99話 他校の友人との遭遇
星良の提案した夏休み限定の同棲生活についてだが、俺が了承してからはトントン拍子に話が進んでいった。
まず星良の家族や北條組には話が通っているので、あとは俺の家族への対応だけだ。その日の放課後に星良は速攻で母さんから許可を貰ってそれではい決まり。
――『あら最近の子の恋愛は進んでいるのねぇ。いいわ、星良ちゃんならウチのバカ息子を任せられる!』
ほとんど息子の意志など確認せず、あっさりと母さんは了承してしまった。
いや、俺と星良の二人で決めたことだから肯定されたのは嬉しい。だがあの時の母さんの顔、あれは明らかに楽しんでいた。それに星良から同棲を持ち掛けられても一切動揺もなかった。多分だが……星良からもう既に話が通されていたのだろう。
だって母さんが了承した瞬間見てしまったからな。ほんの一瞬だがほくそ笑む星良の顔を……。
つまり、屋上で同棲の相談を持ち掛けた段階でもう母さんとの話し合いは終えていたという事だ。我が恋人ながら中々に根回しが良すぎて怖くすら感じる。
その後だが、お互いの家族から了承を得てから星良は益々スキンシップも過激になっていった。
もう教室内でも見せつけるようにイチャつき、今となっては完全に学園全体に公認カップルである事が周知の事実となった。教室内でも百地がからかうぐらいで、他のクラスメイトは見慣れたようでもはや過剰に反応もみせなくなった。
ただ俺への弊害も全くなかったわけではない。
学園の3大アイドルの彼氏となれば予想はしていたが、嫉妬の視線を向けられる回数が明らかに増えた。
学園アイドルの星良には男子や女子など憧れを抱く生徒が大勢いる。女子連中からは特に何もなかったが、他クラスの男子からは怒気を纏った視線を向けられる事がしばしば。
とはいえ幼馴染の双葉、サッカー部の件を乗り越えた俺にとって、もはや小さな嫉妬心など特に気にもならなくなった。
ただ唯一不安があるとすれば小日向先輩の存在だった。あのゲームセンター以降は特にリアクションはない。だが一度だけ廊下ですれ違った際、獲物を狙うあの瞳を俺に向けていた。その時は星良も一緒に居て牽制していたので何もされずに済んだが……。
そんな不安はさておき、今は俺と星良の二人は大型のショッピングモールへとやって来ていた。
「みてみて誠也君。似合っているかな~?」
「ん、とても綺麗だぞ」
「えへへ、じゃあこれも買っちゃおうかな」
ポーズを取りながら試着した洋服を褒めると彼女はデレデレと嬉しそうに笑う。
このショッピングモールに来た理由、間もなく始まる同棲生活に必要な雑貨品を揃えるためだ。大概の生活用品は北條組が用意しているが、細かな日用品は二人で買いそろえる事にしたのだ。例えば歯ブラシやタオルなどは流石にこちらで用意しなければいけない。
お互いの家の物を持っていけば済む話だが、星良の提案で二人で一緒に選んだ物にする事にした。
最後にお互い新しい洋服も購入する為にモール内の服屋に来たが、ここからはもうデートへとシフトチェンジしていた。
次々と披露される恋人の可憐な姿を褒めていると、背後から声を掛けられた。
「あれ、もしかして誠也君?」
振り返って確認するとそこには1人の少年が立っていた。
どこか小動物を連想させる雰囲気に、男性でありながら少女を連想させる容姿。ここまで特徴的で俺を知っている人物、該当する人物は1人しかいなかった。
「もしかしてお前龍太か?」
「あっ、やっぱり誠也君だったんだ。久しぶりだね」
そこに居たのは母さんのママ友である金木陽抱の息子、金木龍太であった。
「まさかこんな場所で逢うなんてな。そっちは元気でやっているか?」
「うん。誠也君の方も元気そうで良かったよ」
「えっと誠也君のお友達?」
小学生から高校までそれぞれ別の学校に通っているが、互いの母親の交流が深いために彼とは定期的に交流がある。
とはいえ星良からすれば他校の知らない男子生徒だ。困惑気味な表情で紹介を求められた。
「ああ、紹介するよ。彼は…『ちょっと龍太!』んぁ?」
俺が龍太の事を紹介しようとするが、そこへ割って入る女性の声。
「ちょっと何で勝手にいなくなってるのよ。ほら、次に試着してもらう服を選んできたから今度はこれ着て頂戴……てっ、その人たち誰よ?」
俺たちの元にやって来たのは橙色のツインテール、更に高校生離れの発育とかなり特徴的な少女だった。
龍太の名前を呼んでいた事から連れなのだろうが、それよりも俺には気になった事がある。それは彼女の〝発言〟と手に持っている〝洋服〟についてだった。
彼女の手に持っているのは明らかの〝女性用のワンピース〟で、しかも龍太に試着してもらうと言っていた。それはつまり……。
「りょ、龍太。お前……いつの間に女装趣味に目覚めたんだ?」
「ごご、誤解だよ! もう愛美も人前で誤解を招く真似はやめてよ!」
まさかの友人の隠された性癖にドン引きする俺に対し、龍太は必死に弁解を始めたのだった。




