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加護ナシな無能令嬢は回帰したので弁が立つ 〜再会した愛しの従者が何故か前世よりも重い愛で囲ってきます〜  作者: 黒糖あずき
第一部

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25 アウトリアン侯爵家。

「では、本題に。さぁ、バネッサ。ご挨拶しなさい」


 侯爵に背中を押されて一歩前へ出た少女が、その歳にしては上々のカーテシーを披露する。


「アウトリアンこうしゃくがむすめ、バネッサ・マローネですわ」

「プリマヴェールこうしゃくけ、レティシア・ロザートです」


 互いに挨拶を言い終えると、バネッサは先程までのお人形の様な無機質な表情から満面の笑みに変えた。


(あら?)

「よろしくおねがいしますわっ! わたくし、同じこうしゃくけで、おとしも同じごれいじょうがいるとお父さまにきいてから、ずっとずっとお会いしたくて!」

(ひぇっ!)


 予想とは違うバネッサの様子に素っ頓狂な声を何とか抑える。


「こ、こちらこそ、よろしくおねがいいたします」


 目を輝かせてグイグイ迫ってくるバネッサは回帰前とはどうも姿が被らない。まさか、王太子妃候補になる未来を覆した事がここにも影響を及ぼしたのだろうか。

 回帰前の初対面は、チャールズとバネッサとのお茶会だった。当時、レティシアを敵認定した彼女の態度は会う度に硬化して行くばかりで、残念ながら仲良くとはいかなかったのだ。


「王子さまとはもうお会いになったとお聞きしましたわっ! どんなお方でしたか? きっとご本に出てくる王子さまのようにキラキラしていたのでしょうね!」


 タイムリーな話が出てきた。

 そして「白馬の王子様」を想像している彼女に、レティシアは「いや、アイツはクソだ!」とは言えなかった。

 少女の幻想を壊す鬼畜にはなりたくないし、一国の王子をクソ呼ばわりはこの場であってもなくても色々まずい。


「あっ、レティシアさまとおよびしても? いずれはあいしょうでなんて――んふふいえ今のはまだ聞かなかったことにっ。そうだ! レティシアさまは、アカデミーへご入学のごよていはありますか??」


 ほんともうグイグイ来る。

 この様子なら、今回はバネッサと仲良くできる未来の実現もそう難しくないような気がして来たレティシアである。


「もしそうなら、ぜひアカデミーでもなかよ――」

「バネッサ」


 レティシアの手を取りかけたバネッサだったが、その手は届くことなく下げられる。

 バネッサのマシンガントークは、娘の反応に難色を示した侯爵の平坦な声によって強制終了となった。


「ご、ごめんなさい……。おとうさま」

「いやぁ、お恥ずかしいところを。我が娘はまだ礼儀作法を学んでいる最中でして」


 ニヘラと笑う侯爵の横で、バネッサは小さな体を更に縮こまらせた。

 それにピンと来た。


(――恐怖教育か)


 回帰前のレティシアがルイーズから受けていた教育方針に形は違えど似ているものを感じ取った。


「この子は話し出すと、私たち親でもまぁ止めるのが大変で、長男のようには中々――」

「国の二柱よ。君らが話しているとは、珍しい事もあるものだ。明日は槍でも降るか」


 侯爵の言葉に被せるように入ってきた人がいた。


「やはり親というもの、娘の晴れ舞台は浮かれてしまうモノかな?」


 この場で、侯爵の話を遮ることが出来る身分のお方は一人しかいない。


「こ、国王陛下!」

「ヴァルディアの太陽にご挨拶申し上げます」

「話している途中にすまぬな。未来を担う子らの門出の日だ。城に戻る前に今一度会っておこうかと思ったのだが、良いかな?」

「私共が出向かねばならぬ所を、御足労いただきまして――感謝申し上げます」


 突然の来訪にも動じず即座に臣下の礼を取る父はさすがだ。

 その父からそっと目配せを貰い受け、一歩前に出る。


「このたび、げっけいかんをうけたまわるきかいをいただけたこと、まことにきょうえつしごくでございます。あらためまして、レティシア・ロザートです」

「バネッサ・マローネでございます」

「レティシア、バネッサ。君たちでとうとう四柱の全ての子らが祝福の歳を迎えた。兄たちに負けぬ活躍を期待しているぞ」

「「はい」」


 王の激励に背筋が伸びる。

 少女二人の返事へ力強くと頷いた王の視線は侯爵へと移される。


「して、クラーク。これは友としての言葉として聞いてくれ。――あまり厳しくしすぎると子は萎縮してしまうぞ。もう少し肩の力を抜きなさい。そんな様では、幸を逃すぞ」

「……ご厚情感謝申し上げます」


 王のナイスアシストにより、勢いを無くした侯爵が小さく見えた。少しはこれで、治まってくれればいいが果たして。

 回帰前の侯爵が娘のバネッサに何を吹き込んだか知らぬが、子供の頃の刷り込みにより固められた観念ほど恐ろしいものは無い。

 バネッサの自分への態度はどう見ても恋敵の範疇を超えた所にあったように、回帰した今なら解る。


「……では、我々はここいらで」


 侯爵はバネッサの腕を強引に引き踵を返した。その俊敏さたるや。

 大方、娘にマウントを取らせるつもりが、思いのほか友好的な態度だったが為、手を握ろうとするバネッサを遮ったのだろう。


「だ、旦那様っ」


 一歩後ろに控えていたアウトリアン侯爵夫人は去った公爵に続かず、こちらに向き直るとカーテシーと謝罪を口にした。


「――誠に申し訳ございません、国王陛下。主人の御無礼をお許し下さい」

「なに、気にせずとも良い。彼奴の性格はよく知っておるからな」

「有り難きお言葉、感謝致します。……改めて、秋の柱から春の柱に御祝い申し上げます。礼儀を欠く形になり申し訳ありません」

「いえ、こちらこそ。春の柱より秋の柱へお祝い申し上げます。アウトリアン侯爵令嬢に幸多からんことを」


 夫人の言葉には、夫人が返す。

 暗黙のルールで母が微笑みと共に夫人へ祝辞を返す。


「プリマヴェール侯爵令嬢。アカデミーにご入学なさるなら、あんな子ですけど良ければ仲良くしてくださいね」

「はい。バネッサさまに、よろしくおつたえください」


 それまで謝ってばかりだった侯爵夫人はレティシアに話し掛けると、バネッサとよく似た切れ長の目を優しく細めた。

 儚い美人とは母のような人だと思っていたが、タイプは違えどこういう人も対象かと考え直した瞬間だった。


 夫人は再びカーテシーをすると、既に他の集まりへ居を移した侯爵の元へ戻った。今の感じからすると、話が通じる方のように思う。

 侯爵と違い、こちらに友好的と取れる態度はとても印象的だった。

 そういえば回帰前の記憶では、侯爵夫人の存在感はかなり薄かった。もはや、居ただろうか? という疑問符さえ浮かぶ始末だ。


「レティシア・ロザート」


 人を従わせる力のある艶声が私の名を呼ぶ。


「はい、こくおうへいか」

「改めて、おめでとう。小さき《春の頭脳》」

「おいわいのことば、かんしゃ申しあげます」

「 “前知の識” とな……。建国以来初の祝福に出会えた私はとても幸運だな」


 冷や汗がレティシアの背筋を伝う。


「プリマヴェール侯爵、また詳しく話を聞かせてくれよ」

「えぇ、是が非でも」


 王は父にそう言うと、身を翻し別の受領者の元へ去って行った。王との十分にも満たない時間だったが、体感的には一時間と言っても過言ではない。

 寿命が縮むとはまさにこの事だろう。


「レティシア、疲れていない?」

「だいじょうぶです。お母さま」


 とは言ってみたものの、そろそろ家に帰りたいのも事実。

 王との対話でレティシアのライフが半分以上削ぎ落とされている。

 誰にも、大袈裟とは言わせない。


 それでも、まだ祝賀パーティーは始まったばかり。

 このパーティーに参加したことで、今後の歩む道筋が大きく変化することをレティシアはまだ知らない。

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