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加護ナシな無能令嬢は回帰したので弁が立つ 〜再会した愛しの従者が何故か前世よりも重い愛で囲ってきます〜  作者: 黒糖あずき
第一部

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30 誰が悪いとか。

「かかかかか閣下っ!」


 王が用意した応接間で声を荒らげるのは、当事者(ルイーズ)がこの場に同席出来ない故に呼び出されたその人。

 ルイーズの父親――リアパウンド伯爵、アンガス・ファルメリアだ。


「私の娘は閣下のご息女のガヴァネスであり、今日は付き添い人でもあります! そ、そそそれを、この仕打ちはなんですか!?」


 伯爵は額を伝う汗を頻りにハンカチーフで拭き取りながら、唾を飛ばした。


「娘に暴力を奮ったのはその()()()でしょう!? 絶対! 絶対そうに決まっている! 躾がなっていない見るからに穢らわしい黒の者!!」


 娘が王宮医務室へ運ばれたと知らせを受けただろうから、伯爵が取り乱すのは致し方ないことだろう。


「は、早く投獄して下さい! なぜこの場に悠然と居るのですか! こんな餓鬼を王宮に連れてくるなんて、一体全体閣下は何をお考えなのですか!」


 ここまで一息で言った伯爵が肩で息をする姿を、父は無表情で見つめていた。


「……はっ! もしや、地下の楽園で落札でもしたどれ――」

「口を慎め、下衆が」


 思いついたままに言葉を発する伯爵を父はピシャリと言葉で斬る。

 父がここで剣を所持していたら、間違いなく伯爵の命は危ぶまれたことだろう。


「この少年は、侯爵令嬢の側仕えだ。勘違いも甚だしい。いい加減にしろ」

「ひぃぃぃぃいいいいっ」


 凄まれた伯爵は泡を吹く寸前だ。


「危害を加える者がいたら、その者を拘束することの何がおかしい。()()()()()()()()だ? 馬鹿馬鹿しいにも程がある。笑わせるな。これが我が侯爵家騎士団の基礎だ」

「おい」


 今にも伯爵を掴みかからんばかりの父を止めてくれたのは、立会証人として同席している冬の柱・イルヴェント辺境伯リーヴァイだった。


「アルフレド・ロザート。殺気を飛ばすな」


 さすがに主催者の王が会場を離れることは出来ないので、丁度他の用で城に居合わせたリーヴァイ・アルジェンタに託されたのだ。


『頼むな』

『……はっ? えっ? へ、陛下?!』


 国の防衛を担う冬の柱・イルヴェント辺境伯家の人間が自領から出ることは滅多にない。そんなリーヴァイがばったり鉢合わせたのは、まさに運が悪かったとしか言えなかった。

 王から肩を叩かれては断れまい。

 寡黙でポーカーフェイスがデフォルトな辺境伯のあれほど嫌そうな顔は後にも先にもこの時だけだろう。


「リアパウンド伯、浅慮な言動は己の首を絞めるぞ。そして、プリマヴェール侯、いいか? 私はわけも分からずここへ連れてこられた。私を話から置いていくな」


 春の柱・プリマヴェール侯爵家と冬の柱・イルヴェント辺境伯家の仲は、両家の長男が一歳違いな事もあり何かと交流があったためそこそこだ。

 此度の件、片方が国の一柱(プリマヴェール)なので、同じく柱の彼ほどこの場に適する人材はいないだろう。


「もう一つ。私の意向に逆らうなら、問答無用で切るぞ」


 北の砦を護るリーヴァイは常に帯剣しており今日も例外ではない。


「……はっ、脅しか?」


 剣豪でもある彼が剣の腹を少し見せれば、忽ち伯爵は縮み上がり、父も口調は軽いものの警戒する。

 実直なリーヴァイにそうされては冗談に見えないのだ。


「脅しに見えるか?」


 リーヴァイのその言葉に鼻を鳴らした父は渋々ではあるものの引き下がる他なかった。



◇◇◆◇◇


「で、何がどうして、こうも拗れている」

「は。ご説明致します――」


 多少回復した(父から別室で待ってろと言われても聞かなかった)母と父が並び、そのまた隣に当事者のレティシアが座る。

 いくら剥がそうにも 梃子(てこ)でも離れないルキウスは肘掛を挟みレティシアの横に控えている。後ろではなく横に。それはもうピッタリと。


「レティ。怪我は無いか?」

「はい、お父さま。ルキウスがまもってくれたので、このとおりです」


 あの場での詳しい事情を知り得ないリーヴァイとリアパウンド伯爵に王の遣いより改めて説明がなされている間、父はレティシアに何度目か分からない怪我の有無の確認をする。


「そうか……良かった。ルキウス、よくやった。しかしだ、なぜお前があの場に居たんだ」

「……………………」

「ルキウス」


 父の問いに答えないルキウスにレティシアは仕方なくお灸を据える。


「こたえて」

「その……屋根に――」

「やね?」


 バツの悪そうな表情でボソリと言い直したルキウスにリマヴェール一家の視線が集中する。


「……馬車の屋根に張り付いて来ました」


 ルキウスの言葉にレティシアは三度瞬いた。



「はぁあああ!?」


 一息置いて響いた父の大声が部屋を揺らす。

 自分たちが乗ってきた馬車の屋根に張り付いていた――。

 思わず想像してしまう。


「レティシア……様。怒りますか?」


 してはいけなかった行動だったという認識はあるらしい。ルキウスの頭にぺたりと垂れた犬耳の幻が見える。


「いやおこる……というか――え? だって、や、やねでしょ???」


 正直なところ、驚きの方が大きい。

 プリマヴェール侯爵家の馬車は御者の持つ祝福により、他の貴族家より格段に移動スピードが速いのだ。


(筋力とか諸々どうなってるのかしら、この子)


 王都へ向かうその数時間、ずっと屋根に張り付いていたなんて規格外がすぎる。


「有り得ん、無謀過ぎる。怪我をしたらどうするつもりだった」


 父から大人が子供を心配するような、至極真っ当な言葉が飛び出した。

 ルキウスを警戒するは良いがその態度があまりにも幼稚なので忘れがちになる事実、そう父は大人だった。


「申し訳……ありませんでした」


 ルキウスも父の言葉が予想外だったのか驚いたように目を見張ると、素直に反省の意を示した。


「まぁまぁ、良いではありませんか」


 パチンと手を叩き空気を入れ替えた母が朗らかな声色で場を改める。


(え、良いの??)


 否、良くはない気がレティシアはした。

 母はたまにおおらかの範疇を越える言動を見せる。


「エストレラ! 良くは――」

「結果的に無事だった訳ですし、これからそういう行動を控えてもらえば。この子がついて来てくれたおかげで、レティは怪我せずに済んだのですから」


 父の反論を母は自分の指一本を父の口に添えるだけで封じ込めてしまう。

 納得しかけた父だったが、既所で華奢な指を優しく包み込むと首を大いに振る。


「――いや、良くは無いぞ!? ルキウス。帰ったら覚えておけよ」

「レティを助けてくれてありがとう、ルキウス」

「当然の事をした迄です」

「いいか、アーロンに訓練内容の組み直しをさせるからな」

「ですが。これからはレティのためにも危険な行為は控えるように」

「はい、奥様」

「……なぁ、俺の話も聞いてくれないか??」


 ルキウスと母とで話が纏まってしまいしょぼんとする父の声が寂しく響いた。

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