100話 番外編 私が彼に恋した日
100話目の記念として誠也と星良の出会いを書いてみました。
学園アイドルなんて御大層な呼称を与えられた私だが、かつての私には女性らしさなんて微塵もなかった。もっと言うならば自分を女としてすら認識していなかったとも言えるだろう。
小学生時代までの私は男勝りで勝気な子だった。他の女の子達がするような女性らしい遊びなど目もくれず、同年代の男の子達と一緒に遊んだ。よく外を駆け回り鬼ごっこや虫取りなどに夢中で、室内で落ち着いた休日を過ごす事などほとんど皆無だった。
それは思春期に突入しても変わらず、他の女の子達とは次第にウマも合わなくなる。
『星良ちゃんって男の子みたいだよね』
『もっと女の子らしくしようとは思わないの?』
同年代の女子達から小馬鹿にされる日々も増えたが、むしろ私はそんな女々しい連中に言い返してやる毎日だった。
ふんっ、何が女らしくよ。コソコソと陰口を言うことが女らしさなら願い下げだ!
周囲の同性達の目など気にせず、私は自分らしさを貫き続けようと思っていた。
他の女の子のように髪を伸ばしたり、オシャレな服を着たり、アクセサリーなんて身に着けない。そんな物なんて私には無用なものだと思っていた。
そう……彼と出会うその瞬間までは………。
それは私が公園で他の男子達と遊んでいる時の事だった。
いつものように男の子の中に紛れて遊ぶ。特に変わりのない時間だったが、その日だけは少々問題が起きてしまった。
「いい加減にしろよお前!」
「それはこっちのセリフだ!」
いつも仲良くしている男子と喧嘩に発展したのだ。
最初はちょっとした言い合いだった。そこからヒートアップし、気が付けばお互い譲れなくなってしまっていた。口喧嘩はドンドンと熱を帯び、他の男子達はどっちの肩を持つでもなくオロオロするばかり。
「このっ、女の癖に生意気だ!!」
そしてついに相手の男子の緒が切れた。
彼は唾を飛ばして叫びながら私を思いっきり突き飛ばしたのだ。
「いっ!?」
勢いよく固い地面に私の体は転がされる。
転んだ際に膝をくじいたらしく血が滲み、自然と涙も出そうになる。
「あ……」
相手の男子が気まずそうな顔をするが、同情される事が屈辱でつい強がりを言い放っていた。
「もうあっちいけ! お前とはもう絶交だ!!」
「ぐっ、ああそうかよ!」
相手の男子も引っ込みがつかなかったのか立ち去っていく。他の男子達も私を気にしつつ、全員が自然と解散となってしまった。
「ぐっ……いた…い……」
友達の目がなくなったところで今更痛みが強まっていった。
何とか私も家まで歩こうとするが、膝がジンジンとして歩くのが辛かった。
近くのベンチまで移動し、血が止まらない膝を押さえる。
「うぅ……い、痛たい。痛いよぉ……」
喧嘩してしまったショック、そして血が流れて痛む膝、その事実を深く考えれば考える程に悲しみが膨らんでいく。いつしか膨張した弱い心はすっかり折れてしまい私は泣いていた。
「んっ……ぐっ……」
せめてものプライドなのか、声だけは押し殺して泣いた。
我ながら本当に無駄なプライドだと自分でも思った。そんなやせ我慢するぐらいなら素直に謝っていれば良かったのに。
孤独に啜り泣き続け、脆い心はどんどんと亀裂が入る。
だがそんなひび割れた私の心を繋ぎ止めてくれる人物が現れた。
「ねえ大丈夫? 膝から血が出てるけど……」
俯いていた顔を上げるとそこに1人の男の子が立っていた。
黒髪でとても優しそうな顔立ちの男の子だった。失礼な話だが普段遊んでいる男子と比べて頼りなそうなイメージで、そんな相手に泣いている場面を見られてつい噛み付いてしまう。
「何でもないから。邪魔だからあっち行ってよ」
目元をゴシゴシと擦りながらそう言うが、その男の子は立ち去ろうとしない。
「でも血が出てるし。とにかく処置しないと……」
「うるさいッ! いいからあっち行け!!」
自分よりもか弱そうな男子に気遣われた事で、またしても私の中の無駄な自尊心に火がついてしまう。せっかく心配してくれたその子を半ば強引に追い返した。
急に大声を出されて相手の男の子は怯えた顔つきのまま去っていく。
「ふんっ、余計なお世話なんだよ」
虚勢を張って感情的に怒鳴った為か涙は引っ込んでくれた。だが膝はまだ痛み続けベンチから立ち上がる気にもならない。
それからもしばらくの時間ただ椅子の上で制止していたが、そこへまたあの男の子がやって来た。
「よかったまだ居てくれて」
そう言いながら駆け寄る彼の手には絆創膏とハンカチが握られていた。
え……まさかわざわざ取りに帰ってから戻って来たの?
先程追い返した時、彼の手には何も握られていなかった。つまり追い返された後に応急処置用の道具を持ってきた事になる。
なんであんな態度を取られてそんな優しくするんだよ……。
困惑する私に向けて彼は笑顔でこう言った。
「もう大丈夫だからね」
その優しい笑みに見惚れてしまい、他の男子には感じたことのない感情が湧き上がった気がした。
な……なにこれ? このモヤモヤしたくすぐったい感じ……。
これが後に私の彼氏となる大道誠也君との出会いだった。




