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加護ナシな無能令嬢は回帰したので弁が立つ 〜再会した愛しの従者が何故か前世よりも重い愛で囲ってきます〜  作者: 黒糖あずき
第一部

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02 向かう先。

 場はチャールズの独擅場だった。


「もっと早く公表すべきだとも思った。しかし、王の座が空席の状態では混乱を招くだけだと判断した。皆の者、遅くなってすまなかった! そして――ッ」


 わざとらしい態度にレティシアとアシェルは顔を顰めた。


「……春の守護者プリマヴェールよ。残念だ。まさか、アルフレド・ロザートが裏切り者だったとは」

「「は?」」


 唐突に出されたのは亡き父の名前だった。


「国の重鎮だった君たちの父がまさか謀反を企てていたとは……実に」


 事の行方を見守っていた貴族らからそんなまさかと、悲鳴にも近い声が飛び交う。


「実に、残念だよ」

「――チャールズ」


 バネッサから受け取った分厚い書類の束をチャールズこちらに投げ捨てる。

 散らばった報告書に目を凝らせば衝撃の内容が目に飛び込んで来た。


《アルフレド・ロザート行動報告書》


 複数人の目撃者に、証言……。

 極めつけに、犯行に使用されたのが、我が家紋が施されたブロードソードだと書かれているではないか。

 『親友だ』とまだ幼い我が子らに国王を紹介した父が、その手でその『親友』を殺したとは思えない。

 忠信に何よりも重きを置く人がそんな愚行を起こすわけながない。

 そう一人結論付けたレティシアだったが、意思疎通せずともアシェルも()()だったようだ。


「有り得ない」


 アシェルが静かに否定した。


「現に証拠が揃っているからな」


 濡れ衣なのは間違いないが、それを覆せない何かがある事が、チャールズの様子から見て取れた。


(これが証拠ですって?)


 認めて楽になれと、タダを捏ねる子供に言い聞かせるかのようなそして小馬鹿にしたような、そんな風に言葉を放つチャールズに理解が追いつかない。


「信じたくないのも無理は無いが、現実を見るんだ」


 チャールズが余裕の表情で鼻で笑うと彼の言葉を一蹴りする。


「諦めろ」


 頭の中で話を整理した私は抗議するためばら撒かれた羊皮紙から顔を上げる。


「ちがうわ!」


 レティシアは叫んだ。

 信じないも何も、有り得ない。

 そう、有り得るはずがないのだ。


「国王陛下が崩御した日を同じくして、我が父も落馬事故で命を落としています。それも王の崩御を受けて、城に急いだ結果です!」


 それまで家で仕事を捌いていたのだから、アルフレドが直接手を下したのなら物理的に無理がある、もっと言うなれば時系列もおかしい。


「貴方が知らないはずがないでしょう! チャールズ!」

「レティシア」


 無礼も承知で訴えるレティシアにアシェルから静かに止められる。


「なぜ止めるの! 私は真実を――」


 憎悪に満ちた視線があちこちから刺さる。

 ここに居る誰も彼もが、チャールズの言葉を信じきっている。

 味方であるはずのプリマヴェールの傘下である者らさえも、レティシアたちへ向ける視線には不信感が滲み出ていた。


(なぜあなたたちまで……)


 味方であるはずの彼らの反応にレティシアは失望の念に近いものを感じる。


「なにか言い残したことはあるか」


 ただの形だけの無意味な問いにふつふつとした怒りがレティシアの中に芽生える。


「「…………」」


 プリマヴェールの兄妹は何も応えなかった。

 肌で感じた。

 これ以上、何を言っても覆らないのだと。

 多勢に無勢とはこの事かと。


「この二人を西の塔へ」


 西の塔といえば、罪を犯した貴族が収容される軟禁場所である。警備は厳重で窓は無い。出入口も一つしかないので、入れば最後外に出ることは十中八九叶わないだろう。


「待って!」


 ここまで必要最低限しか口を開かなかったバネッサがレティシアに駆け寄ってきた。レティシアは身を固くする。

 兵がレティシアの動きにすぐさま反応する。腕への拘束が強くなるのを感じながら、耳元に唇を寄せたバネッサを強く警戒した。


「ほんと哀れ。最後の慈悲を無駄にするなんて。でも、ここぞって時に動けない負け犬にはピッタリね?」


 ()めつけた相手は勝ち誇った表情を湛えていた。レティシアと視線を交えたバネッサは強かさを滲ませ、しかしすぐにはらりと儚い女性へと姿を変える。

 まるで、舞台の一幕で唄うヒロインかのような振る舞いだった。


「あぁ、レティシア! 貴女に女神の祝福があらん事を!」


 その言葉にレティシアの目の奥がカッと赤くなった。


(こんの……性悪女!)


 無理やりな動作で立たされる。

 腕を掴んでいたうちの一人がレティシアの前についた。先導者が一名、レティシアとアシェルの拘束に各一名、両サイドに各一名の計五名だ。拘束は減ったが、包囲はいずれも解けていないと言える状況。

 どうにかして逃げなければ。とはいえ、腕は後ろで組むように交差されずっと拘束されたままだ。

 頭の中で幾つも策を展開させる。


(考えるのよ、レティシア。何か、いい案を……!)


 ゴッ、ガゴン、ゴンッッッ!


 机の角に頭をぶつけたような鈍い音と共に突如、逃げる為に頭をフル回転させていたレティシアの腕から重みが取れる。

 振り返れば後ろを歩いていたアシェルの美しい回し蹴りがレティシアを拘束していた騎士の頬にクリーンヒットしていた。アシェルは流れるようにそのまま自身を拘束する騎士を背負い投げて、ちゃっかりその腰からソードを拝借するのも忘れない。


「走れ!」


 唖然としていた所、怒号が飛ぶ。

 兄の声に反応したレティシアの手が、彼女と同様に驚いた様子で振り返っていた先導の騎士の肩を反射的に掴んだ。


「えっ?」

「ごめんなさい!」


 レティシアの膝が騎士の急所へ見事めり込んだ。


「うぐっ!?!?!?」


 金属が激しくぶつかり合う音がする後ろは振り向かない。


「何をしてる! 捕まえろ!」


 床に沈んだ騎士を跨ぎ、レティシアはそのままホールを飛び出した。

 混乱を期した廊下を人を掻き分け全速力で駆け抜けていく。

 エントランスに横付けされた我が家紋が入った馬車と同行していた騎士たちを見つける。


「あれ?? お嬢、お早いですね? まーた、アシェル様置き去りにしたん――」

「オーリ、トーリ、ノーラン! 至急、ホールに向かいなさい! 兄様に加勢するのよ!」


 レティシアは()いでいた。詳しいことを話す暇なんて無い。目を見開き見上げる三人に階段を駆け下りながら短く簡潔に命令を下す。

 この国でも有数なうちのひとつの騎士団を保有する我が侯爵家。この騎士たちは、騎士団の中でもトップクラスの実力を誇る。


「「「はっ」」」


 足の速い彼らの姿はすぐ城の中へ消えていく。

 アシェルもなかなかの手練ではあるが、会場にいる()全てを一人で相手にするのはいくら何でも厳しいだろう。


(どうか間に合って……)


 駟馬から体格の良い芦毛を選び、手際よくハーネスを外していく。


「巻き込んでしまって御免なさいね。貴方は兄様か騎士たちが戻るまで、何処かに身を隠していなさい。馬車はダメよ、いいわね?」

「は、ハイっ!」


 状況が読めず涙目のまだ若い御者にそう助言する。

 侯爵家の家紋をつけた馬車で待機なんかしていれば、間違いなくチャールズの手下に殺られるだろう。

 彼は今日が御者デビューだった。初仕事がこんな事になり申し訳ない。


「走ってくれるわね? チョコチップ」


 鞍もないその背中に飛び乗り首を叩けば、機嫌よく鼻を鳴らしてくれた。頼もしい子だ。


「お嬢様、どうなさるおつもりで……?」

「私は一足先に屋敷に戻るわ。胸騒ぎがするの。兄様か騎士の誰かが帰ってきたらそう伝えて」

「か、かしこまりました」


 不安げな御者の返事も聞き終わらないままにチョコチップの手網を引いた。

 急がないといけない、そんな嫌な予感がしたのだ。

 明らかに仕組まれたとしか思えないあの断罪の舞台と、手薄になったプリマヴェール侯爵家前夫人の警備。


「あ、あの! どうか。お気をつけて」


 自分がその立場なら狙わない理由がない。


「ありがとう」


 御者が風の加護を施してくれたので、想定しているより早くつけるだろう。

 母とルキウスがいるタウンハウスを目指し、レティシアは馬を走らせた。

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