101話 カップル彼女の口喧嘩
友人がまさかの女装趣味に目覚めてしまった事実にショックを受けたが、よくよく話を伺ってみれば早とちりだった事を教えられた。
「つまり、お前は恋人の買い物に付き合っていて、その過程で彼女から強引に女性服を着替えさせられそうになったという事か……」
「そうそう! だから女装に目覚めた訳ではないから!」
ジェスチャーまで加えながら龍太は俺に誤解を招かぬよう弁解する。そんな必死の形相で説明する龍太をわき目に、当の彼の恋人は星良と意気投合していた。
「へえ、それじゃあ北條さんと彼氏さんは幼馴染なの。なんだかロマンチックね」
「それを言うなら月夜さんだって。因縁を付けられている所を助けられて出会ったんだよね。なんだか物語みたいで素敵かも」
自分の性癖に対して誤解せぬよう訴える彼氏を置き、すっかり星良と仲良くなっている月夜さんに思わず苦笑が漏れる。
おいおい、せめて彼氏の弁護してあげた方がいいんじゃ……。
今だって必死に俺への誤解を解こうとする龍太がなんだか哀れに見えてきた。
まぁこれだけ必死に説明する姿を見れば本人の意志でなく、あの月夜さんに強引に女装を迫られたのだろう。
「でもお前も嫌なら嫌ってハッキリ言った方がいいぞ。流されたぐらいで女装してしまう方も問題あるからさ」
「それは……愛美が喜んでくれるから……」
そう言いながら照れくさそうに笑う友人に不安がぶり返した。
下手をしたらもっと過激な要求にすら対応するんじゃないだろうな?
何だか恋人に求められるまま色々な女性服を纏う友人の姿があっさり思い浮かんだ。
「まぁあれだ、スク水着とかまで来たらちゃんと断れよ?」
「どんな友人への忠告なのそれ!?」
とにかく友人への女装癖の有無については一旦保留とする事にした。
俺と龍太の話が一区切りついたタイミングで二人も会話に混ざり、そこから改めてお互いの紹介を行った。
龍太の口から俺の存在を教えられる月夜さんが不満そうな顔つきになる。
「まさか龍太に他校の友達が居たなんてね。何で今まで黙っていたのよ」
「別に隠していた訳じゃないよ」
「恋人同士なんだから細かい事も教えろって意味よ」
肘でつつかれながら不満をぶつけられて苦笑する龍太。
二人の仲睦まじい距離感を見ていると星良が微笑ましそうに笑う。それを見て月夜さんが怪訝そうな表情を浮かべた。
「ちょっと北條さんは何で笑ってるのよ?」
「あっ、ごめんなさい。なんだか仲のいい姉弟みたいで……」
内心で俺も星良の言葉に頷いてしまっていた。
確かに二人のやり取りを見ていると恋人同士というより、仲の良い姉弟のようにも見える。
「それを言うなら北條さんと大道君だって仲の良いクラスメイトみたいに見えるけど」
決して悪意があって言った例えではないが、どうやら恋人として見られていない事が不服だったのだろう。どこか棘のあるようなセリフを返された。
クラスメイト同士と言われて気にしたのだろうか。俺は反応しなかったが星良がムッとした顔を見せる。そして俺の腕を取ると二人の前で堂々と腕組をしてきた。
「どう、クラスメイト同士はこんなベタベタしないでしょ?」
見せつけるようにふふんっ、と鼻を鳴らす星良。
その勝ち誇った表情に今度は月夜さんがムッとして、鏡合わせのように龍太の腕に抱き着く。
「腕組ぐらいで勝ち誇らないでくれる? 私と龍太だってこの程度の事は毎日しているんだからね」
あれ……なんだか雲行きが怪しくなっていないか?
つい先ほどまで仲良く笑っていた女子二人だが、今は両者の間に火花が散っている錯覚が見えた気がした。
「大体さ、そんなボリュームで腕組しても絵にならなくない? 彼氏の大道君だって物足りなさそうな顔に見えるけど?」
「なっ、これでも平均以上はあるんだから!!」
腕組状態で豊満なバストを龍太に押し付け月夜さんが勝ち誇る。むにゅっと擬音が付きそうだが、殺伐とした場の空気が故に龍太の顔は引きつっている。
それは俺も同じだ。いつの間にか言い合いに発展しているこの場に焦燥感すら芽生え始める。
「絵にならないのはそっちの方じゃないかな。何だか女の子同士でふざけ合っている様にしか見えないけど?」
「はあっ!? それって私の龍太が男らしくないって意味? そっちの大道君だって地味な顔立ちじゃない!」
「ちょっとどういう意味なのかなそれ!?」
いつの間にか彼氏である俺たちまで巻き込みだす二人。
なんとか場を諫めようと俺も龍太も互いのパートナーを宥める。
「ちょっと落ち着けよ星良」
「愛美も一旦冷静に……」
「「誠也君(龍太)は黙っていて!!」」
「「は、はい……」」
まるで猛獣の如く吠えられて俺たちは口を噤んだ。
そこからも白熱する彼女達の喧嘩だったが、その争いを中断する事態が発生する。




