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加護ナシな無能令嬢は回帰したので弁が立つ 〜再会した愛しの従者が何故か前世よりも重い愛で囲ってきます〜  作者: 黒糖あずき
第一部

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12 早まった再会。

「――今、なんと言った? 少年」


 空気を切るような鋭い父の声にレティシアはいても立ってもいられなかった。


 レティシアは塞がれた前方を打破すべく、あらぬ方向を指さして叫んだ。


「あっ!」

「え?」


 反射的に指し示された方向へ視線をやった騎士たちは、その隙を突いて走り出したレティシアに遅れを取った。


「あ、ちょっ! レティシア様!?」


 猫のようにするりと騎士たちの手を掻い潜ることでその小さな身体に翻弄された彼らは出入口で大渋滞を起こしている。


(あれでも一流の騎士たちなのよね……)


 そんな彼らを他所に、まるでハリケーンでも通った後かのような演習場に足を踏み入れた。

 無惨にも崩れ落ちた煉瓦の壁と散乱した木刀や弓等の諸々の武器、屍と化した騎士たち、それらの中央には、仁王立ちの父と騎士団長により地面に押さえつけられた “あいつ” と思わしき子の姿があった。

 もはや地面にめり込んでいるように見えるその子はボロボロの麻の服を身に纏い、そこから覗く手足は泥だらけで傷だらけだった。

 土埃が舞った跡があることから、かなり抵抗したことが見て取れる。

 団長に後頭部を鷲掴まれて地べたに張り付けられている状況下で、未だ起き上がろうと抵抗の意を示すその少年にレティシアは釘付けになった。夕陽に照らされたその少年の髪は多少泥に塗れてはいるが間違いなく漆黒を纏っていた。


「ルカ……」


 少年の瞳がレティシアを映した。

 その瞬間、時間が止まったかのような感覚に襲われた。

 まるで世界に二人だけかのような――。


「ルキウス……」


 無意識的に呟いた。

 見間違えるはずかない、何よりも大事な人。

 会えるとは思っていたが、回帰前の人生より二年も早い出会いにレティシアの動悸が早まる。


 前回の出会いは、侯爵家領地でもなければ、侯爵家敷地内ここでもなく、王都の中心地であった。

 なぜ、どうして。

 聞きたいことは無限にある。

 前倒しになった出逢い(再会)

 こんな状況じゃなければ涙を流して抱き着くような場面だった。


(いや、なんでいるのよ!?!?!?)


 こんな状況じゃなければ。


「レティシアさま~、一度戻りましょう……て、ああぁあ!」


 追いついたギリアムが恐る恐るというように声をかけながら、レティシアの視線を追う。

 侵入者とバッチリ目を合わせてしまっている状態と、七歳には刺激が強かろうショッキングな光景が広がっていることに慌てふためき、その鍛え上げられた身体を屈め視界を遮る。

 厚い胸板しか見えなくなってしまった。


「あれはレティシア様には良くないです!!」


 動揺しすぎてギリアムの言葉使いがおかしい。

 周りに自分以上に混乱している人間がいると、途端に冷静になれる。

 有難い。

 しかし、騎士としてはどうなのかそれ。


「だいじょうぶよ」

「い、いえ! いいえッ、だいじょばないです!!」


 外見は七歳だが中身は二十歳だなんていう主張も出来る訳がなく、レティシアは頬を膨らますしかない。

 ギリアムも駆け付けた騎士たちも小さな妖精の怒った顔に頬を緩ませた。

 なぜ和む。

 和むなこら。


「――もう一度言ってみろ」

「アルフレド様!!」


 押し問答をしていると、あまり聞く機会がないカイオンの焦り声と共に鞘からソードが抜かれる金切音が耳に届いた。

 前方にまたもや肉壁を作った騎士たちの隙間から見えたその光景に、レティシアが駆け出した先は父と剣先を向けられたルキウスの間だった。


「だめ!」


 父の頭へ完全に血が昇っているのが見て取れる。

 なんせ、先程までルキウスの体を押さえ込んでいた団長までもが暴走間際の父を止める側に回っているのだ。

 非常にまずい。

 拘束が取れうつ伏せから状態を起こしたルキウスは片膝を付いた体勢で喉に剣を突き付けられている。

 その間に滑り込んで両手を広げた。


「レティシア、待っていなさいと。呼ぶまで来てはならないと、言っていただろう?」

「ごめんなさい」

「そこを退きなさい」

「イヤです」


 父の目が据わっている。

 一体ルキウスは何を言って怒らせたのだろうか。


「「…………」」


 父娘の膠着状態に空気は更に張り詰める。

 割り込んだはいいものの、さてどうしたものかとレティシアが考えを巡らせていると、ドレスの裾がクイッと引かれた。

 振り返れば、大好きだったオニキスの色を持つ瞳が暖かく輝いている。柔らかく微笑んだ彼からは最後の記憶よりもずっと幼い声が発せられた。


「僕を拾ってくれませんか?」


 流れるようにドレスの裾へと口ずけるその姿は、優雅で洗練されていた。

 土埃を全身に被った姿が気にならない程にとても美しく映り、レティシアは息を飲んだ。

 だが同時に、父の形相に全く動じず、最早眼中に無い様子のルキウスにダラダラ冷や汗が出てくる。


「僕じゃ……だめ、ですか?」


 一触即発の場面でそれを言うか!?

 今!? 今それを言うのか!?

 いや、今じゃないだろう!!!

 と、ツッコミたいのをグッと堪える。

 錆びたブリキみたく父に向き直って、彼の懇願は一旦聞かなかったことに、する。


「お、お父さま。ル――この子、まだおさないのにもんをとっぱして、ここまで来たのでしょう? このまま、元いた場所に帰してしまって、きょういとなるより、こうしゃくけでそだてた方が、ゆうえきではないですか?」


 明らかに元いた場所には戻す気がなさそうな父に向かって、とりあえず一息に案を出す。


「この世から抹消する道もある。灰も残らない。それなら脅威にもならないだろう」


 返答が早い。

 そして物騒。

 非常に物騒だ。


本気(ガチ)だ)


 父は殺るつもりだ。

 子供にも容赦がない無慈悲さに、皆が青ざめる。

 こうなったら、アレしかない。


「お父さま。今日は何の日ですか?」

「え?」


 突然の質問に父が拍子抜けしたような表情になる。


「っと……」

「わたしのたんじょうびです!」

「ん!? うーん、と? いや過ぎて……」

「ぜんごすうじつもふくまれるので、たんじょうび月はフィーバータイムです!」

「えぇっ!?」


 娘の宣言に思わず驚きの声をあげた父を筆頭に、居合わせた騎士たちの頭上にも疑問符が見える。


「そうなのか!? そう……そうだな? レティシアの……含まれ、る……?」


 少々、否、かなり無理のある主張だったが、父が娘の自分のことに関しては阿呆になるので、それが幸を成した。

 その証拠に、周りの騎士たちは宇宙にゃんこ状態だ。


(よし、いける)


 確信したレティシアは勢いそのままに畳み掛ける。


「そうです。私のたんじょうびです。なので、私の言うことはゼッタイです。なので――」

「! 待て! ダメだ、ダメだぞ。それは許可できない」


 何かを察した父が顔面蒼白にソードを手から落として首を振る。

 凄い。流石、親子だ。以心伝心もばっちりである。

 だが、ここはレティシアも譲れない。

 この機を逃せば、出会うはずだった本来の時と場所でルキウスと再会しても、その時きっと父は受け入れない。それこそ連れ帰ったが最後、今度こそ本当に抹消してしまうだろう。

 片眉を上げる団長と「あ」みたいな表情をするオーリとトーリ、困り眉のカイオンが視界の端に映った気がするが、止まるわけにはいかない。


「わ、分かった! 灰にはしな――」

「父さま」


 レティシアは最初で最後のカードを切った。


「この子を私つきの見ならいじゅうしゃにします」

(( ちまっと雑談

騎士が令嬢にキスを落とす場所別の意味

ドレスの裾=「敬愛」

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