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加護ナシな無能令嬢は回帰したので弁が立つ 〜再会した愛しの従者が何故か前世よりも重い愛で囲ってきます〜  作者: 黒糖あずき
第一部

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12/71

11 侵入者。

「まぁ……まさか、そんなことが」

「私も驚いたよ。なぜあんなことが起きたのかは、女神のみぞ知ることと言ったところか」


 時刻は昼下がりのティータイム。

 レティシアは定位置となりつつある母の膝枕で頭を撫でてもらいながら両親の会話に耳を攲てていた。

 話の内容は二週間も前になる神殿でのあの出来事である。


(そっか、もう二週間も……)


 回帰早々、立て続けにやってきたイベントを捌いた後の日常ですることといえば、一周目の人生の出来事のリストアップ化だ。

 まだまだ書き始めたばかりだが。


「そんなことがあった手前なんだか気は進まないけれど、知らない訳にもいかないものねぇ……」


 母の言葉に耳を傾けながら考えるのは、未来の従者ルキウスとの再会(出逢い)について。

 回帰前の人生の道筋を辿って二年後に同じように出会う事も考えたが、あの痛々しいさまを見るのはあの時だけで十分だ。


(できるだけ、早めに救い出したい所よね)


 よって、現在の目標は今どこかにいる彼を見つけ出すこと。

 しかし残念なことに、回帰したレティシアの記憶には、ルキウスの現主人の情報がない。覚えていることといえば、その男があらゆる宝石が縫い付けられた服を纏っていたということ。

 あの当時、ルキウスにしかほとんど目がいかず、こう――小さい子が描いた人物画のように形を成していないとでも言おうか。

 そんな感じなのだ。


(確か、私が引き取るまでルキウスはあの宝石ジャラジャラ男の下で長い間こき使われていたはず。その、はず、なのよね……)


 ルキウスを引き取った後の諸々の処理に関しても侯爵家が担っていた(レティシアは幼いので責任を負える立場にない)ため、レティシアは詳しいことは知らない。


(こんな所で躓くなんてね)


 一見、ここで手詰まりのように思えるが、実はそうでもない。

 まずひとつ、ルキウスの容姿はとても目立つ。黒髪黒目なんてあまり居ないのだ。

 そしてふたつ、あれほど宝石ジャラジャラの人間もそうそう居ないだろうということ。あれは間違いなく、裕福な商人か、成り上がり貴族である。


 つまり。

『宝石をジャラジャラつけた中年男の元にいる黒髪黒目の少年を探して!』

 と言えば一発なのだ。

 これほどアバウトでも、文字面のインパクトがすごいので、多分見つかる。

 まぁ、それが成せるのものが侯爵家の情報網あってこそだ。

 そして今は、この言葉を、父に、どのタイミングで、どう言うかを見極めている最中。


「祝福の結果はいつ分かりそう?」


 レティシアが一人討論を脳内で繰り広げている間に話はどんどんと進んでいた。


「遣いをやったから、明後日には分かるはずだよ。なぁ、クライス?」

「はい。諸々の事を考慮するとそれくらいかと」

「レティは普段から賢いが――ここ数日のこの子の見違える聡明さを見るに、結果はわかったも同然だな」

「ふふ、そうね」


 今世の両親はまだレティシアが無能者なことを知らない。

 娘が祝福を授かっていると信じて疑わない二人の姿に、レティシアは少し胸が痛んだ。父に限っては、侯爵家の能力の開花を確信しているようで、裏切る結果になると分かっている手前とても心苦しい。


(明後日かぁ)


 弱気にならないと決意したとはいえ、わずかばかりでも出来た猶予に思わずホッとしてしまう。

 言い方を変えれば、無能者と発覚するイベントが先延ばしにされただけだが、一日空くというワンクッションはまだ回帰してまだ数日のレティシアには有難いことだった。


「アルフレド様! 大変です!」


 ドタドタと聞くからに慌てた足音と共にノックもなしに豪快に開けられた扉から滑り込んできたのは土(まみ)れな運動着姿の少年だった。


「ビスク、何かあったか」


 騎士団最年少のビスクの要領を得ない話に片眉を上げ父は早速何かを覚る。


「今、団長と兄さん達が抑えてるんですが、ちょっとやばくて! かなりやばくて!」

「わかったから落ち着け。見た方が早いな?」

「は、はいっ! お願いします! ――あっ、お嬢さま!」


 ビスクとバッチリ目が合った。


「お嬢様も来てください!!!」


 未だ母の膝に頭を預けていたレティシアは突然向けられた矛先に目を丸くする。


「えっ、わたしも?」

「はい!」


 剣に触れたこともないレティシアは普段からあまり演習場に近づく機会はない。

 自身に関係があるから呼ばれる訳だが、イマイチその理由に、当たり前だが、レティシアはピンとは来ない。

 しかも、『抑えてる』とは、一体何をだろうか。

 レティシアは頭を捻った。


「じゃあ、行こうか」

「はい、お父さま」


 身体を起こしたレティシアにいそいそと近づいた父が両手を広げる。


「さぁ、おいで」

「あるきます」

「え……抱っこは……?」

「あるきます」

「ほら、少し距離があるし――」

「あるきます。ビスクいきましょう」

「は、はい!」


 父は神殿での騒動から、何かとレティシアに過保護が過ぎるようになってしまった。どこに行くにも、姫抱っこがデフォだ。

 両手を広げて片膝をつき、準備満タンだった父の横を通り過ぎる。


「レティ……反抗期……?」

「もう、アルフレド! しっかりしてください」


 母に喝を入れられる父に、可哀想なものを見るような視線が集まる。

 ()()な子離れをしてもらうための荒治療だ。

 悪く思わないで欲しい。


「分かった。では、父様から離れるなよ?」


 咳払いをして何とか持ち直した父と屋敷を抜けて外廊下をずんずん進んで行く。勿論、歩く速度は私が基準だ。

 目的のその場所に近づくにつれ、喧騒が大きくなる。聞こえてくるのは、壁が崩れる音や聞き馴れた騎士たちの声。

 誰かを(なだ)めている? ような、とても慌てた感じ。

 騎士たちの演習場にたどり着くと、出入口には見慣れた男たちが肉壁を作っていた。

 その肉壁より少し手前に待機していたオーリが私たちに気が付き口を開く。


「アルフレド様お待ちしておりました――って、あ。ビスク! お前、なんでレティシア様まで連れてきてる!」

「えっ、だって! “アイツ”、ずっとお嬢さまの名前読んでたじゃないですか!」

「それで本人を連れてくるバカがいるか! バカ!」

「あ、バカって二回も言った! バカって言う方がバカなんですよ!」

「おめぇ、言ったな!?」


 このやり取りを見ていると、神官達が騎士を「脳筋」と呼ぶ理由がわかる気がする。

 

「……レティ、お前はここで待っていなさい。大丈夫そうなら、後で呼ぶから。オーリ、詳細を」

「はっ」


 剣呑な眼差しで演習場向こう側を見つめていた父の言葉に大人しく頷くしかない。

 レティシアからは身長より少し高い塀と、外廊下と演習場を繋ぐ出入口に立ちはだかる肉壁でそちらは見えなかった。

 父はズザァッと左右に開いた肉壁を通り抜けて、カイオンとオーリを伴い演習場に足を踏み入れた。

 こういう時に見せる表情が、父が王宮で恐れられる所以なのだろう。


「あの、お嬢さま。オレが呼んだのに……ごめんなさい」


 置いていかれたレティシアを前にしゅんとする彼に首を振る。ビスクはまだ十三歳だ。彼なりに考えて連れてきてくれたのだろう。別に責めることもない。この位の子たちは皆こんな感じだろう。

 ふと、齢十二のアシェルが頭をよぎるが、兄は回帰前も今も年齢に添わぬ知性を持ち合わせている秀才なので、比べる相手としては向いていない。

 しっしっと頭から余計な思考を追い出して、ビスクに笑顔を向ける。


「いいえ、だいじょうぶよ。あやまらないでビスク。それよりも、ね? あなたが言っていた()()()について、おしえてくれるとうれしいわ」

「あ……えぇっと」


 これ以上の失態を恐れたのか、眉尻を下げたビスクが助けを求めるように側に立つ騎士に目を向ける。やれやれ、とビスクの頭をひとなでした長い香色髪を一つに纏めた騎士、改めギリアムが表情を引き締めて話し始める。


「えー、そうですね――まず、誠に申し訳ございません。常に厳重体制を取っているはずの警備に隙があったようで、鼠の侵入を許していましました」


 “鼠の侵入”


 これは所謂、隠語で、主に無謀にも侯爵家へ足を踏み入れる他家が送り込んだ密偵や盗賊らやのことを指す。


「しんにゅうしゃが?」

「はっ。それも、こいつと変わらない位の少年なんですが――」


 なんと、今回の侵入者は幼い子供らしい。

 蚊の1匹でさえ侵入が難しい侯爵家に忍び込めるなんて、子どもがそんなことできるのか。


「その……」

「?」


 ポスッとビスクの頭に手を置いてギリアムは言い淀む。


「ちょーーっと、お嬢様に引き合せるのは、時期尚早と言いますか……」

「じゃあ、ようしのとくちょうは? かみいろとか、ひとみのいろとか」

「髪色ですかっ!? そうですね……その、いや、んんーーーーー」


 必要以上の動揺に右顧左眄が加わり、ギリアムは中々続きを話さない。分かったのは侵入者はビスクぐらいの少年という事だけ。大人しく、父が私を呼ぶのを待つしかないのか。

 どうしたものか――首を傾げていると父が消えていった方向から何かを感じた。

 きゅうぅっと胸が締め付けられるものを。

 切なくなる泣きたくなる感じ。だが、とても優しくも感じて嫌じゃない。

 なんだろう……。


『レティシア』


 レティシアの耳に届いたのは小さなつぶやきに呼応するように手首がじわりと熱を持つ。


「レティシア様?」


 聞こえた気がした。あの懐かしい声が。ここにいるはずのない、愛しい人の声。気のせいかもしれない。だけど――。


「今、なんと言った? ()()


 父の声に考えるよりも先に身体が動いた。

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