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加護ナシな無能令嬢は回帰したので弁が立つ 〜再会した愛しの従者が何故か前世よりも重い愛で囲ってきます〜  作者: 黒糖あずき
第一部

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24/70

23 嘘にも程というものがあるだろう。

 回帰前最後の日の記憶として残る大人数収容できるあの舞踏館で、ファンファーレが鳴り響く。

 国王陛下のお出ましである。

 ホールを賑わわせていた雑談が止み、みなが王の言葉を待った。


今年(こんねん)もまた多くの愛し子らが誕生したこと、嬉しく思う。今日この日この瞬間に立ち会えたこと、私は生涯誇りに思うだろう。――未来の担い手たちよ、今宵はどうか心ゆくまで楽しんでくれ」


 年に一度しかお目にかかれない聖杯を王が天高く掲げたのを皮切りに拍手と楽団の奏でる柔らかな音色が会場を包み込んだ。


「閣下! プリマヴェール侯爵様! 此度はおめでとうございます」


 このパーティーには受領式の選考に外れた貴族子女らも参加している。平民に関しては受領者のみ任意でのパーティ参加が認められているが、貴族の巣窟に飛び込む無謀な民はまぁそうそういない。

 今年も然りだった。


「お嬢様が無事に祝福の歳迎えられたこと、自分のことのように嬉しいですわ」

「やはりお嬢様も《サイレント》でしたか!」


 パーティが始まると早速周りを取り囲むのは、プリマヴェール派の七歳の子をもつ貴族たち。回帰前、あの弾劾の場にいた顔が多数ある。

 父に倣い礼を述べるが、彼らに祝われても内心素直に受け取れないのは……仕方がない、と思う。


「これを機に、お嬢様には是非とも我が娘と交流を――」

「それなら! ぜひ、我が家の次男も――」


 親に無理やり連れて来られた子供らからは不服が見て取れる。

 回帰前の彼等との交流は可もなく不可もなくと言ったところだったが、今回の少年少女らのレティシアへの第一印象は悪そうだ。

 階級意識なんて芽生えてもいない七歳の少年少女からすれば、自分の親が他の親に頭をペコペコ下げる姿は見ていて気持ちの良いものではないだろうから、彼ら彼女らの態度も仕方がないのだろう。


「この度はおめでとうございます」


 また一組の男女が笑顔を貼り付けて傍へやって来た。

 背の小さな樽っ腹な男性と、背が高く豊満な胸を持つ女性だ。

 その後ろには、男性によく似た少年がいた。

 彼らの息子だろうか。

 となると、レティシアと同じ七歳か。


「あぁ、君たちもね。お互いに良き日だ」

「有難いお言葉です!」


 父も笑顔で祝いの言葉を返す。


「しかし、水臭いですぞ!」

「何がだ?」

「お嬢様の誕生パーティーですよ。盛大に行われたそうで!」

「そうですわァ! 知っていれば、駆けつけましたのに」


「私たちの仲なのですから!」と、妙に馴れ馴れしいその態度からするにプリマヴェーラ派の貴族だと想像に容易いが、果たして居ただろうか? と頭を捻ってしまう。

 誰だろうかと回帰前の記憶を辿る。

 レティシアが答えを探して思考を巡らせ始めた時、父の乾いた笑いが鼓膜に届いた。


「面白いことを言うね。招待状もないのにどうやって?」


 暗に、送ってないのだから知らなくて当然だろう? と、伝える父の声色と言ったらない。


「こ、侯爵様……?」


 取り付く島もない様子の父に、チグハグ夫婦は見るからに慌て始めた。


「ダカー・ジュラーレ――クリアチネ伯爵。貴殿の新たなる場での活躍、心よりお祈りしているよ」


 私は頭の中で、ポンと拳を叩いた。

 ダカー・ジュラーレか。

 アウトリアンの二重スパイとしてプリマヴェールの情報を横流ししていた貴族だ。先代はプリマヴェールの忠実な人材であったが、跡を継いだ現伯爵は目先の報酬に目が眩んでしまった。


(――狡賢い卑怯者)


 それがレティシアから見たクリアチネ伯爵という人物だ。

 有能揃いのプリマヴェール派の貴族らから告発され、確か派閥から追放処分を受けた人物で――ああ、そうか、今日がその日か。


「お、お待ちを、アルフレド様。貴方様は何か勘ち――」

()()()()()()()


 父があえて爵位名で伯爵を呼ぶのは『私と貴方は名前で呼び合う仲ではない』という警告のため。

 周囲に聞こえるように張る声は、味方敵問わず傍にいる貴族らに釘を刺す意味もあるのだろう。

 同じ轍を踏む事になる、と。


「ど、どうか! 弁明の機会をっ」

「あちらで君のことを待っているやつらがいるが?」


 父が目で指し示すのは、アウトリアン家派の者らが集まる輪。そして、その父に腕を絡まして微笑みを絶やさない母からも無言の圧を感じる。

 熱気溢れるはずの会場一部の温度が数度下がった瞬間だった。

 ふと視線を感じる。

 彼らの息子がこちらを見ていた。しかし、何か言いたげな少年にレティシアが問いかける間もなく、肩を落とした伯爵は妻と息子を連れその場を後にした。


「失礼……致し、ます……」



 伯爵を見送った父がレティシアの肩に手を置いて落ち着いた声で話し始める。


「さて、祝いの言葉を貰ったあとだが、ひとつ訂正せねばならない。――この子の祝福についてなんだが、正確には《サイメシア》では無いんだ」


 ここに来て、父がグレーなことを言い始めた。


「え? そうなのですか??」

「では、一体……」

「私たちプリマヴェール家の祝福は “先見” の識と代々決まっていたようなものだったが、此度授かったレティシアの祝福は “前知” の識だった。つまり――」


 一呼吸置く父に、みなが唾を飲み込む。

 レティシアもしかり。


「つ、つまり?」

「先見の識の上位互換の祝福だ」


 父を見上げれば、それはもう誇らしげにしているではないか。


(……な、なに?????)


 父の飛んだでっち上げにレティシアの頭はショート寸前だった。


(嘘にも程があるでしょ?!)

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