102話 劣等感
「おいおい、なんだか地味男二人が美少女を独占してるぜ」
「羨ましいなぁ。俺たちにもシェアしてくれよ」
唐突に差し込まれた頭の悪そうな声に俺と龍太は同時に振り替える。視線の先に居たのは見た感じ大学生くらいの青年が二人だった。
「僕たちに何か用ですか?」
真っ先に龍太が話しかけるが、相手の男共は俺たちの存在を無視して後ろの恋人たちに話しかけてきた。
「ねえねえ君たちさ、そんな地味な奴等よりも俺たちと遊ばない?」
「そーそー。好きなもの奢ってあげるよ?」
コイツ等……彼氏の前でよく堂々とこんなふざけたセリフが出てくるな。
確かに学園アイドルの一角である星良がモテる事は不思議ではない。それに月夜さんも星良に負けず劣らずの美少女。もしも俺たちと同じ学校に在籍していれば4大アイドルに指名されているレベルだ。だとしてもだ、彼氏と一緒に居る女性を口説くのは非常識すぎるし、何よりも不愉快で仕方がない。
その気持ちは声を掛けられた二人も同じだったらしく、星良と月夜さんは口喧嘩を中断して男共へと果敢に言い返す。
「生憎ですけど私には素敵な恋人が居ますので」
「ナンパだったら他を当たりなさいよ」
そう言いながら二人はそれぞれの彼氏の腕に抱き着く。
「おいおい、こんな陰キャ共のどこが良いの?」
「絶対に君たちに見合ってないって」
相手の女性からこんな露骨に拒まれれば普通は引き下がると思うのだが、彼氏と一緒に居る所をナンパする非常識共だ。ここまで見せつけられても引き下がる様子がない。それどころか眼前の光景を面白く思わない二人は俺と龍太に絡みだす。
「お前等も身の程を弁えたら? こんな美人さんと釣り合うわけねぇだろ」
その無神経な言葉に心底むかっ腹が立った。
俺と星良との日々を知らないお前たちにそんな事を言われる筋合いなんてないんだよ!
本能的に想わず心中の言葉を叫びそうになるが、なんとか理性で踏みとどまる。
どうやら龍太の方も俺と同じ気持ちらしく、その目には明確な敵意が滲みでいる。
「ああ? なんか陰キャ君たちが睨んでんだけど?」
「なになに、もしかして文句あるの?」
俺達の視線に含まれる敵意に気付いた男共の顔が不機嫌に歪む。
だが俺も龍太も一歩も引かず、目の前の無礼者どもへと現実を突き付けてやった。
「生憎だけどこの娘と俺はラブラブなんだ。アンタ等みたいな軽薄そうな男なんて眼中にないんだよ」
「彼女は僕の大事な存在だ。恋人が欲しいならナンパなんてやめて誠実な方法で出会いを見つけた方がいいと思うけど?」
俺たちはお互いの恋人を自分に抱き寄せて見せつけてやった。
力強く抱き寄せられた星良と月夜さんは頬を朱色に染めつつ、心から幸せそうに微笑む。
「ちっ、何を見せつけてんだテメェ等!」
「陰キャ共が調子乗ってんじゃねぇぞ!」
ここまで見せつければ流石に退散すると思っていたが、俺が思う以上にこの連中は常識を持ち合わせていなかったらしい。
むしろ火に油を注いだらしく、直接来な暴力に訴え出す。
そして男の一人が龍太へ向けて拳を叩きつけようとした。
流石に不味いと俺が止めに入ろうとするが、向かって来た拳を龍太はあっさり受け止めてしまう。そのまま手の中の男の拳を握りしめる。
「い、いででででッ!?」
「手を出す気なら僕も容赦はしないよ?」
体格も背丈も上回っている男が痛みに呻いて膝をつく。
その光景に思わず俺や星良、そしてもう片割れのナンパ男が唖然としてしまう。
おいおい、龍太ってもしかして滅茶苦茶強かったのか?
今更ながらに知れた友人の力に戸惑っていると、もう片割れの男が俺の方へと手を伸ばしてきた。
「調子乗ってんじゃねぇぞテメェ等!」
本能的に龍太には勝てないと悟り、俺の方を狙い出したのだろう。だが取り乱しているためか、振るった拳の軌道は隣の星良にも当たりかねなかった。
「ぐっ、星良危ない!!」
「きゃっ!?」
咄嗟に星良を庇って背を見せてしまい、無防備な背中に衝撃が走る。
「かはっ!?」
「誠也君!?」
悲痛な星良の声が響く直後、龍太がすかさずもう一人の男の腕を取るとそのまま捻って抑え込む。
「いがががッ!?」
「いい加減にしろ! これ以上、僕の恋人や友人を襲うなら……」
二人の青年はそれぞれ拳と腕を抑え込まれ、そこに龍太の握力が倍増して襲い掛かる。
無力化され、更にはあまりの激痛に青年たちの顔は悲痛に歪む。
「い、いてぇ。や、やめろ……」
「お、折れるって……」
「今すぐに消えるなら解放するよ。それともまだ……」
「き、消える! 消えるからもう勘弁してくれ!」
焦燥感に塗れて訴える青年の言葉に龍太は二人を解放する。
まるで万力のような握力から解放された二人はそのまま泡を食って逃げ出し、俺たちの前から姿を消した。
「大丈夫だった誠也君?」
「ああ、大丈夫だ」
龍太が俺の安否を確認してくる。
幸いにも殴られた箇所が背中だったため、今はもう痛みもない。
「あいつ等……誠也君に暴力を……」
「だ、大丈夫だから落ち着こうか星良」
俺が襲われた事で星良の纏う空気が変わる。
流石に友人達の前で極道モードをみせる訳にもいかず、何とか彼女を宥める。
だがこの時、俺の中には僅かな劣等感が芽生えつつあった。
龍太はちゃんと恋人を護るほど強いのに……それに比べて俺は……。




