24 演説力は一級品。
父の饒舌は止まらない。
「先見の識が《瞬間記憶》なら、レティシアの祝福である前知の識は《未来予知》だと言えよう」
「なんと!!!!」
一体どういうつもりなのだろうか。
「ほう、それは素晴らしい」
レティシアが脳内パニックを起こす中、鼻につく口調で話に割ってきた男がいた。
アウトリアン侯爵クラーク・マローネである。
「そのお話是非とも詳しく聞きたいところですな?」
ニヒルな笑みで妻と娘を伴って現れたアウトリアン侯爵に、流れていた和やかな空気が途端に固くなった。
集まっていたプリマヴェール派の貴族たちが警戒態勢に入り、祝いの場とは言い難い空気を醸し出した。
一体いつから、こんな風に(アウトリアン家からの一方的なものに近いが)敵対するようになったのだろうか。
もちろん回帰前はそんなことに興味がなかったので、今世では探りを入れなければ――などと考えてみる。
「アウトリアン侯。此度はご息女の祝福の発現おめでとうございます」
父は煽りには乗らなかった。
侯爵の後ろに控えるバネッサへの祝辞を述べる。
「これはこれは、閣下、ご丁寧に。いやはや、これで我がアウトリアンも安泰です」
「それは何よりですね」
「ところで――そちらのお嬢様は代々授かっていた《サイメシア》ではなかったようで?」
わざわざ聞き直す理由はなんだのだろう。
わかりやすい悪意を含んだ嘲笑と共に、侯爵は耳に入っていたであろう話を掘り返す。
「ええ、そのようです。聖壇の間にいらしたアウトリアン侯はご存知であろう通り、どうやら『前知の識』だそうで。――ああ、そうだ。《サイメシア》は通称名です。祝福を正しくは『先見の識』なので、お間違いなきよう」
「……それは失礼しましたな」
おっと、思わぬカウンターが入った。
それもつかの間、すぐに持ち直した侯爵はなおも続ける。
「しかし、目に見える祝福は時に困ったもので。発現してから我が娘は力の制御が上手くいかず困ったものです。実はここだけの話、祝福を授かる前から透視の兆しがありましてな」
侯爵は隠そうともしない得意満面な微笑でレティシアを見た。
何故こちら見る。
「兄君のアシェル卿はパーティで『先見の識』を披露したとか――」
兄のアシェルをも引き合いに出すとはなかなか卑劣。
ここで話せば長くなるので割愛するが、アシェルはそうせざる得ない状況だったから発動させた迄で、 “披露” した訳では無い。
「ご令嬢は何か兆候が有りましたかな?」
其方はまだ名ばかりで祝福を発現できていないだろう? と考えている事が見え見えな態度だ。何がなんでも、アウトリアン>プリマヴェールの図を作りたいのだろう。
目に見える祝福を授かっているアウトリアンと違い、プリマヴェールは内面に作用する祝福だ。他者には分かりにくい。
しかしながら、分かりにくいも何も、前知の識なんていう祝福は嘘八百な訳なので、父は一体どう返すのかレティシアはヒヤヒヤするしかない。
「その質問に答えるとすれば――」
事実を知らなければ、レティシアとてこの演説を微塵も嘘とは思わないだろう。
父の演技力に脱帽する。
「答えは『もちろん』ですね」
(んえ!?)
もちろんとはどういうことか。
詰まることなく言い放つ父に心の内で動揺する。
「エッそんなまさ……ゔンン。いえ、そ、そうですか」
レティシアの心の声と、侯爵の声が被った。
というか、侯爵。取り繕うには遅いぐらいほぼ言ったぞ?
「えぇ。と言うのも先日、レティシアの予見が見事当たりましてね」
ほう?????
レティシアには全く身に覚えがない。
何の話だろうかと頭を捻る。
当事者が置いてけぼりな事態ってあまりないと思う。
しかしそれを顔に出すわけにもいかないので、自分の表情筋にエールを送る。頼む頑張ってくれ。
「因みに、その詳細とは……?」
興味津々の侯爵は前のめりだ。
ついでにプリマヴェールの取り巻き諸君も。
「娘が視た人物が、領地にある我が屋敷を訪れたのです。特徴は漏なく全て一致していましたね」
レティシアは愕然とした。
父の話す内容と合致する記憶と言えば、ルキウスの珍騒動しかない。
そういえば、祖父の帰宅初日の夕食の席でそんな話をしたような。
(上位互換がどうのこうの……って)
あれを本当に押し通したのか。
レティシアはようやっとその可能性に行き着きギョッとする。
「何はともあれ、同齢の幼い娘を持つ親同士どうぞ宜しくお願い致します」
「――そうですね。我々には次世代の手本となる義務がある」
父が差し出した手を侯爵が握り返す。
手を取り合う両侯爵の表情からは感情は読み取れなかった。
要所要所で隙を見せないのは、さすが貴族家のトップといった所か。
ただ両者の手に青筋が立っているのを、レティシアは見逃さなかった。
「では、本題に。さぁ、バネッサ。ご挨拶しなさい」
侯爵に背中を押されて一歩前へ出た少女が、その歳にしては上々のカーテシーを披露する。
マウントを取りに来たことが本題じゃなかったようだ。
「アウトリアンこうしゃくがむすめ、バネッサ・マローネですわ」
回帰前同様の自信に満ち溢れたバネッサの姿は、記憶の中の彼女と違わず輝いていた。




