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加護ナシな無能令嬢は回帰したので弁が立つ 〜再会した愛しの従者が何故か前世よりも重い愛で囲ってきます〜  作者: 黒糖あずき
第一部

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◇48 過去の未来 その四。

「俺とレティシアが王城で拘束された時、場を仕切っていたのはアウトリアンだった。そして同時刻、タウンハウスを襲撃した者たちの着衣もアウトリアン家の物だったとアーロンから聞いている」

「…………」

「お前も母を外へ連れ出した時に見たんじゃないか?」


 そう問われ、脳内に残る記憶を遡り思い出すのは、まるで野盗のような卑俗な声を上げてタウンハウスへ乗り込む身なりの良い男たち。

 その制服には確かに見覚えがあった。

 否、あり過ぎた。

 レティシアが当時王太子だったチャールズとのお茶会に出向いた時、よくチャールズの後ろに控えていた騎士の制服だ。


「あぁ……」


 アウトリアン家お抱えの騎士または近衛兵の誰かにレティシアの命が奪われたということが、ルキウスの中で確実なものになった。

 今までなりを潜め落ち着いていた負の感情が体を駆け巡り、血が沸騰するようにどくどくと脈打つのを感じる。


「お前は良くやってくれたよ」

「……間に合いませんでした」


 駆けつけた時にはレティシアは喉と腹から大量に出血していた。

 そう、既に意識は最早風前の灯火と言えよう状態だった。


「あれは仕方の無い事だった」

「まるで確信していたかのような言い草ですね」

「…………」


 否定の言葉を待っていたのに、アシェルの言葉は続かなかった。


「やめてくれ――」

「俺は幾つもの未来が見える」


 それ以上聞きたくなかった。

 言葉の続きが簡単に予想出来たからだ。


「コレはそのひとつだった」


 そんな心の内と反して話は続いた。

 アシェルは祝福でレティシアの死を予見していたのだ。


「――ただそれだけだ」


 一拍置いて放たれたそれに、考えるよりも先に体が動く。


「それだけ……それだけってなんだよ!?」


 ルキウスは執務机に乗り上げて正面から粗暴にアシェルの胸ぐらを掴んだ。

 元々有り得た未来だから落胆するのは間違っている。そう言われた気がした。


(だから、仕方がないってか!?)


 息を引き取る直前微笑んだレティシアが脳裏に浮かぶ。


「ルキウス! よせ!」

「おいおい落ち着けよ!」


 間に割って入ったオーリがアシェルを後ろへ庇い、トーリがルキウスを机へ抑え込んだ。

 手足を封じ込まれれば最後、祝福を持たないルキウスは身体強化したこの兄弟に敵わない。無力化されてしまう他なかった。


「しっかりしろ! お嬢が悲しむぞ!?」


 死者の気持ちを持ち出すなんぞ陳腐なことこの上ないが、そんなこと言ったってノーランの言葉がルキウスを突き動かすには充分で効果覿面なことには変わりない。


「アシェル、教えてほしい……知っていて、なぜ――。何故、レティシアを一人でタウンハウスへ向かわせたんだよ」


 レティシアがタウンハウスに単身でやってきた経緯はプリマヴェールへ向かう馬車の中でアシェル本人から聞いていたが、まさかアシェルには初めから視えていたというのか。

 しかも、それを『それだけ』と言い放った。


「もう一度言うが、この未来は幾許と派生した内のひとつに過ぎなかった。しかも、レティシアがこうなる道筋は幾つもある内でこのひとつだけだった。そして、俺が鮮明に見えるのは精々数秒先までだ。まさか、レティシアが――俺だって未だに信じられない。信じたくもない……」


 アシェルが『先見の識』を発動させたのは、舞踏会で二人が拘束された時だった。

 そこから数秒先となるとたかが知れている。


「お前らもだ、このクソ三兄弟。全員仲良く揃って王城へ突入しやがって」


 レティシアが死なない未来もあったと知ってしまえば、感情が制御できなくなってしまった。

 レティシアが死す確率は限りなくゼロに近かったのだから尚更だ。

 何処に誰に向かっているのか分からない怒りが宛もなく溢れ出す。


「分かってる……護衛だった俺だけでもお嬢について行けば良かった」


 今この瞬間はまさにそれぞれの選択が複雑に絡み合っだが末の結果である。

 誰が悪いもないのだ。

 タラレバを並べても何にもならないのが現実だった。


「アシェル様――」


 アーロンが恭しく片膝を着いた。


「御命令を」


 プリマヴェール侯爵家は既に多くの人やものを失っている。

 幾ら聡明でも年若い当主には立て直すにはあまりにも厳しい状況と言えよう。

 しかし、腐っても国の()柱。

 プリマヴェールは『先見の識』という祝福を保持している。

 アシェルはその後継者だ。


 窓辺に立ったアシェルは朝日を眺めながら重い口を開く。


「……元々いけ好かなかない奴だった」


 『先見の識』は未来が判る反則的祝福な為、建国時の取り決めにより、私益行使を禁じる【血の誓約】が王との間に代々交わされてきた。

 プリマヴェールが国のため王のために力を使い、王は見返りとして絶対的安保を約束する。

 そんな協力関係に王家と侯爵家はあった。

 そして、前回は【血の誓約】はアルフレドとマキシミリアン王が交わしている。その二人がこの世を去った今、一度白紙に戻った状況だ。まだ次代の誓約は済んでおらず、プリマヴェールは王家に縛られていない。


「先に手を離したのはあちらだ」

「まぁ、先手を打って躱したのはアシェル様だけど……痛ってぇ! 兄さんッ」

「余計なこと言うなこのバカ」


 呟いたトーリにオーリが拳を落とす。

 というのも、一昨日まで国王代理だったチャールズと【血の誓約】を交わす必要はなかったため、アシェルはあれやこれやと理由をつけ戴冠式当日まで回避していたのだ。

 そして昨日。

 即位したチャールズ(そのバカ)との【血の誓約】をどう交わすか考えを巡らせていた所、幸か不幸か()()()()()になりそれは成されなかった。


暗君(チャールズ)に反旗を翻す。その日の為に備えろ」

「我が主君の御心のままに」


 復讐に燃える当主にアーロンが深く頭を垂れ、オーリとトーリ、ノーランがそれに倣った。

 もう衝突は逃れられない。

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