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加護ナシな無能令嬢は回帰したので弁が立つ 〜再会した愛しの従者が何故か前世よりも重い愛で囲ってきます〜  作者: 黒糖あずき
第一部

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26 反撃開始のゴング。

 パーティも中盤に差し掛かった頃。


「エストレラ」


 父が心配そうに母を呼んだ。

 レティシアが視線を上げれば、父がそっと母の腰に手を回しているのが見えた。

 周りからはエスコートに見えるそれは、ふらつく母を支えるためのものだった。


「いいえ、大丈夫よ」


 否定する母だが、たしかに顔色が悪く表情は固い。


「プリマヴェール侯爵様、お待たせしてしまい申し訳ございません」


 そしてタイミングを読んだかのように現れた女に思わず天を仰ぎたくなった。


「あぁ、ファルメリア嬢。調度良いところに」

「城での業務が押しておりまして、遅れてしまったのですが、間に合いましたでしょうか?」


 姿を見せたのはルイーズ・ファルメリア。

 レティシアのガヴァネス、その人。


(やっぱり来たのね)


 七の歳の子を持つ貴族のみが参加するこのパーティーで、子持ちでもましてや何処ぞの夫人でもない彼女がここにいる理由は簡単である。


「あら。奥様、ご気分が優れないご様子で……。私、付き添い人に立候補していて良かったですわ」


 それは、レティシアの目付け役としての同行。人脈作りに忙しい親世代が子供に付き添い人を充てがうのは何ら珍しいことではなかった。


「早速、お役に立てることがありそうですわね」


 父から()()()()プチ成敗の挽回を図ろうとしてのことか、目付け役を買って出たルイーズだったが、ではなぜ遅れたのか。

 それは――。




ーーーーーーー


『あ、そうそう。女官時代の同僚からの助太刀の要請が有りまして、当日は少し遅れることになりそうですわ』


 信じられない言葉が授業の合間にルイーズから飛び出した。


『へ?』


 強引にパーティーへの同行をもぎ取ったくせに何を言っているのかと、思わず間抜けな声が出た。

 なぜピンポイントでその日なのか。

 スケジュール管理ができないのかこの人は、とレティシアは呆れた。


『まだまだ私がいないと駄目な女官(後輩)が多いので、ほんと困ってしまいますわぁ』

『父と母にはもうお伝えされたのですか?』

『いえ、それがまだですの。ですから、お嬢様からアルフレド様に私の事情を伝えて頂きたく思っていますわ』


 チラチラと物言いたげに自分へ視線を寄越すルイーズを見て、レティシアは悟った。


(あぁ、なるほど)


 ルイーズは父に抱かれてしまった自分へのマイナスイメージの挽回を図っているのだ。

 レティシアが祝福の儀式を済ませて再開した授業にて、面と向かってキッパリ釘を刺されたあの日の出来事についてだ。

 つまり、『ルイーズは人望の厚い有能な人間』ということを娘であるレティシアから伝えて欲しいのであろう。

 しかし、これでは自分で『自分の行動への管理が出来ないです!』と声高らかに宣言しているようなものである。


(厚かましいにも程があるし、ちょっと考え無しじゃない?)


 そう気がついたレティシアはあえて別の提案をした。


『かしこまりました。では、こじたいしていただいても、かまいませんよ』

『ぇ』

『もともと、りょうしんとわたしのみで、いく予定でしたので』

『い、いいえいいえ!!! 初めての社交場ですわよ! ガヴァネスの私がご一緒させていただかなければ! あなたを一人でそんな場に行かせるのは、先生として許可できませんわ! しっかり私が不足が顕にならないよう隣についてサポートして差し上げますからね!』



ーーーーーーー


 という具合で、レティシアは()()()()()()目付け役を断ったのに食い気味で行くと言われてしまい今日に至る。

 情けない事に断り切れなかった。


「はは……」


 決して遠くない記憶に、思わず乾いた笑いが出てしまう。そうして短い回想を終えたレティシアは両親らの会話に意識を戻した。


「――妻を控え室で休ませてくる。すまないがその間レティシアを頼めるかな」

「もちろんでございます」


 周りに悟られない程度に父に体を預ける母の顔色はよほど悪い。


「レティシア。すぐ戻るからな」

「レティ、ごめんなさい。――うちの子をどうか宜しくお願いしますね」


 一体いつから母は体調が悪かったのだろうか。

 少なくとも、家を出るまでは大丈夫に見えたが。


(まさか、初めから?)


 体調が悪い中、気品に溢れた振る舞いを維持出来るのは流石侯爵夫人と言ったところだが、娘としてそれを見抜けなかったことが悔しい。

 今は、レティシアも自分自身のことでいっぱいいっぱいだった。


「お任せ下さいませ」


 ルイーズが胸を張り答える。

 両親がホールから下がった後はルイーズを空気だと思う事にしようと、レティシアは密かに決意した。




◇◇◆◇◇


「お嬢様、良いですか? パーティーでは足元を見てはなりません」

「はい、先生」


 両親の姿が見えなくなってからいくら経っただろうか。

 レティシアはオレンジジュースを飲みながらルイーズの話を右から左へと受け流し、人間観察に勤しんでいた。


「言うなれば、そうあちらのご息女のようにいじいじと……あぁ、はしたない」


 表向きは祝福の年の子らのための催しではあるが、実際はその親である貴族らの人脈作りの意味合いが大きいため、パーティーでは子供たちの退屈加減はピークに達している。

 七歳なのだからそりゃそうだろう。

 そして、七歳にそんな完璧誰も求めやしない。


「お嬢様はプリマヴェール侯爵家の名に恥じぬようにしてくださいね」

「はい、先生」


 両親の横で退屈そうにしているある子は床を見つめ、ある子は会場隅に設置された軽食テーブルに釘付け、もはや飽きて追いかけっこを始めている子もちらほら。


 人間観察に精を出していた所、人集りが出来ている場所から歓声が上がった。

 アウトリアン家とその傘下の家門の輪の中央で、父が先程クリアチネ伯爵を追い払った一角でもある。


「お嬢様の《天眼(光の蝶)》はなんと神秘的なんでしょう!」


 その中で、光の蝶を披露する該当者はたったひとりだ。


「さすがアウトリアンのご息女であらせられますな」

「いやいや、まだスタートラインに立ったところだ」

「またまたご謙遜を!」


 周りからの賞賛に、侯爵も満更でもなさそうだ。

 確かに、それ程にバネッサの祝福によって創られた光の蝶はなんとも美しかった。


「――それで、お嬢様の祝福はなんでしたの?」


 しんみりとしていれば、水を差す者は当然いる。

 今回この場合は、横に立つ目付け役・ルイーズだ。


「祝福ですか?」


 もう発表を終えたことをなぜ今更聞いてくるのか不思議に思うも、ルイーズが遅れて会場入りしたことを思い出す。


「さぁ、勿体ぶらずに。祝福は? わたくし、一番近くでお嬢様の成長を見守らせて頂いていますのよ? お教えして下さっても罰は当たらないのではなくって?? ほら、あちらのアウトリアン侯爵家のご令嬢も披露なさっているのですから、ここはお嬢様もご披露なさってはいかがですか?」


 答えようにも口を挟ませない怒涛の言葉にどうしろというのか。

 目をかっぴらいて詰寄ってくるルイーズにドン引きしていると、何をどう勘違いしたのか彼女は「あっ」と小さく声を上げる。

 嫌な予感がする。


「そういう事でしたのね。あぁ、お嬢様、どうか気を落とされませんよう」

「……なんの事ですか?」


 一拍置いてルイーズが息を吸う。

 嫌な予感がした。


「奥様と()()()ですのねっ!!!!!」


 どデカい声でそうルイーズが言い放ち、その言葉が頭の中で木霊する。

 そして、聡いレティシアは理解した。

 彼女がこれから何を行おうとしているかを。


「は――」


 そうして意味を理解した時、思わずプリマヴェール侯爵家の娘として出してはいけない声が出そうになる。


(――はぁあああああぁあっ!?!?)


 一気に頭が沸騰したかのような感覚に包まれる。


(そっちがその気なら)


 もう容赦はしない。

 この女、後悔させてやる。

 『今しかない』と闘場で耳にするようなゴングの()が脳内で鳴り響いた。

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