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加護ナシな無能令嬢は回帰したので弁が立つ 〜再会した愛しの従者が何故か前世よりも重い愛で囲ってきます〜  作者: 黒糖あずき
第一部

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36 問われるのは能力と。それと。

「エストレラ様、怖ぇ……」

「なにが?」

「いや、お嬢様は分からなくていい話だよ……」


 顔色を悪くしたトーリに内心首を傾げていると、対面に項垂れていた父が重々しい声を絞り出す。


「ルキウスを呼ぶ――話はそれからだ」

「はい、お父さま。ありがとうございます」

「あっ、俺、呼んできまぁす!」


 立候補したトーリが返事を待たずに部屋を飛び出した。

 多分耐えられなかったのだろう。

 対面に座る両親の両極端な空気はまさに混沌(カオス)なそれで、なんだか既視感がある。

 レティシアはメイドが入れ直してくれたホットミルクを口へ運びながら、そのときを静かに待った。




◇◇◆◇◇


「お呼びでしょうか」


 ルキウスはフットマンの装いに身を包んで参上した。

 今日は屋敷内での講習だった事が見て取れる。

 いつもは乱雑な様子の髪型もしっかりと整えられており、綺麗なオニキスの瞳がよく見える。

 騎士団での訓練はお休みの日だったのだろうか?


「ルキウス、此方に――回りくどいのは好かん。単刀直入に言う」


 父の中ですっかり定着したルキウス呼びに、レティシアはひとり嬉しくなった。

 父にその自覚が無さそうなのが、また面白い。


「ルキウス、お前を従者にとレティシアから進言があった」


 長机を挟んで対座するレティシアたちの間に立たされていたルキウスが勢いよく首をこちらに向ける。


「勘違いするなよ。無条件にレティシアの側仕えにするつもりは無いからな。で、だ――なぜお前はその服装なんだ。騎士団の訓練はどうした」


「あ、それは俺から。『もう教えることがないので、執事長(バトラー)に託した』とアーロン団長より言付かっています」


 挙手したノーランがそう進言する。

 ルキウスの希望はあの日から一貫して、ずっとレティシアの従者になることだった。

 従者になるのならバトラーの下につくのは至極当然のことだが、まさかアーロン団長が騎士団訓練免除を言い渡すとは――。

 一つ目の関門はクリアしたと言っても過言ではないだろう。


「初耳だが? なぜ直ぐに報告しない」

「アルフレド様は、ルキウスに関する全権をアーロン団長に委ねていらしたので……」

「委ね――?」


 心当たりがないという表情を浮かべる父の前でレティシアが思い出すのはあの日の一幕。


ーーーーーーー


『わ、分かった! 灰にはしな――』

『この子を私つきの見ならいじゅうしゃにします』

『ダメだ!』

『はじめにお父さまが言ったのですよ。今日この日は私の言うことはぜったいだと! さいわい私には、ごえいきしはいれど、じゅうしゃはいません』

『侍女がいるだろう!』

『兄さまは、じじょもじゅうしゃもいます!』

『うぐぅ……………………うぅ、わかった! だが、お前の傍だけは絶っっっ対ダメだ。アーロン! こいつのことはお前に全て任せる。当主の私に楯突くくらいだ、見込みはあるだろう。徹底的にしごけ』

『拝命されました』


ーーーーーーー


 しっかり委ねていた。

 

「委ね――ていたな。あぁ……そうだ、そうだった……」


 一歩遅れてだが、父も思い出したようだ。


「はぁぁぁ……」

「本日分の活動報告書にて纏めて報告するつもりだと伺っています」


 トーリからの説明に頭を抱えて父が項垂れてしまう。

 体力を数値化すれば、父のそれはもはや残っていないんじゃなかろうか。地面を見つめる父はまるで断頭台に立つ死刑囚のようだ。


「ルキウス。お前はここに侵入したあの日、私に『レティシアにひと目会いたい』と言ったな?」

「はい」

「まぁそれはいい。レティシアは親の贔屓目なくしても美しい子だからな」


 親バカが発動するが、誰もその事に突っ込みはしない。


「その後、なんと()かしたか覚えているか? 『侯爵家の姫は必ず僕をお望みになる』だ。それを俺に告げた直後に発生した思わぬ事態でお前は目的を果たした」


 おっと。

 父の言う『思わぬ事態』に心当たりしかない。

 思わぬ事態とは、きっと自分が割って入った時のことだ。

 悩ましげに目元を揉む父から思わずレティシアは目線を外した。


「はい。覚えております」


 父の低い声に一切怯むことなくルキウスは返事をする。

 そんなルキウスの態度に目を細めた父は、彼から視線を外すことなく私に問いかけた。


「レティシア。賢いお前なら、私がなぜこんなにもルキウスを警戒していたか今ので分かるな?」


 オーリからルキウスが父に放った言葉の報告を受けた時に導き出した仮説を話す。


「プリマヴェールをよく思わない何ものかが、しむけた回しもの……もしくは、しょうさいを知るきけんじんぶつ――ですか」

「そうだ。終いにはあろう事か、レティシアに『拾ってください』だ? お前が言ったことがまさに現実になったあの瞬間。私は本当に灰にしようと思ったぞ――だが……」


 ここで一度言葉を切った父の声色は今までルキウスに向けていたそれとは丸っきり変わっていた。


「今はそうしなくて良かったと心から思っている。僅か半年、されど半年。お前の動向は逐一報告させていたが、レティシアを害するような不審な素振りは――まぁ、見られず(?)、先日に至ってはレティシアの窮地を救ったのだからな」


 意外にもルキウスへ微笑みかけた父に密かに関心していると、その笑みを向けられた本人が一番怪訝そうな顔をしている。


(もう少し、隠して……)


 ルキウスがそうなる気持ちはわからないこともないから、レティシアは思わず苦笑いだ。


「だから、問題はないと判断した。ちょうどその服を着ているのなら、早速今日からレティシアの侍女の補佐をしてみろ。期間は、そうだな。……とりあえず一ヶ月とする」


 驚いた。


(てっきりアシェルの従者の見習いからのスタートかと)


 まさかいきなり自分の傍に置くとは思わなかった。


「ルキウスを讃美する文面が数百まいにも渡って私の手元に届くのも、もうそろそろウンザリだからな」


 遠い目をしながら呟く父に、使用人たちのボイコットの話を思い出した。

 まさか抗議文まで提出しているとは。

 しかも数百にも渡って……。


「このような機会を設けて頂きまして、心から感謝申し上げます」

「感謝なら、エストレラに。そして、あくまでも試用期間だ――気を抜かず、励め」

「精進致します」

「お父さま、お母さま」


 僥倖にも従者として(まだ仮ではあるが)ルキウスと共に過ごせることに地に足がつかないレティシアは両親に、はしたなくも飛び付き力の限り抱き締める。


「ありがとうございます」

「あぁ、いいんだよ」

「では、私はしつれいいたします。ルキウス、あなたも来なさい」

「はい」


 ルキウスが改めて両親に礼をとる。


「ルキウス」


 今まで静かに父の隣でことの成り行きを見守っていた母がルキウスに近づき話しかけた。


「――そんなことはないとは思うけど、一応伝えておくわね」

「……もちろんでございます」


 トーリが開けた扉を潜り掛けていたレティシアからは二人は距離があり、残念ながら詳細は聞こえなかった。


「青ざめてら……あれは、念を押されてるな」


 母に何かを耳打ちされたルキウスを、トーリが苦笑いに眺める。

 先程男性陣が青ざめた事と関係しているのだろうことしか分からなかった。

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