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第29話 決着——あなたと一緒の明日

 帝都防衛戦の翌日、ダリウス侯爵は帝城の地下牢に拘束された。


 魔核を意図的に暴走させた証拠は、ヴィクトルと宰相ボドワンの調査チームが既に押さえていた。査察の不正工作と合わせて、国家反逆罪の適用は確実だと宰相は言った。


「あの男は、自分の権力を守るために帝国を危険に晒した。許されることではない」


 宰相の声には珍しく怒りが滲んでいた。

 飄々とした老政治家が感情を見せるのは、それだけ事態が深刻だったということだろう。


 ダリウス侯爵の領地は凍結され、関係者は次々と拘束されている。帝国貴族の中でも最大級のスキャンダルだ。


 半年前の謁見の間で、俺がハッタリで口にした「帝国に対する隠し事」。あの時は根拠のない推測だったが、糸を辿っていった先に、本当の黒幕がいた。

 シャリエ伯爵はダリウス侯爵の駒に過ぎず、ジェレミー殿下はその駒に操られた傀儡だった。


 全てが繋がった。そして全てが——終わった。



 俺の身体は、リミッター解放の反動で三日間寝込んだ。

 目が覚めた時、帝城の医務室のベッドにいた。


 左手にリディアの手が握られていた。

 彼女は椅子に座ったまま眠っていた。目の下に深い隈。三日間、ここにいたのだろう。


「……リディア」


 小声で呼ぶと、リディアが目を開けた。


「ルーク——!」


 碧い瞳に涙が溢れた。


「やっと——やっと目を覚ましましたわね、この馬鹿」


 泣きながら怒っている。いつもの泣き笑いだ。


「三日も寝ていたんですか」

「ええ。アンネリーゼ様が毎日浄化をかけてくださって、ようやく意識が戻りましたわ」

「すみません、心配を——」

「心配なんてものではありませんでしたわ。死ぬかと思いました。——あなたが」


 リディアの手が、俺の手を強く握った。


「もう二度と、こんな無茶はしないでください」

「善処——」

「善処では駄目だと何度言えば分かるのですか」


 いつものやり取りだ。だが、リディアの声が震えていた。


「……約束します。もう無茶はしません」

「絶対ですわよ」

「絶対です」


 リディアが鼻をすすりながら笑った。

 その笑顔が見られるなら——生きていてよかった、と心の底から思った。



 回復して二日後、中庭でジェレミー殿下と再会した。


 殿下の右腕は包帯で吊られていた。防衛戦で負傷したらしい。だが表情は晴れやかだった。


「ルーク。生きていたか」

「殿下こそ。城壁で戦っておられたと聞きました」

「ぼくにできることは少なかったが——逃げなかった。それだけが、ぼくの誇りだ」


 ジェレミー殿下は俺の前に立ち——穏やかに笑った。


「お前たちを見ていて、思ったんだ。お前とリディアが並んで戦っている姿を見て——ああ、あれが本物なんだと」


 殿下の目に、もう虚勢はなかった。後悔はあるだろう。だが、それを受け入れた目だった。


「ぼくはリディアを政略の道具としか見ていなかった。彼女の本当の強さも、美しさも、何も見ていなかった。それを——お前は最初から見ていたんだな」


 俺は首を振った。


「最初から見えていたわけではありません。リディアが教えてくれたんです。一緒にいる時間の中で」

「そうか。——お前たちの幸せを、心から祝福する」


 ジェレミー殿下が右手——包帯で吊られていない方の手を差し出した。


 俺はその手を握った。


 半年前、この手は俺を殴ろうとした。

 今は——祝福の手だ。


「殿下、これからどうされるのですか」

「辺境の奉仕活動を続ける。まだ償いが終わっていないからな。——それに、ぼくにはぼくの道がある」


 ジェレミー殿下は背を向けて歩き出した。


「ルーク」

「はい」

「リディアを泣かせたら——ぼくが殴りに行くからな」

「それは困ります。殿下のパンチは前に一度食らっていますから」

「あの時は素手だったが、次は剣だぞ」


 殿下が笑いながら去っていった。

 その背中は——半年前よりずっと、大きく見えた。


★ここまで読んでいただき、ありがとうございます。★

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