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加護ナシな無能令嬢は回帰したので弁が立つ 〜再会した愛しの従者が何故か前世よりも重い愛で囲ってきます〜  作者: 黒糖あずき
第一部

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◇47 過去の未来 その三。

 常に冷静沈着な家令のクライスも今回ばかりは慌てた様子で使用人に指示を飛ばす。


「お前たち、早く湯浴みの準備を!」

「は、はい!」

「誰かブランケットを!」

「ご用意致しますっ」

「談話室の暖炉に薪を()べろ!」

「はい、ただいま!!!!」


 出発時と何ら変わらない長閑なプリマヴェール領に帰ってくると、王都での出来事がまるで悪い夢だった様に思えてくる。


「あの、レティシア様は……」


 クライスの言葉に命からがら帰った一同は身体を固くする。

 夫人に関してはもう立っていられないと言うようにアシェルへもたれ掛かる。


「母上――」

「エストレラ様!」


 最後尾でレティシアを抱えていたルキウスは、夫人に駆け寄るクライスの前へ進み出る。

 人の波が二つに分かれ開かれた視界に映ったのは、時が止まったようにこちらを凝視したまま硬直したクライスとその他使用人の姿だった。



ーーーーーーー


「レティシア」


 愛用していたネグリジェに着替え、ベッドへ横たわるレティシアはただ眠っているようだった。


「もう朝だ」


 そうして声をかければ、眠たげに目を擦って「おはよう」と柔らかく微笑むのだ。


「起きないと、さ……ダメだろ? レティ」


 意味が無い行為だというのはわかっている。

 わかっているのにも関わらず、未練がましくも目覚めないレティシアに声をかけてしまう。


「ルキウス君」


 遠慮がちに声をかけてきたのは、レティシアの専属メイドのうちの一人だ。


「その、ごめんね。侯爵様が貴方のことをお呼びなの」

「――わかった」


 僕はレティシアの手首からそっと栞紐を解き、彼女の護衛を務める際に必ず帯剣するソードのヒルトへ結び直す。

 これは戒めだ。

 元々レティシアの髪色と同色だったそれは、彼女の血が散布しそして乾き、赤黒く染まってしまっている。

 薔薇の金刺繍も蝕んだみたく黒くなり、まるで今の自分を投影しているかのようだった。


「少し行ってくるね」


 レティシアの手の甲に口付ける。

 ひんやりとした感触にツキンと胸が痛くなった。



「お呼びでしょうか」

「あぁ来たか」


 メイドの案内で訪れた当主の執務室には、既にローザ騎士団団長アーロン、アシェルの騎士オーリとトーリそしてノーランがいた。

 家令のクライスが居ないのは、代理業務、その他諸々に追われているからだろう。


「リマヴェーラ家は柱を下りる」


 建国当初から凡そ七百年も守り継いで来た国の柱を下りるなんて、普通に考えれば前代未聞である。しかし、アシェルのその衝撃の告白に、その場にいた誰も声一つ上げなかった。まるで初めから想定していたというように。


「そこでだが――」


 愛国心なんぞ持ち合わせていないルキウスからするば、もはやどうでも良いことだった。

 ルキウスが、国や侯爵家ではなくレティシアに忠誠を誓っていたことは、この場にいるみなが承知している事実。となると、自分が呼ばれたのか。

 ルキウスは首を捻る。


「ルキウス、お前に諜報を任せる」

「――なんだって?」

「おい、ルキウス。言葉には気をつけろ」


 アシェルの唐突なる(めい)に思わず素で返してしまい、案の定アーロンからすぐに注意が入った。

 これが幼い頃なら、頭に鉄拳が落とされているところだ。


「……失礼致しました」

「いやいい、話を戻す」


 椅子に深く腰かけたアシェルが足を組み直すと、まっすぐこちらへ視線を寄越す。


「内部に入り込め。情報を集めろ」


 正直、解せなかった。

 内部が王城を指すということは瞬時に把握したはいいものの、なぜ自分がその任につかなければならないのか。レティシアのそばを離れるつもりはさらさらないというのに。

 それが表情に出ていたのだろう。

 アシェルは苦笑いに首を振り、力なく自身の護衛を務める二人に目を向ける。


「なんですか、アシェル様」

「俺嫌な予感するんだけど」


 オーリとトーリが肘で突き合いながら怪訝な表情で言葉を零す。


「生憎、ローザ騎士団の若手は脳筋しかいない」


 アシェルはオブラートに包むこと無く言葉の剣を放つ。


「うっは! 容赦ねぇッ」

「言っておくがお前もだぞ、ノーラン」

「えっ嘘でしょアシェル様!?」


 馬鹿にしたように義兄二人を指さすノーランだったが、アシェルからの宣告に逆に義兄二人からバカにされる羽目になる。

 そんな三人は確かにルキウスから見ても隠密には向いていないという感想しか出てこない。


「それなりに武術全てを習得していて、且つ機転が利き、五感に優れている騎士は、今じゃお前くらいだ」


 アシェルの目は真剣そのものだった。


「ルキウス」


 人の上に立つ人間らしい有無を言わさぬ声色に、口数の少ないこの男も間違いなく貴族なのだと認めざる得ない。


「レティシアを殺した人物はまだ分からない。だが間違いなく、チャールズとアウトリアン家のものが関わっている」


 レティシアの名前を出せば無視出来ないことを、アシェルはよくわかっていた。


「俺とレティシアが王城で拘束された時、場を仕切っていたのはアウトリアンだった。そして同時刻、タウンハウスを襲撃した者たちの着衣もアウトリアン家の物だったとアーロンから聞いている」


 一先ず、ルキウスは口を挟まずアシェルの話に耳を傾けることにした。

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