


 時刻はまだ昼も達していない。

 神殿滞在時間は、三時間を満たないほどだった。


(なんだかどっと疲れたわ……)


 今日一番の山場はまだこれからだと言うのに大丈夫だろうかなんて不安も、疲れに正直な幼いレティシアの体は父の少し硬めの膝枕で横になった途端ずしりと重くなっていった。




ーーーーーーー


 風の祝福持ちの御者の快適馬車移動を終えて、予定よりも早い時刻に家へ帰ってきたレティシアは、午後の誕生日会の準備に勤しんでいた。


「やはり、今日は延期でも――」


 着付けに勤しむ娘に父は心配が冷めぬ様子で提案する。


「いいえ。もうすでに、多くの方が来てくださっています。お父さまのおかげで、少しつかれはとれましたし、よていはかえずに行いましょう」


 プリマヴェール程のお家柄になると多少の無理も通るのだが、レティシアはその提案を拒否した。


(延期にして、決意が鈍るのは避けたいもの)


 頭を占めるのは、回帰前プリマヴェールを断罪したあの阿呆の王である。


(まぁ今はまだ王子だけど)


 レティシアは何が何でも今日を乗り越えなければ行けないのだ。


「……わかった。今日はレティシアが主役だ。お前の言う通りにしよう」


 何だかんだ父は娘に甘かった。


「ただし、無理はするな」

「わかりました、お父さま。ありがとうございます」


 退出した父に一息ついて、鏡の向こう側の自分と対峙する。

 鏡の中の少女は決意に満ち溢れていた。


「てっきりもう少し祝福の儀にお時間がかかるかと思っていたので、お嬢様が早くにご帰宅してくださって良かったです」

「そうそう。そのお陰で、準備に時間をかけることができるしね」


 リアとミアは出来た侍女だ。

 何があったかなんて野暮なことは訊かない。


「とっても可愛くしますよ〜」

「もはやもう可愛いです」

「完全同意!」


 二人の手により入念に磨かれ直した肌は治安も良い。


「よし。――行くわよ」


 準備は万端だ。

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