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加護ナシな無能令嬢は回帰したので弁が立つ 〜再会した愛しの従者が何故か前世よりも重い愛で囲ってきます〜  作者: 黒糖あずき
第一部

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35 懸念事項。

 刑が下される時を待つ罪人のように生気のなくなった父の横で母がレティシアに優しく微笑む。


「レティシア。話を続けて」

「はい、お母さま」


 引止めてくれた母に感謝しながら、ヘタレなその人に向き直る。


「お父さま」

「……なんだい?」

「お父さまはリアパウンドはくしゃくさまとのお話しをおぼえていらっしゃいますか?」

「……ある程度はね?」


 疑問符をつけるな、疑問符を。


「アルフレド。全て覚えているでしょう?」

「ハイ。オボエテオリマス」


 すかさず母から指摘が入る。


「よかったです。では、お父さま」

「……うん?」

「『この少年は、侯爵令嬢の側仕えだ』」


 父が今度こそ逃げようと凄まじい俊敏さで扉へ向かう。しかしそれは、父の護衛騎士・カイオンにより阻止されることとなった。


「おい、お前は俺の護衛、だろうがっ! おかしいと思ったんだ」


 父は抜け出そうともがくも、カイオンの羽交い締めには敵わない。


「邸内でお前が護衛の任につくのは頼んだ時以外一度もないのに……シレッと同席するなんて」


 そう。

 カイオンは父の護衛騎士だが同時にローザ騎士団副団長でもあるので、父が屋敷に留まっている普段は団員育成の監督官として励んでいる。

 今回はそこに無理を言ってお願いしたところ、カイオンはひとつ返事(無言)で了承してくれたのだ。

 

「…………」


 いつも通り無言を貫くカイオンが「もっと警戒すべきだった」と嘆く父を元いた席へ座り直させる。


「アルフレド様、親父が無視するからって、俺を睨まないでくださいよ……」


 因みにレティシアに関しての護衛は、ルイーズのこともあり交代制で常に傍へ控える体制が敷かれた。今、父に睨まれて弱った声を出したのは、レティシアの後ろに控えるトーリだ。


「あの言葉がどうしたって言うんだい、レティシア」


 力なくレティシアに問う父の目にはもはや覇気がない。


「そのことばをしんじつにしたいと思っているのです」


 頑なに認めなかったルキウスの存在を覆した、伯爵に向けて放った言葉。

 その場しのぎに過ぎなかった発言だと分かっている。

 しかし、このまま無かったことにするつもりはレティシアには毛頭なかった。


「なるほどな……」

「はい」


 ルキウスと物理的に距離が開いている今、あの時のあの言葉はまさに絶好のチャンスだった。

 一度大きく上を仰いだ後、膝の上で肘を立てて深く考え込んでしまった父の言葉を待つ。


「いい機会じゃないかしら」


 幾許か時間が経った頃、父の隣から援護射撃が来た。


「エストレラ……」

「屋敷の使用人や騎士らからの評判も上々、従者としての教養に加えて、剣術や体術と護衛としての素質もあると報告が上がっているわ。貴方も把握しているのではなくて?」

「――あぁ」

「今回の功績も含めて、レティシアが望むルキウスの待遇は相応しいと私は思うわ」


 「一体何を躊躇っているの」という母の問いかけに父が重い口を開いた。


「……ルキウスの身辺調査についてだが、一切の情報が掴めていないのは知っているな?」


 腕を組んで椅子へ深く座り直した父が母子に問いかける。


「そうね、そう聞いているわ」

「我が侯爵家の情報網を持ってしてもルキウスの詳しい出自情報を得られなかったことがまず一つ、此奴をレティに近づけられない理由だ」


 ノーランに連れ出してもらい無断で一度しっかり会っている身としては、父の話は何とも言えない気まずさを覚える内容だ。

 親の気持ち子知らずとはこういった時に使うのだろう、多分。


「ただの孤児なら良いが、もし万が一他家と繋がりがあれば? 祝福を発動させても、当たり前だが黒目のルキウスを含めた未来は視えなかった」


 無能者の特徴の一つとして、精神系に関わる祝福は作用しない。

 つまり、ルキウスに我が家の祝福は効かない。

 

「あともう一つ――」

「なぁに?」

「娘の貞操の危機を感じる……」

「まぁ」

「ていそう――」


 まさかの話の流れに思わず母とレティシアの言葉が詰まる。


(いや、私は今は七歳の幼女)


 分からないふりをしなければ。


「って、なんですか?」


 無言でいればこんな小細工せず首を傾げるだけで良かったのに、父の言葉を思わずポロリと繰り返してしまったためにあえて続けなければならなくなった。


「うんっ!? いや、お前は気にしなくていい」


 しまった、とでも言うようにあわあわと両手を振る父に適当に頷く。

 思い返せば、父が娘の貞操に危機を覚えるのも無理は無いのかもしれない。なんせ、かの事件の解決の鍵を握った《ビデオキューブ》の作製動機が動機だから……。

 レティシア自身も引っ掛かりを覚えなかったわけではない案件だ。


(ルキウス……貴方って人は――)


 まさかの弊害に脳内で額を押さえる。


「心配しすぎよ」

「だが、エストレラ。君もあの場にいて、あの言葉を聞いただろう」


 母のどこか確信めいた言葉に父が内緒話をする様に方を寄せた。


「それでも大丈夫だと言えるか??」

「えぇ。万が一、そんな素振りでも見せようものなら――」

「も、ものなら?」

「私が直々にその原因を取り除いてあげるわ。そうすれば、そんな気はもはや存在しなくなるでしょう」


 母の笑顔と共に吐き出された言葉に男衆がザァーっという副音がついたように青ざめる。


「まぁ、私はあの子(ルキウス)にそんな心配していませんけれど。あなたの心配事は必ず杞憂に終わりますよ。――あら、どうしました?」

「なんでもない……」


 すっかり元気をなくした父の背中を母が心配そうに擦る。


「エストレラ様、怖ぇ……」


 後ろに控えるトーリがぼそりと呟いた。


「何が?」

「いや、お嬢様は分からなくていい話だよ……」


 青ざめるトーリに謎は深まるばかりだ。


「えぇ?」


 そしてレティシアが母の言葉の意味を知るのは、ずっと後のこと。

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