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加護ナシな無能令嬢は回帰したので弁が立つ 〜再会した愛しの従者が何故か前世よりも重い愛で囲ってきます〜  作者: 黒糖あずき
第一部

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21/68

20 今はまだ。

 抱き抱えられて無事到着した医務室では、屋敷に常在する医師のロニーが出迎えてくれた。


「おや、これは……」

「えっと、ひどい?」

「酷いですなぁ」

「そんなに?」

「えぇ。そんなに、です」


 視診から始まり、傷を負った時の状況の聴き取りがなされて触診に入る。靴を脱ぎ、足首の背を外気に晒したところ、思った以上に状態は酷かった。


(うわぁ……)


 皮が捲れ靴に血がべっとりと付着していたからか、早速ロニーから苦言を貰うこととなった。


「一体、何時間履き続けていたのですか」

「そうね、ええっと。――よじかんと、にじゅっぷん、ぜんご……かしら」


 部屋にかかった時計を見ながら、指を折り曲げて時間を数える。

 数えてみれば、思った以上に履き続けていた事が分かる。


「「「四時間!?」」」


 床材を反射させるほど磨かれた子供用キトゥンヒールを四時間以上も履いていたことに、その場にいたロニーとトーリは勿論、医務室で合流したミアが揃って声を上げる。


「ありえないっ! 嫌がらせにも程があるわ!」

「え、かっっっった! えっ、硬くね!? これ、何でできてんだよ」


 ヒョイとキトゥンヒールを持ち上げてぐにぐにと遠慮なく触るトーリが驚きの声をあげた。

 トーリの反応を見たロニーは手元のそれに不快感を示すように顔を顰める。


「お嬢様。今までもこの様なことがありましたか?」

「え?」


 ロニーの問い掛けにレティシアは首を傾げる。


「うーん、どうだろ……」


 なんせ、今世は始まってまもないので、思い出さなければならないのは前世の幼少期。

 そしてその前世はというと、ルイーズに傾倒していた節があるので、どれが『この様なこと』に該当するのかが分からない。


「一先ずこちらは今後一切お履きになりませんよう」

「でも、れんしゅう用にってルイーズ先生がよういし――」

「よいですか、お嬢様。お嬢様はまだ育ち盛りの七歳です。足先が窄まった……しかも、騎士の彼でさえ硬いと感じるものを長時間もお履きになるのは、私が禁止させていただきます」


 ロニーが不快感を隠すことなく首を横に振る。


「私、燃やしてきます」

「えぇ……何もそこまでしなくても」

「いいえ。燃やします」

「そ、そう?」


 トーリから奪い取り手中に納めた靴を射殺しでもしそうな目付きで見つめるミアが怖い。


「確かに、その方が賢明やも知れませんね」

「ロニー先生まで……」


 平和を愛するロニーがとうとう物騒な提案に賛同の意を示すので、余程のことに思えてきた。




◇◇◆◇◇


「お怪我を召したのにご機嫌ですねぇ。お嬢様」


 丁寧に巻かれる包帯をなんとなしに眺めながらレティシアが思い耽っていると、ロニーに微笑ましげに話し掛けられた。


「そう見える?」

「えぇ。何かいい事でも?」

「んー、少し」

「それは良かった」


 頭に浮かべていたことは、先程の授業での出来事。

 歩く動線にさり気なく出された足を華麗に避けた時のルイーズの引き攣った表情は傑作だった。

 貴族令嬢としての基本であるカーテシーやテーブルマナーも、回帰で引き継いだ記憶のお陰で彼女が難癖を付けられないほどにレティシアは完璧にしてのけた。

 それら全てが、回帰前の当の本人(ルイーズ)に教えられたものなのだから皮肉なことである。


「さぁさぁこれで大丈夫でしょう。今日の所は、湯浴みの後に一度包帯を取り換えることにしましょう。またこちらにお寄り下さい」

「わかったわ。ありがとう」

「いつでも頼ってくだされ。まぁ、怪我や病気とは縁がない方が本来は望ましいですがね」


 傷口が保護された事ですっかり痛みも引き、ミアがタイミングよく持ってきた新たな靴に履き替える。

 履き心地はルイーズから支給された物とは比べ物にならないほど良い。ジャストフィットなそれを持ってくるあたり、流石専属侍女なだけある。


「ねぇ、ミア。あのくつは?」


 あの靴を手に退出して新しい靴を持ってきたので、聞くまでもないことではあるが、興味本位で聞いてみる。

 燃やすと言っていたから、まぁ行先はひとつだろう。


「焼却炉に突っ込みました」


 ですよね。

 ものに罪は無いので、若干の罪悪感を携えて頷くにとどめる。


「これで良いでしょう」


 只今、時刻は三時を過ぎたあたり。

 さすがロニー医師の丁寧な診察は軽く一時間かかっていた。

 つまり、ルイーズを放置して一時間。

 ルイーズは勉強部屋に私以外が入室することを嫌う為、レティシアがメイドらに指示をしない限りは誰も彼女の元を訪れることは無い。

 もっと言うと、ルイーズは部屋に自身の祝福(サイレント)で防音を施しているので、申告しない限り誰も彼女の存在に気がつくことも無い。

 戻って来ない生徒にしびれを切らした彼女が部屋から飛び出してくれば話は別だが。


「レティシア様。行きと同じように抱っこで移動しましょうか」

「ほうたいもまいてもらったし、くつだってミアがよういしてくれたものだし、もうだいじょうぶよ」


 医務室を後にしてルイーズが待つ部屋への道のりで、心配そうに自分を見つめるトーリと目線が絡む。


「じゃああの、俺も同席して良いですか?」

「ありがとう。でもえんりょしておくわ」


 ルイーズは他人の目があると大人しくなるので、証拠集めには向かない。

 トーリの言葉は気持ちだけ受け取ることにする。


「ですが…………いえ、かしこまりました」


 納得いかない表情のトーリに、レティシアは気が付かないフリをした。

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