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加護ナシな無能令嬢は回帰したので弁が立つ 〜再会した愛しの従者が何故か前世よりも重い愛で囲ってきます〜  作者: 黒糖あずき
第一部

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37 見習い従者の装いについて。

「とうとうですね!」

「騎士の夢が叶ったッ!」


 ルキウスを連れて部屋に戻った私を見たリアとミアの反応は予想した通りだった(――ミアに関しては、何を言うか分からないという意味で)。


「メイドたちと一緒に嘆願書を出した甲斐がありました!」

「作文は少し成績が悪かったので自信はなかったんですが、頑張った甲斐がありました!」

「あなたたちも、さんかしていたの?」

「「はい!!」」


 父が遠い目をしていた抗議文書にうちの侍女らが一役買っていたとは。

 レティシアに報告する時は(あたか)も他人事のように話していたのに……もう何も驚くまい。


「あ。確か、ノーランもその集まり参加してましたよ」


 ノーランもか。

 誓ったそばから、また動揺してしまう。

 トーリが思い出したように付け加えた事実に感心するしかない。主人であるレティシアの前では、そのことをおくびにも出さず職務を全うしていたのだから。


「そうだったの」


 皆がルキウスを気に入っていたのは知っていたが、まさかそこまでとは。


「あの~、お嬢様」

「どうかした? リア」


 普段と違い何故か遠慮がちに私へ声をかけてきたリアはなんだかソワソワと落ち着かない。


「ルキウスくん、一時こちらでお預かりしても良いですか?」

「えぇ、良いけど――」

 

 レティシアが「どうして?」と訊く間も無かった。

 即座に両脇を固める侍女二人のあまりの俊敏さにルキウスの反応が遅れる。


「!?」

「お姉さんたちに任せなさい!」

「え」

「お嬢様のお傍に控えるならそれ相応の制服に着替えないとね!!」

「えっ、いや――え?」


 獲物に狙いを定めた猛獣のようにリアとミアの目がギラつく。

 ああなってしまえば、レティシアには二人を止める術はない。

 こちらへ助けを求めるように首を横に振るルキウスをレティシアは手を振って送り出した。


「少しのしんぼうよ」


 レティシアからの助けも見込めず、入室して間もなくズルズルと引き摺られ退室を余儀なくされたルキウスの顔の悲壮感はなかなかのものだった。


「あの、お嬢様」


 レティシアと共に部屋に残ったノーリは唖然とルキウスが消えた扉を見つめる。


「なぁに」

「お嬢様の専属使用人用の制服とかありましたっけ」


 トーリがそう疑問に思うのも無理はない。

 ミアが言っていた『それ相応の制服』が何を指すかは私にも分からないのだから。


「ないわ」

「ですよね?」


 間違いなく別室で着せ替え人形状態だろうルキウスがどう変貌するのだろうか。




◇◇◆◇◇


「どうでしょうか!!!!」


 鼻息荒く部屋へ戻ってきたミアが両手を広げ、雨に濡れた犬のようにぺしょッとした様子のルキウスをお披露目する。


「ほー、化けるなぁ」


 最初に感嘆の声を上げたのは護衛騎士のトーリだ。

 ミアが言っていた『それ相応の制服』は想像より遥か上をいくものだった。

 ベストとパンツ、ジャケット、シャツと全て黒で統一されており、一見物々しい雰囲気が漂っているように錯覚を起こさないでもないが、唯一モノクロじゃないクロスタイでそれを緩和している――という、絶妙な塩梅加減。

 黒のウィングカラーシャツに赤のクロスタイがとても映える。


「貴族の子供だって言ってもバレない気がしません?」

「――確かに」


 トーリの言葉に共感しかない。

 ダークトーンで揃えられたタキシードに身を包んだルキウスの佇まいは、トーリの言う通り貴族の子息にも劣らない。

 レティシアの好きな人フィルターにかかれば、兄のアシェルよりも輝いて見えるほどに美しい。


「えーっと。うごきやすさはどう?」

「悪くない……から、複雑な心境です。正直、さっきの制服より着心地がいい」


 辟易しているところから推測するに、侍女らの玩具(着せ替え人形)役はなかなか(こた)えたのだろう。


「すてきよ、ルカ。とてもにあってるわ」

「……ありがとうございます。レティシア様にそう言っていただけるなら、()えた甲斐があった」


 ご機嫌ななめなルキウスに近づき、少し曲がっていたクロスタイを直してやる。


「はっ! 見てミア!」

「うん、リア! ふにゃな微笑みだわッ」


 侍女二人の黄色い悲鳴にネクタイに合わせていた視線をルキウスへ上げて、おやと思う。


(――なるほどこれが)


 いつか二人が話していたふにゃふにゃな微笑みがそこにあった。

 確かにルキウスの周りに飛散した花が見える。まるで、相好を崩したルキウス背後を彩っているようだった。


「これぞギャップ萌え」

「服装も相まって3割増し」


 主人とルキウスのやり取りに侍女たちはそれはもう満足気に頷く。


「それにしても、黒のしつじふくだなんて、一体どこで仕入れてきたの」


 我が屋敷の使用人たちの服は所属毎に統一されており、デザインをオーダーメイド、サイズをパターンオーダーで仕立てている。

 使用人の階級をカフスボタン・タキシード・手袋(男性使用人)、エプロンの形・スカーフ(女性使用人)などで差別化をしているが、特別なことといえばそれくらいである。

 ちなみにシャツはみな白だ。

 つまり。

 ルキウスが着ているものは、プリマヴェールに常備している制服では無い。


「あ、それはですね――」


 着用しているシャツ、ベスト、ジャケットのみならずクロスタイまでも最高品質の高級生地を用いていることから察するに――とても侍女達だけで用意出来る代物とは思えない。


「奥様が」


 やはり協力者がいた。

 よくぞ聞いてくれました! と、ミアがずずいと前へ進み出た。


「実はですね」


 話はルキウスがメイドたちの手によって全身磨かれていたその時まで巻き戻る。


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